エピローグ 俺のニャン子は銀河の保安官!
銀河には、正義を守る保安官がいました。
女神にも等しい異能を誇り、機動の女神と呼ばれる保安官。
今、地上の楽園に降り立つのは?
地球周回軌道上を旋回している保安官の宇宙船の中で・・・・
モニターに映し出されたアイン号の甲板を観ているのは。
「観ないの紅ニャンは?」
訊かれても首を振り続けているアリシアに、ミシェル保安官は肩を竦めてしまうのです。
「じゃぁ・・・帰還するわよ?」
溜息を吐いてから、船を月面に向けて移動させます。
その船体下部には<アイン号>にあった筈の反物質装置が括られていました。
「でもねぇ紅ニャン。
肝心なことをあの子達に話し忘れていたんでしょ?
どうして<アイン>号が沈むって言ってあげなかったの」
はい?
「船の下から装置をくり抜くって教えてあげなかったのよ?」
ひぇ?
「あなたの開けた穴から浸水が始っちゃってるわよ?」
げぇ?!
「まぁ、あの喫水線なら。
着底したって甲板は海上にあるんだけどね」
ほ・・・
笑うミシェルが、アリシアをひっかけたのです。
どうしてもモニターを観ないアリシアの気を惹かせ、彼を観させようとしたのです。
彼・・・そう。
「ユージ・・・まだ手を振り続けてくれているの?!」
モニターに映し出されるアルジの姿に、アリシアの眼が釘付けになってしまいました。
「ありがとう・・・ユージ。
ありがとう、みんな」
ユージの傍らに居る萌にも、雪華、シンバ、嵐・・・みんなへ向けて。
「いつかきっと・・・逢いに戻るから」
ユージとの約束を叶えると、アリシアは誓うのでした。
「そうねぇ、もしかしたらだけど。
近い将来に派遣される事になるかもね」
ポツリと溢すミシェル保安官。
「え?どういうことなのですか」
保安官であるミシェルが、地球に派遣されるのかと訊き質したアリシアへ。
「「さぁね。審議会を終えたら分かるんじゃないの」」
すっとぼけて答えるのは、ミシェルの蒼き珠。
「ええ~?!教えてくださいよ理の女神様?」
審議会のメンバーでもある理の女神に訊き質すのですが、
「「あら?察しの悪い娘だこと」」
意味深な答えしか返ってきませんでした。
ミシェルの手がスロットルに乗ると。
「ゲートに入るわよ、アリシア?」
並行世界への扉へと入る直前、ミシェルが促します。
モニターにはもうユージ達の姿は映されず、ゲートの先にある世界が映し出されていたのです。
促されるように振り返ったアリシアが、ただ一言。
「アルジのユージ、またね」
約束を胸に抱いて、再会を誓ったのです。
最後の別れを聴き遂げたミシェルがスロットルレバーを押し出して、
「次元回廊に入る!記憶維持装置を着けなさい」
並行世界へと帰還を遂げるゲートに侵入させました。
「次元超光速イン!」
月面の陰に開いた扉の向こうに向けて。
宇宙船が消えてしまうと、扉も同時に消えてしまったのです。
二柱の女神を載せた宇宙船は、何らの痕跡も残さずに・・・・
・・・・(=^・^=)・・・・
<びっくりモンキー>からの帰り道。
野良 有次は、盛野 萌と歩いていた。
街灯りが俺達を照らしている中を・・・
「ねぇユージ、聴いてる?」
街灯りの零れ落ちる中、俺は月を見上げていたんだ。
「ん?!ああ・・・なんだっけ?」
聞いてたつもりだが、頭に入っていなかったんだ。
「もう!こんな夜だったよねって、言ってたの!」
「んん?萌に初めて逢った晩の事か?」
話が見えないから、きっと邂逅した日の晩かと思ったんだけど。
「ちっがぁ~うよぉ!あの娘とユージが出逢った晩の話ッ!」
なんだ・・・俺が考えていた事と同じか。
プンっと剥れた萌が、俺の袖を引っ張る。
「そうだな・・・こんな満月の晩だったよな」
盛野姓に戻った萌に、俺は頷いてから月を見上げる。
アリシアと別れた後、俺達は新しい世界を歩み始めたんだ。
貨客船<アイン>号が謎の沈物事故に見舞われた。
取り調べを受けた船内から、数多くの密輸武器が発見されて物議を醸しだしたんだ。
船主のカイツール社への捜査が始まる中、本社があるアメリカでも異変が起きた。
それまでアメリカ政府が介入を拒んで来たのに、一転してFBIが捜査を始めて次々に違法な物件が暴露して。
人質同然に働かされていた人々が解放されたんだ。
その中には行方不明になっていた萌の父である熊太さんも居たんだ。
盛野 熊太さんの帰還を経て、アメリアさんと勇人親爺は離婚することになった。
もっとも、円満な離婚だったことは言うまでもないけど。
そして盛野熊太さんとアメリアさんは再婚したんだが。
萌の処遇を巡って親爺と熊太さんは談義し、その結果・・・萌は俺の義妹ではなくなった。
そう、萌は晴れて俺の彼女を名乗れるようになったんだ。
みんなの前で、どうどうと。
雪華さんやシンバに向かって、
「ユージの彼女になれました」・・・なんて言いやがったんだよな。
まぁ、一番悔しがっていたのは嵐さんだったけど、京香先輩に宥められていたのが救いだったよ。
勇人親爺と熊太小父さんが萌を想った結果が、こうしたんだと思う。
親爺達が俺達の仲を公認してくれた・・・結果だと思うんだ。
だから、萌の箍が外れた。いいや、やっと本当の気持ちを表せられたんだと思う。
俺にべったり・・・なんてしないけど。
いつも傍に居てくれる・・・やんちゃな処は相変わらずだけど。
自分を曝け出すようになった萌は、俺には眩しいくらいの美少女。
初めて逢った時の愛おしさは、俺の中で今も変わらない。
この娘をずっと護るんだという決意は色褪せやしないさ。
だって、俺の中には・・・・
「早いね、時が経つってのは」
月を見上げて歩いていると、萌があの娘の話を振って来た。
「もう直ぐ、また夏が来るね」
ああ、もう1年も経とうとしてるのか。
萌から教えられて思い出すのは、あの夏の夕日。
紅い夕日の中、霞んでいく紅い光。
「始まりは月明かりで、終わりは夕日の中・・・か」
紅い髪を靡かせる少女を想い、記憶をよみがえらせる俺へ。
「終わりじゃないでしょユージ?」
途切れた記憶を蘇らせるような口ぶりの萌が。
「また戻って来るって言っているじゃない」
再会の約束があるんだと言って来た。
「そうだな・・・そうだったよな」
俺に忘れるなと言っているみたいだ。
「ほら・・・こんな月の晩だったんでしょ?
アリシアが墜ちて来たのは?」
萌は俺達の邂逅を知らない。
その時は俺とニャン子だったアリシアしか居なかったんだから。
「ああ、こんな満月の・・・」
もう一度見上げた時だ。
月を背景に・・・
「え?!」
舞う姿が・・・
「まさか?!」
墜ちて来る?!
????(=^・・^=)????
銀河の中心にある神々の神殿。
そこには審判を司る絶対神が居られるのです。
左銀河時空管理局保安官ミシェルの姿も、今は神殿の中にありました。
「ワン子なミシェルは、それで良かったのですね?」
麗しい声がミシェルへ掛けられます。
「はい、審判の女神様。
私の罪は私の手で拭わねばならないのですから」
跪くミシェルが恭しく答えると。
「審議では無罪と判断されたのに・・・ですか?」
「はい、私自身で決めてあったのですから」
審判の女神から放免を言い渡されても、ミシェルは拒むようです。
「そうですか・・・それではあなたの気が済むまでとしましょう」
審判の女神の観ているのはミシェルではありません。
モニターに映し出されている機械なのです。
「はい、私が責任を以って護り続けます」
そうです、反物質装置を観ているのでした。
「それでは。
あなたの意見に従い、方面区分けを細分化する事とします。
ニャン子星はユージニアに任せ、新たに区分けされた任地には・・・」
「私の後任者は・・・」
ミシェルが即座に陳述するのを押し留める審判の女神が、
「分っていますよミシェル」
微笑を浮かべて応えるのです。
「新たな保安官は、駆け出しの新米女神なのですから。
後見者として誰かが観てやらなければいけないと思うのですが・・・」
審判を司る女神が保証してくれたのには感謝していたミシェルですが、なにやら不安気に思ったみたいです。
「心配する必要はありませよミシェル。
彼の任地にはアレを遣わせておくようにします。
なにせ今回の事件で、大きな失敗を犯したのですから」
「失敗ですか?」
審判の女神にアレ扱いされているのは?
「エクセリオ・ブレイカーの照準を外したのですから、当然の償いでしょう?」
外した?!いいえ、確かに命中させた筈では?
「あの輪っかの星に穴を開けるという失態を侵すなんて。
白ニャンも腕が鈍ったのかしら・・・ね?」
微笑む女神は、始末書を提出した双璧の方割れを揶揄するのです。
「まぁ、修繕するのには百年単位の年月がかかるでしょうけど、気にしてはいけないわよミシェル」
悪戯っぽく微笑む女神に、ミシェルは開いた口が塞がらなくなりました。
「直ぐ傍で銀河系最強神が見張っているのだもの、悪漢が手を出せるとは思わないわ」
「はぁ・・・そうですね」
審判の女神が計らってくれていたようなので、ミシェルも安心出来たようです。
「時たま、地球へご馳走になりに行くかもだけど・・・」
「御馳走・・・ですか?」
審判の女神は方割れの好物を思い出して破顔しました。
ミシェルには何の事やらさっぱりなのでしたけど・・・ね。
笑う女神の傍に控えたミシェルは、やっと全てが終えられたと思いました。
自分に課せられる監視者の任務よりも、新たな保安官を思うのです。
そして・・・ニャン子星に帰還を果した折の事を思い出して。
「これで私が贈れる全てが揃いましたよ。
ユージニアにも、珠子さんへもやっと幸せを贈れたのだと思うのです」
ミシェルはポケットから3Dグラフィックモニターを取り出して画像を見詰めます。
そこに映し出されていたのは、微笑むユージニアの傍らに飛ぶ金色の羽根。
羽根は堕ちることなく舞い続け、彼の地に眠る魂と再会を果たして。
「ねぇ、珠子さん。今は天使となられて神のお傍に居られるのですよね」
天使はユージニアスと共に召され。
金色の羽根は新たな天使が、ユージニアスに寄り添うのを意味していました。
「親子水入らずの時を過ごされて居られるのですよね」
母は遠い並行世界の息子の元へ辿り着いたのだと告げたのです。
「それで良かったのよね・・・紅ニャンは?」
画像には居るべき女神が映ってはいなかったのです。
本来なら帰還した紅の女神が一緒に映っている筈なのですが?
「それが永遠の女神となれたアリシアの、思い遣りだとでも言いたいのかしらね」
細く笑むミシェルは、画像から眼を離して遠い銀河の果てを想いました。
そこに初めて配属されるであろう新米保安官を想って。
無限に広がる大宇宙には、悪の手から正義を守る保安官が居るのです。
銀河の平和を守る、正義の女神を<保安官>と呼び称えているのです。
銀河の片隅にある地球にも、遥々とやって来た女神が降臨します。
月を背景に。
蒼白い月の中から墜ちて来るみたいに。
少年の頭上から・・・
あの日の再現のように・・・紅い何かが。
「「ニャニャン!」」
頭上から墜ちて来るのは猫の鳴き声。
「「ニャ~ニャ~ニャ!」」
どこか楽し気にも聞こえて来るニャン子な声が。
見上げる少年の上から墜ちて来るのです。
月夜の晩に・・・啼くのはニャン子。
眼を見張っている少年の傍らには金髪で翠の瞳の少女が控えているのを観ると。
「「遺憾ニャ!想い人の傍で他の娘を想うニャんて・・・逮捕ニャぞ!」」
夜空に浮かんで人の言葉を喋るのは?!
「「この紅の女神であるアリシアが、許さないニャぞ」」
笑いかけて来る赤毛を靡かせるニャン子。
見詰めるカップルに向けて、言い放つのでしたが。
「ねぇユージ?なにか見えるの?」
少女には何も感じられないようなのです。
「ああ・・・猫の声が降って来ているんだ」
少年は月を見上げたまま、手を差し上げて行きます。
右手の痣を頭上に擡げて、誰かへ見せるように。
「萌には分かるだろう?俺が誰を観ているのかが」
少年には見えて少女には見えない・・・誰か?!
「アリシアなのね?!」
咄嗟に萌が月を見上げて呼びました。
「ああ。俺の下僕が戻って来たよ」
月夜の空に揺蕩う女神。
「しかも・・・願い通りに保安官となって帰って来やがったんだ」
胸に輝くのは、銀河の星マーク・・・保安官の証。
ゆるゆると降りて来たアリシアの手が俺と繋がる。
「「まだ・・・下僕だったニャか?」」
異能を授けられた俺の身体が、女神を抱き締める。
約束を守ったニャン子な下僕女神を、俺は力の限り抱き締める。
「「ただいま・・・アルジ。
約束・・・守ったんだよユージ」」
笑うニャン子な少女のまま。
あの笑顔を再び見せる少女のままで、帰って来たんだ。
「お帰り・・・俺の女神」
始まりの終わり・・・俺はやっと終われたんだと感じる。
これでやっと・・・
俺の女神は・・・銀河の保安官。
永遠の機動女神・・・紅の女神アリシア
FIN
これにて紅の女神アリシアと野良有次の物語は閉幕となります。
ですが、彼らの歴史は始まったばかりなのです。
なにせ、永遠の女神となったのですから、ニャン子は!
再び降臨したアリシアと萌が恋の争奪戦を繰り広げるのかどうか・・・
一途な萌と故郷に思い人を待たせているアリシア。
さて・・・どうなりますやら。
この地球が、彼らの楽園となりますように。
機動の女神アリシア 「応援ありがとうニャ!また逢う日まで」
完
お読みいただきまして、本当にありがとうございました。
これにて閉幕。
これでラスト。
でも、ユージや仲間達の物語は始まったばかり。
帰ってきた保安官アリシアが大人しく収まっている筈もありませんもの。
いつの日にか、ニャン子星に行った珠子さんも帰ってくるでしょう。
その時には、また一悶着起こりそうなのですけど・・・・
今回は此処までとしておきます。
未来で何が起きるのかは、お読みくださった皆様の心の内に。
皆様に感謝と御礼を。
それでは・・・また。
さば・ノーブ 拝!




