日常という幸せ その2
3匹の小悪魔襲来!
ユージに逃げ道があるのか?!(完全に退路を断たれた!)
「ご注文はお決まりでしょうか(棒)」
顔がはっきりと引き攣ってる。
注文バーを片手に、直立している俺へと注がれる視線に耐えて。
「ゆー兄ぃ・・・来ちゃった」
ヒクヒク
萌が屈託のない笑顔で言うのは良しとしよう。
「アルジのユージ!ここは一つ主人たる処を見せるニャ」
ギリギリッ
糞猫に言われると歯ぎしりしてしまうぜ。
「野良君、ファミレスの制服姿もお似合いですね」
クッ?!
雪華さんに微笑まれると・・・恥ずかしい。
最近になって漸く俺に対しての警戒感が薄れたようで、話してくれるようになったばかりなのに。
こんな場面を誰が想像出来るんだ?
「ご注文は(棒)?」
繰り返す俺に、萌がニヤリと笑うと。
「分かってるのゆー兄ぃ?払いはみんなゆー兄ぃモチだかんね」
「・・・なぜぇ~~~」
どうしてこうなるんだよ萌さん?
「仕方ないじゃないの。ゆー兄ぃがアルジなんだから」
「・・・なぜぇ~~~」
絶対こうなる気がしたんだ。
3人の笑顔を観た瞬間に。
「どうして店に来たんだよ?家で待つ約束だったじゃないか!」
「深い訳があってねぇ~・・・おほほ!」
萌がここぞとばかりに笑いやがる。
俺のバイト代を食い潰す気か?!
「なによその顔は!兄らしい処を見せてくれたって良いじゃない!」
「いや待て。そこに兄らしい処は関係ないぞ」
不毛な会話だと思うけど、ここで折れたら示しがつかない。
「まさか無銭飲食する気じゃないだろうな?」
「まさかぁ~、さっきも言ったじゃない。払いはゆー兄ぃに任すわ」
それを無銭飲食って言うんだよ!
俺と萌が口論している脇で、ニャン子はメニューをざっと見廻して言いやがった。
「萌たん、取り敢えずこのページにあるモノ全部頼むニャ」
・・・待て糞猫!
「それとドリンクバーもね」
・・・萌?!
「あ、私はベストチョイス・クランってスペシャルメニューで」
・・・一番高い奴ですが、雪華さん?!
呆然と立ち尽くす俺に、3人がニマリと嗤いやがった。
「くっ?!一週間分の給料が・・・消えるのか?」
「甘いわねゆー兄ぃ。まだデザートが残ってるわよ?」
・・・化け物め!
なんてこった・・・最悪だよ。
俺は助けを求めるように京香先輩に合図を出したんだが、京香先輩は十字を切ったよ。
「残念!トッポイボーヤ君」
へらへらと笑われて、仕方なくバーに入力していかざるを得なくなった。
「い、以上でございますね?」
「追加はその都度言うから」
止めてくれ~!
引き攣る顔を誤魔化し、3人から這う這うの体で逃げ出したよ。
「悪夢だ・・・なぜこんな目に遭わなきゃならないんだ!」
3人娘を観た瞬間に感じた悪寒は当たっていたんだ。
バイトに来ているのに、ドアクダーと闘っているような寒気が襲って来たよ。
「京香先輩ぃ~、俺・・・早退しても良いっスか?」
「絶対ダメ」
そう言われると思ったんだけどね。言いたかったんだよ、情けなくて。
配膳係の京香先輩が忙しく3番テーブルに料理を運んでいる。
盛り上がる皿を陰から観ている俺は、皿が給料に羽根が生えているみたいに見えたよ。
「あああ・・・俺はなんて不幸なんだ?!」
料理は主にアリシアが平らげてやがる。
「覚えてろよ糞猫め!」
本気で殺意を覚えそうになったぜ。
満足げにお腹を摩っているアリシアを観てたらさ・・・
彼是、俺のバイト時間ギリギリまで居やがった3人が、やっと腰をあげた。
「そんじゃ~ねぇ~」
おい・・・こら!
「ゆー兄ぃに任すよ~」
萌・・・本気かよ?
伝票をひらひらさせる萌。
・・・と?!
「お会計して!」
俺にカウンターへ来いと?!
3人が集まる会計に呼びつけられちまった!
これはもはや・・・修羅場かな?
「ほら・・・早く」
萌が伝票を突きつけやがる・・・金もないのに?!
それは俺に支払えって事か?
「う・・・えっと・・・ひぃっ?!」
バーコードを読み取ったキャッシャーが突き付けて来たのは・・・
「い、一万と四千円になりやがりマシュ」
思わず声が裏返っちまったよ。
ファミレスで払う金額じゃねぇって!
「おやぁ~、案外リーズナブルだったわね」
・・・殺すぞ!
「ニャ?もっと食べれば良かったニャか?」
・・・殺意を覚えました。
「お腹一杯になりましたね」
・・・雪華さんだけがまともだったか。
引き攣る俺に、萌がウィンクしやがると。
「じゃぁ~・・・これで」
と?!差し出されたのは?
「野良君には言っていなかったですよね。
私の前の主人から手渡されていたクレジットカードです。
このカードって使えますよね?」
雪華さんが萌に預けた?
黒いカード・・・アノックスカードの黒と言えば?!
「し、支払価格が無制限を保証されている黒のカード?!」
「そうみたいねぇ~~~」
萌が横からあざとく笑いやがる。
「使えますでしょうか?」
雪華さんが小さめな声で訊ねて来る。
「あ、はい・・・お待ちください(硬)」
余りの事で動揺した俺は、雪華さんに敬語で応対してしまったよ。
恐る恐る・・・キャッシャーにカードを通す・・・と。
ピッ
何事も起こらず認証されちゃった。
しかも料金の支払いまで終わっちまったんですが?
誰が支払うんだ?カードの持ち主は訴えないのだろうか?
・・・って。
待てよ、雪華さんの元主人というと?
「ド、ドアクダーじゃぁねぇのかよ?!」
やっと事態を把握したよ俺は!
「そっ、だよ~!」
「そっだよ~・・・じゃぁないッ!」
犯罪組織のカードを使うなんて、犯罪に加担しているような気がするんだが?
「違うよゆー兄ぃ。
これを使う事によって、ドアクダーを叩く事にもなるんだからね」
「なに?どう言う事だよ?」
カードを差し出すと萌が講釈を始めたんだ。
「このカードは世界銀行が認める資本から融資を受けているのよね?
だったらカードが保証する位の資本を手にしている筈よね持ち主も」
「そ、そうだろうなタブン」
カードは本物。
だとしたらカード会社は持ち主の保証をしているとみて良い。
「持ち主は金額的には小さくったって、使われた形跡が分ったのならどうすると思う?」
「使った奴を捕えようとするな、警察に訴えて」
そこで俺は答えに詰まったんだ。
ドアクダーが警察に訴えれるかってね。
「そう!警察に訴える・・・事が出来ないのなら?
使った奴を調べて回収するしかないでしょ?」
「つまり・・・俺達を捕まえに来る?」
「ビンゴ」
・・・お~い、萌。それじゃぁ不味い事になるんじゃないのか?
俺は開いた口が塞がらなくなって、義妹を見詰めたよ。
「元々、アタシ達を捕まえようとしているんじゃないの。
こそこそ隠れていたってあいつ等は襲って来るじゃない。
それならこっちから出迎えてやった方が良いんじゃない?」
「待てよ萌、そんな危ない真似をしなくったって」
隠れて過ごす訳じゃないけど、危険を呼び込むのはどうかと思うぜ?
「あらぁ~?異星人の御主人ともあろう方が言うセリフなの?」
「いや、しかしだな?」
萌の言いたい事は分かるけど。
「大船に乗った気でいるニャ~って、言うべきニャ!」
お前は黙ってろアリシア!
「野良君、ここは男気を示す場合でわ?」
・・・雪華さんまで?
考えてみたらそうかもしれないな。
いつ襲われるか分からずに怯えて過ごすよりも、待ち構えておく気構えだったら。
「そうかもしれないな。
此処に俺達が居るのを示せば、襲って来ないかもしれないしな」
3体のドアクダーを倒した実力を知ったのなら、諦めるかも知れないし。
「それはどうだか。まぁ、襲われないのに越したことはないからね」
カードを受け取った萌が、ニヤリと笑うと。
「さて・・・と。今夜の処はこれでお終いにしといてあげる」
アリシアと雪華さんを促して勝ち誇りやがった。
「今度はニャ~、倍のボリュームに挑むニャ~~~!」
阿保か?!
アリシアは満足げに尻尾を振ってやがる。
「御馳走様でした野良君」
にこやかに笑う雪華さん・・・可憐だ。
「じゃぁ、また来るね京香さん!」
うッ?!
萌が俺の背後に居た京香先輩に手を振って、やっと俺が気付いたよ。
「トッポイボーヤ・・・今日は災難だったな」
ポンと肩に手を置かれて・・・
「災難続きに・・・アレをカタしろよ?」
3番テーブルに山積みされた皿を指して言われちまったよ。
「やっぱり・・・悪夢だぁ!」
今日は損な・・・日だったようだなW
ユージに待っていたのは絶望?
萌達の傍若無人ぶりにお手上げ状態みたいですね。
ですが、萌さんにはちゃんとした解決策があったようです。
しかも、今居る立場を考えた行動だったのです?!
その訳とは?
次回 日常という幸せ その3
星空の元、義兄妹は走り回るのです。笑顔を零して・・・・




