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詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~【第二部完結】   作者: 橋本彩里
第一部 第二章 ひっそり目立たずが目標です

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6.いざ、ランカスター王立学園


 十四歳を迎え、とうとうこの日がやってきた。

 馬車から降りると、プリーツのある膝下スカートが揺れる。

 学園の制服はいくつかのパターンがあり、自分の好みでカスタマイズできる。当然、目立ちたくないのと動きやすさを重視した私は無難なプリーツのあるスカートにジャケットと前世の高校の制服をベースにした衣装だ。


 地味に目立たずひっそりと。

 それをスローガンにどうしても目立ってしまうピンクゴールドの髪を耳にかけ、私はどんっと(そび)え立つ学園の門を眺め、ほぉっと息を吐き出した。


「とうとうこの日が来たのね」


 ランカスター王立学園。

 それぞれの個性や事情に合わせて目指すところは徐々に変わってくるが、皆同じく一年間は基礎を学ぶ。その後は、才能ある者は次のカリキュラムに進みさらに三年間励むことになる。


 姉のマリアは二つ上で十四歳の時に入学しているので、基本を習得し終え実地に取り組むことも多く校舎は違う。ただでさえも広大な敷地なので、学園で顔を合わせることは少なそうだ。

 姉がシスコンを暴発させ学園に行くことを拒むたびに、『マリア姉様、エリーも寂しいですが活躍なさる姉様を見てみたいです』といった励ましが効いたのか、学園で信望者を増やしマドンナ的な存在になっていた。


 姉の魔法属性は緑。緑は生きるもの、特に植物への影響力を促せる癒やしの力。

 主に災害や医療などの活躍が期待され、いわば人命救助の役割を担う人が多い。儚げな美貌と相まって、学園では聖女様と呼ばれているらしい。


 姉の聖女化はルイ情報である。

 何、聖女って。主人公になるべく要素が盛りだくさんだ。


 なのに、本当の主人公は私。もう、そこに主人公いるよ?

 乙女ゲームよ、何がしたいのか。友人に二段階仕様でお得だねってかけた言葉を取り消したい。


 でも、何度も言うが何が起こってどうなるかもわからない。この乙女ゲーム自体が、何をもってハッピーエンドなのかもわからない。

 国というからには王子たちが絡むことは予想できるが、悪役というわけでもないので自分の立ち位置がイマイチわからない。

 ちなみに、王子たちを攻略するという選択肢はない。


 確かに王子という要素は魅力的だし、そういった小説を読むときはきっとこうなるよねと予想しながらも、その過程にうきうきとし、たまに苦しく胸キュンさせられてきた。

 苦労のすえ、障害があるすえに誰もが羨む美青年とくっつくというのに爽快感を得ることができる。


 だけど、実際に自分がその立場になるとまた違う。

 心が伴わなければ、どれだけ魅力的な立ち位置の人であっても一緒なのである。こうしたらハッピーだよというのはあまりにも客観的すぎる。


 だから、自分の幸せは自分で探したいと強く思う。

 そんな、見る側、する側のハッピーエンドなんて望んでいない。


 まあ、あれこれ冷静ぶって分析してはみるが、私の場合、それまでにまずその先が見えないことが問題だった。

 現在の状況といえば、姉の呪縛回避方法はわかったが、ソフィアに対してはいまだに惨敗だ。


 望みは単純で十七歳越え。その先の未来が見たい。

 だから、十六歳の呪縛の原因である姉とうまく付き合い、十七歳の呪縛であろうソフィアを回避することが目下の課題である。


 そのついでに、国なんて絡むものは面倒でしかたないので王子たちも回避したい。

 だって、マリアやソフィアで苦労してきたのに、そこを抜け出した途端、王子フラグが立っていそうだ。もしくは同時期とかもあり得る。


 二度あることは三度ある。そんな恐ろしいことは避けたいに決まっている。

 回避、回避で試行錯誤の人生すぎて、もうゆっくりしたいのだ。


 記憶に新しい、呆気なく詰まれたこれまでの努力。

 あまりにもショックすぎて、数日は木に登って枝が折れないか運試しの前回り、窓から降りるだけではなく登る練習もし、部屋にこもり薬草をごりごり、ぶくぶくさせ、精神統一。


 そして、新境地。

 王家情報や魔法の使いどころに対してうっかりが過ぎた自分であったが、今は違うのだ。


 ──いでよ、私の真の姿!


 柔軟な思考を持った私は今までと違う。入学が決まってから、日々研鑽(けんさん)した私はバージョンアップした。

 もう一度、この世界のこと、そして国のこと、公爵家の娘であることを認識し直し、それに似合う振る舞いを学び直しながら、今まで習得してきた技術をおさらい。

 今までの知識と能力の使い所というのを考え直したのだ。


 父であるテレゼア公爵は外交に長け、周辺諸国から恐れられている。

 魔力属性は水。普段、感情を露わにすることなく静かだが、そこの目算を誤ると死を見るらしい。氷の外相と言われている。


 どんな外交をしているのか知らないが、実際、水魔法から派生した氷の魔法を得意とすることからつけられた通り名とともに、国のために大活躍である。

 その公爵に娘が二人いることは有名で、そのうちの一人は絶世の美女。テレゼアという名は貴族社会で知らぬ者はいない。


 私は聖女だと持て(はや)されている姉の妹として認知されていることもあり、王立学園に入るからには魔力を隠していても意味がない状況になってしまった。

 ならばと、前回の失敗から学び、うまく使いこなすことにシフトチェンジ。

 あまりにも出来なさすぎると返って目立ちそうなので、そこそこ出来るくらいにしようと決めた。


 こうなってしまっては多少注目を浴びることを前提として、それ以上に目立たないようにすべきだ。

 自分の背負う家名、そして目立つ姉の妹としての正しき振る舞い。多少、こうあるべきという姿を演じることが必要になってくる。


 現在の私の魔力値はルイの話からの推測によるものだけど、魔力を一定に維持しようとするあまり、それが返って魔力の精度を上げてしまったようだ。

 納得のいかない私に「なら、僕と出し合ってみよう」とルイが言ったので、属性が一緒のルイと風の魔法を出し合うことになった。


 すると、出るわ出るわ。

 周囲に迷惑をかけないように緩い風であったが、上限が見えずその日の街の洗濯物は自分たちの風ですっかり乾いてしまった。


 その時、「ほら、僕と張り合えるほどの力。これで隠れようというのは無理だよ」と、同情的な声音でありながらルイはどこか誇らしげに告げた。

 トドメを刺され私は、今までの生の中で一番の魔力を保持していることに、自分のことながら目が点になった。


 何それ? 望んでいないし。


 望んでいないが、上がってしまったものは仕方ないのでうまく有効活用するほうが疲れない気がした。

 それに、ルイも余裕で風を操っていたので、上には上がいる。彼がいると、一人で目立つことはないかと安心もした。

 さすが王子。すでに際立った存在がいると自分は霞む。持つべきは友である。

 

 けれども、同時に王子であるルイと友人であることは何かと問題があった。

 国の王子。目立つ以外の何ものでもない。ルイを狙う女性の嫉妬に巻き込まれる可能性だってある。


 それも視野に入れてそれなりの振る舞い、公爵令嬢として恥じることなくでしゃばることなく友人ポジを維持することは大切だ。

 もう、ついている付加価値は受け入れる。その上で立ち回るべきだと考えた。


 ほら、新しい私である。大人になった気分だ。

 もしかしたら、このまま何も起こらず十七歳を迎えられるかもしれない。なんて、思わないでもないくらい新たな私。


 そのためにも見のこなしの優雅さも身につけた。スカートの下にはちょっとした仕掛けもしてある。

 もう、裸足で走り回る私ではないのよっ! というか、それは両親とマリア、そしてルイにこっぴどく怒られたのでできない。

 ねちっこく小言を言われ、言い訳しようものなら睨まれて、じっとしなければならない苦痛ったらなかった。


 いろいろ乗り越えて思考は柔軟。

 うっかり対策はばっちり。ソフィアが入ってくる一年後、ほどほどできる高位貴族として頑張るのよ。そして、何としても魔の十七歳を超えてみせる。


 ──さあ、いざ参らんっ。


 大きな門をくぐり私は一歩踏み出した。




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