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魔法菓子職人ティハのアイシングクッキー屋さん【BL】  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』


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魔力の出所


「まったく……なにがどうしたのやら!」

 

 エイリーが叫びながら[ウォータルシャワー]で周辺の火を消して回る。

 王国騎士団の魔法騎士たちが火属性魔法で木の上に潜むスライムごと森を燃やす。

 その後ろから、数十人の王国魔法師が集団魔法で超火力の大型魔法を連発し、さらに広範囲を燃やし尽くした。

 冒険者やナフィラ魔法師団がエイリーに続いて水魔法で火を消すが、延焼で森はどんどん焼けていく。

 

「エイリー、このままでは森全体が焼けてしまうのではないか!?」

「それはない。その前にエリアボスが怒り狂って出てくるだろう」

「っ」

「それに、ここはダンジョンだ。木々にも魔力が宿っていて、自己再生する。その速度は普通の森とは違う。延焼も他のエリアボスがなんとかするだろう。というか、あまり燃え広がれば逆に“奥地”の火竜が出てくる!」

 

 ナフィラの者なら誰しも顔を青くする。

 ダンジョンは毎年、魔物が溢れかえるスタンピードを起こしてナフィラに多大な被害をもたらす。

 その中で、数十年前に一度エリア探索がほとんど進まないことがあった。

 その時に“奥地”から五十メートル級の火竜が現れ、エリアボスを数体引き連れてナフィラの町は一度壊滅し、周辺の村や町も襲われたことがある。

 エイリーが生まれる数年前で、現在のナフィラ領主が王都の貴族学園に通っている頃。

 現在では『火竜の災厄』と呼ばれる大規模スタンピードによりエイリーの祖父母は亡くなり、学生だったエイリーの父は若くして領主を継いだ。

 ナフィラ一族にとって、もはや火竜は借りを返すべき相手。

 ダンジョンの開拓も、国の守りという役割だけでなく何十年、何百年経とうとも必ずその仇を討つという意志のもと行われている。

 

「しかし、いくらなんでもあの火力を維持する魔力量がおかしい。いったいやつら、どこからあの魔力を……?」

「そういえばそうだな……。あれほどの魔力があったのなら、最初から使えばよかったのに」

 

 振り返って睨むように彼らの休みない火魔法を眺める。

 消火を終わらせた兵士の一人が「エイリー様! 不審な従魔が近づいてきています!」と駆け寄ってきた。

 

「不審な従魔? なんだ、それは」

「それが、かなり弱っていて……こちらです」

 

 ホリーとアイコンタクトをして頷き合い、エイリーはその場をホリーに任せて兵についていく。

 周囲を警戒しているホリーをすぐにエイリーが呼びにきた。

 

「ホリー! リンゴだ!」

「リンゴ? リンゴが焼きリンゴになっていたのか?」

「違う! ティハの従魔のリンゴが来たんだ!」

「は!?」

 

 兵士とともに戻ってきたエイリーの手には焦げ目の残る弱ったリンゴの姿。

 ティハとスコーンは、と聞きたいが弱々しく「ウキィ……」という鳴き声。

 この子一匹で、最前線であるこのエリアまできたというのだろうか?

 いや、ありえない。

 

「従魔が単独で動くのは主人が許した時や借用契約を結んだ時のみ。この衰弱具合は命令違反による逃走……」

「この子が? ありえないだろう」

「ああ、だからなにか……とにかく例のクッキーを食べさせて回復させよう。ホリー君はこの子と家に帰れ。嫌な予感がする」

「……わかった。すまない」

 

 体力回復効果付与のアイシングクッキーを食べさせて、少し回復したところを確認しホリーはリンゴを抱えてエイリーの転移魔法で帰宅する。

 玄関を開けて入ろうとした時、鍵が開いていることに気がついて背筋がいよいよ冷えてきた。

 エイリーが気にしていた“王国騎士団の魔力の出所”と、従魔の異様な行動、開いている玄関。

 扉を勢いよく開けると、凄まじい殺気が溢れていて思わず一歩、後ずさってしまった。

 殺気の出所はソファーの横に座るスコーン。

 怒りのあまり昼間だというのに“夜の姿”になっている。

 

「スコーン! なにがあった!? ティハは!?」

「……ゥウゥゥゥゥ」

 

 ホリーの帰宅にスコーンが顔を上げる。

 この瞬間、ティハが二匹に言いつけていた『ホリーの留守中の家を守る』命令が解かれた。

 家主が帰還したのだ、もうこの家は“ホリーが留守の家”ではない。

 

「アオオオオォン!!」

「スコーン!」

 

 大きく雄叫びを上げたスコーンが家を飛び出し、ホリーを一度振り返る。

 スコーンの姿はただのアサシンローウルフから、スノーダストローウルフに進化した。

 白銀の毛並みは雪原のようであり、闇夜の暗殺に向かない。

 もはや闇に潜む必要がない強さを誇る色。

 体も二回り以上大きくなって、ホリーを見る目は「乗れ」と言っているように見えた。

 同じく命令違反から回復したリンゴもホリーの肩に乗って「ウキウキ!」と拳を掲げる。

 コクリ、と頷いてスコーンの背に乗らせてもらった。

 ホリーが乗ったのを確認して、駆け出すスコーン。

 狼型の魔物が従魔になった場合、忠誠心が強すぎて主人の命令には絶対に逆らえない。

 反対に猿型は忠誠心がちゃらんぽらんで逆らいやすい。

 この特性を使って、リンゴがホリーにティハの危機を伝えにきたのだと推測できる。

 

「スコーン、エイリーのところへ寄ってくれ。王国騎士団の魔力の出所は……ティハなのだな!?」

「ガウウウウ!」

「っ……!」

 

 嫌な予感が的中した。

 エイリーがティハの魔力量と、眠らずとも魔力を回復できることを知った時から案じていたこと。

 だが、どうやって利用している?

 ティハは魔門眼(アイゲート)が機能していない。

 エイリーですら、その潤沢な魔力をどう排出させるべきなのか頭を悩ませていた。

 その疑問は残るが、王国騎士団がティハを丁寧に扱うとは思えない。

 

「ティハ……無事でいてくれ……」



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