平穏家庭戦線異状アリ?!その3
とうとう・・・と、言いますか。
やはりと言うべきか。
また一人・・・娘っ子が仲間になったみたいですね?
家の直ぐ脇まで来た時、雪華さんが思い出したんだ。
そういえばアリシアはどこに行ったんだろうかってね。
「野良君、やっぱりアリシアさんは迷子になっちゃったのかしら」
萌をおんぶしている(まだおりようとしないからだぜ?)俺へ訊いて来たんだ。
「おおかたそうだろうな。じゃぁ無かったのなら、こっぴどく叱りつけてやるさ」
雪華さんの言う様に迷子になってしまったのかもしれない。
アリシアはまだ、夜の乗山市を独りで歩かせるには早かったのかもしれないからな。
「もしかしたら家にまでも帰りつけなかったかもね」
そう言った萌もニャン子がその辺に居ないかを見廻しているんだ。
「そうかもしれないな。だとしたら迷子のニャン子を探しに行かないといけなくなるな」
面倒な事になるかも、だけど。
俺はアリシアが迷子になったのなら探しに行かねばならない義務があるんだ。
「咄嗟に機動ポッドを取りに行けなんて命じちゃったもんな」
そうなんだよなぁ、あの時は必死だったからアリシアが道に慣れていないのを忘れてたんだ。
「それはそうだけど。得意の機動ポットでなんとか出来た筈じゃないの?」
機動ポットを装備出来たのなら、道に迷う筈もないと萌が言うんだ。
「それじゃぁ本当に入れ違いになったのかもしれませんね」
雪華さんはニャン子が<びっくりモンキー>に行っているのではと言ったんだ。
「そうだったら、もう直ぐバツの悪い顔で帰って来るんじゃないかな」
背中の萌が、帰って来た道を振り返ってアリシアが戻って来ないか観ていたんだけど。
「そうかもな。だったら家に入って待ってれば良いさ」
「そうね、闇雲に探しに行ったって無駄足になるかもしれないもんね」
俺も萌も、アリシアなら待っていれば戻って来ると思ったんだ。
「そうですね、ここは家で待つのが良いと思います」
雪華さんも同意してくれた。
だから家の中で待つ事にしたんだ、アリシアが帰って来るのをね。
で。
萌が玄関のドアノブを握った時に言ったんだ。
「あ・・・あれ?!鍵がかかったままだよ・・・って?」
「うん?どうかしたのか萌」
ギギギィっと首を廻して俺を観る萌。
「そう言えばさぁ。アリシアって家の鍵を持ってなかったよね」
「ああ、萌が持ってるんだから、渡していないだろ」
俺は萌が何を言いたいのか分からずに言ったんだけど。
「だとしたら。
鍵がかかったままなのはどう言う事?」
「うん?魔法で鍵をかけて行ったのではないのか?」
玄関の鍵が閉じられたままなのを、萌が不審がったと思ってそう答えたんだけど。
「ちょい待ち!アリシアはどうやって中へ入ったのよ?
秘密道具で開けられたとでも言うの?」
「そうなんじゃないのか?」
単純に異星人が持っている技術力なら、鍵なんて簡単に開くと思ったんだ。
「鍵が開かなかったら、鍵を開けられる方法を考えるだろ?
例えば萌に鍵を貸して貰うとか、魔法で開けるとか・・・」
鍵を開ける方法を話す俺に、雪華さんが質して来た。
「あの状況で野良君に命じられたアリシアさんが執れるとは思えませんよ。
家まで帰って来た時にやっと、鍵がない事に気が付いたのではないでしょうか?」
・・・有り得るな。
「もしかしたら何も出来なくて、逆に助けを求めに行ったかもしれませんよ」
・・・誰に何処へ?
「もしも機動ポットが家にあるままなら、間違いなくそうでしょうね」
憮然たる声を残した萌が、鍵を開けて家に入る。
家の中は京香先輩に会いに出かけた時のままだ。
電灯の明かりの元、アリシアが家に入った形跡は残されてはいない。
一言も言わずにアリシアの私室に向かう萌。
アリシアの部屋を開けて中に入った萌が、やっと一言溢したのは。
「有りやがんの」
見に行くまでもないな。
半ば呆れた様な口ぶりから察するに、機動ポッドは部屋に置かれたままなのだろう。
「じゃぁ・・・やっぱり?」
雪華さんもため息混ざりに溢すんだ。
「ニャン子め。居辛くなってトンズラしたのか?!」
俺もやっと理解したよ。アリシアは何処まで行ってもドジな娘なんだってね。
怒る気も湧かなくなってしまえるのは、みんなが無事だったからでもある。
アリシアが居なくったって、ドアクダーを撃破出来るのが分かったからでもあるんだ。
アリシアには悪いことをしたのかもしれない。
鍵を渡すのを確認しなかった俺にも、責任はあるんだからさ。
「まぁ、闘いの前には十分に備えておかなきゃならないのが分かったから。
アリシアが戻って来ても、怒ってやるんじゃないぞ萌」
「まぁね、アタシもうっかりして鍵を渡しそびれてたからね」
萌は怒るというより、呆れていたみたいだ。
「そうですよね。
アリシアさんだから鍵を壊すとか、玄関を破壊するかとも思いましたけど。
しっかり後の事を考えて行動したともとれますものね」
そうなんだろうか?雪華さんはアリシアがそこまで考えて行動したと思うのかい?
俺はアリシアの事だから、秘密道具で何とかしようとしたと思うんだが。
その秘密道具が巧くいかなかっただけのように思うのだけど。
俺達3人がアリシアを擁護していた時だった。
何か情けなさそうな声が聞こえて来たのは。
「赦してニャ~~~」
あの声は・・・
「ごめんニャ~~~」
ニャ語?!
「助けに行く筈がこんな事になったニャ~~~」
うん?助けを求めている?
「帰って来れたのニャら、無事だったニョニャ?!
善かったニャ、アタシは良くないニャが」
聞こえて来るのは天井の上?
「秘密道具で屋根上に昇ったニョだが、降り損ねて引っ掛かったニャ~~」
助けを求めるアリシアの声で、俺達はベランダに急行したんだ。
ガララッ
窓を開けてベランダに出てみると・・・
何と言う事でしょう?!
「何やってるのよアリシアは?」
萌が・・・思いっきり呆れ果てたよ。
「アリシアさん・・・何の真似ですか?」
流石の雪華さんも、これには声を失ったようだ。
「助けるニャ、アルジのユージ」
白い壁にニャン子がぶら下がっている・・・としか見えない。
「まさか、家にまで猫掴みされるニャンて・・・情けないニャ」
それは偶然なのか?それとも必然だったのか?
なぜ屋根上に昇ったの?なぜ屋根上から降りようと試みた?
そして何故にニャンコ掴み状態になった?!
「今助けてやるからなアリシア」
俺はよっぽどこのままにしておこうかとも思ったけど。
笑えるアホニャンは、何とかして家の中へ入ろうと頑張っていたと感じたから、助けてやる気になったんだ。
「ごめんニャ~~」
謝るアリシアはしょげかえっている。
ケモ耳を下げ、尻尾を垂らして。
「よっこらしょ」
軽いアリシアの躰を持ち上げ、首根っこを挟んでいた洗濯干し竿ケッヂから外してやった。
「ありがとニャ、ありがとうニャ~~」
涙ぐむアリシアが俺達に謝った。
「戦闘にはならなかったニャか?それとも戦闘で勝てたニョか?
アタシが居なくても大丈夫だったニョか?怪我はしていないニャか?」
必死に訊く言葉には、俺達を思うアリシアの心が表れていたと思う。
自分に落ち度があると思って自責の念に駆られたのだろう。
「こんニャことにニャるなんて、下僕失格ニャ~」
謝るアリシアは萌に縋り付く。
「分かったわよアリシア。
何もしていないなんて言わないから」
さっきまでアホニャンとかドジっ子だとか言ってたけど、必死に家の中へ入ろうと努力していたんだな。
・・・でもさぁ。
「なぜベランダに降りようとしていたんだ?
降りたって窓がしまっているだろう?」
私室に繋がるベランダへと向かった理由は?
「それニャ~?
窓の鍵を閉め忘れているのを思い出したんニャ~よ」
・・・不用心な話だな。
「なんですって?!
アタシが日頃戸締りはきっちりしときなさいって言ってたのに?」
ほら。萌の怒りの灯が燈ったぞ?
「二階だから大丈夫だと思ってたんニャ~」
それが不用心だっての。
ピクク
萌が・・・怒った。
「ゆー兄ぃ。構わないからもういっぺん、猫掴みして!」
逆三角に吊り上がった萌の眼には・・・勝てないよな。
グイ
残念なアリシアを再び猫掴みするのは、やむを得ないだろ?
「猫掴みは辞めるニャ~」
ダラ~~~ン
・・・と垂れ下がるアリシアに、漸く萌の怒りも治まって。
「今日はそれで勘弁してあげる。
これからはもう少し落ち着いて行動しなさいよね」
萌が言いたいのは、俺にもってことだよな。
もう少し主人らしく落ち着いた判断力を養えって事だろ?
萌の瞳が俺も観ているから、そう思えたんだよ。
「それに・・・明日からはもっとややこしい生活が始まりそうな気がするの。
明日の学校で何が待っているのか・・・気が滅入るわ」
うん?
萌には関係ないだろ。
確かに嵐さんが来る予定になったけど、学年もクラスも違うだろうに。
俺は平穏な学校生活が戻るとばかり思っていたんだが?
「そうですね・・・間違いなく」
雪華さんまで?!
で・・・二人が俺を睨むのですが??
戦闘を終えた俺達が眠りについたのは暫く経った後。
各々の部屋に籠って寝たのは、もう日にちを跨いだ後だったよ。
「明日から嵐さんがクラスメートか」
俺は茶髪の嵐さんの微笑んだ顔を思い出していたんだ。
「きっと賑やかになるんだろうな」
アリシアに雪華さん、そこに嵐さんが加わるなんて。
「学校も・・・捨てたもんじゃないかもな」
楽しみでもあり、なんだか今迄の鬱蒼たる思いが嘘のようだ。
「俺が変わったのかな。それとも世界が変わったのかな?」
アリシアという子が現れてから、毎日が退屈じゃぁ無くなった。
毎日毎日が思わぬ出来事の連続になった・・・良い意味も悪い意味でも。
「後はドアクダーが現れなかったら・・・良いのにな」
闘いの疲れもあってか、俺は直ぐに夢の中へと入って行った。
夢の中で観たのは、いつも傍に居てくれる子。
俺の中で一番親しく、一番思い入れの強い子。
その子が近寄って来て・・・
「どうして毎日毎朝・・・殴って起こすんだよ!」
「決まりニャニョだと萌たんが言ってたニョだぞ」
笑いやがるニャン子に、返す言葉を失っちまった。
確かに萌も、俺を起こす際には殴るんだけど。
「良いではニャいか。鍛えられていると思えば良いニョだ」
善くない・・・死ぬだろ~が、その内に。
教室の片隅に居る俺達以外の生徒は、一人の少女を囲んでいたんだ。
それは・・・
「野良ッ!おめぇはまたかよ?」
「野良君・・・サイテー」
もう・・・聴き慣れちゃいました。
「あなた達、私のゆー君に酷いことを言ったら・・・オシオキしますよ?」
囲まれた中心から聞こえるのは。
「あらら野良君。嵐さんはいきなり皆さんへ警告しちゃいましたよ」
雪華さんがボソリと知らせて来た。
「まるで自分が彼女になったみたいな口ぶりですね」
対抗心からなのか、いつになく雪華さんが声を大きくしたんだ。
「あら?!私を於いて誰がゆー君の彼女になんてなれるのかしら」
あの~もしもし、嵐さん?
「わ、私だって!
野良君に認めて欲しいんです」
もしも~し、雪華さん?
ガヤガヤ・・・ざわざわ
クラスの中がざわめいちゃってますよ。
「アルジのユージ。どうなっちゃってるニャ?」
昨日不在だったアリシアは蚊帳の外だ。
と、そこへ。
「ゆー兄ぃにちょっかいをかけないでくれますっ?!」
一学年下の萌が乱入して来やがりました。
「お~ほほほっ!妹風情が彼女に文句を垂れるなんてね」
「むきぃ~ぃっ?!認めないから、彼女なんて!」
本気で萌も言い争ってますよ?
「アルジのユージ。お弁当は食べれるニャろ~か?」
蚊帳の外のアリシアは恋より食い気が勝っているようです。
「平穏な学校生活になる筈だったのに?!」
思わず声に出しちゃった。
そしたら傍らのニャン子が言いやがるんだ。
「アルジのユージは大変ニャ~」
お前にだけは言われたくないぞ!
退屈ではないけど。
だけど・・・こんなのは・・・駄目だ?!
嵐がラン入?!
これで3人目の魔女っ子がユージの元へ集うことになったのです。
やきもきする萌たんの心中は察するに余りある・・・のかな?
優柔不断は身を滅ぼすぞユージよ。
これで3人・・・残りは?
次回 アサシン・シンバ その1
暗殺者だと?!誰を狙うんだろう?W




