20 66%attack
一方グラナアーデではのやつ。
花奈不在のため三人称視点ぽいです。(ふんわり)
夜明けをむかえ、日も高くのぼったころに、九十八番目の紅玉鉱脈と百番目の蒼玉鉱脈は湖城シュツルクをおとずれた。
その朝は、花はしおれ、雲は重くたれこめていた。
鳥はそら寝を続けて目覚めず、そのくせ、こうもりすらもが眠らず息を殺し、静寂とぶきみな気配がうずまくばかり。
クラージュはその中心、風もないのに吹く風、日射しもないのに射す日射しに取り巻かれ、ずしりと重たく立っていた。
紅玉鉱脈は答えを求めるでもなく、ただあいさつ代わりに言う。
「なんかまた空気が重たくなってない?」
「そうでしょうか?」
クラージュはそっけない。
二人にとって、妹であるところの軽銀鉱脈をあいだに挟まずにこの男と相対するのは、この機会が初めてだった。
裏で女きょうだいがそのように交渉していたことを初めて知らされた男きょうだいふたりは顔を見合わせて、苦笑いだけした。
花奈らしい。笑いでもしないと、反対に泣けてきそうだった。
――より、正確を期するとするならば……苦笑いすると決めたのは紅玉鉱脈、すなわち三つ子の真ん中、葉介で、蒼玉鉱脈にして三つ子の長男、幹也はそれにならったにすぎない。
幹也は自分が神経質なたちで、自分の感情に従えばたいてい答えは拒否になることを……そしてそのデメリットを、自分でも承知しているし、考えるのは得意でも、それを元にして何かを判断したり、考えたことを表に出すのは不得手だ。
決断が必要になるタイミングというのは幹也の日常にそう多くはなかったけれど、だいたい、その場に花奈がいれば花奈のほうが自分の顔をさりげなく確認して、こうするとかああするとか決める。
いなければ幹也のほうが他人の顔をうかがって、そのまねをする。特に、葉介は花奈と違って他人に気を遣うタイプではないから、幹也のほうで合わせる。
そうしてもいいと思える信頼できる他者がいないなら、従わない。花奈の判断が気に入らないときは判断を保留して、問題を棚上げする。
幹也はいつも頭の中にフローチャートを作って、それに従って行動する。
朝は起きて、昼に学校に行って、夜は眠る。
そのほうが楽だからだ。最初からそうすると決めておけば、あとは自分勝手な思索に好きなだけ耽っていられる。
だがさっき笑ったのは正しかったかどうか、自信がない。なぜ笑ったのかもわからないし。
幹也がフリーズ寸前なのを、葉介は兄の顔色を見てというより経験則から察していて、自らを外交担当代理、と決めたようだった。
クラージュの静かな問いに、静かに答える。
「花奈さんは?」
「鎮静剤で寝てる。そのあとお風呂に入れてもらえる予定」
クラージュはかすかにうなずいた。
逡巡というか、不服従の兆候を見せたが、ナルドリンガ、シダンワンダは二人が訪うなり追い出された。だから、この室内に残ったのは兄弟二人と、ジュノ、クラージュの四人だけ。
クラージュはしぐさで椅子をすすめ、三つ子のうちのふたりだけはそうした。
「ぼくたちの口からは事情の説明ができないことを詫びます。申し訳ない。
花奈さんが事情を話してくれていると信じます。それから、花奈さんの体のことを、心から……」
「それは本人に言えよ」
葉介がさえぎった。クラージュはかぶりをふる。
「ぼくはもう花奈さんには会えません。すべて、ぼくの責任ですから」
今度は葉介がかぶりを振った。
「花奈からはほとんど何も聞いてないよ。鉱脈の秘密がどうだとか、世界がどうだとか、大いなる存在がどうとか、そういうどうでもいい話ばっかり。
こっちに来たからにはいろいろ聞かせてもらわないと帰れないね。
……あんたの責任とかそういうのはいいから。理由がわからないと対策もできないし。
泣いてる花奈をここから追い出してまであんたが何をしてくれるつもりなのかも知りたいし。あっちですべきことと、すべきでないことも知りたいし」
クラージュはほんのわずか、黙った。それから言った。
「そうでしたね。あなたはそういう人でした」
「……どういう人だって?」
「花奈さんが見ているあなたは、いつもそういう風でした。花奈さんが好きなあなたは」
「…………」
絶句したのは、今度は葉介のほうだった。妹がここにいないこと、おかれた窮状、最近、花奈とあまり話していなかったこととがなにもかも悔いだった。
疲れ果てたような表情のまま、しばらく考え込むようなそぶりを見せて、クラージュは話し出す。
「……ぼくはむかし、『あれ』からいわばしおりとなるものを挟まれ、軽銀鉱脈の従者のかわりに、軽銀鉱脈にかかわる手ごまとしての役割を与えられました。
が、しょせんは人間ですので、『あれ』とのつながりが、普段使う鉱の姫の従者よりも希薄であり、満足いくものではなかったために、軽銀鉱脈自身にもしおりに相当するものを挟んだのだと思われます。
『あれ』に心を支配されているのがぼく、体を支配されつつあるのが花奈さん、といったところでしょうか。
……ここまではいいでしょうか。『あれ』については聞いている?」
少し平静らしきものを取り戻して、葉介は言う。
なにかあったときに動揺しすぎないこと、冷静であることを、葉介は己に課している。過ぎたことは仕方がない。これが取返しがつかないことかどうかはまだわからない。
「なんだっけ……名前呼んじゃいけないんだよな。……編集済でいい?」
伏字に相当することばだ。
「なんでもいいですよ。一つの名前で呼びつづけることはやめてください」
葉介はちらとだけ考えるそぶりを見せた。
「名前を呼ばないだけでいいの? 頭の中を覗かれてるなら……」
「なるほど」
クラージュは笑ったような声で相槌をうつ。
「……確かに花奈さんと会ってから、そのことについて、口に出す時間も、考える時間も増えましたね。
いいえ、むしろ名前をわざと呼んで、滅びを手の中でもてあそぶこともした。時間稼ぎをしていたつもりでしたけど、むしろ加速させていたのかな、ぼくは」
「いや……」
過ぎたことは仕方がない、と葉介は本気で思っているが、クラージュは……クラージュは傷ついているようだった。人の心を慮るとかの必要を、花奈ほどには今まで感じていなかった葉介にも、とうとうそれが分かった。
「地球だとシロクマの実験っていうのがあって……考えちゃいけないって思えば思うほど考えちゃうっていうのがあって……責めるつもりで言ったんじゃなくて、俺たちに話してよかったのかって」
「箱庭は滅びに向かっています。花奈さんひとりに重荷を負わせたくない」
だから一緒に死ね、と言われた気がして、葉介はもはや、自分の手には負えないことを悟った。
だから別の話にうつる。どだい、事ここに至ったこの状況下で、考えないようにすることなど不可能なのだし。
「……その、匿名希望がどうとか箱庭がどうとかは言っていた。花奈がここから追い出されたのは、こっちのほうがそのあああああの影響が強いとかそういうこと?」
「……」
クラージュも少しだけ考える時間をとった。
「今まではそういう解釈をしていました。
鉱脈が出たり入ったりしても、元の世界には直接的な干渉がなかったこと、鉱脈がグラナアーデから離れている間、小函から石が出ていなかったことなどが根拠ですね。
――ですが今の花奈さんは、地球にいても身体に介入を受けたままですから。これは、今までに例がなかったことです。ここにいるよりはマシだという判断で、地球に帰っていただいていますが、何が正しいのかはわかりません。
――こちらこそお願いしたいのは、花奈さんが助かるのではと思う方法は、いろいろと試してみてほしいということ。
こちらでは『あれ』の興味をひきかねないと判断されたものに関し、徹底した焚書、言論統制が行われ、いわゆる魔法、神秘の領域の知識はうしなわれています。
こちらの技術で花奈さんの体をもとにもどすことはできませんが、逆に言えばそちらの、陰陽術だとかウィッチクラフトだとかの方法はまだ試してみていないということ。
こちらも、空を飛ぶ猫だとかが存在する世界を故郷にする鉱脈のつてがありますから、それをあたってみます。長い時間はとれませんが」
「時間がとれない?」
クラージュはまた、ため息のような深呼吸のような長い息をついて話し出す。
「――今日はおふたりにも、お別れを言わねばならないんです。
グラナアーデはご覧の通り、ぼくの動揺を最後の一滴として、ある極点を超えました。
大いなる意思にひねりつぶされようとしている。花奈さんのことを抜きにしても、もう鉱の姫とか従者とかを使って『これ』をもてなし、穏便にすませることができる段階は過ぎ去りました。
……あなたがた鉱脈は、『これ』が読み解ける唯一の物語。
これからぼくたちは、あなたがた鉱脈たちを全員元の世界に返したうえで、ジュノにはここを離れてもらい、ぼくと鉱脈の従者を隔離します。
鉱脈を含めたさらなる焚書、世界のねむりによって、世界をすくうのです」
沈黙のうちに、鉱脈たちからの不同意の表情を見てとって、クラージュはほほえんだ。
「……できるわけがないと思いますか? 自動人形は沈黙を保ちます。
こちらの科学は地球から数百年はすすんでいますが、人口は千分の一にも満たない。『あれ』に何度も滅ぼされかけており、封じる口も少ないという意味です」
「………………」
息苦しいほどの気配はかわらずうずまき、終末を示唆する。
室内はしんとして、耳鳴りがするほどだった。
クラージュはこれを、ただ、息をひそめてやりすごすという。あまたの別れ、あまたの犠牲をはらうことによって。
「……それは……危険なんじゃないの?」
沈黙を割ったのは黙りこくっていた幹也だった。
「……鉱脈が来なくなったってことに気づいたら……シダンワンダとかナルドリンガとか、マジでヤバいんじゃないの……?」
仮面のようなほほえみをはりつけて、クラージュは言う。
「大丈夫。話してわかってもらいます」
「大丈夫じゃないでしょ。……なんなら殺されるかもしれない……」
「じゅうぶん気をつけますよ。大丈夫。ぼくなりにコツは得ています。花奈さんよりもずっとうまくやれます」
幹也の黒い目が、じっとクラージュを見つめた。金茶の瞳は濃い色のままゆらめかず、幹也の目を見つめ返す。
「……『むかし、『あれ』からいわばしおりとなるものを挟まれ、軽銀鉱脈の従者のかわりに、軽銀鉱脈にかかわる手ごまとしての役割を与えられました』……だっけ」
「…………」
ほほえみは変わらない。
幹也は、何かを考えるのは得意とするが、判断するなどは不得手だ。だから、言っていいのか悪いのか判断自体を見送って、ただ、思ったことをいう。言いすぎだとか違うとか言われたらすぐにも撤回するつもりで。
「クラージュは昔、本物の従者を殺した?」
「は……」
葉介から、声にならない声がもれた。
当のクラージュの表情は変わらなかったが、それはむしろ、驚きのあまりに変えそこなったようにも見える。
制止の声がかからなかったので、ただそれだけの理由で幹也は続けた。
「次も殺そうと思ってるんじゃないの? ナルドリンガもシダンワンダもそのほかも全部……皆殺しに……?」
「……は……?」
葉介のかすれた声が静寂を割る。
「……驚いた。どうしてそう思ったんです?」
クラージュの白皙に表情が戻った。認めたも同然の、自嘲するような、口元だけの笑みが深まっていく。
「ただの勘」
幹也なりに推理はしているが、過程のアウトプットが面倒なのでそういうときは勘で押し通すことにしている。
「手厳しいな」
「おい……どういうことだよ?」
やっと声を荒らげる余裕が出てきた葉介が、押し殺した声で叫ぶ。
クラージュはアウトプットが面倒なので……というわけにはいかない。
「……従者たちを制御できるのは鉱脈たちのみ。鉱脈たちの訪れが絶えれば、早晩間違いなく暴走します。鉱脈が行き来するのに使っていたジュノの術はジュノのみが使えますが、鉱脈がグラナアーデ以外の世界にとどまっていられるのは、いわばジュノがグラナアーデではない世界に力づくで押さえつけ続けているようなもの。
2点を踏まえてみて、どうでしょう。従者たちが、死に物狂いでジュノの命を狙わない理由がないとは思いませんか?
従者たちをそのままにしておけば、帰る土地のない鉱脈たちがグラナアーデに満ち足りて、また悲劇はくりかえし、焚書は達成されない」
室内の全員がジュノに視線を向ける。それまで黙りこくり、調度品の一部になっていたような真黒き番人は、やはり黙りこくっていた。
葉介には、この場にいる誰ひとりとして冷静な者はいないように思われた。
むろんのこと、自分自身をふくめて。
「それは……許されないだろ……倫理的に……」
「わかっています」
クラージュの声は静かだったが、それゆえかえって狂気は深いようだった。彼ら彼女らを人間とは認めていないとか、人類の敵だとか、そういう理解をめぐって議論する必要すら、クラージュは感じていない。
にべなくはねつけられて、葉介は数秒絶句したが、くらいつかないわけにはいかない。
「やめろ……お願いだから。ナルドリンガには言って聞かせるから。
あいつは言えばわかるやつだから!! 他の奴らもきっとそうだから!!」
「……ジュノ」
血を吐くような叫びがあったが、クラージュのしずかな呼びかけに、ジュノが動く。その手の一閃で、肌上の墨がうねりだし、葉介をからめとり、消し去った。
時空のかなたへ。平和な地球へ。
「…………」
「まあ……そうなるよね……」
デスゲーム主催者に盾突くリア充みたいな消え方をしたな、と幹也は思った。
呑気すぎるかな、と自分でも思う。ただもう、あまりに現実感がうすすぎて、事態から取り残されているような気すらする。今じぶんは、世界の破滅を目前にしているのだ。
残された幹也へ、クラージュは言う。
「……これからしばらく、幹也さんに窓口になっていただいてもかまいませんか? 花奈さんのお薬の作り方を書面にしてはあるのですが、その素材の生成方法を書いていなかったのを思い出して。地球で独自に作るにはまだ時間がかかるでしょうから。
すべてダウンロードしておく時間はちょっとなさそうなので、技術開発上必要になる関連書籍も見つくろっていただく必要があります。
紙の書籍は、体重の半分くらいまでの重さなら一度で運べますが、それより多くなりそうなら何度か往復しましょう。その間に素材サンプルや構造模型を用意しておきます」
クラージュはもともと、どちらか片方を残しておくつもりだったようだ。
見越して盾突いておいて、自分が消えてたほうがまだマシだったかもしれない、と幹也は内心思う。専門書籍を見つくろうとかは確かに自分のほうが適任だろうが……。
幹也はまた朝の明るい室内の、たった一つの暗がりのようになって壁際に立っているジュノを振り返る。ジュノはただ、少しあごを引いてうつむいたふうにしていて、また黒々と入った顔半分の刺青のせいで、表情は読み取れない。
しかたがないので、幹也は聞いた。
「クラージュ、死ぬつもりだよね……?」
クラージュは軽くうなずいた。
「そうですね。返り討ちにあうかもしれません」
「そういうんじゃなくて……。
心を支配されてるとか言ってたのクラージュ本人じゃん。生きたコンテンツであることはクラージュも変わりなくて、生きてる限り焚書は徹底されないでしょ」
「なるほど? そういう見方もあるんですね」
「自分が死ぬことを前提にした作戦は根本的に負けだし、現場責任者もいなくなって、なんていうか、困る……。
……あと知ってる人が死ぬとか、こわいからやめてほしいんだけど……」
それは、あれだけ疎んじていたシダンワンダのことも同じだ。嫌いなやつでも殺されると思うとなんかこわい。
「怖いですか。幹也さんは正直ですね」
クラージュは笑い声をあげた。間をとるためだけの笑い声だ。
「それら死を、幹也さんは目撃することはありません。もう二度と会わないだけ。
天秤にかけてみてください。あなたにとってどうでもいい、いわば有象無象のいのちと、花奈さんのいのちを」
詭弁を弄する人間が幹也はきらいだった。時間の無駄だからだ。
「『花奈さんのことを抜きにしても世界を眠らせる』って、クラージュが言ったんだよね、さっき。全然花奈のこと抜きにしてないよね?
花奈のために死のうと思ってる男がいるのって、それも怖いし……責任とれないんだけど……」
ちょっと愉快そうな笑い声をクラージュはあげた。目はひとつも笑っていなかったが。
「幹也さんは本当に正直ですね。幹也さんに責任をとれなんて言いませんよ」
「仮に花奈が責任とることになったら実質一緒じゃん……」
「それも、花奈さんも前に似たようなことを言ってたな」
「はぐらかさないでくれない? 時間の無駄だから」
「じゃあ、たまには正直になりますけど」
クラージュの目に何らかの感情がよぎった。
花奈ならあるいは読み取ったかもしれないが、幹也に、そのような情緒を読み取れるほどの眼はない。ただなにかが通り過ぎて、おそらく二度と帰らないのを感じた。
「いいんです。花奈さんと出会ったときから、なんらかの形で破滅するだろうと思ってましたから、ぼくはいいんです」
「はあ?」
幹也は半分笑ったような、裏返った声で聞き返す。
頭が変になっているんだろうか。
「冗談みたいに聞こえますか? ほんとうなんですけど。
ぼくは『これ』にしおりをはさまれて以来、ただの人間ではなくなっています。
『これ』が、ぼくのためのつがいに見立てた誰かが現れた時点で、彼我の区別もつかないような、おそろしい目にあうとは予想していました。
考えていたのとはまったく違った、ずっとおそろしいことになってしまったのは、花奈さんのせいですが」
「花奈のことを好きになってしまった?」
それならそれで、そっちのほうがまだマシかもしれない。
しかし彼からのいらえはすぐにあった。
「花奈さんはまだ子どもです。恋の相手には物足らないな」
まるで準備してあった言葉のようだった。
――ちょうどそのとき、折悪しく、というか、良く、というか、ふと、扉をノックする音がした。
強くも弱くもないのに広さのある部屋にも不思議と響く音だった。
「誰……?」
今までになかったことだ。幹也はここにいるあいだ、自分たち以外の人間と会ったことはない。
運命はこのように扉をたたく、という言葉を、幹也はふと思い出していた。
「――まいったな。おしゃべりが過ぎたようです。花奈さんの薬の関連データは今、幹也さんの翻訳装置にダウンロードしておきましたから。紙の本がなくても、たぶんなんとかなるでしょう。
……また、呼べるようになったら呼びます。この世界が無事に、未来と呼べるものを迎えられるなら」
クラージュは手短に別れの言葉を言って、ジュノへ合図を送る。
自分のことも日本へ送り返すつもりだと、幹也には分かった。
幹也はすばやく、首にかかっていたメダルを……翻訳装置として渡されていたデバイスを、部屋の隅へ放り投げた。
「おれはまだ帰らないけど?」
クラージュはわずかに目をむいて、驚きの表情をつくる。
この判断が正しいかどうか、幹也には判断がつかない。
ノックは再度、響いている。




