譲れない事
たくさんの閲覧ありがとうございます。
そろそろクライマックスに突入です。
「…………」
周りはがやがやとうるさいのに私達の間だけ時間が止まったかの様に静かだ。
沈黙、そろそろつらくなった所で最初にこの沈黙を破ったのは一応当事者の奏汰だった。
「おまえ、ぼ、僕が好きだったのか……悪いが僕には彼女がいて音無の気持ちには「ま、待て違う違うのだ」
奏汰が真剣な表情で断りを入れようとしたのを音無は遮って言う。
「何が違うの?」
川畑さんは興味津々と言った様子だ。
「えー、少し違うのだ僕の初恋の相手は確かに奏汰君なのだが違うのだ。僕が好きになったのは一番初めに女装した奏汰君であって今の奏汰君ではないのだ」
「へぇ〜、それってどういう意味なの?詳しく教えてみて」
斉藤先生は興味を持ったらしく音無に話を続けさせた。
「正確には、一番始めに女装した時と一週間程前に石沢先輩に襲われた時の奏汰君だ。あの時の奏汰君は酷かった、僕を盾にしときながら最後まで回復魔法を掛けてくれなかったからね」
私はすぐにあの時の事を思い出した。結局あの時は風邪を理由に回復魔法を断ったのだ。
「そんな事あった?」
奏汰は首を傾げ言った。
「会ったではないか風邪を引いていて声が出なかった時の」
と、音無と奏汰が話している時に斉藤先生は私に近づきこう耳打ちした。
「ねぇこれって奏ちゃんの事よね」
私は黙って頷く。
「そう、だったらいいかもね」
と斉藤先生は呟くと未だに言い争っている音無に向かって言った。
「もう良いじゃないの今は奏汰君には何も魅力を感じないのよね?」
「もちろんだとも、今は…その…ガスちゃんに魅力を感じているのだ」
音無は胸を張って堂々と答えた。
「そうねぇ、ならいいわ協力してあげる。また、奏汰君の事を好きになられたら困るもの」
二人でどんどん話が進んで行く。
「だめですよ、斉藤さんガスちゃんの気持ちを考えていないじゃないですか」
川畑さんが助け舟を出してくれた。
「よく考えても見なさい、ガスちゃんは今まで喋ったりしなかったでしょ。それなのにこの子相手だと喋ったという事はどういう事だと思う?」
「なるほど、少なからず好きて言う事なのですね!!」
二人は何やらごにょごにょと喋っていたが、小声だった為私には聞き取れなかった。しかし会話が終わった後の川畑さんの様子が前とは明らかに違う。私と音無を見比べてニヤニヤしている事から斉藤先生はまた変な事を言ったのだろう。
「決まった所で早く討伐に行きましょうか決まったら即行動ってね!」
そう言うなり斉藤先生はいやがる奏汰を引きづりながらギルドを出て行った。後を追う形で音無もギルドを出て行く、その様子を私は止める事も出来ずただぼうっと見ているだけだった。
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音無が討伐に行くのが私は嫌だった、考えてみたら分かると思うが誰が好き好んで自分が好きな相手が好きな相手の為に命をかける姿が見たいと思う。
私はそんなの見たく無い。だが、私にそんな事を言う資格もそう考えてしまう資格もない、音無は音無だ私のものではない。
そんな事を考えてしまう事すらおこがましいのだ。だから私はもう何も言わない事にした。
結局あの三人は何の為にギルドに来ていたのか不思議だがもう居ないので聞く事も出来ない。
「結局あの3人は何の為にここに来たのかな?」
川畑さんも私と同じ事を考えていたらしい。
「斉藤先生はともかくあの二人はギルドすら違うのに何故来たのか分からないですね」
と私は川畑さんにこう答える事しか出来なかった。
その日は音無達はギルドにくる事はなかった、家に帰っても斉藤先生は居ない。
結局彼らが戻ったのは二日後の事だった。
「これでつき合ってくれるかい?」
驚いたことに本当に討伐していた、斉藤先生が着いていたとはいえ凄い事だった。
「つき合うとはなんのことですか?」
私はとぼけてみせたもちろんそれで通る相手ではない。
「約束は守ってあげなさいよこの子本当に頑張っていたのよ」
「ですが……嫌、分かりました」
私は諦めることにした、考え方を変えてみると音無と同じ空間にいられる居ても良いてことだ、本来ならばみることすら出来ないのにそれはそれでいいのではないかと思い直そうとした。
(いや、それじゃあ前と変わらない…私は私だこのままではガスちゃんを演じる事になってしまうじゃないか…)
私は再度思い直し口を開きかけたが
「やっぱり…む…………いやなんでもないです」
出来なかった、あんなに喜んでいる音無を見て断る事が出来なかった。
それから正式に音無との交際が始まってしまった、音無はやっぱり真面目でデートをしていても面白い事や話を一つとしてしない逆にそれが面白くて私は何度も笑った。
音無との交際は本当に幸せだった、私の格好だって変わった普通の女の子が着るような服、ガスマスクこそして居るけれどまるで何処にでも居る普通の女の子みたいに過ごす事が出来た。
本当に幸せだった、でもこの幸せは私の幸せじゃないことも分かっていた。
これはガスちゃんとしての幸せ私、奏の幸せではない私はまた代わりをしている。
私は幸せを感じれば感じるほど苦しかった、悲しかった。
私は誰なんだろう奏汰?ガスちゃん?
そんな事はもう分かっていた私は奏なんだ。
音無とつき合っていると音無が本当にガスちゃんの事が好きな事が嫌でも伝わってくる。
こんな事ならば初めから真実を伝えれば良かったと何度も思った後悔したでももう戻れない。
音無の気持ちをもてあそんでいる分前よりたちが悪い。
私は幸せを感じれば感じる程罪悪感で身を焦がされていたそんな時に本来は起きるはずがない起こってはいけない事件が起きてしまった。




