平穏家庭戦線異状アリ?!その1
その場から立ち去ろうとしたんだけど。
呼び止められちゃったW
「待ちなさい君!」
家路についた俺を呼び止めるのは。
「まだ話が付いちゃぁいないでしょ!」
嵐さんと話していた京香先輩だったんだ。
「え?!話ってなんですか?」
てっきり京香先輩と嵐さんとで昔話に盛り上がるんじゃないかと思っていたんだけど?
呼び止めた俺に近付いて来る京香先輩と、手を曳かれてくる嵐さん。
「決まっているだろう、嵐の収去についてだ」
「ちょ、ちょっと京香?!今話さなくったって・・・」
京香先輩は慌てふためく嵐さんを、強烈な眼力で黙らせると。
「トッポイボーヤ君!君には責任を執って貰わなきゃならない。
嵐を宿命から解放させると約束していた筈だぞ!」
今度は俺に対して拒否権を与えない威圧を加えて来るんだ。
「だから、嵐を傍に置かねばならない・・・いいな?」
なにがどう良いんですか?
俺が断ろうと口を開きかけたら・・・
「勇者剣士って奴に言ってるんだ。
君の中に潜んでいるんだろうが、隠れていても判っているのよ。
嵐が惚れちゃったんだから、責任を果たすのは男の務めだからな!」
はいぃッ?!
「わぁッ?!京香の馬鹿ぁッ!」
顔を真っ赤にして頭から湯気をたてている嵐さん。
拒否したら良いのに、それじゃぁ認めたのと同じですよ?
・・・って。賢者タイムに突入する俺が居ました。
「馬鹿馬鹿馬鹿ァッ!どうしてバラしちゃったのよ京香!」
「ふん?嵐の方から好きになっちゃったって言って来たからだろう?」
ありゃま・・・嵐さんも損な子でしたか?
「ひぎゃぁッ?!彼の前で言わないでぇよぉッ!」
京香先輩は直情な女性ですからねぇ。
抗議する嵐さんを片手で制した京香先輩が、俺に向けて言うのには。
「明日から嵐を復学させようと思うんだ。
行方不明だったのだから、元の学び舎に戻れる筈だ。
それに、見た目も君と変わらない年頃に観えるのだから、無問題だろう?」
「復学ですか・・・って?!ええっ?」
嫌な予感がしたんだ。
「あのぉ。嵐さんは東雲高校の何年何組でしたか?」
少しばかり戸惑っている雪華さんが聞き返したよ。
「ああ、4年前のクラスだな。
確か二年A組だった・・・よな、嵐?」
「そうだけど?」
・・・マジか?!俺達と同じクラスじゃねぇか?
「そうだったのですね。それじゃぁ復学されたらクラスメートになれますね」
雪華さんは何の憂いもなく言ったんだけど。
「マジですか?俺達のクラスに、また異能者が現れるなんて」
俺はクラスの異常さが気になったよ。
アリシア・雪華、そして俺を含めると3人もの異能者が居るクラスなんて、誰が想像つくんだ?
それに今度は嵐さんまで含まれるとなると・・・
「良いじゃないですか野良君。賑やかになって」
雪華さん・・・分かってませんね?
「ふむふむ、この子は中々物分りが良いじゃぁないか。
そういうことで・・・しっかり付き合ってくれなきゃならんからな」
京香先輩が俺だけに念を押したんだが?
「付き合うって言っても・・・俺はフリーが良いんですからね!
誰か一人と付き合うなんて、今は考えられませんから!」
先に断っておこうと思ったんだ。
俺は誰からも束縛されないですからって・・・でも?
「そうか!今は誰も君に付き合えって迫ってはいなかったのだな?!」
「はいいいぃッ??」
断りの効果が逆に働いちまった?
「そうだったの・・・ゆー君。
てっきり私は彼女と恋仲なのかと・・・違ったんだ?」
「ほえええぇ~~~ッ?!」
駄目だ・・・物凄い勘違いをされちゃってる気がするぞ?!
ここははっきり言うべきなのか?
「そっかぁ!じゃぁ、私も名乗り出ても良いんですね野良君」
「いッ?!せ・・・雪華さんん~~~~?」
言う前に事態が悪化しちまった?
「ふむ・・・私としては嵐を応援したいところだが。
これは予想以上に過激化しそうだな、あはははは」
笑い事では・・・ないですよぉ!
冷や汗が垂れる・・・けど。
俺の背中で安らかに寝息をたてている萌には気が付かれちゃいないよな?
もしも萌が起きていたらと思うと・・・気が気ではなくなる。
「もう決まった事だからな。
明日から学校で宜しく頼むぞ、トッポイボーヤ君」
「うひいぃッ?!勘弁してください」
笑う京香先輩と、頭を下げて来る嵐さん。
本当は現界に戻れたのを喜んであげるべきだろうけど。
「そ、それじゃぁ。俺達は帰りますので」
這う這うの体で逃げ出す事にしたよ。
「ああ、またバイトで逢おう」
そう言ってくれた京香先輩。
俺達異能者を観ても動じず、友を想い続ける優しく強い女性。
本当は京香先輩こそが、勇者様なんじゃねぇだろうか?
振り返った俺は、京香先輩という女性が醸し出す雰囲気に感謝したんだ。
先輩が居てくれなかったら、多分こんな風にはいかなかったんだろうと思って。
「ありがとうございました京香先輩」
感謝の想いを込めて、俺は呟いたよ。
二人が居る<びっくりモンキー>から家路について暫くした時。
「ゆー兄ぃは、京香お姉さんみたいな人が好みなんだ?」
耳元に小さな声が届けられた。
「あ、萌・・・」
起きていたのか・・・と言いそうになったら萌の手が口を塞ぎやがった。
「しっ、雪華さんに聞かれちゃうわよ」
寝たふりをしてやがったのか?
「で、何を言うつもりなんだよ?聞かれたらやばいのか?」
ぼそぼそと、萌に聞こえるぎりぎりの声で訊き咎めたんだ。
「そ。
他の子に聞かれたら大変だから。
それに、今しかないと思うから・・・私の声を届けておけるのは」
はっきりと<私>と言いやがった。
つまり俺が背負っているのは萌であって萌じゃない?
「萌のもう一つの人格か?その君が俺に言いたいのはなんだよ?」
「そっか・・・分かるんだ。憑代の兄なだけはあるわね」
やはり、この子は萌じゃない?
「ユージニアスを宿す子に知らせたいのは唯一つ。
私の中にある地図を、邪悪なる者に渡してはならない。
その為に彼は遠い星にまで来て護ってくれているのよ。
・・・勇者剣士は・・・ね」
頭の中で誰かが頷いた気がした。
もう一人の俺・・・ユージニアス?!
「ユージ・・・私は彼をそう呼んでいるの。
それを彼が認めてくれたから・・・私の心を認めてくれたから。
だから、彼に託してもいるのよ・・・<ケラウノス>を」
俺の中に居るユージニアスについて教えてくれる。
「星をも砕く<ケラウノス>。
私の地図が導く果てに在るのは、絶対なる刃。
彼が持っているのなら安心だけど、他の誰かに渡れば。
全宇宙をも破壊し尽く惧れがあるわ」
「え?それ程の破壊力を持つ物があるのかよ?」
俺には想像も出来ない力だけど。
本当にそんな物があるのなら、邪な奴等が狙わない手はないとも思えた。
「一つだけ。
私達の願いを聴いて欲しかったの。
彼も私も、願う事なら人として暮らしてみたかった。
普通の人生を全うして天に召されたかったの・・・・もう無理だけど」
どういう意味だよ。
萌の中に居るのなら、普通の人生を過ごせられるんじゃなかったのか?
「なぜ無理なんだよ?」
俺が訊いたら、もう一人の萌が悲し気に言ったんだ。
「だって・・・私は地図を隠す為だけに存在しているのだもの。
永遠に隠れ続けなければならないのだから」
永遠・・・それがどれ程の苦しみを与えるのか。
俺には到底理解出来なかったよ。
もう一人の萌から教えられたのは、運命に翻弄され続けているのだと。
あまりにも非情な運命の子なのだと告げられちまったんだ。
それが萌・・・いいや、勇者剣士の宝。
地図を隠す巫女、モエルという子だったんだ。
京香先輩は、どことなくあの人に似ています。
あの人?
さて。あなたがイメージするのは誰?
モエルさんが話すのは、碧き勇者との運命。
ユージはもう一人の萌に・・・
次回 平穏家庭戦線異状アリ?!その2
平和って良いよネェ~。だけど数万年も隠れて居たら退屈じゃね?




