俺が特異点だっただと?!その1
アリシアは俺に言ったんだ。
もう一人の彼女に聞かせてやってと・・・
不思議な少女。
ニャン子なアリシアと、闘う機動少女のアリシア・・・
どちらが本当のアリシアなんだろうか。
靡く赤髪、紅く燃え立つ瞳。
それよりもっと気を惹かれるのは、ニャン子じゃない少女の顔立ち。
笑みを浮かべる顔には、どこかしら寂し気にも映る陰を感じたんだ。
「もう・・・戻るね。元の姿に・・・」
ポツリと告げた機動の少女アリシア。
「アルジのユージにお願いがあるの。
この姿に成った事をニャン子なアタシに教えて貰いたいの。
未だに分かっていないみたいだから・・・もう一人のアタシは」
微笑む少女アリシアからのお願い。
どうしてなのかは分からないけど、目の前の少女はアリシアであってアリシアではないって言うんだろうか?
どうして自分の事をもう一人と言ったのだろう?
なぜ変身した自分の事を知らせて欲しいと言うんだろう。
「姿が元に戻れば、アリシアは何が起きたかも分からないから」
それって・・・つまり?
「アリシアは変身した事さえ覚えていないって言うのか?」
もう一人の自分・・・その訳は?
「君はアリシアであってアリシアではないとでも言うのか?」
訊いた俺は、自分でも何を言ってるのかが分らなくなってきた。
二重人格とでも言えば良いんだろうか?
それとも、ニャン子なアリシアと機動少女のアリシアは別次元の者なのだろうか?
だって、こんなに違うのだから。
混乱した俺は、萌に訊いてみようと思った・・・だけど。
「え?!萌?」
機動少女アリシアと会話しているのは俺だけのようだった。
どうしてなのかなんて考えも及ばない。
だけど、萌を観て判った事がある。
俺とアリシアが話している間、萌はピクリともしていなかったんだ。
「待て・・・これって一体?アリシアが停めてるのか?」
もう一度少女を見上げ直して訊いたんだ。
「停めてる訳じゃないよアルジのユージ。
アタシの声を聴けるのはユージだけなんだよ。
特異点のユージだけがアタシと話せるだけ・・・なんだよ」
テレパシーとかの類かと思っていたんだが、どうやら違うみたいだ。
「特異点?!確かニャン子なアリシアが落ちて来た話で言っていた?」
「そう・・・機械は故障なんてしていなかったの。
落下途中で機動したの、特異点であるあなたへと。
機動ポットシステムが、選んだ人の元へと向かわせたんだよ」
微笑む機動少女のアリシアが教えて来たんだ。
俺が求められていた特異点であることを。
って事は・・・俺が地球外生命体だとでも?
「あはは、アルジのユージはこの星の住民だよ勘違いしないで。
特異点って言うのは、アタシの力を引き出せる異能を持ってる人を指していたの。
ニャン子なアリシアには、そこが分かっていなかっただけなの」
ほっ、なぁ~んだ・・・って?!
俺が君を呼び出せる異能を持っているってのか?!
「そぅ・・・アタシが変身出来たのは、ユージが傍に居てくれたからなんだよ?」
そ、そうなのか?
・・・・
・・・・・・って?
「待て待て待てぇッ!声を出してないのに、なぜ俺の思った事に答えられてるんだ?」
今頃気が付いたよ、アリシアが俺の考えに答えているのを。
「うん、だってアルジのユージはアリシアの主なんだよ?」
「そう、アリシアは俺をアルジって・・・待てぇッ!
アルジは主でも、主人なんかじゃないって」
アルジ違いだが、どうしてアリシアの主になってるんだ俺が?
くすくす笑う機動少女が、俺に向けて手を差し出すと。
「ニャン子なアタシが言ったよね、これから宜しくお願いしますって。
それに対してユージはこう答えちゃったんだよ?
<ユオンの設定はお好みで>・・・ってね」
「うん?そんなことがあったかな」
俺は記憶を呼び戻した。
・・・そう言えば、ニャン子がシャワーを浴びる前に答えたけど。
初めて出逢った晩の事、身綺麗にしたいからってアリシアが頼んだのを思い出した。
シャワーを浴びるニャン子に注意して欲しいから、俺は湯温設定をお好みでって言ったっけ。
「そう言えば言った気がする」
「ユオン・・・って、何の事だか知ってる?」
湯温って言えば湯加減のことしか思い浮かばないが?
「ユオン・・・魔法属性を指していて、主人と下僕をも表す言葉。
アタシ達機動少女が召喚者たる主人との契約を意味しているのよ」
「もしかして・・・偶然にも俺は?」
冷や汗が、どっと噴き出た。
「そうなのよユージ、ニャン子なアタシは知らなかったみたいなの。
主従の関係を求められた言葉に<ありがとう>なんて肯定しちゃったんですもの」
だらだら・・・冷や汗が噴き出し、怒涛のように流れ落ちる。
あっさりと言われちゃったよ、俺。
アリシアと俺が主従関係?ありえねぇ~し!
唖然とアリシアを見詰めて口をあんぐりと開けたままでいる俺に、追い打ちをかけて来る機動少女。
「だから、アタシとユージはずっと下僕と御主人様。
必要になればいつだって呼び出してくれて良いんだよ、機動少女を」
「ははは・・・ずっとって?いつまでとか期限はないのかよ?」
俺は死の宣告を受けたかのように、真っ青になった。
「ありません・・・ずっと、ユージの傍に居ることになりました」
どどぉッ!
冷や汗を通り越して怒涛の涙が墜ちます。
「なぜだぁッ?!」
理不尽な言葉の行き違い。
どうして昨日の晩シャワーを浴びるニャン子にあんなことを言ってしまったのかと。
後悔というよりは酷過ぎる。
ショックで反論も出来なくなったよ、俺は。
「ねぇアルジのユージ。
ニャン子なアタシに教えておいてね、機動少女に成れたことを」
俺が召喚者であり、アリシアの主だってか?
「うふふっ、そうね・・・御主人様って呼ばれたかったらね」
「拒否るッ!」
機動少女アリシアから告げられた事実とも思い難い訳に、俺の今後が決められちまった。
つまり、ニャン子なアリシアが保安官を探し当てたとしても、俺は離れられなくなったのか?
いいや、俺からアリシアが離れられなくなっちまってるのか?
「どっちでも良いや・・・もう」
諦めに近い心に支配された俺だけど、なぜだか嫌な気にはなっていなかった。
こんな凄いことって世界中で俺だけかもしれないんだからな。
「唯、不安がよぎるのはドジっ子なアリシアに悩まされ続ける事だけだよな」
ニャン子で天然な娘であるアリシアとの生活を思って、苦笑いをしてしまう。
「そうねぇ~(棒)」
棒ってなんだよ?
「もう一人のアタシは、少々変わっているから・・・諦めて」
諦めろって・・・損な。
落ち込む俺に、機動少女なアリシアが微笑んでいた。
だけど、気になるのは彼女が心の底から笑えていない・・・翳を纏っている事。
目の前に佇む女の子からは、どこかに秘密が隠されてるみたいに感じたんだ。
「じゃぁ・・・戻るから」
話し終えた機動少女がニャン子に戻る。
俺を召喚者だと告げ、輝の中へ帰って行く。
「ゆー兄ぃ?!あの人はどこに行った・・・あれ?」
耳元で萌が叫んでいやがるんだ、消えたもう一人のアリシアの姿を求める声が。
でも、俺にはしっかりと観えていたよ。
「輝の中へ帰ったんだ・・・また来るからって言い残して」
「ほぇ?!ゆー兄ぃはどっからそんな話を?」
萌には聞けてなかった・・・俺とは違い。
特異点である俺だけにしか聞けなかった・・・機動少女の声は。
金属の塊が転がっている。
それが何が起きたかを、真実を教えているんだ。
今、俺の前で機動少女が話してくれた事実を。
「あっ?!アリシアが?」
萌が気が付いて駆け寄る。
いつの間にか空中から墜ち(?)、目の前で横たわってるニャン子に。
すやぁ・・・・
「寝てる?」
寝息をたてて眼を閉じているニャン子なアリシア。
萌が肩を掴もうとするのを停めた俺は、モフモフの尻尾とケミ耳を付けた少女を抱きかかえてやった。
「ゆ~兄ぃ・・・変な事したら承知しないから」
萌の声には棘が無い。
そうしてやるのが当然だと言わんばかりに聞こえて来る。
「萌だって学校からおんぶして来たんだぜ、今日の昼間の話だけどな」
萌も軽かったが、ニャン子なアリシアも軽く感じた。
抱っこして判ったんだが、俺ってこんなに力持ちだったっけ?
すぅすぅ寝ているアリシアのケモ耳がひょこひょこ動いているのが、俺を現実離れさせる。
「なぁ萌。俺達は狐にでも化かされているんじゃなかろうか」
「ゆー兄ぃ、それを言うなら。化け猫でしょ?」
ははは・・・確かにそうだな。
抱き上げたアリシアを二人で見詰め、今日一日に起きた事件を思い起こされた。
ニャン子を学校へと連れて行き、萌と一緒に奔り回った。
こんなに長い時間萌と一緒に居たのは何か月ぶりだろう。
ニャン子が現れただけだというのに、俺は義理妹とこんなにも近くに居る。
「不思議・・・こんなに長く感じる一日なんて久しぶりよね」
そうだよ、萌。
昨日から始まったんだ、新しい俺の世界が。
「さてと・・・部屋に帰るか」
萌の感傷に答えず、ニャン子を抱えてアパートへと歩き出した。
「そうね・・・って?!
待ちなさいよゆー兄ぃ!アリシアを泊めるの?」
「当たり前だろ?」
寝てるんだし、行く処なんて無いんだからアリシアには。
それに昨日から泊めてるし、問題ない・・・あれ?
目をアリシアに向けてハッとしたよ。
目のやり場に困る程のたわわちゃんを観てしまい。
「あ、アタシも!今日は泊めて貰いますからね!」
声を荒げた萌がそこに居たよ。
何故にそうなる?
俺のプライバシーはどこに行ったんだ?!
そんな?!
まさか俺としたことが?!
無自覚に契約を交わしてしまったと?
こんな馬鹿な話が・・・あったのね?
こうして主従関係が出来上がったようですW
次回 俺が特異点だっただと?!その2
俺は記憶を辿らせたんだ。萌との思い出、そして俺達の家族の事を・・・




