第23話 肩ぶつかりおじさん
諫早さくらは釘バットを持って駅前に立っていた。
持っているというか構えていた。
「肩ぶつかりおじさんが出た……」
肩ぶつかりおじさんとは、人混みの中に大人しそうな女性を見つけると、すれ違い様に肩をぶつけていくという、その名の通りヒネた小物臭がする小悪党である。
いや、こんなのを小悪党にするのは、小悪党に申し訳ない。
小悪党というのは、いちおうは悪いことをしている自覚があるものである。
でもこいつは「偶然だと言い張ればギリギリ通るかな」という限界線を狙う。
いったい何を考えて、自分の不機嫌を他者になすりつけるようなまねをするのか一般的な人類には理解のしようもない。
たぶん、狂っているのだろう。
「殺せばいいのね」
さくらはフルスイングしてみせた。
釘バットというのは、木製の野球用に無数の釘を差し込んだ殺傷力の高い手製武器である。
「殺せない。一応、怪異だから」
「これは認知を書き換える魔法の道具よ」
「そうは見えない。はっきり言って、見た目が危ない。また前回の二の舞になると思う……」
それでも、さくらの決意は固かった。
諫早さくらはやつか町の魔女として、決然として肩ぶつかりおじさんの前に立ちはだかり、それを殴打した。
殴打し、殴打して、さらに殴打した。
結果として諫早さくらは警察に捕まり、パトカーで連行されて行った。
宿毛湊は怪異退治組合代表として説明責任を果たしたのだが、全日本魔術連盟はさくらを一週間の矯正施設送りにすることを決めた。
この件の顛末に関してはそれ以上でも、それ以下でもない。
おしまい。




