地上の楽園Heaven On Eath その1
いよいよ女神となったアリシアの戦いだと思われますが。
その前に、上空に眼を向けてみましょう。
黒の鎧とミシェル保安官の戦いの最中だと思われますが?
光が瞬く度、空中と海上に爆焔が棚引いた。
女神級の戦闘は、今迄の概念をも覆す。
機動の鎧は、地上の武器を遥かに凌ぐ威力を見せつけていた。
ミシェル保安官のレーザーサーベルがミサイルを切り落とす。
忽ち空対空ミサイルが爆発四散し、空に黒点を描く。
空に浮かんだ爆発煙の合間から、黒の鎧からフォトンメーザー砲の蒼白い光線が襲い来る。
煙を貫いて来た光線をも、ミシェルはいとも容易く弾き返してしまう。
恰も黒の鎧の攻撃を読み切っているかのように。
弾かれた光線が向きを変えて海上に突き刺さると、
バシュン!
水柱が数十メートルも立ち昇った。
湧きたつ海。棚引く黒煙。
まるで怪獣映画でも観ているようなのです。
それぐらい人智を超えた闘いになっていたのです・・・が。
ミシェル保安官は苦虫を噛み潰したように顔を歪めて黒の鎧を見詰めています。
防御一点張りで、攻撃をかけようともしません。
もしかして戻って来るであろうアリシアに倒させる気なのでしょうか?
ビシャッ!
またも黒の鎧から怪光線が撃たれ、
バシ!
何度やってもミシェル保安官は、防御するだけでした。
黒の鎧からの攻撃を防ぐだけ。
保安官から攻撃をかけようとはしません。
その顔は、黒の鎧に因って死んだ者を観ているようなのですが。
「やってくれたわね・・・ドアクダー。
私も甘かったのかもしれないって、思い知らされたわよ」
口元を歪めるミシェル保安官は、何が甘いというのでしょう?
「鎧を破壊されたら自分も滅びる。
その時には空間震爆弾も同時に吹き飛ばすつもりだったとは。
時限爆弾としてだけではなく、二重の撃発装置を搭載していたとはね」
何と言う事でしょう?!
鎧を破壊してしまえば、爆発してしまうと?
「これでは迂闊に鎧を撃破出来ない。
空間震爆弾を停める方法が見つかるまでは撃滅出来ないわね」
そう言う事だったのですか。
だから専守防衛に徹されていた訳ですね。
黒の鎧からの攻撃を適当にあしらい続ける保安官は、戻って来るであろうアリシアに知らせなくてはいけないとこの場に留まっていたようです。
「間も無く惑星破滅ミサイルが射程圏内に入って来る。
迎撃可能になったら、私は邀撃を優先しなければならない。
それが保安官としての務めであり、私に課せられた任務なのだから」
ミシェル保安官はジレンマに陥っていたのです。
目の前の黒の鎧を早々に撃滅して、邀撃態勢を整えようと考えていたようなのですが。
「困ったわね、早く紅ニャンに来て貰わないと。
鎧との戦闘を放棄しなければならなくなるわ」
任務を優先するミシェル保安官が、珍しく愚痴るのでした。
・・・・・(=^・・^=)・・・・・
「アルジ!」
シンバの叫びが耳を打った。
「奇跡みたい!」
雪華の声が俺の状態を教えていた。
「こんな処にも神様はいたんだね」
嵐の言ったのは当たってもいる。
神では無いんだけど、奇跡を起こした娘が居るんだ。
眼を覚ました俺に、3人の声が降り注いでいたんだ。
それと、俺に強くしがみ付いている萌を感じる。
「ユージの心臓の音が聞こえる。
死んでなんかいないよね?
焼け焦げてたなんて悪い夢だったんだよね?」
焼け焦げてたのか・・・俺は?
「ああ、夢から覚めたかい萌」
胸にしがみ付いている萌の髪に手を振れる。
「夢・・・だったんだね?
みんな悪い夢の所為だったんだよね?」
萌の必死さが、言葉の端に垣間見れる。
「そうだな・・・全てが悪い夢だった訳じゃないけどな」
俺を生き返らせたのは・・・間違いなくアリシア。
女神の奇跡って奴で、俺を人間に戻したんだろう。
死に逝く者をも生き返らせ、人に戻したんだ。
そう・・・俺にはもうアリシアの姿を観れなくなっていたんだよ。
「みんなに訊きたいんだけど、アリシアが見えるか?
此処に居る筈の女神を、感じられるのか?」
しがみ付いている萌の後ろ。
俺達の目の前に居る筈のニャン子を、見れるのかって訊いたんだ。
「アリシア?
いいや、さっきから姿が観えないんだよな」
シンバが辺りを見廻して答えた。
「そうだね、どこに行ったんだろう?」
雪華も。
「きっと光に紛れて空へ舞い上がったんじゃないの?」
嵐だって。
俺と同じみたいだ。
もう、異能を身体に残してはいないと分かったよ。
「萌は?感じられるかい?」
一番気になっていたのは、巫女の魂から造られた娘の事だった。
もしもモエルさんの異能が微かでも残っていたのなら、アリシアを感じられるだろうから。
「感じる・・・感じてしまう・・・よ?」
なんだって?!
モエルさんの異能が残っていたのかよ?!
唖然となった俺が萌を観ると。
萌は涙を溢しているんだ。
「ユージを生き返らせてくれたのはアリシアでしょう?
女神となって奇跡を起こしてくれたのでしょう?
だったら感じないなんて言えないから。
女神を感じられない位なら、あたしは人間になんて成らなくて良いって言えるよ」
奇跡を起こしてくれた女神に、萌は感謝を込めて感じると言ったんだ。
俺を萌の元へと返してくれたアリシアを、畏敬を込めて教えるんだ。
「アタシをユージと同じにしてくれたんだよ。
同じ時の流れで生きていけるようにって・・・普通の人にしてくれたんでしょう?」
萌の運命や、みんなの異能を集わせたのは俺だけど。
女神になると承知してくれたのはアリシアなんだ。
みんなの願いを聴き遂げようとしてくれたのは、間違いなく俺の女神だった。
「ああ、萌の想う通りだ。
アリシアは女神になって俺達を見守ってくれているんだ」
「アタシ達全員を普通の人に替えてくれたのよね。
普通の人間だから女神を観れないんだよね?」
そうだよ萌。
俺達はもう、普通の人間でしかないんだ。
運命や悲劇に翻弄される異能者なんかではなくなったんだぞ。
「本当だ。地の龍に話しかけても何も言わなくなった!」
シンバが耳を押さえて驚喜する。
「私もです!野良君」
雪華さんが手を振って氷結の呪文を唱えていたが、何も起きなくなっている。
「風も、次元の狭間も・・・現れないよ!」
嵐も。遂に解放されたのだと飛び跳ねている。
俺を含めたみんなの身体には、最早魔法の欠片も残っていないと分かった。
普通の人間なんだよ、俺達はもう。
運命の輪から、俺達は解き放たれた実感が湧いて来ていたんだ。
「そうだよな・・・アリシア」
俺は感じる事は出来ないが、目の前でアリシアが微笑んでくれている気がしていた。
みんなを観てくれている女神が、此処に居るんだと思えたんだ。
声も姿も感じられなくなった・・・
寂しいなんて言ったら、きっとアリシアが悲しむ。
戻って来いと命じるのは、人になった俺には出来ない。
だってもう、アリシアは願いを果したのだから。
ニャン子星から来た、異星人のアリシアではなくなったのだから。
「女神になったアリシアへ、最後に言っておくぞ。
必ず俺達の前にもう一度帰って来い。
見えなくったっていいから、傍まで戻って来いよ・・・良いな?!」
きっと微笑んでくれただろう。
きっと頷いてくれただろう。
「アルジのユージが最期に言っておく。
お前は俺のニャン子な女神なんだ。
女神だろうがニャン子だろうが、俺の下僕なんだからな」
苦笑いしてくれただろうか?
拗ねてくれたかな・・・下僕だなんて言われて。
いつものニャ語が懐かしく感じるよ。
聞こえるのなら、また聞かせて欲しい位だ。
でも。
今は。
「アリシア!闘えアリシア!
必ず、必ず地上の楽園を俺達に取り戻して来てくれ!」
その手で地球を悲劇から救えと言ってやった。
女神だろうと、アリシアは俺にとって掛替えの無い娘だったんだから。
ヒョウッ・・・・
一陣の海風が俺の前を横切った。
まるで俺の促しに従うかのように・・・まるで女神が飛び立つように。
跳び征くアリシアを感じた。
全てを終わらせる為に飛び征く女神を観たようだった。
そうだよアリシア。
お前はいつだって俺の女神なのだから・・・




