灼炎王アリシア その2
半ば眼を廻しているニャン子を引き連れて、クラスまで戻って来た。
もう直ぐ昼休みも終わるから。
「萌たんはニャぜに、あれ程怒るニョだニャぁ?」
こいつは・・・未だに分かってないのかよ。
「あのなぁアリシア。弁当を丸ごと口へ放り込むのは駄目だぞ」
「うニュ?なぜ駄目ニャ?」
こいつは・・・根本的に問題児だ。
「備え付けられている箸を使えって」
「ハシ?ニャンぞそれ?」
・・・なるほど、箸を知らなかったのか。
「日本人は箸を使って食事を摂るのが一般的なんだ」
「おお?!異文化文明ニャか?」
まぁ、そうでもあるが。
「もしも箸が使えないのなら、フォークとナイフを用意して貰うけど?」
外国人なら、それが一般的だと考えたんだ。
「手で食べるのは行儀違反ニャか?」
「当たり前・・・って。アリシアの星ではナイフやフォークも使わないのかよ?」
確か記憶している処では、インド辺りでは手で食べるのが一般的だと聞いた事がある。
「そうニャよ?
でも、管理局に務めてからはナイフやフォークを使えるようになったんニャ」
そうだったのか・・・って。初めからそう言えよ。
「兎に角、この地に居る間は手で食べるのはご法度だからな」
「そうニャ~?シキタリは覆せないニャね」
仕来りなのかは知らないけど、行儀が良いとは日本では認識できないからね。
ウニャウニャ言ってる間に教室に辿り着いた。
「居るかな?」
そっと教室内を見渡す。
「居るニャ」
一番後ろの席には、
「雪華さん・・・」
襲って来た姿とはまるで違うセッカさんが座っている。
「どう見ても別人ニャけど?」
アリシアにはそう見えるんだろう。
だけど、俺の眼には氷結の雪華に観えちまう。
座っている雪華さんの髪は黒い。窓から外を見ている眼は碧い。
結界の中で観たセッカとは全く似ても似つかない。
でもな、顔の輪郭は間違いなくセッカなんだよ。
「もしも雪華ニャンがセッカだというのニャら、もっと巨乳ニャぞ?」
・・・止めんかアホ猫。
「アタシは観たニャ。
セッカはたゆんたゆんな少女だったニャぞ!」
・・・たゆんたゆん・・・だと?!
「もしや・・・機動少女なのか?」
アリシアを観て思いだしたよ。
機動少女に成ったアリシアだって・・・成長していたのをね。
「機動?それは無いニャ。
機動ポッドは保安官様より頂く装備ニャ。
ドアクダーの下僕が持てる訳がないニャぞ?」
「そうだった。
だとしたら、雪華さんはどうやって変身したんだろう?」
俺は既に雪華さんが氷結のセッカだと認定していたんだ。
「アルジのユージの勘違いニャのでは?」
いいや、勘違いなんかではないさ。
結界の中ではっきりと認めたんだからな、セッカは雪華さんだって。
「髪の色や瞳の色まで変わるニャんて。
機動ポットでもそこまでは変えられないニャぞ?」
そうなのか?知らなかったよアリシア。
「もしも変えられるとすれば、属性魔法の変質としか考えられニャい」
「属性魔法の変質?」
さっぱりな話に、俺が訊き返したら。
「そうニャ。
自らの魔力を行使する時、属性の魔法に因って体内色素まで変える物が存在してるニャ。
例えば赤毛のアタシが水の魔力を纏ったのなら、髪は蒼くなるかもしれないニャ」
そういうものなのか?
「逆に言えば、アタシの髪が赤毛なのは炎の属性を持っているからでもあるんニャ」
ああ、そう言う事か。
赤毛族のアリシアだから炎の魔法を備わっているとも言えるんだな。
・・・と。
聴きそびれていたのを思い出したぜ。
「そういえば、アリシアは機動ポッド無しでも変身出来たのは何故だ?」
「そんニャの簡単な訳ニャぞ。
魔法契約で下僕にされたアタシに、主人が命じたんニャから。
拒否するのは出来ない相談ニャんだから・・・下僕ニャら・・・ニャ?!」
自分で言い切って気が付きやがった。
俺の勘が狂っていたんじゃないと気が付いたみたいだ。
「そうニャ!セッカはドアクダーに命じられたと言ってたニャ。
主人の命令で仕方なく結界に連れ込んだんニャ?」
「そうだと思うぜ俺も」
それに・・・だ。
付け加えるのなら、雪華さんはそれを覚えていないのかもしれない。
結界を貼った事も、俺達を襲った事さえも・・・ね。
それを確かめるには。
アリシアをその場に置いて、俺は雪華さんに近寄る。
「雪華さん、話があるんだけど」
窓から外を眺めている雪華さんに呼びかけたんだ・・・
ずざざざざッ!
そしたらさ。
椅子ごと、思いっきり後退られちまったんだが?
これは・・・もしかして俺達の思い違いだったのか?
「訊きたい事があるんだ」
ずざざざざッ!
また・・・かよ?
一番後ろの席だから、それ以上は後退れないぜ?
追い詰めた感が半端ないな。
「君はどうして俺達を襲ったんだ?訳を話して貰えないか?」
正直、俺には雪華さんが襲ったなんて思いたくないし、信じたくなかったよ。
「・・・・・」
俺の質問に答えない雪華さん。
「答えて貰えないのは、肯定していると執って良いんだな?」
襲ったのが雪華さんだって訊いたんだ・・・けど。
蒼い瞳で俺を観ていた雪華さんが、突然机に戻ると。
「アルジ!危ないニャ!」
ニャン子が俺を庇おうとする・・・のだが。
気にも留めないのか雪華さんは机の中から筆記用具を取り出すと、何やら書き始めたんだ。
・・・で?
俺に向けて書いたノートを突き出して来た。
「あ・・・ニャ?!」
勢い込んだアリシアが書かれた文字を読み取ると、ノートと雪華さんを見比べているよ。
「ニャンと?!男の子とは・・・話せないニャと?」
引き攣るニャン子。
読まれた雪華さんはというと、真っ赤になって俯いちゃったんですが?
「今時そんニャ子が居るニャンて・・・純真無垢過ぎるニャぞ?!」
仰け反るニャン子を・・・
むんず
猫掴みにして余所に置く。
「恥ずかしいのなら、筆記で良いから教えてくれないかな?」
アホニャンはほっておき、俺は答えを促したんだ。
真っ赤になって俯いていた雪華さんが、顔を挙げてくれた。
「さっきはごめん。
突然で驚いただろうけど、訊きたい事があったんだ。
昼休みはずっとここに居たのかい?」
そこで躊躇する事なく訊いてみた。
コクンと頷いたけど、またノートに書き始めたんだ。
「「校長室に呼び出されたの」」
校長室へ?
「校長に何か言われたの?」
今度ははっきりと頷く雪華さん。
「「修学規定を言われたの」」
ああ、編入が急だったからかな?
「そうなんだ・・・じゃあ雪華さんは教室には居なかったんだね」
もう一度コクンと頷かれたよ。
これで雪華さんのアリバイは確定したかな。
頷いた雪華さんには校長室に居たという事実があるみたいだ。
だとすれば、俺の思い違いかもしれない。
結界の中でセッカが言ったのが嘘だということだ。
「ごめんね雪華さん。
いきなり失礼なことを訊いてしまって」
謝罪する俺に、雪華さんは真っ赤になって首を振っている。
と、質問した訳ではないのにノートに走り書きをすると。
「「また・・・お話しして頂けませんか?」」
ノートで顔を隠しているんですけど?
本当に初心なんだな。いや、恥ずかしがり屋なんだな。
「ああ、クラスメートなんだからね!」
快諾した俺に、また見せてくれたのは。
「「ありがとう」」
だって・・・さ。
「どうニャ?あれが氷結のセッカとは思えないニャぞ」
除け者にされたニャン子が言い募る。
「そうだな。俺の勘違いだった」
「でもニャぁ~、宇宙でも珍しい位の恥ずかしがり屋ニャのだ」
糞猫も爪の垢を煎じて飲め。
「アリバイとして言っていた校長との面談。
裏付けは必要ニャいのかニャ?」
一応ニャン子も保安官補助手だから、捜査の手順を言ったらしい。
「校長になんてそうそう気安く話せないぞ?
雪華さんと面談していましたかって訊けないからな」
「そうニャね。その校長って言うのは堅物ニャのか?」
校長って堅物だったっけ?
あんまり気にもしなかったし、詳しく知らないから。
「城戸校長って、名前ぐらいしか知らねぇよ」
「キド?キド・・・どこかで聞いたようニャ?」
アリシアが小首を捻って何かを思い出そうとしている。
「キ・・・は黄色のキ?ドは土色のド?
色で言えばキドは黄土・・・キド?城戸?黄土?」
アリシアは何が言いたいんだ?
「アルジのユージ?
漢字で書いたら何て読むニャ?」
アリシアが首に着けている翻訳機を押してグラフィックを表示させた。
フォログラムに表示されているのは黄色の黄と土色の土。
キド=黄土・・・つまりは。
「城戸=キド=黄土・・・オウド?」
おい・・・まさか?
「結界の中でセッカが言ってたニャ?
オウド・アクダが主人だって教えていたニャ」
マジかよ?
「それに、学校には土安みたいな奴が在籍していたニャぞ?
雪華ニャンだって、いきなり編入して来たんニャぞ?
しかも校長の肝入りだって畑本教師も言ってたニャぞ」
・・・大当り?
これは大変なことになった。
俺達は知らず知らずの内に、敵の本陣に乗り込んじまっていたんだ。
「そもそもニャ。
アルジのユージと萌たんは昔、怪人に狙われた事があったと聴いたニョ?
いつの間にかドアクダーの手が、学校にまで伸びて来ていたニョではニャいのか?」
俺には覚えがないけど、萌はそう言っているんだ。
怪物に襲われてしまった過去があるってね。
「それじゃぁ・・・また萌が狙われてしまうのか?」
「恐らくニャ。邪魔な存在のアタシ達を襲って来たのが証拠ニャ」
なんだって?!
衝撃が俺を突いた!
この学校に居る間は、気が抜けない・・・どころか。
「こんな場所に萌を置いておけるか!今直ぐ休学させるか転校させよう」
泡を喰った俺が萌を心配して言ったんだが。
「違うニャ!校長をやっつければ済む話ニャ」
ニャン子が言い放ったんだ。
問題を根本から廃絶させ得る手を。
「そ、そうか・・・って?!出来るのかよそんな話が」
相手は仮にも校長だぞ?
「出来ないも出来るも無いニョ。
アルジのユージが命じるのニャら・・・アタシが倒すニャ」
え?!
あの怖がりなニャン子が?
「萌たんはアタシの大切ニャ料理番ニャ!
主人にとっては掛けがえのない人ニャ?
だったら全力で護るニョが、下僕の務めニャ!」
おおッ?!マジかよ素晴らしい心がけだぞアリシア?
「そうしニャいと、アタシは飢え死にするニャ!」
・・・前言撤回。
どこまでが本気なのかは、この際目を瞑ろう。
どうやら俺達を狙って来たのは、銀河連邦保安官補助手アリシアの所為じゃないと分ったよ。
アリシアが来なかっても、いずれは俺達を狙って来た事は確かだ。
なぜなら、アリシアが現れる前から校長は居たのだし、土安だって存在していたのだから。
もしかしたら、アリシアが来てくれたのは神様の助けだったのかも。
「黄土を倒すニャ!」
黄土じゃなくて、城戸だってば。校長の名は!
息を撒くアリシアを観て、俺は思ったんだ。
糞猫なんて言っているけど、アリシアは俺達にとって女神なのではないかって。
明るく無邪気なアリシアは、神が授けてくれた天使なのではなかろうかとね。
不思議少女なアリシア。
良く分からないけど、間違いなく言える事がある。
それは・・・
「アリシア!こうなったらドアクダーを倒してやろうぜ」
「はいニャ~~!」
俺のニャン子は機動の女神なんだ。
なんですと?!
校長が首班であったと?
雪華さんは記憶していないだけなのでしょうか?
それとも・・・?
次回はまたまた妖しくなります?!
次回 灼炎王アリシア その3
ああ、やはりヒロインはあの子だったようですニャ?!




