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4.能力―8


 成城達は走り出し、木々の間を抜ける事で既に敵の位置は見えなくなっている。ある程度の予測を立てる事は出来るが、敵だって移動している可能性はある。敵からも見えなかろうが、敵は敵がいると思った方向に攻撃を放つだけで十分だ。

 居場所がばれるのは、好ましくない。

 そしてやはり、空気が爆発する轟音が鳴り、成城達が駆け抜けたすぐ後の道を、貫いて空へと攻撃が通り過ぎていった。

 大気が震えているのが分かる。耳鳴りも酷くなっていた。自分の足音さえ聞けない様だった。だが、攻撃を避けたその瞬間だけは、成城達にとっても好都合となる。

 敵の位置が、攻撃を放ったその瞬間だけは、分かる。

 そして、

(あのバケモンの攻撃は、レーザーみたいに長く放たれるけど、放ったまま振り回したりはできないのか!? 反動がある、とかか)

 成城は推測しつつ、足は、止めない。

「もう少し走るよ。できれば、逃げ切りたい」

「うん。……はい。わかりました」

 高無も続く。

 そうだ。逃げ切りたい、そう成城は狙い、言うが、また、もう一つの可能性も、狙っている。

(どうにかして敵に接近できれば、俺がやってやる! 俺も宇宙人と渡り合えるのはわかったんだ)

 成城は、ここで、霧崎に東雲の無力化をとにかく頼みたかった。故に、それ以外を担当するとなれば、それに全力でぶつかるだけだ。

 だが、問題は多い。

 今の敵の攻撃は派手過ぎた。山という木々で身を隠せるこの場所でさえ、その存在をはっきりとさせる程の攻撃だ。それを見た何者かが、集まろうとしないわけがない。

 成城の目の前に出てきた敵は、一匹。

 まだ、それ以外に、一○匹の宇宙人が、人間を殺そうと狙ってこの狭い島にいるのだ。

「ッ!! 姫衣、さがって! 佐伯さんも!」

 霧崎の補助のため、成城達とは違う位置から、成城達同様に東雲の注意を引きつける役割を担って移動していた橘、里中、佐伯は橘のその言葉に全員揃って足を止めた。

 橘が空を見上げていて、里中、佐伯もその視線を追って空を見上げた。木々の梢と木の葉によって空はあまり見えていなかったが、その僅かな隙間からでも、はっきりと見えた。

 何か。恐ろしく太い閃光が、飛行機がすぐ真上を通り過ぎるような音を立てながら、通り過ぎていったその光景を、見た。大気が震えているのが、肌を伝わって三人に思い知らさせた。

「……何、あれ?」

 里中が絶句する。当然、橘も佐伯もそれに理解を得る事はできない。ただ、推測出来る。

「敵、だね……宇宙人」

 佐伯の呟きに、橘が頷いた。

「そうだな……。東雲さんの能力じゃないし……」

「でも、あんな協力な敵がいるなんてっ!!」

 里中が絶望し、佐伯も言わずともそうだった。

 だが、橘は、更に絶望していた。

 橘は振り向いていた。その様子に気づいて里中も佐伯も目の前の橘を見たが、橘の視線が二人を越えて、その先に向いている事が分かり、二人もすぐに戦慄して振り返った。

 そこに、見えるのはやはり、乱立する木々の視界を遮るモノだけだったが、三人とも、はっきりと聴いた。先で雑草が踏み潰される音。木々に擦るような音。様々な音が聞こえてきたが、ともかく、何かが、近づいてきている事が、分かった。

 戦慄した。そして、考えた。

(どうする……っ!? 逃げるか、立ち向かうか……。いや、逃げるに決まってる!)

 橘が最初に答えを出した。

 当然の答え、全員がそれしかないと判断した。

 命を賭しているが、三人とも、未だ宇宙人の能力を保持していない。いくら三人いようが、全員が武器を持っていようが、相手が単体であろうが、逃げるのが一番良い。

 だが、ただ、逃げるわけにもいかない。

 三人とも逃げ出したい気持ちは当然あったが、それでも、当初の目的を果たしてから、逃げようと考えた。

 先の一撃が見えた以上、宇宙人は自分達に迫ってきているしれ以外にも、もう一匹いるはずである。事態の動き方がわからないし、把握もできないが、やはり、三人も、成城達と同じ、この場で霧崎に東雲の無力化を頼みたいのだ。

 三人は、まっすぐ敵から逃げるように、山の斜面を駆け上がった。

 このまま飛び出して、一瞬でも東雲の気を反らせれば良い、そう思った。

 だが、事態は常に動いている。

「ッ!!」

 好機。霧崎がそう思ったのは、突如として山の中から斜面を沿うようにして飛び出してきた恐ろしく太いビームのようなモノが、東雲の背後に迫り、東雲が振り返ってそのビームから飛び退いて、結果的に、霧崎に背を向けたまま、僅かでも近づいた時の事だった。

 霧崎は右手を弾き、稲妻を飛ばした。木々の隙間を縫うように飛ばされたそれは、一瞬の内に東雲へと到達するが、やはり、まだ。

「ッくそ」

 真っ直ぐ飛んだはずの稲妻は、どうしてから、東雲に当たる直前で屈折し、空へと向かって飛んで消えてゆく。

 これが、東雲の能力である。かといっても、それは、そうそう防ぎきる事のできない攻撃に対して発動しているのだ。そればかりは、東雲の身体能力の高さ故、である。

 霧崎は攻撃がはずれた事を確認するとすぐに、走り出した。再度、山頂を回るように走り出す。

 霧崎がいるのは、山頂から離れていない位置だ。山頂に限界まで近づきつつ、なんとか木々の影に身を隠せる位置である。そうでなければ、霧崎の攻撃は木々を破壊してしまい、この地の利を無駄にしてしまうし、最悪、木々が燃え上がり、山を殺してしまう事になる。だからこそ、あの時も山を降りきってから戦闘に挑んだ。

 これは、当然、霧崎にとって有利であり、不利である。

 なにせ、東雲に近づかれてしまう可能性が、高いのだから。

「面倒な男」

 東雲は振り返り、笑みを浮かべてそう呟いた。

 東雲は光の速度で向かってくる攻撃に反応している。そんな事、当然人間には不可能だ。いくら宇宙人めいた身体能力を持っていようが、同様である。が、攻撃が向かってくる位置さえわかれば、話しは別だ。

 霧崎は移動の際に警戒に警戒をして足音から存在まで、東雲に悟られないようにしている。

 だが、攻撃を仕掛ける際の動きは別だ。霧崎は東雲の数少ない隙を見つけて攻撃を叩き込むため、その動きに関しては制限をできない。その動きの音を、東雲は聴いて、攻撃の来る位置、タイミングを図り、能力による防御を確実にこなしているのだ。

 理屈はこうだが、それも、わかっていて出来るモノではない。東雲だからこそ、五位だからこそ出来る事である。

 東雲は、仕掛けるか、と先の攻撃を見て、判断した。

(今の攻撃は宇宙人のだね。まぁ、でも『あの最強の宇宙人』とやらの能力じゃないし、誰かが倒すかな。……なんにせよ、私の前に立ちふさがらなければ、手を出す理由はないわね。っていうか、気配だともう一匹……いや、二匹、全部で三匹、少なくとも近くにいるようだけど……。邪魔にならなければ、問題はないか)

 東雲は、山頂の開けた場所、ど真ん中で立ち止まり、耳を澄ました。能力を得た事による身体能力の向上により、集中すればする程、様々な音が彼女の耳へと入り、脳へと流れ込んでくる。

 木々の梢が揺れる音、木の葉がかすれる音。足元に敷かれる雑草の絨毯がこすれあう音、踏み抜かれる音。その中に、霧崎の移動の音はない。

 止まっているのではない。単純に、それ程の移動を可能としているのだ。

 それに関しては、東雲も流石三位だな、と評価している。

 順位付けがあるのだ。東雲は霧崎の二つ下なのだ。能力の相性はあるモノの、単純な言葉で言ってしまえば、霧崎は、東雲よりも強い。

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