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5.強敵―6

 そんな様子が、皆の心を締め付けたのは言うまでもない。誰もが言わずとも、強制せずとも感情を押し殺していた最中、限界を越えて、更にその先の人間性を捨てたそこをも越えて、高無が、遂に感情を爆発させた。やっと、このメンバーの中にしっかりとした人間性が生まれた。

 存在してはならない状況に無慈悲に陥って、皆、死をいう日常の最中ではあまり体験のできない経験を強いられている。それに、なんとか従う。そして、そこで尽力する。生きるために、だ。

 全員で、建物の中へと入った。当然警戒して進入したが、中に敵がいる事はなかった。

 大きな建物とは言っても、あくまでもこの村の中で、である。平屋であり、通路が長く部屋数が僅かに多く、それなりの庭がある程度だ。一番奥の部屋へと全員で進んで、東雲を部屋の隅に寝かして、そこで、一度、警戒をしたまま、一度、僅かでも休息を取る事にした。全員傷んだ畳の上へと腰を下ろし、硬い畳の感触に嫌悪しつつも、安堵の溜息を吐き出せる程には、落ち着いた。既に宇宙人の能力を所持している成城、砂影、霧崎、それに自然と身体能力の高い諸星は辺りの警戒をし続けて精神をすり減らし続けるが、それでも、この短い安らぎにはなった。

 その間で、当然、霧崎、成城、飯塚は先に橘達の下へと向かうという最良の判断を下した砂影、諸星の二人、そして、なんとか意識を保っている橘と高無に、合流するまでの道中で出会った二人について、話す。

 説明をしたのは、その二人について、知識がある霧崎だった。

「俺達は合流するまでの道中で、二人の人間にあった。当然、被験者である成城さん達はその二人を知らないが、俺は、知ってた。……、あいつらは、監視者だった」

 監視者、どこかで聴いた言葉だ、とまだ事情を把握していない橘達は把握する。

「監視者って……、」言葉から推測して、橘が問う。「このテストを、監視している?」

 霧崎は首肯する。

「あぁ、そうだ。恐らく、テストが佳境に迫ったから、出向いてきたのだろう。普段は被験者と接触する事はないが、このテストは最期のテストで、特別だから、多分、俺達に接触してきたんだろう」

「その目的は?」

 高無が率直に問う。

「警告、だった」

 成城が呟くように応えた。

「警告?」

 橘が首を傾げると、霧崎があの時の状況を説明する。

「俺達の目の前に現れた監視者の二人は、ただ、本当に言葉を伝えに来ただけだったよ。言われたのは、最強の敵を投入した、って事と、今回は、最期なだけに、参加者も特別だ、っていう二つだけだった」

 霧崎のその言葉には、今回この話を聴いた皆は不思議に思った。

 最強の敵を投入した、という言葉は理解できた。人間側もこのテストの参加に日程のズレがあったように、宇宙人側にもそれがあるのだろう、と容易く推測できた。最強の敵が最期である事から、選んで投入されている可能性も感じ取ったが、それは今はどうでも良い、と考えからすぐに外す。

 問題は、参加者も特別だ、という言葉である。

 参加者。

(当然、私達……それに、宇宙人も、か)

 橘は眉を顰める。だが、そこから先は、理解できない。

 特別。人間と宇宙人が、特別。どういう意味だというのか、と思っていた。

 それについては、霧崎の口から推測が漏れる。

「多分、だけど。特別っていうのは、まずは、俺と東雲だね。テストクリア済みの、被験者。目的はあったけどね。次に、恐らく……砂影君だ」

 その霧崎の言葉に、皆の視線が砂影へと集中した。当然だ。皆の視線の先には、眉を潜めた砂影の表情。如何にも、何か心当たりがあると言わんばかりの表情に、皆の妙な期待を集めた。

 何も言わずにいた砂影に、霧崎は問う。

「砂影君。推測だけど……、君、能力、テストの前から持っていたよね?」

 その霧崎の、『確信を得る』言葉に、皆、驚いた。まさか、そんな馬鹿な、と皆が、思った。

 だが、その驚きを真正面からぶっ叩かんと言わんばかりに、砂影は、深く、首肯した。

「え、一体、どういう……?」

 高無が驚き、問うと、砂影は再度頷いて、説明する。

「俺も良くわからないんだ。能力を得たタイミングっていうのは。気づいたら、俺は能力を得ていた。俺を中心に一定の距離にいる人間、……それに宇宙人にも、幻覚を見せる事が出来る能力。最初にその能力に気付いたのは、馬鹿らしい話だけど、不良に絡まれた時だったよ。……それから俺は、この能力が何なのか、理解するために必死に日本中を回った。仕事までやめてね。その道中で偶然、このテストに引き込まれた。だから、最初から動けたし、敵を倒す事もある程度だけど、容易くできた」

 砂影のその説明に、皆、驚いた。霧崎でさえ、驚いた。いや、霧崎だからこそ、なお、驚いた。

 既にテストをクリアしている霧崎は事情を知っている。宇宙人の能力は、宇宙人が死んだ際に近くにいた『波長の合う人間』に移動する『可能性がある』というモノであり、宇宙人は人間社会に変身能力を駆使して潜んでいるのだ。

 今の話から推測出来る真実は、近くで何らかの理由で、何らかの状況で、宇宙人が死んだ。偶然近くに居合わせた砂影に偶然波長が合い、何も知らず、何も知らないまま、その宇宙人の能力が砂影へと映った。挙句、その後、能力を偶発させて、能力を使用出来るようになった。

(そんな偶然が、ありえるのか……。すごいな)

 霧崎は驚愕の後に、関心した。可能性が零とは言い切れないのだ。だが、それについては限りなく低い。だからこそ、砂影という存在は奇跡だと思え、奇跡もあるものだな、とプラスの思考へと導かれた。

「と、いう事みたいだ。それに、」

 と、驚きの余韻は隠せないが、霧崎はいつ敵が襲ってくるかわからない事を理解した上で、無理にでも話を先へと進める。

「成城君に、諸星君。二人とも種類は違うけど、能力なしの状態での動きが、良すぎる。成城君のは話を聴いただけだから、正確にそうだ、とは言い切れないけど。特に、諸星君は俺もこの目で見た。異常だ。挙句、能力を持ってないんだ。これも、特別だろう」

 続いて、霧崎の視線は飯塚へと向かう。

「そして、飯塚さん。これは皆頷けると思うけど、すごい、とかじゃなくて、飯塚さんの反応は異常だよ。リアクションがこの状況で考えると、少なすぎる。それだけ、判断をする余裕があるって事だけどね」

「そんなそんな」

 照れたように否定をする飯塚だが、その様子がまさに霧崎の言葉通りだ、と成城達は思った。

 霧崎の推測が合っているか合っていないかは置いておいて、皆、自分以外の人間の特別な理由を聴いて、確かにそうだ、と思った。

 このタイミングで佐伯、里中の話、死体の男、清瀬の話は出なかったが、それぞれもまた何か事情を持っているのだろうな、と誰もが深く追求する事はなかった。

 ある程度の推測の話が終わり、そこで、霧崎が言う。

「希望はある。確かに今までのテストクリア条件は、敵の殲滅にプラスして能力の獲得だったが、良く考えれば、メモにその記述はない。被験者が特別だ、というくらいだ。もしかすると、その能力を買われて宇宙人の能力を奪えていないくても、なんとかなるかもしれない。それに、それだけのメンバーがいるからこそ、最強の敵が投入出来る、と上が判断をして、投入した可能性も高い。上の連中だって、人間の数を減らしたいわけでもなかろうし、宇宙人の能力を持つ兵士を作りたいんだ。……つまり、俺達には勝機がある」

 言い切って、霧崎は自信たっぷりに口角の片方を釣り上げて、笑んだ。

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