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5.強敵―5


 だが、扉を開けたその先には、東雲は、変わらず、いた。床の端に寝転がっていて、意識はないが生きていて、苦しげな呼吸を繰り返し続けている。息も絶え絶え、とはまさにこの状況だ、とは思うが、生きているだけ、この状況の中ではありがたいのだ。

 が、東雲の安全より前に、目に付く光景はある。

 まず第一に、影。壁によりかかり、今にも死にそうだと言わんばかりの状態の、小さすぎる影である。

「高無さん……」

 砂影がその影を見て、呟く。

 そして、視線は部屋の中央に、映る。

 そこにも、影。

「橘さん……?」

 その影を見て、砂影は疑問の声を漏らした。

 橘が立っていた。薙刀を構え、そこで、刃を斜め下へと構えていながら、荒れた呼吸を整えようと、必死に呼吸をしながら、ただ、立っていた。視線は下を向いたまま動かないし、全身から冷や汗が吹き出している、と、この薄暗い中で見てもはっきりと分かる状態である。

 二人は部屋を見回し、中に敵がいない事を確認した後、ゆっくりと歩き、部屋の中央にいる橘のまで砂影が行き、諸星はその様子を見て自らの判断で壁に寄りかかって動かない高無へと寄り添った。

「大丈夫か?」

 諸星が声をかけると、高無は顔も上げなかったが、僅かに、首を下げて頷いた。

「何があったんだ?」

 砂影が橘へと声を掛けるが、それでも橘の視線すら、砂影へと向かなかった。異常なまでに荒れた呼吸の音が砂影へと届く。間近から見て、分かる。目は見開いていて、暫く眺めていても瞬きすら、していないようだった。

「おい、大丈夫か? 橘さん!!」

 そう声を上げて、砂影が橘の肩に手を置いて激しく揺さぶると、そこでやっと、はっと我に帰ったようで、橘は顔を上げ、砂影を見て、そして、手から武器を落とした。橘の手から落ちた薙刀型の武器は、傷んだ畳の上に落ちて、大して音も鳴らさずに一度跳ねて静止した。

 そのまま、橘は砂影の目の前で、突如として全身の力が抜けたようにふらついたため、砂影は咄嗟に橘を抱くように抱えた。

「……何が、あった?」

 更に声に真剣味がこもった声だった。

 その声に引っ張り出されるように、橘の口から、小さいが、声が、漏れる。

「あ、……あの、姫衣が、……それに、佐伯さんが、」

「あぁ、見てきた」

 そう、砂影が橘を抱きしめてやる力を込めなおし、静かに呟いて返すと、そこで、橘の顔から、涙が溢れ出した。表情は全く変わらなかったのだが、ただ、涙が溢れ出した。

 それも含めて、砂影は頷いてやる。ただ、抱きしめてやった。

 あって数日の関係でしかないが、命を賭けた仲だった。通常の数日の関係よりは何倍も深い仲になっていた。そんな仲間達が、恐ろしく無残にも殺された。

 涙が止まってから、橘は見たモノ、起きた事を全て砂影に説明した。その間、諸星が高無をなんとか肩を貸して立ち上がらせてやり、その話しもしっかりと聴いて、把握した。

 敵が襲ってきた。綺麗な細身の女だったが、あくまで容姿だけの話しで、表情は非常に不気味で、人を見下す笑顔が貼りつていていて、見てすぐに敵だとわかったと言う。

 その女は謎の能力を次々と使い、あっという間に里中を捕縛し、皆の見ている前で無残に殺したと言う。そのあまりの無残な光景に、佐伯も橘も高無も、固まってしまい、動けなくなってしまったらしい。

 里中の死体が放り投げられたその瞬間に、二人は東雲を守らなければと咄嗟の判断を下し、家の中に入り込んで東雲を回収して、逃げるつもりだった。だが、玄関で既に追いつかれたその時に、佐伯が犠牲になった。橘と高無はその間に東雲が寝る居間へと突入。橘が東雲を担ぎ上げて逃げ出すつもりだったが、部屋に入ったその瞬間に、高無が敵に吹き飛ばされ、一撃で沈黙した。橘はすぐに目標を敵へと変更し、武器による応戦を開始したが、当然、宇宙人の力すら持たないただの人間である橘が、宇宙人に対応出来るはずがない。

 初撃をからぶったその瞬間に、死を覚悟したと言う。

 だが、そこで何故か敵は立ち止まり、東雲を確認するように見た後、その場からいなくなるように、消え去ったと言う。

 その話しを聴いて、一応の事実を把握した後、ともかく、と最大限の警戒をした上で、諸星が高無の肩を担ぎ、砂影が動かない東雲を抱き抱え、橘は武器を拾い上げて五人で、家を出る事にした。玄関を通り抜けて外へ出ると、その道中で当然、佐伯と里中の無残なまでの死体を見る事になるが、橘も、視界に入れないように、努力しなんとか家から出た。出て、暫く歩いた。里中の死体が視界に入る内は、砂影も振り返らないように橘により気を掛けてやっていた。

 暫く歩いていると、見えた。

「…………、」

 その光景を見て、霧崎も、成城も、飯塚でさえも、何も、言わなかった。大丈夫か、という簡単な声かけすら、誰かを貶めてしまうのではと思ってしまう程の状態だ、と見てわかった。だからこそ、ただ、霧崎は率先して数歩先へと出て、真っ先に砂影へと合流し、東雲の身体を受け取った。受け取って、まだ息がある事を確認すると、ほっと溜息を吐き出した。

 そのまま成城が砂影へと近寄り、事情を声を潜めて問うた。その間に飯塚が様子のおかしい橘に寄り添い、なんとか気をしっかり持たせようと、彼女なりの気を使って様々な事を話しかけた。当然、里中、佐伯の事については、触れないように意図的に話題を出さないように避けた。

 そのまま自然と東雲を抱えた霧崎が先頭となり、皆、霧崎に続くように歩き出した。

 話しをしっかりと聴いたわけでないにしろ、皆、全員が、最強の敵が現れたのでと理解していた。

 霧崎達が敵が残り四匹の時点で三匹を蹴散らしたのだ。当然、残りは一匹となる、

(最強の敵が、最期に投入された可能性なんていくらでもあるからな。……嫌な予感がする)

 霧崎達は、再度、少しでも安全を確保出来るであろう場所を探る。怪我人達は言葉は悪かろうが、事実、足でまといであり、邪魔である。かと言って、見殺しにするなんていう選択肢を取る人間は、この場にはいない、

 だが、今の一件と、敵が一匹という状況から、やる事は見える。

 敵の目的も、敵の殲滅なのである。そしてその目的を持つ敵は、ただ唯一、最強の能力を持つ敵が一匹だけだ。警戒するのは、その女だけで十分である。

 女は、人間(我々)を殺しに来る。それは、間違いない。

 だとすれば、次は、

「次は東雲達を隠した家を、戦える全員で守る。どうせ、敵は向かってきて、戦わなければならないんだから」

 霧崎はそう、ただそうとだけ言う。呟きのようなその言葉は、意識のある全員に届いていた。

 霧崎達が村の南部へと移動して、この村の中ではそれなりの大きさを誇る家を見つけ、そこに根城を築くと決めたそのタイミング辺りで、

「ん、うん……」

 意識が朦朧としていた高無が、やっと、目覚めた。

「大丈夫か?」

 諸星がそう問うと、高無は、暫くの沈黙の後、頷いて、自ら諸星から、離れた。離れて、よたよたと覚束無い足取りで歩き、橘の下まで来て、彼女を見上げ、そしてすぐに、彼女の胸の中に顔を埋めた。声が、聞こえたが、橘以外は聞こえない振りをした。

 橘はただ、彼女を抱きしめ、胸元から聞こえてくる言葉に優しく相槌を打ってやっていた。

 何も、言わなくても、わかっていた。仲間が、死んだ。敵の大人数を減らしたというのに、ここにきて、最期の最期に来て、仲間の数が一気に減った。命をかけている自覚はあったが、まさか、こんな事になるとは、と死に直面して、更に実感したのだった。

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