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6.最強の能力―3


 だが、しかし、まだ、宇宙人は余力を残していた。残り僅かな、絞りきってなんとか滴る程度のモノだったが、獣が強敵を前にした時に、死んだふりをして逃げる、誘い出すように、宇宙人は、敵が極力近づいてくるのを、待っていたのだ。

 ここにきて、窮地に陥っている事を認め、同時、敵が強い、と思い直した。

 砂影はそこまで警戒して、薙刀による一撃を選んだのだが、死んだと思っていたのもまた事実、いざ、突然動かれると、反応がどうしても僅かに遅れてしまった。

「ッ!!」

 胸から上が、無事だった宇宙人の上半身が動いた。と、いうよりは、飛びついた。まるで、いつぞやに見たキョンシーなんてモノの映画を思い出していた。上半身が、両手が地面を叩き、跳ねた。そして、砂影の振るった薙刀の一撃を運良く交わし、そして、砂影の両足を抱え込むように、砂影へと抱きついた。

「砂影君!!」

 成城が、叫んだ。

 この光景は、誰にとっても、やはり、予想外だった。警戒は確かに、皆がしていた。だが、その悲惨な姿に、あまりに悲惨な光景に、宇宙人でさえも、死んだ、と思っていたのもまた事実。宇宙人がエネルギーの浪費を控えるために人間の体にサイズを落としていたのも、原因だっただろう。わかってこそいても、見た目が人間であり、脳が勝手に勘違いをしてしまう。

 砂影がバランスを崩す、が、彼もまた、宇宙人の能力を手にれた超人である。反射的な動きであったが、薙刀の刃を真下へと落とし、地面へと突き刺して、崩れそうになるバランスを保った。

 が、ここにきて、宇宙人でも、生き残るために最終手段でも、使う。

 宇宙人の残った僅かな背中から、突如として、巨大な翼が、生えた。

 眼下からぶわりと迫ってくるように生えてきた巨大なそれに、砂影は鼻っ面を叩かれ、思わず、再度バランスを崩した。

 そして、同時、その不気味な程にくすんだ肌色の両翼が、はためく。

 まずい、と誰もが思った。

 だが、動きが追いつくはずがなかった。

 この瞬間、宇宙人が最優先に考えている事は当然、ただ一つ、エネルギーの補充である。そして、この場にある最大のエネルギーは間違いなく人間だ。だからこそ、隔離し、一匹にして、時間はなくとも、確実に捕食しようと考えた。良くも悪くも、今の宇宙人の肉体は軽い。残りカス程度のエネルギーでも、最期の賭けとしてほとんどを翼の生成に使用した。その巨大な翼がはためけば、胸から上しかない体なんて、一瞬の内に持ち上がる。

「ッ、」

 空高く舞い上がった。

 数回はためいた内に、宇宙人は脊髄と思われるモノを切断面からぶら下げながら、そして、砂影の両足を抱えたまま、地上二○メートル程まで、数秒もかからず浮き上がったのだった。

 まずい、と思ったのは砂影もだった。

 両足を抱えられている状態で、宙に浮いているのだ。つまり、砂影は逆さのまま、浮いている。なんとか上体を起こそうともがくが、宇宙人も最期の好機だと尽力しているのだ。砂影の足を離す事はないし、捕食する以外の選択肢を持っていない。

 宇宙人が力を抜くように自然と開いた口から、涙腺から、鼻腔から、体の切断面から、恐ろしい程の、数えきれない程の無数の触手がじわじわと伸び始める。飛ぶことにエネルギーを多く使用しているのだろう。触手が伸びる速度は高無と霧崎を呑んだ時よりは圧倒的に遅い。だが、地上二○メートルの高さである。誰も、手が届かない。

 皆、見上げていた。投げナイフ程度の攻撃で落ちてこないのは理解していた。悔しげに、見上げていた。

 諦めたくはない。逃げたくない。砂影まで殺したくない。そう皆が思っていた。

 どうすればよいか、と見上げた――のは、諸星、と飯塚、橘――だけである。

 すぐに二人とも気づいた。

 宙にぶら下がった状態であった砂影も、その光景を見て、そうだ、と思いだした。

 成城は宇宙人の能力を手に入れている。

 砂影はそれについて疑問を抱いていた。一緒にいたからこそ、気付いていた。成城は『いつ』能力を手に入れたのか、という疑問。だが、そんな疑問以前に、このタイミングで、はっきりしている事が、ある。

 砂影は知っている。他の者も話ではその事実について聞いていて、把握している。

「ッ!?」

 宇宙人の顔がこわばった。

 そして、成城の無機質ながら、宇宙人を見下す顔が、あった。

 その光景を『見上げる』諸星は、思わず、笑んだ。余裕が、可能性が、わずかでも生まれたからだった。

(そうだ、成城さんは確か……ッ!!)

 飯塚も、同様。希望が繋がった、と確信したからこそ、表情が明るくなった。

「成城さんの能力だ!」

 思わず、そう声を上げた。

 宇宙人の目の前に、成城が、いた。

 宇宙人のそれとほぼ同じ大きさを誇る、純白の両翼が、はためいていた。成城の纏う勝手に着せられた黒の長袖の背中の一部を引き裂き成城の背中から生えたそれは、とても巨大で、美しかった。

 風圧が砂影を、宇宙人を揺らす。

 そして、決まる。

 宇宙人は砂影を連れて上空に浮かんだのだ。その理由は当然、人間の攻撃が届かない、つまり、邪魔が入らないから、――と思ったから――である。届いたとしても所詮投げナイフ程度の機微なモノだけだ。だからこそ、両翼にエネルギーを注ぎ込んで、捕食するための触手の動きを捨ててまで、飛んだ。

 だが、ここに来て、完全に宇宙人の予想外を、意図的でこそないが、裏切ったのだ。

 宇宙人は言葉を発する力すら、残っていない。だが、確実に、思った。感じた。

 まさか、空を飛べる人間が、いるなんて、と。

 宇宙人が爆発した際に吹き飛んだ砂影の刀、そして、成城に支給された刀の二本を、成城は構える。そしてそれを、宇宙人の首に、あてがう。鋏で挟むように、交差させて、宇宙人の首を完全に捉えた。

 宇宙人の顔が強張る。それを真正面から見て、理解する。

「お前等宇宙人も……感情があるのな」

 成城はそう呟いた。そして、終わる。

 成城が両手を真横に開くように振りきった。

 宇宙人の両翼は動きを止め、手は離され、砂影が開放される。落ちる寸前で砂影の足を掴んだ成城。砂影は成城を見上げ、

「助かった。成城さん」

「こっちこそ、砂影君」

 お互い、生きている事を、確認しあった。

「うわ、グロ」

 空から落ちてきた宇宙人の頭部を、キャッチと言っても過言ではない程にうまく踏みつけて、飯塚は眉を潜めながら、そんな小言を漏らした。

「いや、言葉と態度が合ってないよ。飯塚さん」

 横で、諸星が苦笑しつつそうツッコミを入れたと同時、首を失った上半身が、二人から少し離れた位置に、落ちてきた。死んだからなのか、それとも、それだけ脆いのか、地面に落ちた宇宙人の胸から上は割れるように、二分され、散らばった。その際に飛び散った鮮血は、やはり少なく、エネルギー切れであると改めて確認したのだった。

 飯塚が空を見上げ、脆くなった宇宙人の頭を熟れたトマトのようにたやすく踏み潰すと、同時、叫ぶ。

「降りてきなよー! 二人とも!」

 そう言って、笑んだ。隣に立つ諸星は苦笑のまま表情を固めた。視線は彼女の足元に落ちていた。

「あぁ、終わったんだ……」

 そこまで来てやっと、橘がへこたれるように地面に腰を落として座り込んだ。その様子を見て、そういえば橘は全然休憩していなかったな、と諸星は見た限りの記憶を辿って、思った。

 そこで、やっと、二人が地上へと戻ってくる。

 ある程度地上に近づいた時点で成城が手を離すと、空中で宙返りをして砂影がまず、綺麗に着地をした。それに続いて、成城が地上へと降りると、その翼の羽ばたきによる風圧が皆を僅かに煽った。が、顔を上げると羽は既に消えていた。

「……、終わったかぁ」

 成城が、呟く様に、ため息を吐き出す様に、言った。

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