迫る脅威 その1
無限に広がる大宇宙。
産まれる星もあれば、死に逝く星もある・・・
地球はどちらなのでしょう?
貨客船として横須賀港に接岸を果した<アイン>号。
積み荷を降ろす許可を港湾局に申請し、早々と認可が出たのです。
カイツール社の積み荷。
それは?
「ダレット社長直々にお越しだったとは、支社あげてお迎えすべきでしたかな?」
港湾局員と同席した日本支社長が、慇懃に挨拶を贈るのでしたが。
「お前達に任せておけるほどの時間も余裕も無くなった。
唯・・・それだけの事よ」
ソファーに腰かけ、支社長に顔も向けずにダレットが答えるのです。
「時間と余裕ですか?」
訝る支社長が、傍らの港湾局員と顔を見合わせます。
「お前達に任せておくと、浪費してしまうだけだって言ったの」
「はぁ、申し訳ございません」
何を浪費しているのかは、ダレットの顔が表しています。
「我々ドアクダーは、目的を果たす為ならば犠牲を厭わないって。
部下の命を以ってでも、目的の完遂を目指す。
・・・そうではなくて?」
「如何にも」
支社長が顔を歪めて是認しました。
「ならば、お前は何故此処に来れた?
何故私が赴かざるを得なくしたのだ」
「そ、そうですが。
もう少し時間を頂ければ、必ず・・・」
必ず・・・成功できると?
支社長を手で制したダレットも、同じ考えのようです。
「言ったでしょ?浪費だって」
手でこれ以上の会話を辞めると制し、支社長を下がらせるダレットが。
「港湾局には安全な商品だったと提出しておくように、良いわね?」
港湾局に入り込んでいる配下の者へ命じたのです。
「はい。でもまさか、空震波爆弾だったとは思いもしませんでしたよ」
港湾局員に成りすましているドアクダー要員が苦笑いを浮かべる。
「しかも、この1発で日本の半分は壊滅状態になりますな」
「半重力子爆弾などとは桁が違う威力だと聞いているの」
答えるダレットは、手元のモニターに映されている港湾局員に成りすました要員のファイルにバツマークを付ける。
その後、手で下がるように命じられた二人の部下が退出する時。
「港湾局に急いで提出しなさい。
ここで話したことを誰にも漏らすんじゃないわよ?」
一刻も早く積み荷をどこかへ運ぼうと計っているようです。
退出時に念を押したダレットでしたが、二人が居なくなると傍らのボタンを押しました。
「聞こえていたでしょ?
アイツらの始末はお前達に任せるわ」
「「契約以外の事案は、別途料金だぜダレット・ヨッド」」
スピーカーから流れ出て来たのは、黒の3連鬼と揶揄された3人の長兄ヌンのしわがれ声。
「言われなくったって分かってるわよ」
ボタンを放したダレットが、苛立たしそうに顔を歪めました。
「どいつもこいつも、役立たずなんだから」
苛立って罵り、ソファーを廻して天井のモニターを見詰めるのです。
そこに映されているのは、銀河を捉える衛星からの画像。
「急がないといけない。
本当に時間との勝負になってしまったようだから」
モニターに映る銀河の星々。
美しい星々が瞬く画像なのですが、これを観て何を急がねばならないというのでしょう?
じっと銀河を見詰めているダレットが、何故苛立っているのか。
どうして急がねばならないというのでしょうか?
地球より遥か彼方。
太陽系の星の中で特に美しいとされる土星。
リングを巻いた様にも見て取れる星・・・<土星>
そこより僅かに遠方にある小惑星<カイツール>
まるで宇宙の離れ小島のような小惑星。
そこはドアクダーの中継基地と化していたのです。
暗躍する秘密結社が所有する離れ惑星には、いざという時の為に用意されている艦隊が配備されていたのでした。
小惑星自体も艦隊の拠点としてだけではなく、それ自体が要塞となっていたのです。
・・・宇宙要塞<カイツール>・・・
要塞と化した小惑星に配備された艦隊は、科学の遅れた星にとって十分に致命的打撃を与え得るほどの規模を有していたのです。
ダレットが見詰める天上モニターではなく、壁に設えられた邀撃システムに目を向けてみましょう。
小惑星の周りに展開している艦艇は、その数15隻。
その全てが巡洋艦級。
赤黒く塗装された艦体には21センチ3連奏砲塔が上下に3基備えられてあり、各部にミサイル発射管が見えるのです。
強力なる武装と優速を誇る、ドアクダー自慢の<ゴッグ>級巡洋艦を配備していたのでした。
そして、問題なのは小惑星を要塞化してある事でした。
要塞には多数の砲とミサイルが配置され、近寄る敵に睨みを利かしていました。
艦隊を収容できる程の宇宙港も備えられ、且つ又艦隊を修理できる造船廠もあったのです。
カイツールと名付けられた要塞惑星の最大で最強な装備。
それは左銀河有数の巨砲を備えられてあったこと。
直径56センチのレーザー砲が艦隊の後方支援として装備されてあったのです。
単にレーザー砲と書きましたが、実際は銀河連邦軍事法に抵触する波動カートリッジを装備出来る衝撃砲だったのです。
通常の波動砲ならば、エネルギーを充填しなければ撃てませんが。
このカートリッジを使う砲では、連続射撃が可能になっていました。
つまり、艦隊決戦時に射程内に入って来た敵艦隊を撃滅出来得る装備だと思えます。
これ程の規模を誇る要塞と艦隊を持っていても、ダレットは焦っているのです。
それは何故なのでしょう?
土星の宙域から約2光年先に目を向けてみましょう。
星々の灯りが瞬く中を、何かが流れていきます。
それも数十もの数が。
「左銀河第7連合艦隊司令部からです」
通信オフィサーが、艦長へ暗号通信を翻訳して閲覧を勧めました。
「ふむ。奴等の拠点が判りましたぞ」
一読した艦長が、長官席に座っている女性に教えます。
「ええ、大体の情報は手にしておりましたから。
輪っかの星の傍ですね?」
「おお、やはり保安官補ともなればご承知でしたか」
艦長が蒼い瞳の保安官補へ、賞賛ともとれる一言を返して肯定したのです。
「左銀河所有領ではありませんが、小惑星にカイツールと名付けているようですが・・・」
時空局管理下でもない小惑星に眼を就けたドアクダーが、拠点としていると。
通信を読んだ艦長が保安官補に説明します。
「で?ドアクダーの動きは攫めましたか?」
小惑星に籠る敵の動きを問う保安官補。
「先遣艦から偵察機を向かわせたようです」
「宜しい。敵に察知されたものとして行動するように命じてください」
犯罪組織であるドアクダーの情報網を鑑み、
「我々が向かっているのは周知の事実として考慮してください」
艦隊が出撃した時点で、情報は漏れていると考えているみたいです。
「ドアクダーとしてではなく、左銀河連邦法を侵した罪で逮捕状が出ていると警告するのです」
「了解です・・・が。素直に認めるとは思えませんね」
保安官補も艦長も、有罪を認めて降参するなどとは考えていないみたいで。
「その時は、連邦法に因って処罰するだけですわ」
「御命令のままに、レミュウス保安官補殿」
長官席に座ったままのレミュウス保安官補に対し、艦長が敬礼するのです。
「それでは艦長、先遣艦に通告を渡しなさいと命じてくださいな。
儀礼的だけど、これも立派な手続きですのでね」
「ははは、相手もそう思うでしょうな」
既に戦端は開かれていたのです。
連合艦隊が出発した時点で、ドアクダーは決戦を余儀なくされていたのですから。
「艦長、艦隊の配置を確認してくださいな」
カールされた長髪を掻き揚げて、レミュウス補が戦闘の態勢を執るように命じました。
この時点で、最早干戈は避けられない状況に陥ったのです。
相手が降伏して来ない以上は。
「全艦隊、侵攻態勢に入れ!」
艦橋が俄然、慌ただしくなってまいりました。
これより戦闘に突入するのですから、当然と言えば当然でしたが。
「第1艦隊及び2艦隊は正面に。第3艦隊は逃亡する敵を殲滅せよ」
艦長が艦隊の指揮を執ります。
「本艦は第7艦隊の全般指揮を執る。
全艦、目標座標までワープせよ!」
左銀河連合艦隊配下の第7艦隊が進撃して往くのです。
片や難攻不落の要塞惑星。
戦闘の規模は、惑星間戦争規模にまで発展してしまったのでした。
銀河に騒乱の気配が?
遂にドアクダーとの全面戦闘に入るのでしょうか?
ダレットが焦るのも無理ないですね・・・
次回 迫る脅威 その2
一方その頃。地球では?




