昼下がりの怪異 その3
現れたのは春香に違いなさそうだった・・・のだが。
萌はしっかり見てから言ったんだ俺に・・・
昼下がりとは言えないかもしれないけど、公園には誰もいなかった。
いいや、此処まで来る道のりには歩行者なんて見受けられなかったんだ。
まるで人が居なくなってしまったみたいに。
「おかしいね、ゆー兄ぃ。
まるで外出規制中みたい・・・ううん、誰も居なくなったみたい」
俺が感じたのと同じように、萌も不審がっている。
街には人通りは無くなり、車だけが走っている。
それも、運転者が乗っているのか疑われる。
「なんだかおかしいニャ?街中の生命反応が無くなってるニャ」
何だかじゃないだろ!完全におかしいんだよ。
公園にまで辿り着けたのは良いとして。
俺達は来てはいけない場所へと入ってしまったのかも。
「待ち合わせの場所は・・・あそこだよ」
萌の指差したベンチには、やっと人影があったんだ。
「春香だ・・・」
制服じゃない普段着を着てる面長の少女がこっちを見ていた。
「でも・・・睨んでるよ?」
そう言った萌に知らされたのは。
「萌を睨んでいるんじゃない。俺とアリシアを睨んでやがるんだ」
そうさ。
奴には俺達が邪魔なんだからな。
「先ずは春香さんとは違う者だとの証拠を固めなくちゃならないな」
この変異がこいつの仕業ではないかと思うのだが、確実さを求めなきゃならない。
「萌は俺の後ろに隠れているんだぞ」
奴がどんな手を使って来るか分からない以上、庇わなきゃいかんだろ?
「え・・・あ、うん分かった」
この異常な空間が、ドアクダーの為せる業なのか。
それとも思い過ごしなだけなのか・・・ある訳がないけど。
「アリシアはいつでも戦闘が出来るようにスタンバイ」
「了解ニャ~・・・って、戦闘ニャか?!」
此処に及んでまだ躊躇うのかニャン子よ?
ジト目で観てやったら、アリシアが恐怖に怯えるように言いやがる。
「だってニャだってニャ、アタシは助手の補助ニャンだから。
機動戦闘なんてやった事も無いニョだから!」
・・・覚えてないのは本当らしいな。
「必要になったら命じるよ。
それまでは大人しく待機しておいてくれ」
「怖いニャ怖いニャ・・・そうなったらアルジのユージに闘って貰うニャ」
ニャごニャごしているアリシアから萌に視線を移し、
「萌は俺の傍から離れるんじゃないぞ?」
「う・・・うん」
か細い声を返して来る萌えの手が、背中のシャツを握った。
「離さないから・・・大丈夫」
そう。それで良い。
俺達はベンチで待つ春香さんに近寄った。
「なによ萌。一人で来なさいって言っておいた筈よ?」
さっそく、言って来たか。
春香さんの声に併せて、俺が背後に隠れている萌に目で訊いてみた。
これは本当の春香さんなのかってね。
声を聴いた萌が、まだ分からないと首を傾げる。
ふむ・・・それでは。
「俺にも言わせてくれって萌に頼んだんだが。来ちゃ悪かった?」
なるべく平静を保って、俺が話しかけたんだが。
「当たり前でしょ?これは私と野良さんの問題なのよ」
ふむ・・・どうだ、萌?
振り返って萌を観る迄も無かったよ。
背中のシャツを持っている萌が後退ったんだ。
恐怖に怯えるように震えた手で引っ張りやがったんだ、シャツを・・・
「この人・・・春香じゃない。
春香の姿だけど春香なんかじゃない。
だって春香は自分の事を私って言わないもん。
それに親友のアタシを苗字なんかで呼ばないから!」
小声で教えて来る萌は、震える声で知らせてくれたんだ。
こいつは人間なんかでは無いんだってね。
おっと失礼、地球人じゃないって言わなきゃいけないかな。
見掛けは萌の親友と瓜二つ。
声さえも同じようなのだが、決定的に違うのは・・・
「ゆー兄ぃ!
こいつは春香に似せた紛い物だよ。
春香なら、こんな澱んだ瞳をしてないから!」
そうだよ萌の言う通り。
こいつは人間の眼をしていない・・・呪われた様に歪んだ目だぜ。
「だとしたら・・・どうする気だ?」
もう隠そうともしないのか、春香さんだった姿が徐々に崩れていく。
「我等ドアクダーの手にかかって死に絶えるが良い」
はざく秘密結社員。
「もうお前達は我等が虜に堕ちているのだからな」
嘲笑う歪なる怪異。
「気付かなかったのか?ここには私とお前達だけが存在している事に」
気付かない訳がないだろう?
でも、ここって言うのは何処を指しているんだ?
「我等の存在を原住民に悟らせるには早過ぎるだろう?」
と・・・いう事は。ドアクダーで間違いない・・・確定。
「もう、お前達は逃げれやしないのだ。
ここを見つけて入れるのは、相当な魔法士くらいのもんだからな」
・・・外からなら入れはしないと?
「邪魔なお前達を一網打尽に出来た。
計画は少々違ったが、結果オーライって奴だ」
・・・ほほぅ?もう勝ったつもりで居やがるのか?
一方的に騒ぎ立てるドアクダー要員に、俺はため息を溢したよ。
俺達を捕まえた気になってる奴に、反吐が出そうになったんだ。
「一つだけ訊いたっていいか?」
「一つだけだぞ」
俺の質問は一つで十分だ。
「ここの中ならば、どんな破壊を齎したって外界には影響がないんだな?」
「如何にも・・・そうだ」
これで決まりだ。
「ありがとさん・・・ドアクダーの下っ端」
俺にはその答えが何よりの僥倖だったよ。
だって・・・街ごと消し飛ぶ虞が無いんなら・・・
「一言だけ忠告しておくぜドアクダー。
この星から出て行く気は無いのかよ?」
俺は優しいんだ。
相手が悪の結社員だって云ってもね、教えておくのを忘れやしないんだぜ。
「負け犬が何を言うかと思えば。
我等がどうして立ち去らねばならないのだ原住民?」
「出て行く気が無いのなら仕方ないな。追い出す迄の事さ」
俺には自信があったんだ、少なくてもこいつには勝てるんだってね。
だってさぁ・・・
「忠告はしたからな下っ端」
「ふんっ!原住民と保安官補助手風情に何が出来る!」
睨みあう俺と春香さんだった化け物。
今はもう、人類の容をしていないけど。
「出来るさ・・・お前如きを吹き飛ばすなんて朝飯前だ」
そう言った俺は、後ろに居る萌を抱きかかえる。
「ニャァ?!ゆー兄ィ?どさくさに紛れて何をッ?」
ふむ・・・どうやら萌も大丈夫そうだな。
「何をだって?決まってるさ・・・イイコト」
「ぴゃぁッ?!こんな場所でいきなりなの?」
真っ赤になった萌がいますが・・・放置プレイしておく。
萌を抱き寄せた俺は、次なる手を打つ。
「ドアクダーに告ぐ!これが最後の警告だ。
今直ぐこの星から出て行け、さもないと・・・」
俺は化け物を指して言ってやった。
「さもないと・・・消し飛ぶ事になるぜ!」
「消し飛ぶ・・・だってぇ?私がか?」
まだ・・・事の重大性を認識できていないのかよ?
これだから悪の結社員はやられちゃうんだよな・・・正義の味方に。
「それが答えだと認識したぞ。
悪が栄えた例がないってのを・・・身を以て知る事になるんだからな」
俺は先に勝利宣言を与えてやったんだ。
だってさぁ、俺にだって云えるんじゃないかって思ったんだ。
決め台詞って奴が・・・さ。
「ドアクダー!
地球から殲滅させられてしまうが良い!」
まるで悪役みたいな台詞だな?
ビシッと怪物目掛けて言い切ってやったんだ。
後ろに控えるニャン子を感じながら。
いつもならニャ語ニャ語言ってる筈の、アリシアとは違う気配を感じて。
そう・・・控えているのはアリシア。
結界の中に居る時だけ別人格となる少女。
ここは人間の世界じゃない場所なんだから・・・もう現れていたのか。
この中では、ニャン子なアリシアの方が消えるのか?
戦闘空間でもある結界の中では、こちらのアリシアが本物なのだろうか。
俺は横目でニャン子を観る。
そこに立っているのは微笑みを浮かべて俺を観ている娘。
明らかにニャン子ではないと知れる。
なぜならば・・・
アリシアが求めて来た。
主に向けて、シモベたる機動少女が。
「主・・・許可を。
アタシに本来あるべき姿に成れと・・・御命じ下さい」
ああ・・・頼むぜ。
「トランスフォーメーション!
アリシアよ、あるべき姿に成って奴を駆逐しろ!」
そう告げるのが当たり前に感じたんだ。
邪なる相手に、正義の鉄槌を下してやらなきゃってね。
「了解!」
ニャ語を言わない処なんか、既に変身しているとも言えるんだけどね?
光が紅き姿を変えていく。
そうさ、俺のニャンコは・・・機動の少女なんだ!
対峙する化け物なんて、何とも思わない機動の少女。
闘う少女は機械を纏う。
紅き髪を靡かせた・・・深緑の瞳を湛えしマシンナーズ・ゴッデス。
敵を打ち負かす刃を手にし、敵を滅ぼす弾を備えた戦闘の女神。
人に合って人に非ず。
機械であって機械に成らず。
彼女は機動の少女・・・<真紅のアリシア>・・・
さぁ!
いよいよ本格的戦闘に突入?
待て待て待てぇッ!
俺は戦闘方法なんて知らないんだからな!
次回 機動少女アリシア その1
魔法士アリシアが呼び出したのは戦闘妖精 烈華だった。次話は挿絵3枚貼ってます




