暴れる感情 その2
月夜の晩。
ユージは眠るアリシアの枕元に立っていた・・・・
こう書いたら、怪談じみてますかね?
窓辺から降り注がれる星明り。
カーテンをゆるゆると揺らす夜風。
俺とアリシアだけの部屋。
眠るアリシア、寝顔を見詰める俺。
二人の間には少しだけ、ほんの少しだけの距離があったんだ。
寝言を聴いてしまった今は。
分かってはいたけど、以前のアリシアとは違うんだって感じたから。
「そうか、天使が教えた通りなんだな」
勇者剣士に傅く魔剣天使に因って教えられていたんだ。
今のアリシアは以前のニャン子ではないってね。
もう一人の心が同居しているんだって、機動少女の心が現れたんだって知らされていたんだ。
<びっくりモンキー>で美春さんって人と接触してから、俺もアリシアの変化に気付いてはいた。
片言の日本語ではなくなり、しかも時々はニャ語さえも消えた。
「その証拠に、今アリシアは翻訳機を着けてはいない」
数日前、ふとした時に気付いた。
アリシアが首元に着けていた翻訳機を介さなくても喋っているのを。
元々向上心が強いアリシアだから、自力で習得したのかとも思ったよ。
でも、ニャ語が影を潜めてしまったのに気付いたんだ。
お国訛りがそうそう簡単に消える筈もないだろ。
俺が独りだけの時は、特にニャ語を話さなくなっていた。
周りに萌や雪華さん達が居る時は、無理やり語尾にニャ語を入れている感じがしていたんだ。
それが普通じゃないって感じない方がおかしいよ。
「サンダルフォンの言う通り、別人になってしまったのか?」
魔剣が、言って来たんだ。
これからの相手は、心してかからねばならないって。
その為にアリシアは変えられた。
いいや、あるべき姿へと戻りつつあるんだって・・・
「機動少女のアリシアなら、今度の敵にも対処可能なのかよ?」
敢えて問いかけてみた。
眠るニャン子な姿のままのアリシアへ。
「闘いに勝てると言うのなら・・・」
だとすれば、何故眠りながら泣くんだって。
「なぜ、俺達に謝るんだよ?なぜ守れないというんだよ?」
アリシアは言ったんだ。
俺と母さんを護りたかったのにって。
俺と萌じゃぁなく、母さんを指したんだぜ?
なぜ、居ない母さんのことを言うんだよ。珠子母さんを守れないって言ったんだ?
眠るアリシアにだけ分かっている真実があると思ったんだ。
俺や萌に臥せていなきゃぁならない話なのかよ?
「天使!」
右手の紋章を呼び出し、現界を命じる。
戦闘が目的では無いから王者の剣として姿を顕すサンダルフォン。
右手に収めた鍔部分にある天使の紋章に、真実を求めてみた。
「アリシアが言ったのは、どういう意味なんだ?」
天使は即答する。
「「邪悪なる者に因り、苦境に立たされる虞があると」」
そんな事は百も承知だ。
「違う。俺が訊いたのはアリシアが珠子母さんを守れないと言った意味だ。
それに母さんは何処に居るのか分かっているのかって訊いたんだ」
「「不明瞭」」
質し直した俺に、天使が口を噤みやがる。
「天使?」
答えようとしないのは、俺に悪影響があるからなのか?
だけど、主たる俺の下問に答えねばならないのが従う者の務め。
「「一つ目の問いには、異能の娘の心が弱まっているからと答えましょう。
二つ目は確実ではない為、時期早々と判断しました」」
確実ではない?天使でも分からないというのかよ?
「「本人との確証がつかない為、御答えは控えさせて頂きます」」
母さんだとは言い切れない?
ってことは、近くに居るかも知れないと言うんだな?
「誰かに姿を変えさせられているのか?
それとも近くに捕らえられているってのかよ?」
もし、姿を変えさせられているというのなら何故俺に教えてくれない?
もし後者だというのなら、犯人は何を狙っているんだ?
「教えてくれサンダルフォン!母さんは何処に居るんだ?」
剣の鍔に知りえる情報を求めたんだ。
仮でも良いから、ヒントを与えてくれって。
「母さんを連れ戻せるのなら、どんな事だってやってみせるから」
本気だった。
本気でそう思っているんだ。
十年以上も逢えない母さんを、取り戻す事が出来るのならって。
「それが俺と、親爺の願いなんだ。
親爺は今も母さんを探し求め、世界中を駆け回っていたんだぞ!」
そうさ、親爺もドアクダーに捕らえられるまでは。
今度の調査だって、母さんの足取りを求めての行動だったのは間違いないんだ。
「親爺がいない今、俺だけが母さんを探せるんだ。
俺が母さんを助けないでどうするんだよ!」
ヒントの欠片でも良い、教えて欲しいんだ。
喩えドアクダーに捕らえられているにしたって・・・
「「仮に・・・そう、仮の話としてお聞きください」」
決意を感じ取った天使がやっと、重い口を開いてくれそうだ。
「「主の傍には、互いに約束を交わした者が居りますでしょう?」」
「ん?!萌のことか?」
聞き耳を立てる俺が答えようと答えまいとお構いなしに、
「「その者は、古の宿命を背負う者でしょう?」」
「ああ、モエルさんの後継者に選ばれたが?」
確かにそう聴いた。
俺にもモエルさんが託して眠りに就いたんだと分っていた。
「「では、どうして選ばれたかをご存じでしょうか?」」
「萌が後継者の血を受け継いでいたからだろ」
確か・・・そうだとモエルさんが言っていたっけ?
「「受け継意でいた・・・その者が。
宿命までも主同様に?」」
そこで俺を引き合いに出すのかよ?!
・・・って、待てよ。
アメリアさんと熊太さんの娘である萌が、なぜモエルさんの血を受け継ぐ者だったんだ?
「今の今迄、考えた事さえも無かった」
萌がどうして継承者だったんだ?
モエルさんの血を受け継いでいたんだ?
「「もう一つだけ主に訊ねたいのです。
母上様はどのようなお方でありましたでしょうか?」」
「珠子母さんのことか?
そうだな、物静かでいつも微笑んでくれていたっけ」
記憶の中に居る母さんは、俺に笑いかけてくれているんだ。
「「容姿は?如何なるお姿でありましょうや?」」
「容姿?そうだな・・・明るめの栗毛で日本人にしては珍しい瞳の色をしていたっけ」
微笑みかけて来る母さんは、俺に手を差し出して来る。
記憶の中だけ、俺の思い出の中ではいつも・・・
「微笑みの中に僅かにだけど、寂しそうな瞳を・・・」
そして。
俺ははっきりと思い出したんだ。
「母さんの瞳も・・・翠を宿していた?!」
萌やモエルさんと同じように?
そして・・・アリシアみたいに?!
「「そして運命の巫女も翠の瞳。
彼女の血を受け継ぐ者は、今現在唯一人だけ。
この星には母君しか居ない筈なのですよ」」
運命を引き継ぐ者は、その時代に唯独り。
ユージニアスの異能を引き継いだのも、この世界に俺だけだったから。
他にもっと適任者がいたら、そっちを選んだだろうから。
「「仮に。飽く迄も仮の話としてお聞きください。
主の母君がその者に宿っているのならば、なぜ自らを現わさないのか。
なぜ今も尚、巫女の運命を宿す者としてではなく、娘の姿のままなのか。
自らの息子である主と約束を交わしたのか。
・・・彼女の想いはどこにあるのでしょう?」」
天使に因って示されてしまったのは、萌が母さんである仮定。
でも、それなら。
どうして話してくれないんだ?
どうして珠子母さんだと明かしてくれないんだ?
萌が珠子母さんだとする仮定の話。
でも。
オカシイのはアメリアさんの娘として産まれて来たのなら、辻褄が合わない。
盛野熊太さんの娘として産まれてきたとしたら、タイムラグが生じてる。
「そんなことがあるもんか。
母さんが行方不明になる前に、萌は産まれているんだぞ。
産まれ出た後に宿ったのか?萌の中へ」
俺が知っているのは、萌という子がアメリアさんの娘だという話。
そんな無垢な子へ、なぜ母さんが宿らなければならないって言うんだ?
「それに!
自分の運命から逃れる為とか。
モエルさんの頼みだからと言って、他人を巻き込むなんて。
俺の母さんは、そんな人なんかじゃない!」
天使から告げられた仮の話を、俺は認めたくなかった。
認めたくないばかりに、思わず声を荒げて拒絶したんだ。
萌が母さんであるのなら、その訳を聴かせて欲しい。
母さんが萌だというのなら、これまでの経緯はどうなるって言うんだよ?
俺の頭の中で、母さんと萌が次々にフラッシュバックして混じり合う。
母さんとは違う顔。
母さんとは似ていないけど、モエルさんには似ている萌。
唯、二人の共通点と言えば・・・
「翠の瞳・・・」
それだけが、二人を繋げる。
吸い込まれそうな程麗しい瞳の色だけが、母さんと萌との共通点。
「それと。運命を引き継ぐ者だったってこと」
「「その時代に二人の継承者が居るとでも?」」
俺は天使に気付かされちまった。
俺が勇者剣士の後継者になったのは唯の一人だったから。
だとしたら、巫女を受け継ぐ者も・・・
「萌は萌なんだ、母さんじゃぁない!」
拒絶したって、事実は変えられない。
そんな事は分かってる・・・心の中では。
「俺は萌を護るって約束したんだ。
母さんを護るなんて言ってはいないんだ!」
そう。
事実、そうだったんだ。萌とは約束したけど、母さんとは約束していない。
「そう・・・言っちゃぁいないんだよ俺は」
萌との約束であって、母さんとの約束ではないのだから。
「そうだね。彼女も望んでなんていないのかもしれないわ」
天使とだけ話していたつもりだった。
星明りの中で、俺はアリシアの存在を忘れていたんだ。
「萌も珠子様も。
お二人共が望まれてはいないのかもしれないのです。
ユージが危険な目に遭われてしまうのを懼れられている筈ですもの」
いつの間に起きたのか。
いつから俺の話を聴いていたのか。
「アリシア?」
起き上がって俺を見詰める翠の瞳が、俺に何かを語り掛けていたんだ・・・
会談なのか怪談なのか?
ユージと魔剣が話してる姿を想像してみて?
アホか間抜けか、はたまた怪談なのか?
先ずは間抜けだと思うんですけど?
アリシア「悲ニャァ?なぜアタシを斬るニャぁッ?」
そこに居た君が悪い
損な会話回は次回まで続くのです。
次回 暴れる感情 その3
そうか・・・まさか君がヒロインだったとは。作者もノーマークだったぞい?!




