第34話 初めての実戦 その2
一回目の襲撃から五日後、再び野盗団が賈郷を襲ってきた。
投石に対してただ無策で突っ込んで一蹴された前回とは違い、今回はそれなりに準備をしてきたのが遠目にもわかる。
「あいつら盾を!」
波才が息をのんだ。投石対策であることは間違いない。盾を用意してきた以上、一方向からのみ飛んでくる投石は無効化されたとみていいだろう。しかも今回は日が落ちる前に仕掛けて来ている。
「前回は暗闇から飛んでくる石になす術がなかったから、少しは頭を使ったんだろうな。まあ、準備してるのはお互いさまだよ」
「紫雲、物見櫓に登って敵襲を報せる紅い旗を掲げてくれ。木鐸も鳴らすんだ」
紅い旗や木鐸は、前回波才が走って皆に報せに行かなければならなかったことから新しく考案した伝達方式である。夜間ならば紅い旗の代わりに松明を使うことになっている。
さらに襲撃を受けやすい賈郷の南側の近くには賈子隊の半分を待機させており、前回より速やかに迎撃態勢がとれるようになってもいる。
ちなみに今回は賈子隊11番隊から20番隊が待機しているのであるが、彼らは前回の襲撃時には戦闘に参加しておらず事実上の初陣だ。集まってきた賈子隊の面々はかなり不安げな表情を見せている。
淳于瓊は戦闘の前に皆を鼓舞する必要があると判断した。
「大丈夫だ。柵を乗り越えようとすればその時は盾を外さなきゃならない。恐れず冷静に狙いをつければ必ず倒せるぞ!」
内心はともかく自信たっぷりに言い切る淳于瓊の言葉に、浮き足立っていた賈子たちも落ち着き始める。それを見計らって淳于瓊は指示を出した。
「やつらが20丈(約60m)まで近づいたら三段撃ちによる投石を始める。おそらく盾に防がれるだろうが気にしなくていい。俺たちの目的は牽制による時間稼ぎだ。自警団が駆けつけるまで持ちこたえれば俺たちの勝ちなんだからな!」
噫!
淳于瓊の言葉に多少は気が楽になったのか、賈子隊も掛け声で応えてくれた。それに頷いた淳于瓊は戦闘準備の指示を出した。
「賈子隊、投石準備!」
野盗団はかなり警戒をしているのだろう。そろりそろりと盾を掲げながら慎重に接近してくる。
”そこまで警戒するなら、賈郷を攻めなければいいのに。奴らの背後に誰かいるんだろうけどさ”
裏で野盗団をけしかけている黒幕の存在が気になるが、とにかく今は目の前の野盗団を倒すことが急務だ。賈郷に接近してくる集団の正体がわかっている今回は警告は無しでいく。およそ20丈(約60m)の距離まで近づいた段階で淳于瓊は投石の指示を出した。
「第11番隊から13番隊、放て!」
ヒュン、ヒュンヒュン・・・・・コン、カン、コン
予想通り投石は盾に防がれる。
「防がれても気にするな!牽制できればいい!第11番隊から13番隊、次の投擲準備! 第14番隊から16番隊、放て!」
2発目もやはり投石が全て防がれてしまうが、淳于瓊は手を緩めない。
「第14番隊から16番隊、次の投擲準備! 第16番隊から20番隊、放て!」
「第17番隊から20番隊、次の投擲準備! 第11番隊から13番隊、放て!」
「第11番隊から13番隊、次の投擲準備! 第14番隊から16番隊、放て!」
賈子隊は三段撃ちによる投石を続けるがやはり通用しない。
投石がことごとく防がれたうえに徐々に接近され、賈子隊に焦りの表情が見え始めるなか、野盗団の頭目の大声が響いた。
「なんだガキばっかじゃねえか!てめえ等、柵をよじ登れ!とっとと内側に入ってガキどもをぶちのめしちまうんだ!」
頭目の声に押し出されるようにして何人かが柵を乗り越えようと登りだす。しかしその判断は裏目に出る。ここまで成果を出せていなかった賈子隊に狙い目を提供したからである。
「第17番隊から19番隊、柵を登っている賊を狙って放て!波才と20番隊は右にまわり込んで中に侵入した賊を狙え!」
柵をよじ登ろうとした2人の賊に放たれた石が命中し戦闘不能に追い込んだ。
さらに柵の隙間から這い入ろうとした賊にも波才たちの投石が襲いかかり打ち倒す。
「く、くそっ。おい、登るのは止めだ!先に柵を壊すぞ!」
野盗団の頭目が慌てて方針を変更する。
数をたよりに柵を押し倒してしまおうと盾を掲げたままぶつかってくる。柵は補強の際にできるだけ地中深くまで打ち込んであるがそれでも限界はある。野盗団の繰り出す突撃に柵が徐々に傾き始めた。
「奇妙さま、柵がもうもちません!」
波才の悲鳴が上がる。賈郷の大人たちもポツポツと集まってきているが野盗団の前には多勢に無勢。現時点でなだれ込まれてしまえば蹂躙は免れ得ないだろう。
”くっ、時間切れか。柵を倒されたらいちど散開するか?賈子隊に犠牲者を出したくねえ”
淳于瓊の頭の中を弱気な考えがよぎる。逆に野盗団の勢いは増してきている。
「ようし、てめえら!柵を倒したらあのクソガキどもひとり残らずぶち殺すぞ!・・・おぉっ?」
野盗団の頭目が檄を飛ばしたその時、野盗団の背後より飛来した石が賊のひとりに命中した。
ヒュン、ヒュンヒュン、ヒュン・・・
つぎつぎと野盗団の後背から石が飛んできて、後ろへの備えなど考えてもなかった賊たちを次々と打ち倒す。
当然のことではあるが盾による防御は一方向からの攻撃に対してしか有効ではない。これで後ろに備えれば、今度は柵の内側の賈子隊の狙い撃ちにされるだけだ。
「なんだ、なにがおこってやがる!?」
前後から次々と襲い掛かる投石に、野盗団は完全にパニックを起こしてしまった。
淳于瓊の作戦がついに成功したのである。
前回の戦いの後、淳于瓊は次の襲撃がある場合ふたつのルートがあると想定していた。
ひとつは盾などによって投石対策をしたうえで南側から再び攻める方法で、もうひとつは身を隠し易い西の丘から賈郷に近づいて一気に攻め入る方法である。
それに対して淳于瓊はあらかじめ西の丘に主力を待機させておいたのである。
前者ならば敵の後背に周り込んで野盗団を挟撃できるし、後者ならば地の利を活かしてゲリラ戦を仕掛ける作戦であった。
そしていま、見事に作戦がはまり、自警団の主力と賈子隊1番隊から10番隊が野盗団の後背への周り込んで野盗団の背後から投石を始めたのである。
もし野盗団が訓練された部隊であれば2人一組になって前後それぞれの防御を分担してしのぐことも出来たろう。しかし所詮は賊に過ぎない彼らにはそんな連携ができるはずも無い。
次々と前後から繰り出される投石に、ひとりまたひとりと打ち倒されていく。
結局30余人が打ち倒された時点でついに野盗団は全面降伏した。
降伏したものおよそ50人。挟撃から逃げおおせたものはわずかに十数名でしかない。
実に敵の戦力の8割以上を倒すか捕縛したことになる。なかなかお目にかかれないレベルの大勝利だ。
「波才、みんなも良く頑張ったな!」
前回を上回るあまりの勝ちっぷりに放心状態であったみなが、淳于瓊の言葉に我にかえりそこかしこで歓声があがる。
”これで当面は安心できるか。あとは趙さんが上手くやってくれていれば・・・”
喜びを爆発させる賈子たちをよそに、淳于瓊はそんなことを考えながら南の方角へ目を向けるのであった。




