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詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~【第二部完結】   作者: 橋本彩里
第一部 第五章 終わりの始まり

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22.秘密の花園


 それぞれひと段落したところで、秘密の庭園の花園エリアに移動しティータイムと寛いでいた。

 美しい庭で色とりどりの菓子が並べられる。さすが王城。出されるものが一味も二味も違う。


 その美味なお菓子を堪能しながら、ずっと気になっていたことを私は尋ねた。

 魔法を見せ合ったからか、互いに少しだけ打ち解けた気がする。まだ、ルイ以外の王子たちには気を遣うが以前ほどではない。


「今日はどうしてこの場所だったのでしょうか? やはり意味が?」

「もちろんだよ。この秘密の庭園は歴代の光の魔法により守られた場所で、幼い頃から王族の魔法の練習に使われてきた場所でもあるんだよ」


 そう説明してくれるルイは、内緒だよと人差し指を口の前に当ててふふっと微笑する。おお、秘密の庭園のことは秘密ってことね、了解です。

 私は神妙に頷き、新たに質問を重ねた。


「なら、ルイたちもずっとここで練習を?」

「うん。ここなら周囲に見られることも迷惑をかけることもないからね。王族はほとんどの者が高い魔力を持って生まれてくるから、その制御と使い方を学ぶ必要があるんだ」

「そうだね。学園に入る歳までに王族としての信念と応じた魔力使用ができるようにすることが大事だと教えられている。だから、ジャックとエドガーもここで訓練を兼ねて現在も修行中だよ」


 ルイに続きシモンが説明を加えた。天使たちは現在進行形で努力中らしい。

 なるほど。邪魔されず、王族としての力を確立する場所。

 王族にとってとても大事なところのようだ。だから、双子も気になってやってきたということなのだろう。


「大丈夫だという判定は誰がするんですか?」

「専属の教師がいるから、属性や課題別に彼らが見ている」

「そうなんですね。よく考えたら、魔力があるからってだけですぐにうまく魔法が使えるわけではないですもんね」


 むしろ、大きい魔力ほど周囲の影響を考えてしっかりと制御を学ばなければならない。


「そうだよ。だから、エリーの魔法の習得はどのようにしたのか気になるのだけど?」

「えっ? 私?」

「うん。魔力を隠そうとしていたし、エリーは家族にも内緒にしていたつもりだったみたいだし」

「つもり……」


 確かにそうなのだけど、改めて言われるとぐさりとくる。

 まったく隠せずにいたことは、彼らが自分の気持ちを尊重してくれていたことを感謝するとともに、自分の行動を考えると恥ずかしくて黒歴史だ。


「ふふっ。自覚が出てきたのはいいことだね。それで続きなのだけど、僕たちについてこられるレベルに至るには、専門の知識を持ったものに教えてもらい鍛錬しないと難しいことだと思う。風魔法は以前一緒にしたことで大体知っていたけど、水魔法もシモンとうまく融合していたよね。滝を真っ二つに割ったのは見事だったよ」


 転生を繰り返しできることが増えたのも本当であるが、今生は魔力を抑えようとすることでかなり精度が増したようなので、偶然な部分も大きい。


「それは、えっっと、うーん……。たまたま、みたいな?」

「たまたま?」

「ルイが知っての通り、ちょおっと、ちょおっとだけ、円滑に過ごそうといろいろ練りだした結果というか」

「……そう言われると、確かにわからないでもないかな」


 納得されるのもどうかとも思うけれど、この件はあまり深く追求してほしくない。

 そこで、サミュエルが「円滑?」と首を傾げると、「そう、エリザベス基準の円滑という名のいろいろ」と説明になっているのかわからない説明を加えた。


 まあ、いいや。この理由で納得してくれたようで良かったと、私はほっと息をつき話を戻す。


「とにかく、だから(・・・)王家は皆さまが凄いということが今日わかりました!」


 そこで私は尊敬の眼差しを向けた。

 ゲームの世界だからといって、メインの場面しか設定されず見えていないが、日々の積み重ねがあるからこそのキャラなのだ。


 王族だからで、皆が皆が最初から優れていると思い込んでいたが、持って生まれたものにあぐらをかくことなく、積み上げてきた賜物()なのだ。

 変なフラグさえこの先なければ、友人として友好関係を続けていけたらと思えるような時間だった。


「だから?」

「ええ。この国に生まれてよかったと思います」


 上に立つものが努力を怠らない。

 立場に(おご)ることなくいてくれることに、どれだけの国民が救われるだろうか。そう告げると、ルイはいつものように優しげなエメラルドの瞳を緩めにっこり笑顔をくれる。


「僕もエリーが同じ国、同じ時代に生まれてくれて良かったよ」

「ありがとう。私もルイに、皆さまに出会えて良かった」

 

 初めは王子だと知らなかったし、知ったあとでも変わらずそばにいてくれるルイは、この学園に来てどれだけ存在が大きいことか。

 何がどう詰むのかわからないけれど、ルイならば信じることができるし、信じてくれる気がする。

 そう思える友人を持てたことで、この先がだいぶ変わってくる。


 そこでサミュエルがごほんと咳をすると、切れ長の赤みを帯びた瞳が咎めるように私を見た。その美貌はゆっくりと柔らかな笑みに溶けている。


「よくそんな平然と」

「えっ?」

「あぁー。いや。俺も……お、この国が好きだ」


 そこでサミュエルは顔を赤くした。

 自国を好きだと言うだけで照れるサミュエルであるが、ここに来るまでに騎士団の者たちと親しげに話す姿もあって、その内容は自国の警備を大事に思っているものだった。

 平和なこの国は有事の際に彼らが尽力してくれることによって守られており、騎士たちの存在は非常にありがたい。


 魔法があるから、使えるから、それだけで国は成り立たない。警護だけでない、生産、流通、医療などそれぞれの役割が機能してこその国なのだ。

 身分が高いからといって当たり前ではないその態度を間近で見て、私の中での王子たちの株は爆上がりだ。


「そうだね。そう思ってもらえる国がこれからも続くよう頑張らないとね」


 シモンがにこりと笑みを浮かべそう告げると、表情を改め私のほうへ身を乗り出してきた。


 ──うわっ、超絶美形が近い、近いぃ~。


「ついてるよ」


 固まった私の口の横についた生クリームを何事もなくとってくれるシモンを前に、私はぴきぴきっとまた固まった。


 ――何が起こった?


 シモンは平然とした様子でクリームがついた手をハンカチで拭いているが、私は突然のことに混乱中だ。


「シモン。口で言ったら良かったんじゃない?」


 ルイがびっくりして固まる私を見て嗜めてくれるが、シモンは動じた様子もなく淡々と答えた。


「動いたほうが早いと思って」


 そうか。動いたほうが早いと思ったのか。


 ――って、なるかぁ~っ!?


 今日で少しだけ王子たちを近くには感じたが、ひょいっと食べカスを取ってもらうほど縮めてないはずだ。

 これがレディファースト? いや、違う。

 とにかく、美形って緊張する。しかも、完璧がつくような人は特に。下手なことができないというか、しにくいというか。


 ドギマギしながら瞬きを繰り返していると、じろりとユーグに睨まれたのでへらりと笑顔で返したら、さらに睨まれてふんっと顔を逸らされた。

 勝った! むしろ、変な対抗意識まで燃えてきた。

 面倒なやつとは思われてそうだけれど、何か言われるでも嫌がらせされるわけでもないので、王子たちが何も言わない限り私も触れるつもりはない。


 王子たちに囲まれて物怖じもせず、媚びることもせず、自然体で彼らと話す存在は希有なことを私は理解していなかった。

 そんな様子を双子たちがじぃっと見て、ひそひそ言い合っていたことをこの時は誰も気づいていなかった。




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