7.日常
7.日常
成城悟は自宅であるアパートで、購入して一年以上は経ったがどれくらい使用しているかまでは覚えていないノートパソコンを弄っていた。所謂ネットサーフィンをしているのだが、見ているのはニュース記事をまとめたサイトや、有名な動画サイトばかりで、特別何かをしているというわけではなかった。ただ、暇を潰していた。
仕事を終えて、変えるとまだ午後の五時前だった。
この仕事に転職させられてから、宇宙人関係の問題さえなければ今は訓練程度で済んでいるため、普通のサラリーマンよりも何倍も早く帰宅する事が出来ていた。挙句、公務員よりも上の存在である、国の機関だ。金も投げる様に渡されるため、生活も大分楽になってきていた。
「ふぅー……」
溜息を吐き出し、一度画面から目を逸らして天井を仰ぎ見た。
何も変わらない天井である。僅かに黄色く見える白の天井。この七畳のアパートにも長く住んでいる。あのテストの前もそうだったし、テスト終了後も結局ここに住み続けていた。稼ぎが倍以上に増えたのだから、引っ越す事も考えたが、成城は結局そこまで行動していなかった。慣れた場所が落ち着いているのだろう。気分の問題でもある。
パソコンを閉じて、立ち上がり、冷蔵庫へと向かう。七畳一間のこの室内では数歩歩けばあっという間に冷蔵庫へと辿り着く。
冷蔵庫を開け、小さなペットボトルに入っているお茶を取り出し、冷蔵庫を閉じてすぐに飲み干す。
仕事が変わってから、やたらと飲食する様になった。胃袋がそのまま倍になったのではと思う程に食べ、飲む様になっていた。宇宙人の能力を得てから、身体がどんどんと人間から離れている様な気までしていた。これが、砂影が持っていた超人的な状態、なのだ、と実感している最中であった。
が、その瞬間だった。
「っと、」
成城はペットボトルを手から咄嗟に離した。
宙を舞い始めたペットボトルが、その場で爆発するように、消滅したのを、成城は確かに目の前で確認した。
それと同時、だった。成城の目の前を、目の前の空間を、目の前の一帯を、丸々消し飛ばす程の、何か巨大な物体が、通り過ぎた。
あたり一帯にそれだけのモノが飛んだ風圧による音と、それだけのモノが破壊したモノが崩れ去る音が、炸裂し、響き渡る。
「…………、」
成城はただ、そこを見ていた。
アパートの半分が、突如として飛んできたバス程度の大きさの何かによって、吹き飛ばされた。そちらの方の隣には隣人がいて、年寄りが住んでいたが、今ので間違いなく死んだだろうな、と思った。
そこまでしてやっと、成城の視線が動いた。右にずれるように、落ちる様に。
二階から、見下ろすは先の道に立っている一つの影。やはり、人間の形をしているが、見上げているが、人間を見下ろす笑みが、浮かんでいた。右手にはなにかが渦巻いている。
成城は一瞥した後、再度破壊された方向を見る。隣の部屋は完全に消し飛んでいて、もう一つ先の部屋に住んでいた若い女が下着姿で歯ブラシを加えたまま、驚愕の表情で成城の方向を(正確には破壊された場所を)見て固まってしまっていた。
「はぁ……」
嘆息した。せずにはいられなかった。
いつか、こうなる事はわかっていた。
この仕事に着いてから、成城の顔は『一部の連中に』知れ渡ってしまっていた。有名税、というにはあまりにアングラ過ぎる、理不尽なとばっちりである。
視線を戻す。都内とは言いがたい程の田舎の住宅街の車が一台しか通れない程の道に堂々と屹立する宇宙人が、手を曲げて挑発していた。降りてこい、と言っているのがわかる。
わかっている。わかっているからこそ、成城は、呆れる。
顔が売れてしまっているのは、自分でも理解していた。それだけの活躍をしている自覚もあった。
この時点で、あのテストから七ヶ月が経過していた。そろそろ宇宙人共も動き出していると予想も推測もしていた。
一○○人存在する対宇宙人人間兵器。成城は、その中で活躍しつつ、第五位という位置を確立していた。
成城は再度一つ向こうの部屋の、呆然としたまま固まった下着姿の若い女を見て、安全だけを確認すると、すぐに、視線を宇宙人へと戻して、――二階から、飛び降りた。
地面に着地してすぐ、成城は小言を漏らす。
「引っ越しするか」
the part"Game Gain Grow"
the end.




