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■15.激突、壱岐攻防戦!(中)

 韓国海軍の蔚山級フリゲート艦2隻に致命的打撃を与えた上、イージス艦『西崖柳成龍』に手傷を負わせたのは海上自衛隊佐世保地方隊・第3ミサイル艇隊の『おおたか』と『しらたか』であるが、実のところ彼らに攻撃が成功するという確信はなかった。


挿絵(By みてみん)

(はやぶさ型ミサイル艇『おおたか』)


 はやぶさ型ミサイル艇が装備する90式艦対艦誘導弾は4発、第3ミサイル艇隊で同時攻撃を仕掛けたとしても一度に韓国海軍の小艦隊に向かう艦対艦誘導弾は最大8発にしかならない。相手の対空戦闘能力が高ければ、全て撃墜されてしまう可能性もあった。

 その上はやぶさ型ミサイル艇の誘導弾は2発が右舷側、もう2発は左舷側を向いている。そのため一度に4発を発射しようと思えば、2発を撃った直後に回頭をしなければならない。艇の運動と再度の射撃準備に手間取れば、当然ながら後続の発射は遅れてしまい、敵艦に対処の余裕を与えることになる。90式艦対艦誘導弾8発による第3ミサイル艇隊の攻撃成功には、高い練度が必要であった。だが常日頃の訓練と乗組員達の努力、そして乗組員にかかわる全ての人々のお陰で攻撃は成功した。


(対馬の仇討ち、と勇躍してみたが……一矢でも報いることは出来たか?)


 しかしながら『おおたか』・『しらたか』の乗組員達は快哉を叫ぶこともなく、粛々整然と帰路に就いた。航空自衛隊から情報を得て、対水上レーダーの死角となる水平線の向こう側から攻撃をしたはやぶさ型ミサイル艇が、自ら戦果を確認することは難しい。また艦対艦誘導弾で攻撃を仕掛けた以上、こちらの所在は露見したと考えた方がよいであろう。敵海軍の哨戒機や空軍機が飛来する可能性も十分あり得る。はやぶさミサイル艇の主武装は4発の艦対艦誘導弾以外には、1門の速射砲しかない。と、なれば40ノットを超える高速度で、戦域から離脱してしまうことであった。


 陸海空自衛隊側は第3ミサイル艇隊の攻撃が敵艦隊にどの程度のダメージを与えたか、すぐに把握することは出来なかった。が、早期警戒機の情報収集の結果、どうやら1隻が沈没し、もう1隻が航行不能に陥っているらしいことが分かった。続いて同海域に潜伏していた海上自衛隊第1潜水隊の『じんりゅう』が、敵艦艇から十分に離れた位置で敵情を報告してきた。これにより1隻沈没、1隻航行不能の戦果が確定した。ただし正確な艦種までは分からない。


「『じんりゅう』に攻撃をさせましょうか」


 潜水艦隊司令部の幕僚達は悩んだ。『じんりゅう』が襲撃に成功する公算は高い。だが未だに壱岐群島周辺の空域における航空優勢がワレの物になっていないため、1度所在が割れれば、出動した対潜哨戒ヘリや哨戒機に追跡され、攻撃を受ける可能性も考えられた。

 結局、潜水艦隊司令部は現時点で『じんりゅう』に対水上戦はやらせないことに決めた。数日前に命令した通り、情報収集を任せる。ただし当該海域には『じんりゅう』以外の味方潜水艦は存在していないため、他の潜水艦を発見し次第、それを追跡して攻撃することは許した。この事前指示が出された理由は、海中を往く兵器である潜水艦は潜航中、基本的に外部との連絡が断たれ、食うか食われるかの対潜水艦戦が発生した場合、いちいち潜水艦隊司令部が命令を下したり、潜水艦側が指示を乞うたりすることは出来ないためである。


 さて。残る敵艦を撃破すべく、第6・8飛行隊の稼働機4機から成る空対艦攻撃隊が組織された。

 陸海空自衛隊において洋上に存在する敵艦隊を叩く対水上打撃戦は、主に航空自衛隊の戦闘機隊の任務である。標準的な護衛艦は最大8発の艦対艦誘導弾を装備出来るが、航空自衛隊の戦闘機に比べれば足は遅い上、他兵科との連携がなければ、水平線以内に存在する標的にしか攻撃が出来ない。だが航空自衛隊のF-2戦闘機1機あたり最大4発の艦対艦誘導弾を装備出来る上、戦場への移動速度が護衛艦よりも遥かに速い。逃げ足も、である。

 ただし第6・8飛行隊のF-2A戦闘機隊のみを攻撃に出せば、いくら低空飛行をさせたとしても敵早期警戒機に発見され、敵戦闘機隊の要撃に遭うであろう。そこで露払いにF-15J/DJから成る第305飛行隊を出す。さらに緒戦では佐世保沖にて対弾道弾防衛にあたった『こんごう』に補給を施した上、彼女を平戸市北方沖にまで進出させている。『こんごう』が壱岐群島に低空接近する敵戦闘攻撃機を迎撃することは難しい。が、第6・8飛行隊の攻撃を妨害しようとする高空の敵戦闘機ならば、『こんごう』の艦対空誘導弾は届く。


「訓練通りにやることだ」


 第8航空団司令を務める新堂博也しんどうひろなり空将補の言葉は、出撃前の操縦士らにかけるものとしては月並みかつ簡潔に過ぎる陳腐な言葉であったが、真理であった。そのおかげで第6・8飛行隊の隊員達は気負うことなく、平常通りに機体外部点検を終えて操縦席に収まることが出来た。

 冷厳なる日本海の青、あるいは果てなく続く蒼穹の蒼を流し込んだ洋上迷彩のF-2A戦闘機4機は、手隙の隊員達が見守る中、93式空対艦誘導弾4発を引っ提げて九州の空に舞い上がった。すでにその直前にはF-15J/DJから成る制空・陽動目的の第305飛行隊が出撃しており、彼らに先んじて壱岐方面の空域へ向かっている。


 新田原基地から自衛隊機が出撃したことを韓国空軍は察知し、AIM-120を装備したKF-16戦闘機とF-15K戦闘攻撃機を迎撃任務に出した。ただしF-2戦闘機隊を艦隊から約150㎞の位置まで移動させ、空対艦誘導弾を投弾させればいいだけの航空自衛隊側とは違い、韓国空軍側は航行不能の『釜山』と、救助活動中の『西崖柳成龍』・『王建』ら身動きの取れない友軍艦隊を庇いつつ、複数個の敵編隊に対応しなければならない。圧倒的に不利であった。

 また『こんごう』が壱岐群島周辺空域をSM-2の射程に収めたことで、韓国空軍の迎撃戦はさらに困難なものとなった。緒戦で要撃に上がった第8飛行隊機が世宗大王級ミサイル駆逐艦から攻撃を受けたように、韓国空軍機も容赦ない艦対空攻撃、妨害を受けた。

 韓国空軍機と自衛隊機の間で生起した航空戦自体は、双方ともに大戦果を挙げることは出来なかった。

 韓国空軍のF-15K戦闘攻撃機と、航空自衛隊の近代化改修を受けたF-15J・J-MSIP機の機体性能はほぼ互角といっていいだろう。が、操縦士の練度もトータルで考えると、自衛隊員の方が航空戦に長けている。その理由であるが、韓国軍の操縦士が怠惰だからとかそういうことではなく、単純に韓国軍側は貴重な訓練の時間を、対北朝鮮戦を想定した対地攻撃訓練に割かなければならないため、どうしても航空戦のレベルでは見劣りしてしまうのである。

 ただこの時の航空戦は壱岐群島を挟んで、お互い約100㎞以上離れた距離で中距離誘導弾を撃ち合う、回避運動をとる余裕が十分ある戦闘であった。韓国空軍機も自衛隊機も中距離誘導弾を撃ち、敵を拘束・妨害することが狙いであり、自身を危険に晒してまで追撃はしない。結果、韓国空軍機は被撃墜2、自衛隊機からは被撃墜1。双方ともに緊急脱出には成功している。

 が、このあと韓国軍側は決定的な敗北を喫することになる。

 それは第6・8飛行隊機が93式空対艦誘導弾の投弾に成功したためであった。

出典・海上自衛隊ホームページ(https://www.mod.go.jp/msdf/equipment/ships/pg/hayabusa/)

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