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詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~【第二部完結】   作者: 橋本彩里
第二部 第一章 新たな始まり

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プロローグ 話題の人物

【第二部 彼女のこっそり行動はしっかりフラグを踏みしめる】


 ランカスター王立学園内では、とある人物が最近話題になっていた。

 その名はエリザベス・テレゼア。四大貴族のうちの一つテレゼア公爵家の次女である。


 氷の外相と恐れられる父と、聖女化した美貌の姉がいることで有名だ。

 ピンクゴールドの髪に菫色の瞳。学園に入るまでは公に姿を現すことも、人と話すことも少なく、地味な色味のドレスを身に纏い目立つ存在ではなかった。


 可愛いけど大人しい()だという認識だった彼女は、いざ学園で蓋を開けると、姉のように際立って華やかとはいえなくとも、十分にその容姿は整い平凡とは言い難いと周囲が気づくのも早かった。

 何より、言動が、言動が……、おかしいって言ってもいいのかなっ? とその微妙さに深い付き合いはないが間近で見てきたクラスメイトは首を傾げる。


 はんなり微笑は惚れ惚れするほど魅力的であるが、魔法を使うときのあのヘンテコ詠唱はどうにかならないものか。

 『よいせぇ~』には少しは慣れてきた。

 だけど、ふいに何を思ったのか変化球がくる。


 『ひ~ほ~』『どいさぁ~』『ぷるるるぅ』『ひゅぅぅぅん』などなど。

 前の二つは水魔法のとき、後の二つは風魔法のときに発する言葉。クラス全員がしっかり覚えてしまうほど、それは突然やってきてインパクトを残す。


 それにいちいち突っ込むこの国の三人の王子たち。

 それに対してエリザベスは、「やっぱり無言は難しいから、しっくりくるのを探し中」や「無言の前の肩慣らし? みたいな」など、何度そのやり取りを聞かされたことか。


 急にほかを試すのはやめてほしい。こちらは『よいせぇ』待ちの耳なのだ。

 それに、無言を目指している掛け声とは思えないし、むしろ前より気になるから推奨しない。


 そして、変な掛け声を出す時のエリザベスは大抵驚くようなことをやっている。

 それぞれの属性に応じて水を半分に分ける授業なんて、王子たち同様あっさりできてしまう彼女はなぜかシュークリームを描いていた。

 ぴっと一線引くだけでいいのに、余計な労力を使っている。


 どうやら空の雲を見て食べたくなったからというのが理由らしいが、シュークリームの横にくっつくぴろんとしたヒゲみたいなのが気になった。

 エリザベスの魔力量と実力からしてそんなミスをするはずはないので、明らかにあのヒゲはわざとだ。


 ──中途半端な短さ。太さ。それでいて波打っている。とても気になる……。


 その微妙さ。しばらくあれは何の意味があるのだろうと引きずった者数名。

 後日、彼女と一番仲の良いルイ殿下が、「なぜ、蛇を描いたの?」と直接聞いてくれた。さすが、彼女と付き合いの長い王子である。


 それに、ふふっとにこやかに笑うエリザベス。

 とても嬉しそうに熱弁していたが、周囲はあれって蛇だったのかとびっくりしながら耳ダンボだ。


 むしろ、よくわかったなと感心する。

 それと同時に、シュークリームに蛇の組み合わせの意図がわからず、もしかしてエリザベス嬢は画力がないかも疑惑も浮上した。


 そうであったらちょっとツボることが増えそうなので、みんなお腹にきゅっと力を入れやすくするため、部屋で腹筋することが増えた。

 やっぱり、身分が高い人のすることを笑うとちょっとね……。気を遣います。


 とにかく、クラスメイトたちはエリザベスの魔法に毎度感心させられながら、その変な叫びを聞かされて困っていた。

 注意力散漫になるのでちょっとどうにかならない? と誰もが思っていた。

 はっきり言って、彼女が出張ってくると気になって授業どころではなくなる。エリザベスにその気がなくとも、しっかり授業を妨害している。


 エリザベスが注目を浴びる理由はそれだけではない。

 王子たち全員と仲が良いことも含まれ、すべての王子と親しい人物はと聞くとこの学年の者は、『エリザベス・テレゼア』の名前を挙げるだろう。


 水球事件(またの名をよいせぇ事件)以降、彼女に楯突こうという人物は現れなかった。

 あれだけ圧倒的な魔力の差を見せられ、度胸を見せられては、どこに文句をつけていいのかわからない。

 身分も申し分なく、怒りポイントは微妙にずれていたが正々堂々と対峙する姿は清々しくもあって、王子たちと一緒にいて羨ましいという気持ちはあれど、恨めしいという気持ちはしぼむ。


 そして、その時に彼女が助けたサラ・モンタルティ男爵令嬢はもちろんのこと、嵌められそうになり対峙していたドリアーヌ・ノヴァック公爵令嬢はすっかり改心して今ではエリザベスを(あが)めているときた。

 そんな彼女に言いがかりをつけられるはずもなく、彼女自身がそれらに驕ることなく、時にはこそっと静かにしようとする姿も(できていないが)見えるので、結構クラスはいい雰囲気で日々研鑽していた。


 むしろ唯一として存在する彼女がいることで、王子たちと仲良くなろうという無相応な欲望も抑えられ諦めもつく。

 王子たちの気心の知れたほかでは見せないであろう表情も見ることができるので、雲の上のような王子たちを身近に感じる。


 エリザベスが緩衝材の役割を果たしてくれているので、無駄に緊張せず争わず済んでいるとも言えた。

 彼女がいなければ、お家騒動、令嬢たちの争奪戦とこのクラスがぎすぎすしていたことだろう。

 長くなったが、入学してから一年間はそんな感じであった。


 転生を繰り返してきたエリザベス本人は平凡だと思い込み、自分で思っている以上に目立っていることに気づいていない。

 そんな彼女の物語。

 彼女らしくいろいろやらかしながら、無事進級したそんなエリザベスの苦悩? 嘆き? から始まる。




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