Emo~い その3
エモイ?
なにがって・・・4人も少女が居たら。
・・・ねぇ?
俺を萌は世話焼きだという。
そう見られてもしょうがないし、自分でもそう思う時があるくらいなんだから。
いつの頃からだろう。
困ってる人や悲しそうにしている人を、観て見ぬ振りが出来なくなったのは。
多分、本当の母さんが行方不明になってからだろう。
もう帰って来てはくれないかもしれない・・・だけど。
だけど、母を無くした心の痛手が俺を余計に不幸な人をほっとけなくしてるんだ。
手を挿し伸ばすのが当たり前になっていたんだ。
アリシアの件だってそうだ。
異星人なのだと分かっても、困っているのを見捨てられなくって今に至る。
普通なら居候なんてさせやしない筈なのにな・・・
萌と俺だけの住まいの筈なのに、アリシアに雪華さんが居て。
今度はシンバが同居する事になったんだ。
女の子4人に囲まれたとあっちゃぁ、俺の居場所がなくなりそうなんだけど?
「それじゃぁ、ご飯の後片付けをみんなでやって。
それからお風呂タイムに突入しちゃおう・・・って。
ゆー兄ぃは一番最後だから・・・分かってる?!」
そう来たか・・・やむを得ませんなぁ。
萌が発表した通り、風呂の順番は俺が最後・・・って事は?
「最後に入った人が掃除しなきゃだよねぇ」
「待て!俺が風呂掃除一任じゃないか」
抗議を込めて言ったんだよ・・・だけど萌の眼が痛かった。
「なに?文句でもあるの?」
「ありません・・・」
ぎろりと睨まれて、泣く泣く抗議を取り下げたよ。
そうか、ここは萌の結界の中なんだな。
結界のアルジである萌の意図するままに法律が決められるんだ。
「まるで女王様だな、萌の奴」
食事を造ってくれるのも萌。
掃除や洗濯も萌が仕切っているんだ。
頭が上がらないにも程があるくらい・・・感謝はしているんだぜ。
「さぁ!手伝ってよね」
食器を片付けだした萌に促されて雪華さんが先ず初めに立ち上がる。
「そうニャね~」
アリシアが手慣れたように箸を集める。
「ボクも手伝うから」
今晩新入りのシンバさえも腰をあげた。
で・・・俺はというと。
「風呂の湯でも入れに行くか」
萌がこの後風呂だって言っていたから。
3人の女の子に台所を任せ、俺は風呂場に向かったんだ。
まだ、アリシアに出逢わなかった頃には何でも面倒臭く感じていた。
アパートで一人暮らしを始めたって、萌がちょくちょく掃除や洗濯をやってくれたから。
「萌はアリシアや雪華さん、そして今度はシンバとも仲良くやってくれるのかな」
初めはアリシアを余計な荷物だと考えていたみたいだが、雪華さんが同居した頃から考え方が変わって来たみたいだ。
女の子同士の気安さか、話をしている時の萌は前とは違って楽しそうなんだ。
「きっと、萌は寂しかったに違いないんだ。
俺が家から出て行ってしまって、家に居ても孤独感に苛まれていたのかもしれない」
女の子が3人集まれば姦しいというけど、俺には家庭という温もりにも感じられたんだ。
他人同士の集まりだけど、そこには家族のような団欒があるのに気付いたんだ。
俺達は同じような境遇の仲間なんだって思うんだよ。
異能を身に宿しているだけなのに、他の人達とは別世界に生きているんだ。
異能者ではない俺や萌。
異星から来たアリシアに雪女の先祖を持つ雪華さん、地の龍を宿すシンバ。
5人が一つ屋根の元で暮らすんだ。
親爺達が帰って来るまでの間だろうけど・・・
「そうだよな、それまでにみんなの件を解決しなきゃいけないよな」
風呂の湯を貯めながら考えた。
アリシアを保安官にめぐり合わせる。
雪華さんを下僕状態から解放する。
シンバさんに大金を渡して孤児園を閉鎖から救う。
それに京香先輩の元に居る嵐さんを、呪縛から解き放たなきゃならない。
「間に合うだろうか?
親爺達が帰って来るのが早かったらどうすれば良いんだ?」
親爺達が学術調査に出発して、早くも1週間が経った。
約1か月程の予定だと告げられてあったんだから、残りは3週間か。
「急がなきゃいけないよな。
アリシアも、あまり長居は希望していないだろうし」
初まりの子、保安官補助手アリシア。
機動少女をポッドに宿している不思議なニャン子。
いつも俺に纏わり付いて来る女の子。
不思議な魔法を使って、俺の危機を何度も救ってくれた。
それに、もう一人の俺を呼び覚ます手助けをしたんだ。
もう一人の俺、勇者剣士。
その宝だと呼ばれるモエルさんって娘をも目覚めさせた。
アリシアは関与していないと思っているだろうけど、ニャン子が現れてからなんだよ。
ユージニアスを知り、モエルさんの存在を知らされたのは。
もしもアリシアが現れなかったのなら、今頃どうなっていただろう。
ドアクダーに萌が捕まり、もう一人の俺は消されていたかも知れない。
雪華さんだって、嵐さんだって。
シンバもアサシンになんて為れず終いで、今頃どうしていたのか。
「何もかも・・・アリシアが振って来てからだよな」
俺の中で大きな存在になりつつあるニャン子。
屈託のない笑顔で、人見知りしない瞳で。
猫耳と尻尾が人間離れしているけど。
アリシアは素直で善い子だと思う。
下僕の契約も受け入れ、逆らうなんて思えもしない。
従順で信頼出来る・・・俺のニャン子なんだ。
「ホント・・・アリシアに出逢えなかったら。
俺は今頃どうなっていたんだろう」
退屈な毎日に飽き飽きして、もう何もやる気が湧かなくなって。
きっと自堕落な生活に満足して、どうでも良い人生を過ごす羽目になっていたんじゃないのかな。
喩えユージニアスを宿していたって、何も出来ない一生を終えたのかもしれない。
そう考えると、アリシアは俺にとっての天使か。
いいや天使なら、単に幸せだけを運んでくる存在だ。
闘いに放り込まれず、幸せに過ごしただけに留まるんだ。
アリシアは自らも闘い、俺を導いてくれている。
俺がどうあるべきかを教えようとしてくれているような気がするんだ。
「だとしたら。アリシアは俺にとっての女神。
戦女神とでも呼んだ方が良いのかもな」
そうさ。
機動少女であり、灼炎王でもあるアリシア。
俺のニャン子は、俺だけの女神様。
俺を退屈から抜け出させ、何かを目覚めさせようとしている開眼の女神。
きっと本当の神様が俺に与えてくださった使者なんだろうな。
そう考えたら、アリシアという娘との邂逅がエモく思えたよ。
「これからも宜しくな、真紅のアリシア」
赤髪の少女に俺が頼んだのは、
「俺達の友達で居続けてくれよ」
いつまでも此処に居てくれと願ったのさ。
「感動的なのは頭の中だけにしといてよね!」
風呂上がりの少女達を前に、俺は頭に血が上っていた。
つまり・・・のぼせたんだ。
「もしもアタシが忘れ物を取りに脱衣所に来なかったらどうなっていたと思うのよ!」
「す・・・すまん」
すまんとは言ったんだけど、こうなったのには理由があるんだ。
風呂の順番を待っている間、リビングで過ごしていたんだが。
「おっ先にぃ~」
萌の風呂上りなら見慣れていたから良しとして。
「良いお湯加減でした」
Tシャツ一枚だけの雪華さんを観てしまったのを手始めに。
「久しぶりにゆっくり入れたよボクも」
バスタオルを巻いただけのボクっ娘シンバは遺憾。
「アルジのユージに順番が回って来たニョニャ!」
ソファーで動揺していた俺に、アリシアの奴が前屈みになって言いやがるんだ。
いいや、魅せやがるんだよ。たわわちゃんを・・・
タンクトップの谷間から覗く素肌が眩し過ぎるんだ。
慌てた俺が逃げるように風呂へ向かったのは言うまでもない。
言うまでもないけど、刺激が強過ぎて・・・
「あんなに長風呂するからでしょ?」
萌が忠告して来るんだが。
出られなかったんだよ。出たくても出られない理由があったから。
「若かった・・・若すぎたのさ・・・俺も」
「はぁ?」
萌は知らなくても良いんだぞ。
男が一度そうなったら、なかなか元に戻らないなんてさ。
介抱してくれる萌に感謝しつつも、俺は大変なことに気付かされたんだよ。
「ねぇゆー兄ぃ?若いって大変なのね?」
俺の言う意味が分からないのが救いだったよ。
萌にはこのまま純真な少女でいて貰いたいもんだぜ。
「そう・・・大変なんだよ。
これから毎日こうなるのかと思ったらさ」
「長風呂しなきゃ良いじゃん?」
風呂だけじゃないってば・・・
「ゆー兄ぃも、女子に囲まれて大変だねぇ~」
嫌味かよ萌?
でも、そうなんだよなぁ・・・マジで死にそうだ。
「俺って生き残れるのかな、こんな生活を送って」
誰が評してハーレム?
これは俺にとっちゃぁ地獄だぜ!
その後、萌が言いやがったよ。
「フッ!君は生き残る事が出来るか?!」
出来そうにありません・・・・
生き残れるのでしょうか?
もはや煩悩が破裂しちゃいそうですな?
高校男子に4人も女子が囲えば?
もはや・・・地獄でしょう!
さて。
シンバに大金を払う約束でしたよね?
それじゃぁ、黒のカードを使いましょう!!
次回 友か下僕か? その1
次話は架空のお話ですので、絶対に真似しないでください!




