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【蒼竜編 その4】 兄妹の事情

 

 待望の赤ちゃんが生まれた。父譲りで僕と同じ空色の髪と目をした女の子だ。

 父上と母上は僕の妹にユナと名前をつけてくれた。母の故郷の言葉で『優しい海』という意味があるらしい。僕はその名前が直ぐに気に入った。きっと妹もこの名前を気に入ってくれるだろう。


 僕の妹の手や足は同じ人間とは思えない程小さいのに、信じられないほど大きな声で泣く。不思議な事にいくら泣いても母があやせばユナは直ぐに泣き止んだ。僕がベビーベッドを覗き込むと大きな目を見開いて、興味深そうに眺めてくる。一ヶ月も経てば僕を見て笑ってくれるようになった。僕の妹は笑顔がかわいい。多分赤ちゃんの中で一番かわいい。


 生まれてから三ヶ月くらい経ち、母も妹も体調が安定してくると、黒の国の王太子妃であり、母の親友でもあるチヒロ様がお一人でうちに遊びに来た。チヒロ様には四人のお子様がいて、チヒロ様と一緒によくうちにも来る。だから僕にとって彼らは他国の王子・王女であるけれど、同時に幼馴染でもあった。次来る時には娘達も連れてくるわね、と仰って、その日チヒロ様はお帰りになった。

 僕が長い間兄弟が欲しいと思っていたのは、賑やかなチヒロ様のご子息達を知っていたからだ。喧嘩ばかりだけれど、彼らはいつもとても楽しそうだから。僕は妹と喧嘩なんてするつもりはないけれど、彼らのように仲の良い兄妹になれたらいいな。


 生後半年になると、約束通りチヒロ様がご子息達を連れて訪ねて来た。ご子息達は赤ん坊がいると知り、興味津々のようだ。早く見たいとチヒロ様を急かし、母上と一緒にリビングのベビーベッドにいる妹の下へ行く。先程まで眠っていたから、まだ目は覚めていないかもしれない。

 案の定僕らが見に行くと、ユナは眠っていた。とても気持ち良さそうにすやすやと寝息を立てている。起こしてはいけないと分かったのか、いつもは騒がしい王女達も口元に人差し指を当てて「しー!」とジェスチャーをしていた。けれどその中で一人だけ、言葉を発した者が居た。


「ミナミさん」

「はい。なんですか? ナイン殿下」

「彼女のお名前はなんと言うのですか?」


 途端に嫌な予感がした。だっておかしくないだろうか。赤ちゃんに対して『彼女』だなんて。父上も同じことを感じたらしい。その証拠に眉根を寄せて厳しい表情になっている。


優海ユナと申します」

「ユナ……」


 可愛がる、ではない。明らかに愛しそうに名前を呼ぶと、ナイン殿下はうっとりとした表情で柔らかなユナの頬に触れた。目を覚まさないように優しく触れてはいるが、彼の目は早く目を覚まして欲しいと訴えている。


 まずい。なんだか良く分からないけれどナイン殿下は危険だ。けれど相手は他国の王太子殿下。いつかは黒の国の王位を継ぐかもしれない御方だ。騎士団長とは言え、王族でも貴族でもない自分とは身分が違い過ぎる。

 迷った挙句後ろを振り仰げば、父上も悔しそうな表情で拳を握っていた。出来れば妹からナイン殿下を引き離したいけれど、それが出来ずに葛藤しているようだ。一方で母上とチヒロ様はあらあらと口元を緩めている。


 あらあら、ではないのです母上!! ユナの危機ですよ!!


 なんとかナイン殿下と妹の間に入ろうと一歩踏み出せば、それに気付いたナトラ殿下が僕の前に立ちはだかった。やはりナイン殿下の双子だけあって、ナトラ殿下は彼の味方らしい。僕に比べれば彼の方が大分年下だ。おまけに僕は父上に似て背か高い。力技で彼をどかすのは簡単だけれど、やはりここでも僕を邪魔するのは身分の差だ。

 あぁ、もうやだ。お爺様達は大好きだけれど、王族が嫌いになりそうだ。

 すると見かねたのか、ようやく父上が口を開いた。


「ナイン殿下」

「……なんでしょうか。アーク殿」


 驚いた。これまで殿下達がちゃんとした敬語なんて使う所を見た事が無かったから。しかし、父上はこれを宣戦布告と受け取ったようだ。


「人の娘にそう易々と触れてもらわれては困ります」

「幼い赤ん坊を愛でるのがそれ程悪いことですか?」

「嫁入り前の娘の体に触れられたくないと思うのは当然の親心でしょう」

「ではどうすれば良いのです?」


 すると父上は僕の肩に大きな手を置いた。


「まずは我が息子に剣で勝ってからにしてもらいましょうか」


 その言葉を聞き、ナイン殿下が挑戦的な目を向けてくる。僕とて可愛い妹を守る為ならばやぶさかではない。まだ幼い殿下が僕に勝つには相応の年月を必要とするだろう。それに『まずは』と父上は言った。彼が剣の腕を磨き続け、いつか僕を負かしたとしても、最後には父上が立ちはだかる筈だ。

 勿論僕も騎士団長の息子として簡単に負ける気はない。これから一層鍛錬に力を入れねば。


「望む所です」

「こちらこそ」


 僕らの間に見えない火花が散る。そんな僕らを見た母上は驚いて、チヒロ様と顔を見合わせていた。王女達はむしろ楽しそうにはやし立てる。


 そんな中、幼いユナだけが何も知らずに穏やかな寝息を立てていた。

 

 シスコン兄 VS 腹黒王子


 シスコン兄のバックには親ばか騎士団長という最強の砦が控えています。

 一方ナインはナトラの力を借りてアレコレ対策を練ってくるでしょう。

 ナキアス・ナルヴィの息子達だけに、時には卑怯な手を使ってくかと……


 ユナを巡る戦いは長期戦になる模様。女性陣は完全やじうま。


 ここで一旦番外編の連載は終了です。お粗末さまでした。

 

 

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