悪夢 再び その3
やばい。
ものすっごく。
ヤバイ相手が来てしまいました!
邪な口元。
赤紫色のルージュが吊り上がって見える程、歪んで見えるのです。
月明かりに照らされた男装の麗人。
風もない蒸し暑い夜に現れた金髪で蒼い瞳の女性。
アリシアを見下すような表情で、邪に嗤うのでした。
「誰?あなたは」
いきなり現れて嘲笑われたアリシアが、相手の正体を知りつつも訊いたのです。
「答える必要があるのかしらね」
「ドアクダー・・・ね?」
答えないのは織り込み済みだったのか、アリシアは敵であるのを確認したのです。
「答える必要はない・・・そう言ったのよニャン子星人」
幾分苛立ったような声が返されてきます。
「質問は受け付けないわ。私の問いにだけ答えれば良いのよ」
歪められた口から、有無を言わさぬ威圧的な言葉がアリシアへ投げられてくるのです。
「地図の巫女は何処?
反物質転換装置を発動出来る娘は?
この星に存在する鍵を開けれる娘は、どこにいるの?」
男装の麗人は、アリシアが地図の巫女を隠しているのだと踏んでいるようです。
高飛車な云い様で、アリシアへ迫ります。
「それを聴いてどうしようというのかしら。
あなたも言ったわよね、答える必要は無いって」
秘守義務を行使して言い返すアリシア。
相手が求めるのは、今現在地図の巫女である者
それは萌であり、珠子でもあったのですから。
任務を遂行する上で、犯罪者に情報を漏らす訳にはいきませんからね。
でも相手には、アリシアの事情なんて関係ありません。
「言った筈よ。
お前は私の問いに答えるだけだって。
反論は許されない。答えなければ人質を消滅させるだけよ」
人質?!いつの間に?
「人質ですって?」
眉間に皺を寄せるアリシアが、即座に訊き返しました。
「そう、人質。
私のプレゼントを・・・ね、この街にあげたのよ。
重力子爆弾って言えば・・・分かるかしら?」
「グ?!重力子爆弾を?」
邪なる男装の麗人が教えた<重力子爆弾>とは?
説明しましょう。
重力を数万倍に加圧させ、物質に放射する兵器のことです。
大きさに因り危害半径は異なりますが、
スーツケース程の質量であれば、半径2キロほどは灰燼に帰す事になります。
しかもこの兵器の恐るべきは、有機物も無機物も関係なしに粉砕する処でしょう。
つまり、爆発の中心点から直径4キロの物質は全て無くなるという事です。
空中にある物も、地中にあるモノだって。
半径2キロのクレーターが出来てしまうという事なのです。
「分った?
私を怒らせる前に答えるのよ。
さもないと・・・バン・・・よ?」
「いい加減なことを言わないで!
爆発させたらあなただって消し飛ぶじゃないの?!」
高飛車に言い放つ男装の麗人に、アリシアが応じたのでしたが。
「あなた・・・馬鹿じゃない?
自分の仕掛けた爆弾で消されるなんてドジを踏む訳がないでしょ?」
あっさりといなされてしまうのでした。
「爆弾は遠隔操作でも破裂できるし、タイマーも仕掛けておいたわ。
早く鍵の娘が何処に居るかを白状しないと・・・バンだからねぇ!」
爆弾魔な金髪の麗人が、手を拡げて嘲るのです。
「ホントーかどうかも分からないというのに。
あなたを信じろとでも言うのかしら?」
アリシアには賭けでした。
相手はドアクダーである事は間違いないのですが、爆弾を仕掛けている証拠なんてありません。
もしも本当に爆弾を破裂させてしまえば、地球の歴史が変わってしまう結果になり得ます。
地上のどの国にだって在りはしない爆弾を使ってしまえば、たちどころにして軍事国家の目標になってしまうでしょう。重力子爆弾の痕跡から、何かの秘密を盗み取って・・・開発しかねませんから。
「信じないって言うの?
だったら・・・一つ試してあげましょうか」
金髪の麗人は今の今迄手に下げていた金属の棒を差し上げると。
「重力子ではないけど。
こんな物も仕掛けておいたのよね・・・」
棒についているスイッチを押し込んだのです。
カッ
遠くで稲光が・・・地上から上空へと伸びていきました。
ドゴゴ・・・・ゴロゴロゴロ・・・・
雷の音が聞こえて来るまで10秒近く。
空には星と月が見えています、つまり雷が発生する筈はありません。
「まさか?!超電磁爆弾を?」
稲光に思えたのは地上から放たれた電磁力の放出?
「そう。分かってくれたのなら話は早いわ」
あからさまにアリシアを見下す麗人。
その手に握られているのは爆弾の起爆装置なのでしょうか?
「それと・・・ね?」
筒をアリシアへ向けた麗人の指が、違うボタンを押し込んだのです。
ブ・・・ブゥン!
金属の筒から紅い光が刃の形となって現れ出たのです。
「こんなレーザー剣にもなるのよ、私の玩具はね」
レ?!レーザー剣!
アリシアが持っているライトサーベルモドキの・・・本物?!
「う?!嘘ッ?」
ドアクダーの武器としては最強に部類出来そうです。
異能ではなく、物質兵器で威圧して来る相手にアリシアは驚愕しました。
「これ程のドアクダーが襲来して来たなんて。
どうやら最終局面に突入してしまったようね?」
保安官補助手であるアリシア捜査官にとって、今度の敵は生半可に終われ無さそうだと考えられたのです。
嘗ての歴史の再来。
地図の巫女が破滅の道を歩まされた悪夢の再来にも思えたのです。
金髪で男装の麗人たるドアクダーに因って、再び巫女を奪い取られる危惧を抱いたのでした。
「アルジ・・・私はどうすれば良いのでしょう?」
機動機械は家に置いて来たまま。
即時に闘おうとすれば、灼炎王に変身して闘うよりは方法が無いのですが。
これとてもユージの命令が無ければ変身出来ないのです。
異能の主従契約が足枷となって、アリシアが望んでも灼炎王には成れなません。
「このままでは・・・街ごとアルジ達が」
重力子爆弾に因って消されかねないと。
「何を躊躇うの?
あなたには最早、選択技なんて存在しないのよ!」
勝ち誇る男装の麗人がアリシアに剣を突きつけて嗤いました。
「ほらほら!さっさと言いなさい。
さもないと・・・この街もお前も、消してしまうわよ!」
レーザーの紅い光がアリシアに迫るのです。
白状してしまえ・・・と、ばかりに。
「い、言わない!
アタシがどうなろうと、巫女の居場所だけは教えるモンか!」
教えてしまえば、全てがお終いだから。
「ふ・・・これだけ諭してやったのに。
お馬鹿猫は火傷じゃ済まないって分からないようね」
紅いレーザーが、目前1メートルにまで迫ります。
「一突きで殺したりはしないからね。
じっくりと切り刻んでやるから・・・覚悟しなさい」
ニヤリと哂う金髪の麗人。
逃げることも出来ず、抗う術もないアリシア。
もはや風前の灯火なのです。
だけども、悪夢は再来するのでしょうか?
歴史は書き換えられたのではなかったのでしょうか?
「ほ~らぁ!燃えちゃいな?」
剣を差し出して来る悪魔のような金髪の女。
邪な蒼き瞳は、残忍に歪んでいたのです。
アリシアは敵を睨んで動きませんでした。
緑の瞳をこれ以上に開けない位まで見開いて。
レーザー剣を繰り出して来るドアクダーの背後を観ていたのです。
「そうだ!燃えるんだアリシア!」
「やっちゃえ!アリシア」
二人の声が轟きます。
「アリシア!アルジのユージが命じる。
炎の結界を張って、そいつと闘え!
灼滅の王と成って敵を滅ぼすんだ!灼炎王アリシアよ!」
金髪の麗人が気が付く前に、傍らの少女を護っている少年が叫んだのでした。
「ユージ!萌?!」
今や形勢は逆転する。
異能を纏えるアリシアは、ドアクダーとの決戦を挑めます。
「了解!」
ユージの命令に因って。
アルジである野良有次の求めに応じて・・・
さぁ!
反撃に出ますか?!
アリシアへ命じるユージ。
灼炎王と化しドアクダーと戦うのですが。
相手は余程の自信があるようです。
そしてユージと萌の前にも・・・
次回 タイムリミット その1
今度の戦いは、今までとは雲泥の差。つまり・・・ヤバイのですッ!




