突入 その1
救出作戦・・・
嵐を取り戻し、珠子の魂をも助け出そうと考えたが。
どう考えたって良い作戦が思いつかなかったんだが・・・
予告された時刻まで、残り3分となった。
既に太陽は灯台よりも高く昇り、夏の日照りを容赦なく浴びせていたんだ。
「手筈通りだぞ、間違うんじゃないぞ!」
何度となく確認して来たんだが、もう一度念を押しておく。
「分かってるよアルジ~」
ウンザリしたシンバが答えて来る。
「分かってますけど、陽動任務なんて面白くないのです」
雪華さんは、正面切っての突入に拘っていたからなぁ。
「アルジ~、本当に大丈夫ニャのかぁ~?」
ニャン子はいつまで経っても心配そうだ。
作戦の立案時に、飽く迄も嵐の救出に拘っていた俺に意見して来たからなぁ。
「大丈夫だって言っただろ。
優先されるのは人質の救出にあるんだから、文句言うなよ」
「だってニャ~。京香さんは異能者じゃぁ無いニャから」
俺の傍に居る二人を見詰めて猫耳を垂らすんだ。
その仕草は、心の底に不満がある証拠だとも言える。
今回特別に京香先輩がオブザーバー的に参加する事になった。
それは京香先輩の突然の来訪で決まったんだけど。
「心配するな紅ニャン。
私はこう見えても合気道の有段者だからな」
「いニャ~、そうは言っても。相手が相手だけに問題ニャ~」
アリシアは俺達が別行動を執るのが心配なだけではないらしい。
「アルジ達の足手纏いにならなきゃ良いがニャ~」
京香先輩だとしても、ドアクダー相手に闘うのは無理だと言いたげで。
「心配するな紅ニャン。
この私だってそのくらいは判断できる。
ユージ君の助けが必要ないように行動するつもりだ」
「そうニャ~?でも心配ニャぞ」
そこでアリシアは俺を観たんだ。
俺をアルジと認め、命令を聴くのは納得しているんだが。
「今からでも遅くはないニャ。
そっちにアタシを加えたら如何かニャ?」
護衛するつもりだろうけど俺達には必要ないし、そっちが敵の眼を惹き付けてくれないと話にならないじゃないか。
「ダレットもアリシアが居ればこそ、陽動に乗ると言ったのは誰だっけ?」
「しかしニャ~」
尚も食い下がるアリシアに、重い口を開いたのは。
「ゆー兄も頼んでるでしょ?聞き分けてよねアリシア」
黙って俺の傍に居た萌が、びしりと言い切ったんだ。
「う・・・ニャ」
返す言葉を呑むニャン子。
「し、仕方ないニャ。嵐ニャンを救出するまでニャぞ」
「そうね。なるべく派手にかき回してくれればね」
微笑む萌に、それ以上何を言っても無駄だと知ったアリシアが陽動隊のシンバと雪華に加わる。
「時刻通りに事を運ぶんだぞ。
奴等をなるったけ惹き付けてくれ、頼んだぞ」
3人に囮となって貰い、俺達がその隙に嵐を探し出して救出する。
単純だが、こうするより方法が見つけられなかったんだ。
「分ったニャ!」
漸くニャン子も陽動作戦に納得したようだ。
俺達は昨日の内に横須賀港までやって来た。
朝一番の便で来ることも出来たのだけど、早期に状況を把握したいから夜が明ける前に船まで忍んで来ておいたんだ。
それには京香先輩の意見を採ったのもあったんだけど。
それは・・・
「あれ?京香先輩。また来られたのですか?」
俺達が作戦会議中だった最中に、再び家まで訪れた京香先輩を迎え入れた時に遡る。
嵐を人質にされたと告げに来た京香先輩だったんだけど、相手がドアクダーの仕業だからと同道するのを辞退されたんだが。
「ああ。いやなに、心境の変化でな。
やはり一緒に往くと決めたんだよ、ユージ君」
「えッ?!」
驚きの声をあげて、京香先輩を見詰め直す。
帰られてから僅かに10分と経たないけど、どうした訳か服装が変わっていたんだ。
「バイトに行かれていたのですか?<びっくりモンキー>の制服なんかを着て?」
そうなんだ。京香先輩は見慣れた制服姿に変わっていたんだよな。
「え?・・・ああ、まぁそんなところよ」
引き攣った笑みを返されて、俺は頭にクエスチョンマークを載せた。
バイトに行ったにしろ、制服姿のままで此処まで来るか?
「い、急いでいたから・・・ほほほ」
ほほほって・・・それに俺をユージ君だなんて呼ぶのかな?
なんだか怪しいぞ?
もしかしたらドアクダーの間者かなにかなのかも。
「おい、アリシア。ちょっと」
部屋から降りて来ていたニャン子を呼びつけると、こっそり訳を話した。
「どうも京香先輩ではないような気がするんだが?」
「な~にぃ?怪しいの?」
・・・うぬ?このニャン子もなんだかおかしいぞ?
姿はいつものニャン子だけど、ニャ語じゃないから。
・・・って。機動少女のユニフォームを着てるんだが?
「もしや・・・機動少女なアリシアか?」
こそっと耳打ちして訊いたら、途端にアリシアが。
「ニャ・・・そんなことは・・・ないっ・・・ニャ」
歯切れの悪い返事の・・・変なニャ語を使いやがった。
「ふぅ~ん。ま、いいけどね」
この際、機動少女なアリシアでも別に良いか。
「で?そうなんだ。京香先輩は本物なのか?」
俺が機動少女なアリシアでも良いと言ったのは、ドアクダー反応を腰に着けた機動ポットで調べられるからなんだ。
「待つニャ・・・ぽちっとな」
円環に備えられたボタンを一押し。
・・・で?
「なにも反応が無い・・・つまり京香先輩であると思われる・・・ニャ」
あれれ?そうなのか。
俺の早合点だったみたいだ。
でも、この時。
アリシアの円環は別の異能を感知していたようだが、俺達には分からなかったんだ。
いいや、分からないようにされていたと言うべきだ。
目の前に知らん顔している京香先輩の右手が、円環に細工していただなんて。
「君達と同道したいんだ。
嵐の身の安全をこの目で確かめたい。
それに何かの役に立つかも知れないんだからな、私は」
少し感じの違う京香先輩だけど、友を案じてのことだからと意識しないでおく。
「京香先輩の事だから、停めても来るんですよね?」
「ふふん!分かっておれば宜しい」
いつも頭が上がらない京香先輩だ。
どう引き留めたって来ると言ったら来るんだろうしな。
「それで?作戦は練れたのか?」
「いいえ。まだ・・・」
そう答えたのは巫女である萌。
自分が捕まえられてしまえば、何もかもが水泡に帰すと自覚しているから。
「救出だけに絞るのかの協議中なのです」
嵐を救い出して一旦引き上げるのか。
それともこの際に、一気に殲滅を図るのかの二通り。
「俺は一気にケリをつけたいんですけど」
珠子母さんの件もあるから、ドアクダーを殲滅しておきたかったんだ。
「相手の出方に因るじゃないか?!」
シンバは最終決戦に縺れ込むのを警戒しているんだ。
「そうですよ。性急に過ぎると思うんです」
雪華さんも、危険は避けた方が良いとの立場を取る。
でも・・・俺には時間と余裕ってモノがないんだ。
なんとしても囚われの人を助け出し、勝負を決めてしまいたかったんだ。
なぜなら嵐だけではなくて、囚われの人には珠子母さんも含まれているから。
「そう?
ユージ君はどうしたいのかな?」
二人が交々忠告して来たけど、京香先輩の意図とは違ったみたいだ。
「俺ですか?」
「そう・・・君は何を求めるのかって訊いたの」
京香先輩の眼が俺を見据えている。
見据えて、答えを求めて来るのが分かる。
「俺は・・・全ての決着を図りたい」
全て・・・そう、何もかもだ。
「つまりそれは、この地上における宿命との別離を指したのよね?」
京香先輩が急に難しい事を言い出した。
「ユージ君と地上を結んでいる歯車を打ち壊す。
宇宙からの侵略を破って、地球を護るのよね?」
そうなるのかな・・・結果的には。
・・・って、チタマ?
変な京香先輩を俺達がジト目で観たんだが。
「あ?!・・・おっほん。
つまりユージ君の望みは、星を護るのと連動しているって言いたかったのよ」
「そんな大袈裟な話ではないと思うんですけど」
まぁ、相手がドアクダーの首領なんだから、そうなるのかもしれないけど。
「もう一つ加えれば、萌を生かす為でもあるんです。俺の望みが果たせるのならね」
そうさ、珠子母さんを救い出して萌も生かし続けれれば、何もかもが終焉を迎えれるんだ。
「そうか・・・それが今の君が望む希望なのね」
何か他にも言いたげな京香先輩だけど、納得したみたいだ。
「ならば、救出戦だけで終わらせる訳にはいかないでしょう?
全ての決着を図るのが最終決戦って奴なのでしょうから」
京香先輩は俺の意見を汲み、何をすべきかを話してくれる。
「先ずは人質の救出。しかる後に決闘へ持ち込みなさい。
最初から全力で闘うのは、相手に手を握られたのも同じ事よ」
人質を取られているから、思い切った戦闘を出来なくされると?
「悪人には悪人なりのセオリーってモノが存在するわ。
敵は一筋縄ではいかない戦力も保持しているだろうから、
全力を封じられていたら負けてしまい兼ねないわよ」
なるほど。
「だからね、敵を欺く必要があるのよ。
陽動作戦ってのをやってみたらどうかしら」
よ、陽動・・・って?
「チームを二つに別ける。
片方が派手に暴れ回り、敵の眼を惹き付けるの。
もう片方が人質を救出する・・・二面作戦を執るのよ」
「え?!ただでさえ人数が少ないのに?可能なんですか」
俺達は戦力にならない萌を含めて5人。
その内の二人だけに陽動作戦を執らせるのは危険ではないのか?
「勿論、危険は承知の話よ。
でも、二人では無くて3人でやってみたらどうかな?」
3人という事は?
「シンバさんに雪華さん。それに紅ニャンを含めた3人でやってみなさい」
「ええッ?!アリシアまで陽動隊に含めるの?」
驚いたのは俺よりもアリシアや萌の方だった。
驚いて訊き質し、アリシアへ振ったのは萌。
でも、アリシアは片耳をツンと張って考え中だった。
「何とか言いなさいよアリシア!」
アルジであるユージを守るのが下僕の務めでしょうと、萌が言ったのだが。
「一理ある。二正面作戦なら陽動に力を注ぐべきなのかも」
そう言って一旦は京香先輩の作戦に同意したんだが。
「でも、萌たんの言った通り。アタシの執るべきはアルジの守護ニャ」
作戦を否定はしなかったが、陽動隊に加わるのは認めなかったんだ。
「そうか?ならばこの私が護れば良い話ではないのか」
「ほええぇっ?!京香さんがですか?」
萌が目を丸くして驚くのも無理はないよな。
「何を言ってるんですか京香先輩、相手はあのドアクダーなんですよ?
御承知のように嵐さんでも苦戦していたではないですか。
それを忘れてしまったんですか?」
知っていて勧めたのなら、京香先輩は健忘症とでも言うべきだろう。
「はん?その時はその時の事。
今はこう見えても・・・なのよねぇ~」
俺達に聞こえないように伏せた。
そこに何が当て嵌まるのかなんて、当人しか分かる筈が無いというのに。
「いいかな紅ニャン。
あなたが陽動隊に加わる事で、ダレットの気も惹けるってもの。
逆に言えば、紅ニャンが陽動しなければ作戦は遂行出来ないって思いなさい」
「なんと?!そうなのか?」
俺達の中で最強の戦闘力を誇るアリシアを、ダレットが警戒しているのは理解出来た。
だからこその陽動だと、京香先輩は言って除けたんだ。
そして、続けてこうも言うんだ。
「作戦が決まったのなら、今すぐに目的地へ向かうのね。
相手の予告よりも早く着いておき、状況を握るのよ。
地の利を活かされないように務めるのも戦闘の一部だと認識しなさい」
マッタク。
今日の京香先輩ほど頼りになる人は知らないぜ。
その通りだと思った俺は、意見を鵜呑みにしたんだ。
そして夜行バスに飛び乗った。
明け方までに辿り着こうとしてね。
今、俺達は・・・
最期の戦場に立っていたんだ。
京香先輩が何故?
なんだか怪しいが、取りえる最上の策と考えた。
そして俺達はドアクダーとの決戦を企てる・・・
救出と殲滅。
同時に二正面作戦を採るのは無謀ではないのか?
次回 突入 その2
アリシアはユージが気付いていると考えたようですが、本当はどうなのでしょう?




