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詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~【第二部完結】   作者: 橋本彩里
第二部 第二章 学園七不思議

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12.七不思議ではないんですけど


 先ほどまで晴れやかな青空が広がっていたのに、今はうっすらと薄雲が流れときおり太陽を隠した。隠れては見え、隠れては見えてはまた隠れ。次第に隠れる時間が多くなる。

 七不思議を数えるうちに、その数が増えるごとに雲の幅が広がっていく。


「代表的なものはこの辺かな」


 抑揚をつけて話し終えたニコラはそう締めくくった。

 内容は怖がっていいのか笑っていいのか。

 七不思議はやはり七つではなかった。何をもって不思議とするかも話によって違う。


「信憑性もそれぞれって感じなのね」


 どこかで聞いたような話であったり、学園特有の話であったり。

 不確かだから不思議とするのだろうが、どれもこれも気にはなるが全てを確かめてみたいとは思わなかった。

 話をまとめてみると、こんな感じだ。


 一.学園にある森。そこに洞窟があり冥界に繋がっているらしい。

 一.第三音楽室。真夜中ではなく朝方にポローン、ポローンと悲しげに鳴るピアノの音。覗くと誰もいない。


 一.真夜中の体育館。ひたすらボールの音と駆け回る足音が聞こえる。

 一.女子トイレと男子トイレの間で逢い引きする幽霊。知らずに声をかけると、女子の幽霊にすごい顔で睨まれる。


 一.学園には地下があり、その通路を見つけると戻ってこれない。そこでは人体実験が行われているらしい。

 一.綺麗な夕日が見える場所で告白し成功すると永遠の愛を勝ち得る。ただし、どの場所が本物か、破滅の場所かは誰もわからない。


 一.応接間の天井に書かれた有名画家の壁画。そのなかの天使の一人が選り好みするらしく、嫌いな客に唾を吐きつける。

 一.天使の唾を禿げた頭にぬりつけると、あら不思議。髪の毛ふっさふさ~。


 一.男子寮のとある一室。そこには覗き穴があり、女子寮が見える。

 一.女子寮のとある一室。同じく覗き穴があり、男子寮が見える。

 一.教師寮のとある一室。同じく覗き穴があり、手を差し出すと触ることができる。何を?


 一.学園にしか咲かない花があり、それを見つけると富と栄光を授かる。

 一.学園の結界について。それを破壊することができたら、この世を支配できる力を持つことができる。


 他もろもろ。

 学園のある木の下に遺体が埋まっているとか。永遠に枯れない花があるだとか。そういったものがごろごろあるらしい。

 もはや七不思議ではないだろう。いくつあれば気がすむのか。


 これを聞くからに、『実みたいなモノ』にまつわることはなさそうだ。少しでも手がかりがあればと思ったが残念だ。

 実みたいなモノに問題がなかった場合、不思議の一つとしてカウントしてもいいなんてレベルではない。これ以上増やすのは忍びないくらいだ。


 私はニコラに聞いたのも含め五つしか知らなかった。


 冥界やら幽霊やら、ピアノは定番である。少し思っていたのと方向性は違うのもあったがそれっぽい。

 あと、来客に唾を吐く天使は本当なのだそうだ。魔法が関係していそうだが、そもそも絵が選り好みする魔法とはどんなものなのか。


 応接間に入って唾を吐かれたりしたらショックを受けそうなので行きたくないが、もし育毛成分が含まれているなら少し気になる。

 吐かれた人、誰かくれないかな?

 育毛の真偽はわからないが、唾を吐きつける天使は学園の七不思議の一つとしては確かそうだ。


「私、覗き穴の話を聞いたことがあります」

「ええ。私もです」


 一人がそう言い出すと、口々に私もと話が続く。


「確か、女子寮の三階の左角の部屋ですよね? そこを使っている子がたまに壁がぐるぐると回って見える時があるって言ってました。さすがに男子寮が見えるとかではないようですが」

「そもそも互いの寮のどこが見えるのでしょうか? 教師寮だけ触れるって、本当に何をって感じですけど。その生徒もそんな噂がある部屋で大変ですね」

「その子は気のせいだということにしているようです。七不思議を知っているからそう見えるだけだろうって言ってましたけど、違和感は感じるみたいです」

「すごいですね。ここは魔法学園ですものね。そういった何かがあってもおかしくないです」


 最後にサラがしみじみと校舎のほうを見ながら呟き、その場にいた全員がゆっくりと頷いた。

 魔法は万能ではない。

 だからこそ、たまに意図しないことができたりもする。


 その魔法が頻繁に使われる場所で、しかも未熟な者が多い中で連鎖反応を起こす可能性もあるだろうし、それがこの学園の七不思議の多さの理由だろう。

 偶然の産物がないとは言い切れない。


 きゃわきゃわと興奮する女子たち。

 それらを聞きながら、私はのほほんと微笑ましく彼女らを眺めていた。

 こういった噂は、真実であっても嘘であってもどっちでもいいのだろう。


 ただ、それらを共有し盛り上がるのが楽しいのだ。

 自分もその輪にいることがすごく楽しい。見ているだけで、聞いているだけで、ふわふわと温かい気持ちになる。


 それと同時に、少しでも手がかりを見逃さないようにどこかで冷静に分析している自分。

 乙女ゲームならこの話に仕込みが入っていてもおかしくない。ただの余興かもしれないが、その可能性も捨てきれない。


 学生として、日々を奮闘しながらも楽しんでいる自覚はあった。

 がむしゃらに詰まないでおこうとした今までと違って、何かと充実していて楽しい。

 学友に囲まれ、王子たちと知り合い彼らのことを知った今世こそ、その生を全うしたいという気持ちが強くなる。


 大事なものが増えていく。

 築き上げた関係は生まれ変わっても同じものとはならないからこそ、彼女たちの声が愛おしくて私は頬を緩めた。


 それをニコラが眩しそうに眺めている。

 彼もまた七不思議を語るだけ語って、女性陣の話題に耳を傾けているだけだった。

 まだ、あれこれと花が咲く。


「私の友人はトイレの霊の修羅場を見たと言ってました」

「修羅場ですか?」

「ええ。その噂のトイレは別棟のあまり使われることのない一階のトイレなんですけど、そこに二階のトイレの女子幽霊が乱入して男子幽霊を取り合いしているとか」

「「「「「…………」」」」」


 なんとも言えない空気に包まれる。

 なんてリアルな。本当なら幽霊の世界も大変だ。


 そして、同時にちらりとニコラを見る。よくこの男は揉めないなと皆思うことは一緒のようだ。

 本人はわかっているのかわかっていないのか、相変わらず二ヘラっと笑い、私と視線が合うとさらに笑みを濃くした。

 そして一言。


「モテモテ幽霊だねぇ」

「「「「「…………」」」」」


 女性陣はどう反応していいのかわからない。

 幽霊の話とリアルな人の話を混ぜ合わせていいものか。そもそも噂は噂の域を出ておらず、一階と二階の幽霊の区別は誰がしたのか。


 さすが七不思議。

 とりあえず、元の話に戻して触れてみる。


「……ああ~、もしかしたら睨まれる相手は女子が多かったりしそうですね」

「そうかもしれませんね」


 睨む、修羅場。女子幽霊の怨念という色が強そうだ。

 そう考えると、あれこれ尾ひれがついていそうだがトイレの幽霊の話も一つとしてカウントしてよさそうだ。

 一通り女性陣の話を聞いていたニコラが、頃合いとばかりに新たな話を投げる。


「そういえば七不思議とは違うけど、一年生の、特に女子の間で流行っている噂があるようだよぉ」

「まだ、学園生活間もないというのにもうですか?」


 ドリアーヌが、まあ呆れたとばかりに声を上げる。

 確かに、噂にかまけるにはまだ日が浅い。

 もっと学園のことに集中している時期だろうとは思うが、一年と聞いてソフィアのこともあり気になった。


「うん。それが面白い話なんだよねぇ。どうも葉っぱをつけた女生徒が出没するみたいだ」

「出没ってクマみたいですが、葉っぱをつけた女性って……」


 ミアが困惑気味に首を傾げると、周囲も同じく首を傾げる。


「葉っぱ」

「葉っぱ、ですか……」

「葉っぱ?」

「つけるってどこにですか?」


 最後に冷静にサラの指摘が入る。


 ――葉っぱ。


 あまり掘り下げてほしくない話題だ。

 だが、流れ的にすっかり彼女たちは興味を示している。


「仮面のように、ということらしいよぉ。それで正体を隠していたみたいだね。面白いねぇ」

「……面白いでしょうか? それ本当にあった話ですか? そんな変わったものが出没しているなら私たちのところにも噂が回っていてもおかしくなさそうですが」

「そうですよね」

「聞いたことはありません」


 訝しがるクラスメイトの言葉に、私も同意だと小さく頷いた。

 内心は少しヒヤヒヤしているが、ここは絶対顔に出すまい。


 ──う~ん。葉っぱねえ。


 仮面と聞いて心臓がドキッと嫌な音を立てたが、出没も何も私は一度きりなのでその噂は自分のことではない、はずだ。

 自分でやっといてあれだが、もう二度とやらない。


 私の場合は状況的にやむを得ずだったし、好んで葉っぱつけるなんて奇特な人もいるもんだ。

 そう思っていたのだが、続くニコラの言葉に今度こそ表情を崩しそうになった。


「見たという人に直接話を聞いたから間違いないよぉ。その人ははっきり葉っぱレディと名乗ったそうだよ」

「葉っぱレディですか?」


 ドリアーヌが微妙な顔を作った。

 想像しようとして、失敗して結局意味がわからなかったというような顔だ。

 顔を葉っぱで隠すという発想がそもそもないのだろう。


 私は、『葉っぱレディ』なるどこかで聞いた名前に思わず目を見開きそうになったが、すんでのところでみんなと同じようにへぇっという顔を作る。

 いわゆる澄まし顔というやつだ。


 サラたちは軽く首を傾げながら、小さくふよっと口元が動いた。

 何かを想像したのか、堪えきれなかったとばかりにふよふよと頬を緩ませる。


「名乗ったんですか?」

「今までとテイストが違いますね」

「そうですよね。随分、具体的というか体験談的で噂という感じはしないですね」

「うん。だから面白いよねぇって」


 ニコラはそう言って、私のほうを見て笑う。


「ね、エリザベスちゃんもそう思わない?」

「……面白いかはわかりませんが、何を、したかったんですかね?」


 この場合はなぜそんな噂をばらまいたのかという話なのだが、当然、ニコラにわかるわけもなく違う意味で捉えられた。


「その子が言うには、勝手に出てきて邪魔をしたそうだよ」


 だが、その言葉で思わぬ答えを貰え、私はまじまじとニコラを見た。

 視線が合うと、にへらっと笑うニコラを横にそっと瞬きをした。


 ──邪魔ねぇ。


 ということは、この噂の元凶は品のない言葉を吐き出していた罵倒令嬢のほうだろう。

 なるほどと恨みを買って噂になることもあるのかと、他人事のように思った。

 そして、噂をばらまいたのがソフィアじゃなかったことに、わずかにほっとする。


「邪魔をする葉っぱレディ。メーストレ様はそのような話を他では聞いたことがありますか?」


 意外とこの手の話を好み冷静なサラが、ニコラに質問をした。


「ないねぇ。一年生の一部で流行っているというよりは、その子が言っているだけという感じだね。本当のところはわからないけどその子は怒っているようだったから、誇張も入っていそうだしねぇ」

「それはありそうですね。大方、邪魔の内容もほかには言えないから変な人が出たていうのをアピールしたいだけとかでしょうか。注目されたいタイプなのかもしれませんね」

「その線は濃厚そうだったよぉ。現に周囲の反応は薄かったからねぇ。でも、その子の家柄と性格的に無視はできないってところかな。それに、『葉っぱレディ』ってネーミングもちょっと笑えるし」


 そこで、ぶふっと笑うニコラ。

 私はにっこり笑みを浮かべながら、心の中で睨みつけた。


 そんなに笑わなくてもいいじゃないか。安直だった自覚はある。

 私が告げた時のユーグも、心底呆れたという顔を隠さなかった。


 ──呆れられるのと笑われるの、どっちがマシなのだろうか……。


 ふっと遠くを見つめ考えていると、「確かに、変わったネーミングですね」とクラスメイトたちもくすくす笑い出した。

 楽しそうな声に救われる。


 それに正体がばれたわけでもないし、この話は軽めに捉えられているようなので口を噤んだままでいることにした。

 どこか面白そうな顔をしたニコラが、さらに楽しそうに見えたのは気のせいだろうか。


「逆恨みかもねぇ。葉っぱの仮面をつけていたっていうのも妄想入っているかも。それよりも、その時にたまたま聞いた話では、女子寮で時間問わずゴリゴリゴリという音が聞こえることがあるそうだよ。どちらかというとこっちのほうが七不思議の類いだよね」

「あっ、それは知ってます。昼だったり、朝だったり、夜だったりと規則性がないんですよね。それこそ、先ほどの七不思議の一つの地下で人体実験に繋がるのではという話も聞きました。女子寮のどこかと地下が繋がっていて、たまに人骨をすりつぶす音が漏れ聞こえるのではないかって」

「人骨ですか……。私は聞いたことはありません」


 クラスメイトが告げたその言葉に、ブルブルっと身体を震わせてドリアーヌがわずかに席をこちらに寄せてきた。

 不安だとばかりに、そっと右手は左腕を掴んでいる。


「私は実際耳にしたことのある人の話を少しばかり聞いたことがあります」

「そうなんですか? その方はなんて?」

「その『ゴリゴリゴリ』という音ですがたまにリズムをとる時もあるようですよ。『ゴーリ、ゴーリリー』だったり、『ゴリゴリゴリゴリッ、ゴゴゴッ、ゴリゴリゴリ』とすごい早い時もあるそうですよ」


 それとは反対に、自分を挟んでドリアーヌと反対側に座っていたサラは嬉しそうに話しだす。

 気の強いドリアーヌのほうがこの手の話は不得意のようだ。


「なんですか、それ」

「初めは不気味だと思っていたそうなのですが、歌っているようだったり徒競走しているようだったりと感じるようになってそのうち聞くと笑ってしまうって言ってました。音以外何もないし、かすかな音だから夜はゆっくりなので逆に最近は眠くなるって言ってましたよ」


 子守歌か。

 悪いようなものではないのかもしれない。


「そんなに有名なんだねぇ。知らなかったな~」

「女子寮のある一部だけで噂になっている話ですからね。友人の友人にそういえばと話すくらいの話ですが、意外と知っている人がいるのかもしれません」


 受け入れられる、というパターンもあるようだ。

 語られるにも、内容や語る人や伝える人の心情によって伝わり方も変わる。


「面白いですね」

「そうだねぇ。噂って面白いよねぇ」


 感嘆の声を上げると、それを聞いて同意したニコラが笑みを深くし、サラが嬉しそうに話しかけてくる。


「そういえば、エリザベス様は聞かれたことはありませんか? 私の友人の部屋はエリザベス様とさほど離れておりませんのでもしかしたらと」

「そうなんですか? いえ。私は聞いたことはありません」

「そうですか。彼女はエリザベス様の部屋がある周辺で聞いた人が多いとのことでしたので、もしかしたらエリザベス様もお聞きになったことがあるのではと思ったのですが」


 どこか残念そうにポツンと呟いたサラの、こげ茶色の髪が肩下でふわふわと揺れる。

 くりくりとした瞳はこの話題を広げたかったと言っていた。


 それはこの手の話が好きだからか、私に関わる話を共有したかったからか。そのどちらもだろう。

 控えめでありながら、サラの私へと向ける好意はいつもまっすぐだ。


 お茶に誘えば、ほんのりと頬を染めて喜ぶし、話しかければ花が舞い散らんがごとく嬉しそうに顔を綻ばせる。

 控えめながらわかりやすい好意を見せられて、私だって嬉しい。それが可愛らしいと思う。


 今はそのことよりも、ゆっくりと浸透してきた言葉の内容に冷や汗ものであった。

 もしかしたらという可能性を捨てきれず、くりっくりの茶の瞳を見つめるがきょとんと返ってくるだけで、可能性はあくまで可能性としかわからなかった。


 私の部屋の周囲で聞こえる音。

 朝、昼、夜、規則性はない。そして、私は聞いていないが、周囲の部屋ではちらほら聞こえているらしい。


 ──まさか、ね。


 うん。まさかだ。


「まあ。そんな不気味な音を聞いていて楽しめる人は稀だと思いますわ。エリザベス様が聞いてなくてよかったじゃないですか」

「そうですね。すみませんでした」


 怖がりのドリアーヌからすれば、音が聞こえるという時点で無理なのだろう。

 しゅんと肩を落とすサラに、私は内心の焦りを隠しなだめるように言い添える。


「気にしないで、サラ。どちらかというと聞いてみたいなとは思いますけど、ドリアーヌ様は心配してくださったのですものね。ありがとうございます」

「そうですか。私はこの手の話がやはり苦手でして。女子寮の話は身近でしょう? なので想像してしまうので、話を聞いてぞっとしました。もしその周囲でエリザベス様だけ聞かれてなかったりしても、それはそれでいろいろ考えてしまって……」


 ドリアーヌの最後の言葉に私は顎を引いた。


 ──わぁ、私もぞっとした! したんですけど。


 と、激しく心の中で突っ込んだ。チョー、コワッ。

 すっかり他人事だと思って聞いて答えていたことに。自分の間抜けさと、勝手に語られる話に。


 自分だけ聞こえないという言葉から、なんとなく思い至ってしまった。

 もしかしてその音、自分が元凶ではないかと一度思うとそれ意外に考えられなくなってきた。

 本当、怖っ。なんか、よくわからないけど軽く鳥肌が立つ。


 自分だけ聞いてない。

 いや、この場合は自分が聞きすぎて耳慣れしすぎて疑問に思わなかっただけだ。


 つまり、音の元凶は、朝、昼、夜、関係なく気分が乗ったときに作る薬草をすりつぶす音。

 そして、リズムが変わるのも、また気分によって動かす手の速さが違うからだろうし、歌を歌いながらすることもある。


 考れば考えるほど自分が作り出す音ではないかっ!?


 ──ああ~、七不思議が作られていく過程を見た上に、自分が元ってありえない!


 これは絶対黙っておこう。

 ルイあたりにこの噂がいけばバレる可能性はあるが、あくまで女子寮の噂ってことで王子たちの耳にいちいち入ることではないだろう。


「七不思議もそうだけど、噂って面白いよねぇ。葉っぱレディもその音も俺が男だから知るの遅かっただけで、もっといろいろありそうだよねぇ?」


 ニコラが面白そうに唇を緩め、肘をつき期待を込めた眼差しを私に向けた。

 私は目を細め、にぃっこりと笑みを浮かべる。

 知らぬ存ぜぬを突き通すからには、これしかない。


「噂はあくまで噂ですよ」

「うん。そうだねぇ。……でも、その中の真実を見つけるのって面白いと思うけどねぇ」


 口端をちょこっと持ち上げ優雅に微笑むニコラの言葉は、移り変わる女性陣たちの話に掻き消えた。




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