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5.強敵






5.強敵






 呼吸は荒れていた。だが、緑の蛍光色が輝くその光景を見ると、相手はやはり人間でないのだ、と気づき直し、先までの緊張は吹き飛んだ。

 成城が殴った男は吹き飛び、顔がひしゃげてぐちゃぐちゃになった状態で、折れかかった木に突っ込んで、そこで止まっていた。

「ッ……。くっそ……」

 忌々しげにそう吐いた。

 視線の先に見える顔が原型を止めていないその死体を見ると、吐き気がこみ上げてきた。実際に吐く事はなく、耐えるが、それでも、見るに堪えない現実が視界一杯に広がっていたのは事実。暫く死体を見た後、成城はすぐに視線を逸らすように振り返った。

 山の斜面を見上げる。木々が乱立していてあいかわず視界は悪いままだが、今の戦闘と今の敵の攻撃により、最初の頃に比べれば大分道は開けているようだった。

 後、敵の数は七匹。そして内一匹、未だ誰も見ていない敵の中に、歴代テスト最強の敵がいるという。覚悟をせねばらならない。

 緊張の生唾を飲み込んだ。

 その時だった。

「ッ、」

 成城の宇宙人の力が、近づいてくる気配を察知した。斜面の下、敵の死体が転がっている方向だった。再度視界に死体を入れる事になってうんざりする余裕はない。

 成城は構えた。体勢を低くして、いつ死角から攻撃が飛んできても良いように、体勢を整えて待った。

 が、そこから出てきたのは、

「うわ……酷い臭い……っ、って人間!? 死体!?」

 女、だった。成城を見ても見下すような笑みは見せず、死体を見て間抜けに驚く、不思議な若い女だった。間違いなく成城より若く、まだ高校生程度の女ではないかと思える女だった。見てくれは大分大人びているが、間違いなくそうだと成城は思った。

(こんな違和感丸出しの死体を見てもパニックにもならないなんて、相当だな、この子……)

 敵と遭遇した時とはまた別の不安を抱きつつ、成城は苦笑しながら女に声を掛ける。

「君は?」

 声をかけられ、はっとした様に成城に注目した女は、慌てつつ、応えた。

「あ、えっと。私、気づいたらここにいて……、」

「それはわかってる。大丈夫だ。最初から説明してくれないか。俺も知ってる事をすべて教えるから」

 これが、成城と飯塚泉奈(いいづか いずな)との出会いであった。

 互いに自己紹介を済ませ、重要な事実を確認仕合い、そして――タイミングを見計らったかの如く、敵の襲撃が襲いかかる。

「来た……!!」

「何がっ!?」

 成城が感じ取ったのは山の斜面を駆け上がって来る気配――二つ。

 同時に二匹の襲撃。それに、場合によってはその内の一匹が、最強の敵の可能性もある。挙句、こちらにはまだ今日目覚めたばかりだという戦闘慣れもしていなければ宇宙人の能力を手に入れてもいない飯塚がいる。

 当然、取れる選択肢は一つしかない。

「飯塚さん、走るよ! 頂上まで駆け上がろう!」

「わ、わかった!」

 成城の焦り方から、話しに聞いたばかりの敵がいると察した飯塚は大慌てで頷き、そして、成城と共に山頂目指して斜面を駆け上がる。

 飯塚だって、先の巨大なビームの攻撃は目撃しているのだ。敵がどんなに強大で恐ろしい存在かは、その本質を見てはいないが、理解はしている。危機感は当然抱いていた。

 あんな攻撃を受けたら、ひとたまりもない事は二人とも良く理解している。

 問題は、敵の、能力だ。

 テストが始まってすぐの頃のように、人間を完全に見下しきる事が宇宙人もできなくなってきているのだろう。今や能力は常時振るわれている状態だ。

 能力が、肝なのは言うまでもない。

 が、そこで、成城は気付く。

(速いッ!?)

 既に、敵の内一匹が、成城達と同じ位置にまで駆け上がってきている気配を感じ取ったのだ。まだ、背後には一匹分の気配がある。つまり、横と、後ろに敵が位置してしまっている。

 成城と飯塚の右側に位置して気配を振りまいていた未だ姿は見えぬ敵は、あっという間に成城達を追い越した。そして、その敵は一気に距離を引きなしたかと思うと、すぐに方向転換し、そして、

「飯塚さん!! 止まって!」

 真っ直ぐ、上から降りてくる。

 その気配を察知出来るのは成城だけだ。飯塚には何が起こっているのか理解ができていない。成城の叫びを聴いてなんとか足を止めた飯塚は僅かによろけるも、なんとかそこで踏みとどまった。踏みとどまって、そして、叫ぶ。

「何っ!?」

 焦りが成城にも激しく伝わったが、それどころではない。

 突如として、乱立する木々の隙間から成城達目掛けて恐ろしい程の速度で飛び出してきたのは、豹を連想させる、巨大な四足歩行の何かだった。悪魔の様な形相で恐ろしく長く、鋭利な牙を剥き出しにして、成城の首を狩ろうとばかりに、弾丸の如く真っ直ぐ飛び出してきた。

「ッ!!」

 咄嗟の判断だった。

 成城は飯塚を押し、そして自分は、飯塚が押されて倒れた方向とは反対側へと跳んで二人の間を空けた。

 いくら敵でも、空中で方向転換まではできない。その巨大な豹の様な形をした敵は、二人の間を抜けて、反対側へと到達までして、そのまま、振り返りもせずに木々の中へと姿を隠した。

(なんだ今の!? 今のも宇宙人なのかっ!?)

 成城は敵が二匹とも背後に行った事を確認して、すぐに飯塚へと駆け寄り、大丈夫か、と声を掛けて手を引いて立ち上がらせ、敵の気配をそこで一度しっかりと感じ取り、再度、二人は山の斜面を駆け上がり始めた。

 成城が、人間の形以外の敵を見たのはこのタイミングが初めてだった。だからこそ、最悪である。対処の仕方が全く新しい敵が出てきたのだ。

(今のが能力って事か? それとも、変身能力であの形になっているって事なのか!?)

 実際に見たのが初めてで、近くに識者がいないからこそ、迷った。足場の悪い斜面を転がらないように必死に足に力を込めて、駆けながら、考えた。だが、それは焦っているからであって、少しでも思考がまともに働けば、すぐに出すべき答えに気付く。

(いや、変身能力で変わってると考えるべきだ! 能力が他にもあるって考えとかないと、不意を突かれるし、それで自然と生じる隙を間違いなく狙われる。……それに、宇宙人は、変身能力で人間に化けるって聴いたじゃないか。きっと、人間でなくあの姿になってるって考えるのがこの場の選択では、間違いない)

 山頂まで、残り直線距離として三○メートル程。

 だが、しかし、この時既に、あの豹型の宇宙人は、二人のすぐ横に並んでいた。

「飯塚さんッ!!」

 敵が飛び出してくる直前の大きな気配(動き)を察知した成城は、咄嗟に足を止め、飯塚の肩を抱き、胸元に無理矢理引き寄せた。

「え、きゃあっ!?」

 突然足を止められた事で飯塚は僅かに足の運びを失敗するが、そこは成城が無理矢理カバーした。と、同時、豹型の宇宙人が、先程まで飯塚がいた場所を通り過ぎ、反対側まで行ってやっと足を地面に着けて――振り返った。

 恐ろしい形相が二人を見上げた。ここまで来られると、山頂に駆け上がる余裕はない。

(どう考えたって、初動も相手の方が速い。背中を見せちゃだめだ)

 左から、山の下から、敵が駆け上がってくる足音が木々に反射して成城にまで届く。

 飯塚を胸元から開放しつつ、瞬きする程度の一瞬で、成城は頭を高速回転させ、思考を巡らせた。内容は単純、飯塚を、逃がすか逃がさないかである。

(飯塚さんに一人山頂に向かわせて大丈夫か……!? 敵の走る速度は俺達よりも圧倒的に速い。もし、目の前のあの豹みたいなのが飯塚さんを追ったらまずい。もう一匹来てるんだぞ!! どうする、俺!!)

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