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詰みたくないので奮闘します~ひっそりしたいのに周囲が放っておいてくれません~【第二部完結】   作者: 橋本彩里
第一部 第三章 騒動は唐突に降ってくる

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13.魔力証明


 吸い込んだ息を吐き出すように、私は声を出しながら両手を前に手のひらを上に向けた。


「よいせぇ~」


 先ほどよりもさらに静まり、やけに視線を感じるが気にしていられない。

 周囲の無言の驚きとは無縁とばかりに、私はものすごく集中していた。

 集中するときや、細かな操作が必要なときはどうしてもこういった掛け声が必要になる。我ながら締まらないが、そうすると魔法を使いやすいのだ。


「よいせ~っ」


 掛け声とともに現れた球体水を今度はぐるぐると指を回し、「よいせぇ」と掛け声をかけながら上へ、そしてドリアーヌのほうへと移動させた。


 ──よし、こんなものかな?


 そこそこインパクトが出るだろう大きさで止めると、集中力を切らさないように今度は指を回しながらドリアーヌを見た。


「私の魔力がこのクラスに相応(ふさわ)しくないということですが、どの辺まで見ていただいたら納得していただけるのでしょうか?」


 不正ではないことを証明するには魔法を見せるのがてっとり早い。

 けれども、自身の魔力は王立学園の入学基準を満たしていることはわかってはいても、この最高クラスのレベルの基準がわからない。

 とにかく、目の前の人物が納得したらということになるのかなと、ドリアーヌの頭の上で球体水を上げ下げしてみた。


「私自身がこのクラスに在籍することが妥当かどうかわかっていませんが、魔力検査は平等であった、あるべきものですよね。ですから、組み分けされたからには皆さまに恥じぬようにとは思っています」


 誰もが確認できるようにわかりやすく浮かせてみたそれは、ぷよぷよっと透明な液体が光を取り入れとても綺麗であった。

 だけど、一番に反応をしてほしい人が反応してくれない。


 ドリアーヌの頭上に球体水を作ったものの、私は困っていた。

 言葉をなくしたまま私と球体を交互に見ているだけで、誰も何も言ってくれない。


 ――これでいいの? これでは足りないの?


 少し心配になりながら、球体の形をあれこれ変えたり、チャッポン、チャッポンと水音させたりしながら、さて、どうしようかと首を捻る。


 主人公の回りにはイベントがつきものだというのはわかっている。

 ストーリーとしてはそうでなくては面白くないのだけど、自分とその周囲に降りかかるのはまた別だ。

 だから、なんとかしようと頑張ってみたが、実際はそう簡単に物事は運ばない。


 きらきら王子たちに頼らずに自分で解決すべきだと思ったのだけど、相手に思うような反応がないと迷走してしまう。何が正解かわからない。


 そもそもの話、自分が主人公ということも微妙である。

 志としては目立ちたくないはずだったのに、ここにきてちょっとやらかしているかもと、ようやく私はそのことに気づいた。


 めげる。

 一体、自分はどうしたいのかと、自分で自分を見失いそうだ。

 

 やけに周囲が静かすぎるのにも困りものだと、私はきゅっと眉根を寄せた。

 見てほしくてしているけれど、これでは見世物である。見るなら見るで、もう少し魔力レベルがどうなのか示唆してくれないといつまでもこの状態だ。

 冷静な判断をしてくれそうなシモンもユーグもじっと球体(それ)を見ているだけで、その表情からは何もわからない。


 ──ほんと、どっちなのよ~。


 どのようにここから切り返して穏便に持っていけるのか算段がつきにくいが、ドリアーヌには認めてもらわないとここまでやった意味がない。

 ターゲットは目の前。取り敢えず、彼女を攻略することに集中する。


「ドリアーヌ様。これでいいかがでしょうか?」

「…………」


 声をかけても、唖然としているドリアーヌ。これはもしかして低すぎて話になっていないのだろうかと不安になる。

 ルイには魔力がそこそこあるとお墨付きをもらっていたが、その判定は友人の優しさだったのかもしれない。

 証明しようと啖呵切っておいて、へにょへにょすぎて言葉も出ないとか格好悪すぎる。


「えっ、やっぱりまだ足りないですか?」

「……び、っくり、しました」

「えっ、それはびっくりするほど足りないということでしょうか?」

「足りな、…」


 そこで絶句したドリアーヌに、私は憂鬱になる。


 ――ええー。乙女ゲームの魔法レベルってどれくらい必要なのだろう。


 半ば引きこもりには判断がつかない。

 知っているのはレベルが高い家族にルイ、公爵家の使用人たちなので、そこを基準にするのはよろしくないだろう。


 魔王を倒すとか、魔物がうじゃうじゃ出る世界ではないから、特別な人以外はちょっと扱えるくらいだ。

 その特別な一部の人はやたらと特化しているけれど、一般的な平民はがばがばと魔法は使えないので、畑に地道にジョーロで水だってやる。この世界の魔法は自分の属性にあったものを補助的に使うことが一般的だ。


 そして、ここは魔力のある者が集まる学園。

 それぞれが得意の魔力を扱い、個人差はあるが世界基準でいうと桁が違う。

 三学年まで進むとぐんとその魔法レベルも上がるが、まだ自分たちは入学したて。


 転生を繰り返し、王立学園の入学基準と並クラスのレベルはわかっているつもりだったので、それよりももう少し上だと思っていたが、最高クラスは別格だということなのか。

 さすが王子たちがいるクラスだと、素直に感心さえする。


「……本当にこのクラスのレベルは高いんですね。困りました。現在の授業の進行では、この段階だと予測していたのですが」


 今回は今まで出会わなかった王子たちと顔を合わせることになったり、魔道具だって発展していたりと今までとは異なる進み方をしている。

 なので、ここもレベルがかなり上がっている可能性があると、私はしんなりと眉を寄せた。




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