最終決戦 その時歴史が変わる その7
ミシェル保安官は空へと飛び立つ。
そしてアリシアは?
貨客船<アイン>号を後にしたミシェル保安官は、空を駈け昇ると。
「先ずは・・・ご挨拶と行きましょうか」
遥か彼方で煌めく光を捉えて。
「タァリィホォ~!」
猛然と空戦宙域に突撃していきました。
二つの光点からの距離、約30キロ。
準女神級なら4分弱必要な距離を、僅か3分ほどで到着させるのです。
ドドォ~ン!
風斬り音と言うべきか。
それともソニックブームと呼べば良いのか。
猛烈な音をたてながら保安官は飛んで来ました。
飛んで来ました・・・よ?!
バッガァ~~~ン!
音が遅れてやって来て、闘っている者への挨拶となりました。
カッ!
レーザーの光が魔剣に突き当たる寸前。
緑色の何かが目の前を過ぎった気が・・・
「?!」
しかも、狙い撃ちされたレーザー光線が掻き消されてもいたから。
「弾けろ~・・・って、アレ?」
目前まで来ていた紅いレーザー光線が、何が起きたのか消えてしまっていたのです。
確か、剣先に突き当たったような?
「何をぼんやりしてるのよ紅ニャン!」
と。
ぼんやりしていたらしいアリシアに声が?
「さっさと魔剣を融合させに行きなさい!」
「ほえぇ?!」
やっぱり、ボケてますね。
声の主を探して首を廻すと、そこに居るのは。
「これはサービスですからね。
惑星破滅ミサイルの迎撃に向かう途中の、デモンストレーションだからね」
ワン子耳を起てた上司様のお姿が!
「ミ・ミシェル様?!」
空中に揺蕩う保安官。
両手に握られたレーザーサーベルが、何が起きたのかを示していたのです。
アリシアを狙いすまして発射された光線を、ミシェルが叩き斬った・・・らしいのです。
「魔剣でレーザー光線を弾こうだなんて。
無茶も休み休みにしなさいよ、紅ニャン!」
休み休み?やっても良いんですか?
ニヤリと嗤うミシェル保安官でしたが、
「少しだけ黒の鎧を足止めしといてあげる。
その間にユージ君の元まで還って、魔剣を融合させるのよ。
そうしなければこいつには勝てっこないんだからね」
アリシアに強い口調で命じるのです。
「しかし、ミシェル様はミサイルの迎撃を・・・」
頼んでいたのはミサイルの撃墜であって、鎧との斬りあいではないとアリシアが言いかけますと。
「よそ様からお借りしてる部下の窮地を見逃したら、後で神に怒られちゃうじゃないの」
素知らぬ顔の保安官は、アリシアを救う為だなんて言いませんでした。
「でも・・・」
鎧との勝負にユージを巻き込みたくないアリシアがごねると。
「でももへちまもないの!
さっさと魔剣を聖剣に昇華させて貰いなさい!」
問答無用だとばかり言い放ってしまいました。
「あ!はいっ」
女神からの一喝で、アリシアも踵を返して船へと降りて行きました。
余程急いでいるらしく、あっという間に見えなくなってしまいます。
「あはは、行った行った。
あいつめ、バーニアを全開して行きやがったわ」
片目で見送ったミシェル保安官の前に黒の鎧が飛んでいます。
ミシェルとの交戦を避けて、飽く迄アリシアの追撃を目論んでいるようですが。
「ふん・・・そうは問屋が卸さないわよ。
暫くの間、私が遊んであげるから・・・ね!」
レーザーサーベルを構えたミシェル保安官が黒の鎧に立ち塞がりました。
「さぁ、お前の力を見せてみなさい。
なまじ女神級の戦闘鎧なんて吹聴されているんじゃないでしょ?」
蒼い瞳を鎧に向けて。
「そっちが本気を出さなくても・・・こっちはマジで行くからね!」
機動鎧から戦闘妖精を展開させて防御態勢を布きました。
その姿は女神級。
戦闘が有り得ないレベルとなったのを知らしめていたのです・・・
「アルジが・・・ユージが・・・待ってくれているの」
突然姿を現したミシェルに因って教えられた。
船で主人が待っているのだと。下僕の帰りを主人が待ってくれている。
「もう二度と目に出来ないかと思っていたのにね」
決死の闘いは、意外な処からの救援を得られたのです。
「アルジ・・・ユージ・・・逢いたかった」
瞼を閉じれば思い出すのは?
「並行世界のユージも、いつだって待ってくれていた」
ニャン子星で初めて王宮に現れたユージと出逢った時から。
「私がアタシと自分を呼んでいた頃から。
ずっと温かい瞳で待ってくれていたから・・・」
アリシアの脳裏に、懐かしい故郷の庭先が見えてきます。
ー ああ、そうだったっけ。
私はあの日、不可侵の庭に独りで入ってしまったんだ。
緑が濃い叢の中で、あの方にお逢いしたのがつい先日のよう。
迷い込んだ庭は、古の巫女と勇者剣士が邂逅した場所。
そこで私は・・・地球から転移したユージ様と出逢ったの。
凛々しい瞳に、一目で恋に堕ちてしまった。
物憂げな顔に手を挿し伸ばしたくなった。
どうしても傍に居たくなった私は・・・王族を辞めて時空局試験に合格したの。
ユージは保安官。そして不可侵の神・・・傍に居ることは叶う筈も無いと思った。
だけど・・・ユージは私を観て微笑んでくれた。まるで幼馴染と接するみたいに。
だから。
私は決めた。
ユージ様と同じ女神になると。女神になって一生傍に居ようと。
あの優しい微笑みを観ていられるのなら、どんな辛い事だってやり通してみせるって。
ああ・・・私のユージ様。
もう一度ニャン子星に戻って、お逢いしたい・・・・
追憶のアリシア。
想いは遥か宇宙の果ての母星で待つ、愛しい人へ。
それが偽らざる本当の気持ちであったのか、当のアリシアにも図りかねるのでしたが。
追憶を終えたアリシアは、首をブンブン振ると。
「今は、アルジのユージを守らなくっちゃ!」
ニャン子星での想いを封印して飛ぶのでした。
あっという間に戦闘空域から出たアリシアの眼に、
「あの船にはこっちのアルジがいるんだから」
見えて来た<アイン>号の甲板に、4つの人影が躍り出て来るのが見えたのです。
船が見えて来たから減速しようとしましたが。
「・・・って、アレ?スピードが落ちないんだけど。
烈華、どうなってる・・・・ニャ?!気絶中ぅ~?!」
え?!妖精さんが?
・・・・・(=^・^=)・・・・・
船の甲板に出て来た4人が、上空を見上げた時。
息せき切って駆け上がったユージの眼に飛び込んで来たのは。
「帰って来たぞ!」
指し伸ばした指の向こうに、赤毛を靡かせるアリシアが見えていた。
見えたのはアリシアだけ。
飛び上がったミシェルさんは一緒じゃない。
・・・と、言う事は?
「まだ戦闘は終わっちゃいない!」
アリシアのスピードからして、ミシェルさんが代わりに闘ってくれているんだと分かる。
「雪華、シンバ、それに嵐も。
アリシアが着艦したら直ぐに異能の補給をしてやってくれ!」
3人に異能成分の補給を命じ、
「萌は何でも良いから飲み物を・・・」
「用意万端だよ!」
萌に頼もうとしたら、もう準備してやがった。
「気が利くな萌。
よし!アリシアが降りたら早速休息させるんだ」
戦闘の途中なんだから、休むと云っても気休めくらいにしかならないだろうけど。
見上げた俺達へアリシアの姿が次第に大きく映り始めた・・・んだが。
「にゃ~!」
にゃ~??
「にゃ~ニャ~」
なんだか様子が?
「ニャ~ニャにゃ~?!」
おいおい・・・これって。
俺にはトラウマ的な情景なんだが?
「受け止めてくださいニャ~」
ほへ?
「減速装置が壊れちゃったのニャ~!」
ま・・・マジですか?
頭から突っ込んで来るアリシアに、周りのみんなが顔を引き攣らせていたよ。
「助けるニャ~アルジぃ~」
ああ、ここは間違いなく・・・逃げよう。
「じゃぁないッ!受け止めてやらないと!」
自分で思って、自分でツッコミを入れる俺が咄嗟に。
「魔剣!アリシアを受け止めろ」
右手の天使を呼び出した。
魔剣は瞬時に模られ、俺の手に現界したんだ。
「アリシア!魔剣を翳せ!」
咄嗟の判断だったんだ。
魔力を放てる魔剣同士なら、相対スピードをも相殺出来るんじゃないかって思っただけだ。
「ひぃいいいん!どうするニャぁ~?!」
啼きながらアリシアも魔剣を呼び出したのが見えた。
「魔剣を横向きに構えて、俺の元に来い!」
俺がどうすれば良いかの手本を示す。
魔剣を横に向けて持って・・・
「魔力を吹き出して俺の魔剣にぶつかれ!」
「悲ニャァ?!無茶苦茶ニャ~」
そう言ったアリシアだけど、他に方法が見つけられ無いようで。
「受け止めてぇ~」
ニャ語さえぶっ飛んで頼みやがるんだ。
ブシュン!
魔剣が光を放つ。
そして・・・
ドォン!
二振りの魔剣が互いに・・・惹かれ合った?!
おいおい・・・嘘だろ?!
グアッキィーン!
眼を閉じる暇さえも無い。
俺が観たのは、魔剣同士が惹かれ、そして・・・
「マジか・・・魔剣が。俺の使徒が?!」
紳士と淑女が惹かれ合うように・・・抱き合った?!
二振りの魔剣から光が噴き出した。
それは俺達の意志とは関係なく起きたんだ・・・
アリシアって星の王女様だったの?
見えないしW
保安官様が抑えてある間にアリシアを休ませようとしていたんだが。
堕ちたな・・・
次回 最終決戦 その時歴史が変わる その8
遂に!魔剣が聖剣へと昇華する?!どうやって??




