日常という幸せ その1
闘う少女はどこにでも居ます。
生活に戦う少女・・・萌。
居候の食事まで造る羽目に・・・
乗山市の高台にある東雲高校。
他の学校と何も変わらない普通の高校に観えたのですが、事件は起きたのです。
まず最初に英語教師が、続いて校長までもが行方不明になるという。
教育委員会でも問題になったのですが、そもそも二人の教師が在籍している事自体が不自然だと発覚したのでした。
土安英語教師は実在しているのが分ったのですが、東雲高校ではない遠く離れた場所の英会話塾講師だったのです。
また、校長として赴任していた城戸も実在していたのですが、数か月前に事故で亡くなっていたのが分ったのです。
どうしてこのようなことになったのかが問われましたが、教育委員会はうやむやの内に真相究明を放棄してしまいました。単なる書類上のミスだったことにして揉み消しにかかったようです。
事件が起きてから早1週間が過ぎようとしていました。
野良 有次は、義妹の萌と同居を始めました。
戸籍上では二人住まいなのですが、そこへ二人の居候が転がり込む結果と相成ったのです。
戸籍上存在しない?それは一体・・・
「アルジのユージはどこに行ったんニャ?」
赤毛の少女がソファーから起き上がって訊ねます。
「主はバイトとかいうモノに出かけたようです」
ストレートの黒髪が美しい女の子が小声で答えました。
すると、アホ毛をピョンと建たせた赤毛の少女が。
「ユージは今日も働きに行ったニャか?」
キッチンに居る黒髪の少女へ訊き返したのです。
「そうよ!食い扶持が二人も増えてるんだからッ!」
食事の準備に忙しい少女が、ぶっきらぼうに答えるのです。
「仕方ないニャぞ萌たん。
アルジのユージが主ニャニョだから、アタシ達は此処に居るニャ」
「すみません萌さん。お手伝いしましょうか?」
赤毛と黒毛の二人がキッチンで格闘している萌さんに言いました。
「うん雪華さん手伝って。アリシアは雪華さんの爪の垢を煎じて飲みなさい!」
二人への対応が全く違いましたね萌さん。
「あんまりニャぁ~~」
嘆くのならソファーにごろごろしてるなっての。
雪華さんがキッチンへ手伝いに行くと、萌さんが4人分の食材を前にして格闘しています。
「あの・・・萌さん。一つ訊いても宜しいでしょうか?」
「はい?なに」
包丁で青梗菜を切り刻んでいる萌さんが聞き返しますと。
「これは主の好みなのでしょうか?」
ぐつぐつ煮立つ鍋を指しています・・・が。
「確か鍋と思うのですが、何故に漉し餡を?」
「へ?!確かみそ鍋にしようと・・・ぎゃッ?!」
どうしてそんな間違いが出来るのでしょう?
萌さん・・・ある意味天災(天才)かも・・・
「あわわわっ?!どうしよう?」
最早これは食せません。
餡子味の肉なんて・・・おぇえええぇ~。
「どうかしたニャか?」
事態を把握していないニャン子が甘い匂いに誘われて寄って来たのです。
「う・・・そうだ!(アホニャンに毒見させよう)」
いけませんねぇ萌さん・・・(にやり)
「ねぇ、アリシア。ちょっとつまみ食いしてみない?」
悪知恵か、はたまた悪戯心なのか。
萌さんは何も知らないニャン子を誘惑したのです。
「ニャ?!本当ニャか?」
甘い匂いに寄って来たニャン子が断る筈がありません。
「ホント・・・さぁどうぞ」
味見皿に肉を盛って手渡す萌さん。
どろりと流れ落ちる餡子のだし汁・・・に、浸かった肉?!
「おいしそうニャ・・・いただきますニャ!」
萌の気が変わる前にと、急いで口にするアホニャン。
ばくッ!
食べました・・・ね?
モグ・・・モ・・・グ・・・
咀嚼してますね?
「ぶふぅッ!」
吹いた・・・W
流石の悪食娘も、これには負けたようです。
「ぜは~ぜは~ッ!何ニャこの味は・・・毒ニャか?!」
「毒見って言葉・・・知ってる?」
悪びれない処なんて、流石は萌様。
対してニャン子なアリシアは蒼白になってやがります。
「死ぬかと思ったニャぞ!何ニャこの味付けは?」
「うん。だし汁にみりんと味噌を入れようと思ったら・・・」
ふむふむと聞くアリシアに。
「だし汁に漉し餡を入れちゃったのよ~~~」
てへぺろ状態の萌様。
「阿保にゃ~~~ッ!」
逆毛をたてるアホニャン。
「アホで悪かったわね!今晩のおかずが台無しになった・・・」
「ニャンと?!損にゃ~~~~」
不毛です、不毛すぎます!
「萌さん、気を落とさずに」
雪華さんが元気つけてくれますが。
「どうしよう、こんなのゆー兄ぃに食べさせられないよ」
「まさか?アタシに食べろって言うんじゃニャいのか?」
横目でアリシアを観たから怯えているみたいです。
「いや、さすがに。肉に餡子がしみ込んじゃってるし無理でしょ」
「ほッ、にゃああああぁ~~~~」
心底ほっとしていますねニャン子も。
へにゃへにゃと崩れ落ちるアリシアの横で、萌さんがどうするべきか考えています。
「晩御飯が壊滅しちゃったからなぁ。こういう時は」
「萌さん、何か浮かばれたのですか?」
雪華さんが小声で訊いて来ます。
「そうよ!こう言う時にこそ。
ゆー兄ぃのバイト先に行くべきなのよ!」
は?!
「あの・・・萌さん?」
意味が分からない雪華さんが聞き返しますと。
「ほら!ゆー兄ぃのバイト先ってファミレスじゃないの!」
「はぁ?・・・え?!」
ニヤリと嗤う萌さん・・・恐いです。
「ゆー兄ぃの顔で、何とかして貰おうじゃない!」
あの・・・ねぇ?
「そうニャ!こんな時にこそアルジには主たる処を見せて貰うニャ!」
おい・・・糞猫!
「そうですねぇ・・・そうしましょうか?」
あ・・・雪華さんまで。
これで3者の意見は結託したようです。
「そんじゃぁ可愛い妹達の願いを聞いて貰うとしましょうか!」
「賛成ニャ~~~!」
「右に同じ」
・・・あああああ?!
これはユージにとって地獄がやって来るような物でわ?
市内のとある街角。
そこには大手ファミレス<びっくりモンキー>が店を構えていました。
笑顔が似合ってる女性店員が来客を迎えます。
「いらっしゃいませ~、3名様ですか?」
ファミレスの制服が妙に似合ってる京香先輩が客を案内して来る。
笑い顔で・・・案内して来た・・・って?!
「お~いトッポイユージ君。お客様だよ~」
げげっ?!
「萌ちゃんとお友達ぃ~」
なぜ・・・現れた?!
京香先輩に案内されてくるのは・・・
「萌?!アリシアに雪華さんまで?」
普段着姿の3人娘が現れた!
「やっほ!ゆー兄ぃ」
「アルジのユージ!来たニャぞ」
「野良君、お疲れ様です」
・・・だらだらだら・・・
俺の背中に悪寒が過る。
「初めてじゃないの?ユージ君の妹さんが来るなんて」
「来るなって言ってあったんですが・・・」
冷や汗を掻く俺の背中を先輩がドンと叩くと。
「こら、お客様に対して無礼でしょ」
「アイツ等・・・客じゃねぇですよ!」
何を考えているのやら分かりかねるから。
「何言ってるのよ、友達を連れて来てくれたんじゃない。
有り難いお客様に違いないわよ!」
京香先輩はアリシアや雪華さんを知らないから言えるんですって。
「まぁ、萌ちゃんの手前。ユージ君に担当して貰うわね」
「ええっ?!マジですか?」
ファミレスの制服姿なんて萌にも見せた事がない。
ましてやニャン子や雪女の魔法士になんて。
「いいから。
他の配膳は私がやっとくから、妹ちゃんにへばりつきなさい!」
・・・なんと言うか。
京香先輩、気を配り過ぎですよ。
京香先輩は結わえあげた黒髪を靡かせて行ってしまった。
残された俺は、仕方なく3番テーブルに着いた3人の元へと向かうのだった。
「嫌な予感しかないな・・・」
マジで・・・
アリシアと雪華さんという居候を養うのは大変です。
でも、そこはそれ。
悪賢い萌さんの見せ所?!
ユージに待っているのは・・・修羅場しかないのか?
次回 日常という幸せ その2
バイト先は戦場だった?!娘が3人寄れば・・・姦しいという




