不穏 その1
中米に位置する遺跡<ケムダー>・・・
訳せば<貪欲>を指す神秘主義な地名です。
ここで採掘作業が始まって、早1か月が過ぎようとしていたのですが。
「プロフェッサー野良!地中から反応が出ました」
掘削を監督している勇人に、地中探査機を動かしていた作業者が知らせて来た。
「なに?!本当か」
現場の作業者から促されて野良教授がモニターに執りつきました。
モニターに映っているのは?
「まさか・・・こんな物が地中深くに?」
作業者は自分の眼を疑ってしまっています。
「地層から考えるに・・・約数万年前の遺物だと思われるのですが?」
地中に埋もれている物体を映し出す探査機のエコーが捉えたのは?
「間違いない・・・これがロストワンだ」
勇人がモニターを見詰めたまま言い切りました。
「宇宙から飛来した・・・数万年前の・・・船だ」
野良教授が言い切るのは、現在の技術で明らかにされようとしている過去の遺物。
モニターに表示された遺物の全長は・・・50メートルに達していたのです。
「宙飛ぶ船か・・・」
勇人が言い切ったのには訳がありました。
ここは中米の山の頂にある遺跡だったから。
巨大な建造物が眠っているにしては、海から遠すぎる場所だったのです。
「まさに・・・ノアの箱舟。
いいや、宇宙からの箱舟と呼ぶのが正しいか」
野良勇人の発見したモノが何なのか?
ニュースはたちどころに世界中に広まるかと思われましたが・・・
・・・・・・・・(=^・^=)・・・・・・・
「ニャンと?!今時エアメールニャか?」
アリシアが驚きつつも郵便受けから持っていたのは?
「多分、義父さんからじゃないの?」
俺にブラックな珈琲を持って来てくれた萌が瞬時に答えたよ。
アリシアの持っている定型郵便を観たら、想像がつくよな。
「おいアリシア、いつまでも眺めていないで開けてくれよ」
異星人なアリシアには郵便物が余程珍しかったようで。
「ウニャ・・・珍しいニョに」
まだ眺めまわしているアリシア。
確かにメールやインターネットが進んだ現在なら、手紙自体が珍しいと言えるよな。
まして宇宙人なアリシアなら・・・
「ほらッ!貸しなさい」
見るに見かねて、萌が横合いからエアメールを掴み取ると。
チョッキン!
あっさり封を切ったんだ。
「損ニャァ~」
泣き声をあげているアリシア・・・本当に泣いてるんだが?
「せめてスナップに収めてから・・・ニャァあああああ」
泣くな啼くな!うっとおしい!
本泣きしてるアリシアを余所に、萌が封筒から便箋を取り出し一読すると。
ぱあああああああああああああぁッ!
破顔しやがるんだが??
「ゆ、ゆー兄!帰って来ないみたいよ、暫くの間!」
「ほへ?誰が」
我ながら間抜けだよな。
「義父さんとアメリア・・・母さん共々よ!」
「ニャンと?!」←これ、俺だぜ
びっくりしちまった。
思わずニャ語が出てしまうくらい・・・に、だ!
「どうしたってんだ?
いつもなら一か月もすれば、何も成果が無かったとすごすご帰って来るのに?」
「うん、なんでももう少し時間がかかるみたい。
今回はいろいろ証拠が出て来てるみたいで、スポンサーさんからも応援されてるようなの」
つまり・・・今回は目星がついたのか?
「成果が出そうなんだね?それなら喜ばしいんじゃないの?」
そう言った萌の瞳に、少しだけ不安そうな色が浮かんだような?
二枚目を読んだ時みたいだが?
「何か?気になることでも感じたのか?萌・・・」
俺は敢えて<萌>って呼んでおいた。
俺の呼びかけにハッとなった萌が、慌てて首を振ると。
「な、なんにもぉ~。ある訳ないジャン」
瞳の色はそのままに、俺へと便箋を突き出して来る。
「あ、アタシ!洗濯物取り込んで来るね」
で・・・誤魔化すのが下手なのは相変わらずだなぁ。
二階のベランダへ走る萌の後ろ姿。
黒く染めていた髪が元の茶髪に戻ったのは、モエルさんが現れなくなった頃の話。
自分で染め直したとか言ってたが、誰もその場に居なかったんだよなぁ。
普通なら雪華さんやアリシア。若しくはシンバあたりが眼にしている筈なんだが?
俺は男だから・・・目に出来ないしw
ホンの一か月で。
萌は元のハーフな少女に戻りやがった。
学校でも何があったのかと騒がれてはいたらしい。
その辺は春香ちゃんのお姉さんである京香先輩からも追及されたから分かる。
俺だって萌がどんなつもりで染め直したのかは謎だし。
でも、ほんの少しだけ感じる時があるんだ。
今の萌は以前とは違うんだって。
俺に懐いてくれているのは同じだけど、なんだか違うんだよな。
どう違うかって訊かれたら困るんだけど。
なんだか・・・大人びて来たって云うか・・・
もう一人の萌・・・モエルさんみたく、思う時があるんだ。
萌がモエルさんに?
馬鹿な?!萌は萌なんだ。
いくら大人びて来たからって、間違うもんか。
俺が萌と逢ってから・・・もう3年間も見守り続けて来たんだぜ?!
そう・・・さ。
俺の大切な・・・義妹として。
馬鹿げた思いを振り払うように、萌の残して行った便箋を読む事にした。
なになに・・・?
さっき萌が言った通りだが?
なんだが2枚目の文章がオカシイな?
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俺とアメリアはこの先現地で。努力、斡旋、苦難を乗り越え、団結している。
だから発見した折には。積み重なる、関門を、漫然とは、累積させない、だろう。
帰れるのは解決を観る時まで先延ばしになると、心しておけ
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アナグラムじゃないし?
・・・・って、おい?!
句読点で句切られた箇所。
ドリョク、アッセン、クナン・・・、ダンケツ・・・
頭の文字はド、ア、ク、ダ?!
そして・・・同じようにすれば?!
ツ、カ、マ、ル・・・捕まる?!
ま、まさか?!
俺は萌の瞳が曇った本当の訳を、知ってしまったんだ!
いきなりな展開。
まだ、本当なのか確定はしていないのですが。
2人の義理父母が?!
そうなれば・・・萌たんの言ったとおり?
このままずっと秘密基地として存続出来る?
と。
そんな悠長な話じゃないですぞ!
次回 不穏 その2
やっぱり萌たんは優しい子だった?!




