闘う少女 その4
異能が消えた後。
ユージはまたもや・・・やらかしてしまう?!
いったいそれは??
振り返った俺の眼に映ったのは・・・
「萌なのか?萌なんだろうけど、いつの間に昔の髪色になったんだ?」
義妹になる前の髪色。
栗毛色と云うより金髪に近い萌が目に留まったんだ。
数か月前の萌が居たんだ・・・何故かは知らないけど。
「萌だろ?」
俺が呼んでも応えてくれない。
黙ったまま俺を観ているだけで、声を出そうともしていないんだ。
唯、翠の眼を俺に向けたまま口を噤んでいるんだ。
目を開いて俺の方を観て・・・驚いたような顔をしているだけなんだ。
・・・って?!そうだ、オードアクダーが俺の前に居たんだった!
咄嗟に闘いの最中だったのを思い出した。
だけども・・・
振り返った先には、もう何も居やしなかった。
「奴は?アリシアが倒したのか?!」
オードアクダーが居た場所には、蒼い珠が転がっているだけだったんだ。
蒼い綺麗な珠が一つ、それだけが転がっているだけ。
「あれは?オードアクダーが残して行ったのか?」
目の前に転がる珠を観て、そこで何が起きたのかと考えたんだが。
「これは?なんの珠なんだ?」
俺は気絶していたから、珠の持ち主がてっきりオードアクダーだと思ったんだ。
これが半魚人の残して行った何かだと思ったから・・・
「綺麗な珠だなぁ、半魚人が持っていたとは思えない位に」
掴もうと手を伸ばしたんだ。
「駄目!それに触れたら駄目ッ!」
横合いからアリシアと斬りあっていたセッカの声が聞こえたんだけど。
「アルジのユージ!それに触ったら駄目だとセッカにゃんが言ってるニャぞ!」
ニャン子までが停めて来たのには驚いた・・・のだが。
「え?!」
俺が蒼い珠を掴んだ後だったんだ。
蒼い珠を掴んだ・・・俺。
途端に手の中で蒼い珠が怪しく輝いた。
「え?!え?」
蒼い珠を掴んだ手が凍てつくような感覚に襲われる。
「冷たッ?!」
驚いた俺が珠を振り落とそうとしたのだが、珠は手にくっついたように離れてくれなかった。
「うわッ?!」
しかも・・・だ。
蒼い珠が手の中に消えていきやがるんだよ。
俺の手の中へ吸い込まれるみたいに・・・消えていくんだ。
「どうなってんだよコレは?!」
俺はやらかしちまったらしい。
オードアクダーの残して行ったトラップに引っ掛かった?
「おいアリシア何とかしろよ!もしかしたら俺迄半魚人にされちまうかもしれない」
慌てた俺がニャン子な下僕に助けを求めたんだが。
「あああッ?!どうして触ったんだ!私が警告したというのに!」
セッカが暗い顔で怒ってる。
「ニャンと?!物好きにも程があるニャぞアルジ」
物好きというか、警告するのが遅いんだよ!
とかなんとか言っている間に、蒼い珠は俺の手の中に消えちまったよ。
何だったんだ今のは?
「ああ~っ、何て事をしてくれたんだ貴様は!」
セッカが俺に詰め寄って来るんだが、何が何やら分からないんだけど?
「折角取り戻せるものとばかり思ったのに。
倒しておきながら珠を奪うとは・・・それが貴様の狙いだったのか?!」
詰め寄られた俺には答えようがないんですが。
「オードアクダーを倒してくれたのは感謝するが。
古の珠を盗られるとは考えてもいなかったぞ!」
いやあの・・・盗ろうとした訳じゃぁないんですけど。
「さっきから話が見えてこないんだけどさ。
あの珠はセッカのモノだったのか?」
「何を聞いていたのだ貴様は!
私にとって大切な珠だと言っていたではないか!」
あの・・・聞いてはいないんですよ俺は。
「アルジ~、惚けちゃ駄目ニャぞ?
セッカにゃんの大切な珠だって聞こえていた筈ニャぞ?」
だぁかぁらぁ~、俺は気絶していたんだってば。
「そう!だから貴様も審判を下す時に言ったではないか。
私に手を出すなと言ったではないか!」
審判?!なんですかそれ?
「半魚人のオードアクターをユージが斬る時に、確かに止めたニャぞ」
二人して俺を問い詰めて来るんだが、知らないモノは知らないんだってば。
「俺がオードアクダーを斬った?
知らないんだって、俺はさっきまで気絶していたんだよ!」
正直に答えたつもりだったのに、二人の眼が痛いのは何故だ?
ジト目で観て来る二人に、俺がもう一度言い返そうと思ったら。
「ユー、ユージニアス!」
金髪の萌が抱き着いて来たんだ。
知らない名を呼びながら・・・
「萌?!怖かったんだな」
てっきり萌が恐怖で口が回らなくなったのかと思ったんだ。
「やっぱり・・・あの時にも現れてくれた。
数年前の晩にも、あなたは私の前に現れたのよ?」
萌だと思うんだけど、まるで口調が違うんだ。
萌の姿の別人?まさかな。
「ユージ・・・アナタをこう呼べるのは私だけなのよ。
思い出して・・・この星に来た時のことを」
おいおい?萌さんよ。恐怖でファンタジーの世界に嵌ったのか?
「何を言ってるんだよ萌。しっかりしろよな」
俺は変な話を口走る萌を引き離すと。
「もう悪人は居ないみたいだから、安心しろって」
ドアクダーが居なくなったから、正気へと戻らせようとしたんだ。
「萌は萌だから。俺がユージなように」
引き剥がすように萌の肩を掴んで揺さぶってみたんだ。
「ユー・・・ユージ?ユージ・・・・兄ぃ?」
翠の瞳に正気が戻る。
俺を見上げる萌の顔にかかった髪が黒く戻る。
「ユージ・・・兄ぃ?」
ポカンとした顏。
俺と誰かを見間違えていたのか、瞬きして確かめているみたいだ。
「あ・・・あ?アタシ・・・もしかして気を失って?」
「うん、やっと萌に戻ったか」
黒髪に戻った萌がジッと俺を観ていたんだが。
ボクッ!
いきなりボディーブローが俺に命中した。
「何していたのよ!アタシがドアクダーに捕まりそうになっていたのに!」
「がはッ?!なぜ・・・殴るんだよ!」
殴っただけじゃなく、怒りやがるんですが?!
「アタシがどんなに怖かったかも知らない癖に!」
「だから助けに来たんじゃないか!」
ぷんすか怒る萌に、俺は言いたい事が山ほどあるぜ。
「助けに来るのが遅いっての!校長に危なく捕まるとこだったのよ!」
「だからっ!その校長だったドアクダーをやっつけたんだよ!」
吠える萌に怒鳴り返す俺。
二人共正気に戻ったのは良いけど・・・
「なんニャかねぇ~」
「そうだな・・・どうなってるんだ?」
蚊帳の外にされた魔法士二人が嘆いていますが。
「あの二人はきっと・・・」
「そうだな、きっと」
結界が消えていく中、異能者達も魔法が解けていきます。
「何が起きたのかも知らないんだろうな」
「残念ニャがら、そのようニャ」
4人が集まっている場所。
結界の中では広い空間だったのに、本当の世界では狭い校長室。
「闘い済んで日が暮れてぇ~ニャ」
義兄妹が言い合いをしているのを、魔法が解けたアリシアと雪華が見詰めていました。
「いいや、灼炎王よ。
私はお前の主、ユージと結ばねばならんのだ戦いに備えて」
「それはどういう意味ニャ?」
氷結のセッカはオードアクダーの結界が消え去った後、直ちに自分の結界を貼ったのです。
「何をする気ニャ?闘いは既に終わった筈ニャ。
もしや本気でアルジのユージから珠を盗り返す気ニャか?!」
もう一度炎の属性を纏う構えを見せるアリシアに、セッカは首を振ると。
「闘うの意味が違うのだ。
戦闘少女の契約を新規に結ばねばならなくなったからだ」
「ニャンと?!」
セッカはユージの手に消えた蒼き珠を指すのです。
「アレを宿らせた者と、私は契約せねばならない宿命なのだ。
どんなに理不尽であっても、一度は契約せねばならない。
それが悪だろうと、馬鹿で愚かな奴だろうともな」
「・・・悪で馬鹿なのはドアクダーだけで充分ニャ」
ユージを庇ってか、それとも下僕にされている自分を擁護する為かは分かりませんが。
アリシアはユージがどれにも当てはまらないと首を振りました。
「アリシアは主人をどう思っている?
ユージとか言う男子を快く思っているのか?」
セッカが質しました。
アリシアに訊いているのはユージが主人たるに相応しいかという事。
「そうニャ~、アルジのユージはお馬鹿に見えても律儀な子だニョ」
「そうか・・・現実世界の雪華も少しばかり心を許したようだしな」
え?!ホント?
「そうニャッ?!あの恥ずかしがりやな子がニャ?」
「そのようだ。私がユージに悪さをするのを心の底で拒んでいたからな」
そうだったのですか。あの恥ずかしがりやな雪華さんがねぇ。
「だから・・・私は取り返そうとは思わないのだ。
このユージをアルジとしても良いと思うようになったのだ」
「ニャンと?!アタシの他にも下僕が現れたニョか?」
既にアリシアはセッカが同じ下僕となるのを受け入れたと思いました。
その言葉を否定しないセッカに、確信を得たのか。
「これは偉い事にニャった!下僕が二人になるという事は。
萌たんが怒り狂うニョではニャいか?」
アリシア一人でも揉めたのに。
このままでは収まらないとニャン子は考えたのでした。
言い争っている義兄妹をとお~~い目で観て。
「闘う少女は、あそこにも居たニャ~~~~」
確かにそうも言えますね。
ああ、またしても不幸な少女が。
現実世界の雪華さんはどう思うんでしょう?
ユージの下僕が2人に?!
次回 闘う少女 その5
君は居候を2人も抱えて大丈夫なの?!




