6.最強の能力―6
そういったシナプスに扉を開けられ、足を踏み入れた人間達。シナプスは彼らに続いて最後に部屋へと入った。
部屋は縦長の会議室の様な場所になっていた。部屋の中央には部屋に合わせた長いテーブルがあり、椅子が周りに等間隔で並べられている。部屋の奥にはもう一つ扉が見えたが、窓等はなく、先になにがあるかは実際に見てみなければわからなそうだ。
シナプスが皆に「適当な椅子に腰を落ち着かせてくれ」と言うと、皆、それぞれ適当な位置で落ち着いた。シナプスだけはそのまま部屋の一番奥に行き、一番奥の椅子へと腰を落ち着かせた。
「さて、始めるね」
シナプスがそう言ったと同時だった。
シナプスの奥、部屋の一番奥にあった扉が開き、一人の男が出てきた、スーツ姿の中年の細身の男で、手には書類の束らしきモノを持っていて、皆は、見ただけで警戒する、なんて事はしなかった。それに、ここまで来て、敵の襲撃があるなんて、思いたくもなかった。
シナプスが適当な指示を男へと飛ばすと、男は一度頷き、その書類をシナプスを含む皆の前へと均等に配った。配り終えると、男は再度扉の向こうへと消えていった。
目の前に置かれた書類は片端をホッチキスで止められている本の様な状態になっていて、表紙には何も書いていない真っ白な状態だった。当然それを見るだけでは何の情報も入ってこないが、これが、これからの事、に関する契約書類の様なモノなのだろう、と誰もが想像した。
「じゃあ、説明をするね。一枚だけページをめくって」
シナプスのその言葉から、説明が始まった。
今後、宇宙人の存在を知ってしまった、宇宙人の能力を持ってしまった、彼等、彼女等が、どうやって生きていくのか、という話である。
それぞれ、仕事、学業と日常を持っていたが、様々なモノを含む『職業』については、全て、強制的に捨てる事になった。なぜなら、彼等の職業はこの瞬間から、『対宇宙人制圧軍』と、なるからである。本来、日本は軍隊を持つ事はできないが、そもそもこの事実自体が世界的に秘匿なモノであり、法令には抵触しない。
戦う力のあるモノは兵士となり、補助に回る者もいる。
ただ、ここは日本である程度の良い意味で凝り固まった考え、思考というモノがある。それ故か、ある程度の日常は、保証されるのだ。家も持てる、存在を隠す事もなく生活を送る事ができる。結婚だって許されているし、子供を持つ人間だって既にいると言う。
つまり、仕事が変わる、だけのことである。
簡単にまとめてしまえば、そういう事らしい。
だが、当然の如く細かな成約はある。それに関しては成城達も頷けるモノばかりだった。宇宙人の能力という一般常識からかけ離れた力を持っているのだ。今だって、部屋の向こうこそ見えないが、どれだけの人間がいるか、気配でわかっている程である。
全てを聴いた上で、全ての話が終わった上で、橘が、問うた。
「……これだけは、聴いておきたいかも。――宇宙人が仕掛けてくる大体の日っていうか、期間は、わかってるのか?」
問われ、シナプスは、書類を置いて、静かに、応えた。
「恐らく、一年内には」




