アサシン・シンバ その3
アサシンが異能を放つ。
現実世界で戦いとなるのか?
そんなことになったら、街が壊滅してしまいかねないぞ?
猛烈な揺れが続く中、現界するのはアサシン・シンバの属性使徒姿。
岩山の頂点に現れた紫色の鎧に身を包んだ少女が俺達を見下ろしていたんだ。
地の精、地の龍の異能を身に纏うシンバがオッドアイを向けて来ていたんだ。
「こ、このままじゃぁ付近に被害が及ぶ。アリシア急いで結界を貼るんだ!」
「ラ、了解ニャ~!」
実世界に現界した二つの異能がぶつかり合えば、どんな被害が出るかも分からない。
それを防ぐ方法は唯の一つだ。
アリシアに結界を貼らせて、戦闘を異次元で行うしかない。
その結果、こちらが解除しなければシンバは結界から出られなくなる。
アリシアを倒す事が出来ないのならば・・・だが。
ボォオオオォ・・・
灼炎王が張った結界は、炎の世界だった。
一面が燃え盛る炎で埋め尽くされ、猛烈な暑さに見舞われたんだ。
「こっちが暑さで参ってしまうぜ」
茹だる様な熱波に閉口してしまうけど、こうするより方法はなかったんだぜ?
「シンバに闘いを諦めて貰えないモノかな?」
一刻も早く結界から出ないと、先に俺が参ってしまう。
「駄目ニャ、やる気十分みたいニャぞ!」
紫色の鎧に身を包んだシンバが、身構えて攻撃に備えているのが判る。
「先ずは、なぜ俺を狙うのかを知りたいんだけどな」
「答えてくれそうにニャいニャ」
灼炎王も応じるように魔剣を出現させて、応戦の構えを執る。
双方とも一撃を放てられる態勢を執りながら、お互いの手の内を読もうとしていたんだ。
「こうニャったら、捻じ伏せるしかニャいぞ」
自分の結界という好条件で闘うのは初めてだろう。
対してシンバはビジターであり、得意の地震を封じられているんだが。
「問題は、あニョ鎧だニャ。
どれだけ熱耐性が備わってるニョか・・・」
初めて観る地龍の鎧。
防御力は炎に対してどれだけ有効なのかも分らず仕舞い。
「最初の一撃で勝負が決まるな。
もしも有効打を放てなかったら・・・」
俺も一か八かの攻撃には反対だ。
まかり間違えば、結界を破られてしまい兼ねない。
そうなればアリシアが無事に済む筈も無いんだからな。
「なんとか・・・和解出来ないかな?」
闘いの場に連れ込んで於きながら、勝手な言い草だとは思うんだけど。
「そうニャね。
そう言えばアルジのユージは、なぜ襲われたニョか知らニャいのか?」
「そうなんだよ、いきなりだったからさ」
どうして襲われたのか、はっきりと分からないんだよな。
アサシンに依頼した奴の事も言ってくれないし。
「多分ドアクダーには違いないとは思うけど。
シンバは誰からの依頼なのかを喋ってくれないから」
「ふむ・・・口を閉ざした貝は抉じ開けるニャ」
おいおい?大丈夫なのかよアリシア?
「任せるニャ」
「ホントーか?」
・・・任せて大丈夫なのかと訊いてるんだけど。
アリシアは魔剣を収めると、こう切り出したんだ。
「地の龍を纏うシンバさんニャ。
アタシの問いに答えるニャ」
夜色の瞳がアリシアを見据える。
「此処に居るアルジのユージを狙ったのは如何程の報酬で?」
見据えていた眼が、少しだけ動いた気がした。
「此処に居るアルジなら、その倍の報酬を約束するニャぞ」
もう片方の紅い瞳が揺れた?
・・・って、おいアリシア。どこにそんな大金がある・・・ある?
なるほど・・・萌の持っている黒のカードか。
「お前達に2000万円も払えるのか?」
乗って来たようだなシンバさんが。
少々戸惑いながらも、金額を示して来たのが証だ。
「今直ぐにとは言えニャいが。ニャんとか出来ニャい金額ではニャいぞ」
「本当か?」
即座に訊き返して来るのが、乗った証でもあるのだろう。
「契約を反故にするのなら、支払うと約束しても良いぜ」
黒のカードならば、2000万なら引き出せる筈だ。
尤も、カードが使用出来ての話だけど。
「ふむむ・・・どうしたものかな」
シンバが悩んでいると、ニャン子が悪知恵を働かして言ったんだ。
「契約主から未だに支払われていないニョか?
だとしたら未払いにニャる可能性もあるニャぞ。
どうせ悪徳な奴が依頼したンニャろ?
依頼主の方から契約を反故にされる虞はニャいのか?」
暗殺を依頼して来た奴だから、仕事を果させれば金も支払わない虞があるんだ。
良くあるじゃないか、ドラマや小説で裏切られる話が。
「そ、そうかもしれないな・・・
でも、お前達が嘘を言っている可能性もあるんだぞ」
疑い出したらキリが無い・・・そう来るとは思っていたがね。
で?アリシアはどう応えたか。
「安心するニャ。未払いニャんてしないニャぞ。
このアルジのユージについて来れば分かるニャ!」
ついて来る?おい・・・まさか?
「アルジのユージは逃げ隠れしないニャ。
家までついて来ればいい話ニャ。そこで支払いを受ければ良いニャ」
おいおい?!連れ帰る気かよ?
「待てよアリシア?」
家に連れて行くなんて、問題だろうが?!
「ここはアリシアに任せるニャ。
アルジのユージがそう言ったんニャぞ」
確かにそうだけど・・・さ?
「無駄な闘いは必要じゃニャいニャ。
どうせドアクダーに決まってるニャから、支払わせれば良いだけニャ」
まぁ・・・そうだけど。
俺が頷くのを観たアリシアが。
「どうニャ?受ける気になったニャか?」
シンバに暗殺を諦めるように勧めたんだ。
「無駄な闘いも人殺しもしないで金を手に出来るのなら」
どうやらシンバは、交渉に応じる気らしい。
「交渉成立ニャ!」
俺を振り返ったニャン子が、親指を立てやがった。
戦闘には成らずに済んだのは確かにアリシアの手柄だ。
「よし、結界を解除しても良いぞ」
「了解!」
一度も闘わずに炎の結界が解かれた。
こんなこともあるんだな・・・と、アリシアを観て思ったんだ。
戦闘に発展したのに、一度も交えずに済んだのはアリシアのおかげだ。
うむ・・・今回は見事だったと褒める。
だけども、問題は家の中にあるんだよなぁ。
だってさぁ・・・家で待っていた萌がさぁ・・・
「猫掴みは辞めるニャ~」
ぷら~んと垂れ下がるアリシアが可哀想と言えば哀れであるが。
「ど~してよ!なぜもう一人増えてるのよぉ!」
食卓に着いているのが5人に成っているからさ。
あ、一匹は萌に猫掴みされてたW
「気にする事はない。ボクは受け取りが済めば退散するから」
「だからって、なぜ晩御飯を食べてるのよぉ?!」
うん、こうなったのは俺の所為じゃないぞ。
「アリシアぁ~ッ!説明しなさいよぉッ!」
「赦してニャ~」
しょげかえるニャン子を観て、俺はこうなる様な気がしていたとは言えずにいたよ。
「シンバさんの分は、アリシアとゆー兄ぃの分を削りますからね!」
「そ、そんニャ~~~」
「俺は構わないぜ」
一食くらい食べなくったって・・・と、俺は言ったんだが。
「シンバさんが帰るまでよ!」
「そ、そんニャ~?!」
マジですか大蔵大臣様?!
居候がもう一人増えたんだが・・・どうする気なんだよアリシア?
「そこまで考えてなかったニャ~~~~~ッ!」
月夜の晩に猫が鳴く(泣く)のは良くある事で・・・
戦いには発展せず。
だけども、どうやら曰くアリ気な少女ではありますね。
どうしてアサシンなんかになったのか?
そこには少女の身に起きた真実に訳があったのです。
次回 Emo~い その1
エモイ・・・エモーショナル(感動的)の造語であり、感極まった時などに使います。
で?何がエモいんでしょうねぇ?




