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詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~【第二部完結】   作者: 橋本彩里
第一部 第五章 終わりの始まり

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21.天使な双子


 深い森を背景に、有名な建築家を雇い入れ建てられた白亜の城が広がる。

 中央にあるメインの城に四つの巨大な塔が繋がるように聳え、敷地内にはバラ園、泉水の庭園、なんと湖や滝まであり、川も流れどこまでも広大な土地が広がる。


 間違いなく、ほかでは見られない景色に圧倒される。

 そんな素晴らしき場所の中でも、さらに王家の者か彼らに招かれた者しか入れない秘密の庭園に、私は招かれていた。


「うわぁ、なんて愛らしいのでしょう」


 頬を紅潮させ、両手を顔に添えデレそうになる表情を押さえた。

 城の門をくぐったところから(かしこ)まり緊張していた私であるが、王子たちに庭園に案内されて数分、しずしずと大人しくあろうと行動していたことがあっさりと崩れた。


 成形された並木道に囲まれ、軸線を中心にした幾何学(きかがく)的でシンメトリーな庭は美しい。中央には噴水があり、太陽の光とともに降り注ぐそれらは癒やし効果がある。

 その広大さと美しさに感心していたが、現在私は違う意味で興奮していた。


 可愛すぎて、危うく飛びつくところだった。

 なんと、目の前には今すぐ飛びつきたいくらい可愛らしい顔があるのだ。まさに天使。天使が舞い降りている。しかも、それがふたつあるではないか。

 本当ならこの興奮を共有したいところであるが、あいにく私のほかには共感してくれそうな人は誰もいない。


 それに行動や態度に表してしまうと、溺愛のすえ変態じみてきた姉と変わりない。しかも、私は客人であり彼らとは初対面なのだ。

 みっともないところは見せられないと、意識を総動員して戒める。


 金の髪がきらきらと光を反射して、晴れた日の湖面を思わせる水色の瞳がじぃっと下から見上げてくる。

 くりんとした大きな瞳で上目遣いが似合いすぎるっ! これほど完成度の高い整った美しさと可愛さのダブル攻撃はない。


 ──くはっ。天使がいる~。


 私は身悶えそうになるのを必死に堪えながら、舞い降りてきた天使の姿を堪能した。


「エリー?」


 ルイが不思議そうな顔で私を覗き込むと、ああっと何かを悟り気難しそうに眉を寄せた。

 これは、絶対呆れている。その証拠にしっかりしなよとばかりにぽんっと肩を叩かれ、私は誤魔化すようになあに? と視線を向けたると小さく溜め息をつかれた。


 ルイにはあれこれ見られてきたので、私は可愛いらしいものに弱いことは知られている。ルイも出会った時はとっても可愛らしかった。

 私は唇を尖らせて、仕方ないんだってと心の中で弁明する。天使とは初対面なのだ。しかも、ダブル。これは眼福すぎて目が離せない。

 初のダブル攻撃の衝撃はすごいのだと視線で訴えながら、このままでは不審者なので気を取り直して告げた。


「あまりにも王子たちが可愛らしい姿でしたので、思わず見惚れてしまいました」


 誤魔化すようにふわりと笑みを浮かべて、ここぞとばかりにまた眺める。


「「ありがとうございます」」


 ダブルで返される言葉。聖歌隊の天使のように透き通る声に、同じタイミングでぱちぱちと瞬きされては、鼻血を出す五秒前だ。

 第一王子であるシモン王子の四つ下で、兄と同じコバルトブルーの瞳と金の髪を持つ彼らは、そこでにっこりと笑みを浮かべた。


 ──うわぁぁん、鼻血出そう。よだれ出そうっ!


 とうとう残りの王子、ジャック・ランカスター(双子兄)と、エドガー・ランカスター(双子弟)の登場だ。

 この国の王子が揃ってしまったがもう今更だ。


 王子三人とクラスも一緒で接触してしまっては、もう四人も五人も変わらない。しかも、こんな天使な二人ならむしろウェルカムだ。

 第一印象は大事だ。にまにましたいのを必死に堪え、私は淑女スマイルを浮かべた。


 一連の流れをユーグ・ノッジは冷たい眼差しで見てくるが、以前よりは感じる冷たさが減った。

 視線が冷たいだけで理不尽なことを言われるわけでもない。シモンとのやり取りからも、何か事情ありそうなのでその眼差しもあまり気にならない。

 

 完璧王子の柔らかな表情と読めぬ眼差しはいつも通りだけど、プライベートだからか、はたまた弟たちがいるからか、ここが外だからか、少しだけ気配がいつもより柔らかに感じた。

 シモンは小さく肩を竦めると、咎めるような眼差しを双子に向けた。


「ジャック。エドガー。今日は客人が来るから邪魔をしないようにと話したはずだけど」

「ええー。ですが、シモン兄さんがこの庭園を使うと知らされては気になります。僕らもご一緒したいです。せっかく帰ってらしたのに」

「そうですよ。しかも、女性を連れていると聞いては尚更です」


 そっくりな二人であるが、むすっと面白くないのだと表情に出しながら甘えるように話すのが兄であるジャック、落ち着いて話すほうが弟のエドガーのようだ。

 そして、彼らがここに来たのはこの場所であることと、兄であるシモンが女性を連れてきたというところがポイントのようだ。


 兄弟関係は良好で、兄を慕っているのが見てとれてほっこりする。

 この場所がどれほどの意味があるのかはわからないけれど、私の性別は気にしないでほしい。ただの魔法の見せ合いよっ、と私は心の中でグッと親指を立てた。


 シモンも弟たちが可愛いのか、ふっと小さく諦めたように息をつくと、身体の方向を動かして彼らを紹介してくれる。


「だからと言って……。まあ、来てしまったものは仕方がないですが。彼女は王立学園に通い同じクラスとなったエリザベス・テレゼア公爵令嬢です。エリザベス嬢。彼らは私の弟でジャックとエドガーです」


 ただの同級生。誰もあなたたちのお兄さんを獲ろうなんてしてないんだよーと安心させるために、私は微笑むと小さく会釈をした。

 年下の子がいるというだけで、気持ちはぐっとお姉さん気分で余裕が出る感じがする。


「エリザベス・テレゼアです。よろしくお願いします」

「ああ、あなたがエリザベス様ですね。ずっと気になっていたので、お会いできて嬉しいです」

「ジャックってば先に自ら名乗らないと。紹介があった通り、彼がジャックで、僕はエドガーと申します。よろしくお願いします」

「そうだったー。ジャックです。よろしくお願いします」


 ふわふわきらきらと、双子は同時ににこっと笑みを浮かべる。愛くるしい顔で人懐っこい微笑を向けられて、本来の目的を忘れそうだ。

 はぁぁぁーと見惚れてしまう。私にとって、この二人が王子たちの中で一番強敵かもしれない。可愛くお願いされたら断れる気がしない。


 今日ここへ来ることは、少しばかり憂鬱であった。

 王族のレベルを間近で知れるのはなかなかない機会で貴重だとは思うのだけど、何せ自分の魔力も知りたいと思われている中で見せるのはやはり大事だと感じてしまう。

 できることなら、今日は大雨が降るとかして延期や中止にならないかなって、昨晩は窓にぎっしりてるてる坊主を吊るしたくらいだった。


 けれども、その効果もなく、今朝は目を開けたと同時に降り注ぐ太陽の光が入ってきて、しばらく布団に潜り込んでふて寝したものだ。

 だけど、そんなに経たずして起こしにきたペイズリーに最後は無理矢理起こされ、しぶしぶベッドを出ることになった。

 それでも、しばらくお腹が痛い、頭が痛いとごねて何とかならないかと試みたが、ことごとくペイズリーに嘘を見破られ阻止された。


 そして、不審そうにてるてる坊主を見たペイズリーに改めてそれらを見ると、重大なことに気づき私はその場で崩れ落ちた。

 雨を降らすよう願うならば逆さに吊らさなければならないのに、普通に吊したのでまったく逆効果だった。

 うっかり晴天を願っていたことに、がっくりと肩を落としたのは言うまでもない。


 昨晩から今朝にかけてそんな往生際の悪いことをしていた私であるが、彼らも混ざるというのなら気持ちを入れ替え、お姉さんちょっと頑張ってみようかなとやる気が出てくる。

 ふふふっ、と笑む私の姿は華麗ではあるが、実際は下心でいっぱいであった。


 私のほうが双子より四つ上。姉に与えられるばかりの愛情が溜まりに溜まって、たまには愛でる立場になってみたい。

 物語や可愛いものを堪能したいのだ。そして、できたら彼らに少しでもよく思われて慕ってほしい。なーんて、(よこしま)な気持ちをしっかり芽生えさせている。


 癒やし歓迎。天使大歓迎~。

 これは転生を繰り返す私のご褒美だ。王子というフラグは心配であるが、この天使たちで多少は精神的にも緩和されるよ。やっほーい。


 確か、ジャックの魔法属性は土で、エドガーが緑だったはずだ。彼らが揃うと、王族の水、火、風、土、緑が揃うことになる。

 王族の魔力量は桁違いで魔法を扱うのが上手いと聞いている。

 見事にメインの属性がここにそろったので、私の知る以外に活用方法や合わせ方があれば知りたい。

 そういえば、ユーグの属性何なのだろうか。なんであれ、とても器用に使いそうである。


 ここまできたら、吸収すべきことは吸収しようと、いざという時に何がどう役立つかなんてわからないので、前向きに行こうと私は決めた。

 うんうんと一人で考え納得して、天使の存在に癒されながら魔力合わせに取り組む。

 友人であるルイとサミュエルがそれとなくサポートを入れてくれ、シモンとユーグの魔法もしっかり見ることができ、結果、有意義な時間となった。


 やっぱり、この国のトップに君臨する人たちだけあって、威力も精度も学園の中ではずば抜けていた。

 王子たちの魔法仕様はすでに確率されており、掛け合いかたもいろいろで勉強になった。ユーグも幼い頃からシモンとともにいるということだったので、どれもこれも高レベルだ。


 ちなみに、ユーグの魔法属性は火であった。

 これはちょっと意外。彼が仕えるシモンと同じ水か風のような気がしていたのだけど、サミュエルと同じだった。


 転生を繰り返してきたけれど、王族の魔法を間近で見ることはなかったのでどれも新鮮なことであった。

 魔法のさらなる可能性に胸を打たれながら魔力の放出を繰り返し、さらに精度を上げることもでき満足である。

 双子たちのおかげで、私は意気揚々とこの場を楽しんだ。




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