4.能力―7
霧崎が考えるに、霧崎が真正面から東雲と戦って、勝てる可能性は五分といったところ。良くて相打ち、大体は殺される、そう思った。
当然負ける気はなかった。だが、相手が強く、挙句能力的にも、人格的にも相性の悪い人間であるという事は、しっかりと認識していた。だからこそ、最良の選択を選び、慎重且つ大胆に行動し、この場を乗り切らなければならないと考えた。
(きっと、今頃ゲーム参加者は大騒ぎだろうね。テストでクリア済みの二人がぶつかるなんて今までなかっただろうし)
霧崎は、山頂を中心に回るように木々の間を移動しながら、そう思って苦笑した。
「里中さん。武器を手に取っていた方が良いと思う」
「うん」
その頃、成城と高無は山の中だが、霧崎達とも、砂影達とも別の場所へと移動していた。橘、里中、佐伯も三人で、また別の場所へと移動していた。
班分けは単純、戦える者に、戦力としては弱いと思える人間を付けただけの事。成城は既に宇宙人の能力を手に入れている事が判明している。故に、里中一人を付け、残りは数を多くするために三人で固めた。
この五人は、霧崎から東雲の情報、そして、霧崎にとって東雲は天敵であると言う話しを聴かされていて、当然、打倒東雲のために霧崎に協力する形で、動いている。
狙うは、不意打ち、の、一歩手前。
霧崎の一撃は、まさに一撃必殺だ。電撃による攻撃で相手を殺す事も、無力化する事も容易い。だが、東雲は光の速度で襲いかかるその攻撃を不意打ちですら防いでしまう。死角からの攻撃でも防いでしまう。
ならば、更にその不意を大きくするだけの事。そのために、五人はそれぞれ動いている。
位置の指定はなかったが、皆、霧崎とは別れて動いているため、ランダムな位置からの飛び出しが出来るようになっている。誰かが飛び出し、そっちに東雲が気を取られた隙に、――そして東雲の攻撃が飛び出した誰かに当たる前に――霧崎が東雲を討つ。単純だが、一番可能性のある作戦だった。
飛び出す優先順位等決めやしなかったが、当然、一番に出るのは宇宙人の能力を手にしている成城になる。成城自身その自覚をしっかりと持っていて、自ら『やってやる』という強い覚悟を持った上で、この場に臨んでいた。
「三からカウントして零で俺が飛び出す。俺が失敗したら、続いて飛び出してくれ。命に関わるけど、こればっかりはどうしようもない。倒さなければ、どのみち皆死ぬ可能性があるんだから」
成城が真っ直ぐ先を見据えた上で、静かにそう言うと、里中は一瞬の沈黙の後、静かに「うん」と頷いた。
覚悟は既に出来ていた。後は、タイミングを合わせて飛び出し、襲い掛かり、東雲の注意を引きつけるだけだ。成城は宇宙人の能力を得ている。場合によっては、攻撃を当てる事も敵うかもしれない。やる事は、見えている一瞬だけでも相当に多かった。だが、単純だ。そして、危険だ。
現在、当人達は把握できていないが、移動し、止まり、様子を見て移動をし、としている霧崎とは、正反対の位置に成城と里中はいた。理解はしていないが、好機である。
挙句、タイミング良く成城が飛び出す位置を決めた。なおの事、好機である。
「よし、三、二……、」
だが、忘れてはいけない。
「ッ!! 里中さん! 伏せて!!」
この島には当然、東雲以外の敵が、いるという事を。
そもそも、東雲こそがイレギュラーな存在であり、本来の敵という敵は、
「ッ!!」
宇宙人であるという事を、忘れてはいけない。
成城は叫び、即座に振り返った。
見えたのは、言葉に反応しきれないでそのままの状態でいた里中の呆然とした表情と、そのすぐ背後に迫ってきていた、何か、輝く、恐ろしく太い、閃光のようなモノ。
成城はすぐに里中に飛びつき、二人して地面に倒れ込んだ。その次の瞬間には、その何かが、成城達のすぐ頭上を飛び越えて、行った。
耳を劈くかと思う程の爆音が取りすぎた。耳鳴りが連続する。そして、それが完全に二人の頭上を通り過ぎた後に、どさりどさり、と、次々とそれが通り過ぎた軌跡に並ぶ木々が、倒れていく音が連続した。
億劫ではあったが、成城は里中を自らの腕の中で伏せさせたまま、ゆっくりと顔を上げて、光景を確認した。
道が、出来ていた。それを見た成城は間抜けにも口を開き、呆然としてしまった。驚愕した。そして、震えた。
「なん……っ」
何が起きたのか、理解したのはその次の瞬間だった。
成城の視線が向かうのは、あれ、が通り過ぎたその先ではなく、山の下。あれ、が飛んできたそちらの方向。木々が全て崩れ落ち、無理矢理に木々が乱立する山の中に作られた道の下、先に、見えたのは、人間――の形をした宇宙人。
すぐに宇宙人だと分かった。表情には相変わらず一を見下す笑顔が張り付いていたし、何より、この状況だ。
「まずい……最悪だ……」
成城はすぐに気付いた。
敵の攻撃は、今見た通り、障害物をもろともしないモノで、一直線に、飛んで行く。飛んでいった先を見れば分かるが、その射程距離は相当長い。実際に、見上げて見れば山頂までの道が出来上がってしまっている。
つまり、里中を、一人走らせるわけにはいかない、という事。
里中を逃がして、そちらの方向に今の謎の攻撃でもされたら、終いだ。いくら成城が盾になろうが、成城を粉砕してそのまま里中の背中にその攻撃は到達するだろう。
(どうする……ッ!?)
成城は判断した。霧崎の援護よりも、この敵をどうにかする事が優先だ、と。
だが、悩んだ。
当然だ。里中は戦力にならない。そう分かっているからこそ、成城に付けたのだ。里中を安全な場所に移動させたいという気持ちで一杯だったが、それが叶わないと分かっている。
だが、敵は待たない。
遥か先に見える男の口角が笑みに深みを持たせるように更につり上がったのが、分かり、成城を戦慄させた。
来る。そう直感した。
男が両手を持ち上げ、成城達へと向けた。掌が、成城達へと間違いなく向いていて、そして、その両の掌の中に、眩いばかりの輝きが宿るのが見えた。
来る、攻撃が、来る。
成城の全身に冷や汗が吹き出した。その光景を見ただけで喉が干上がり、身体が震えだし、目が血走った。それ程、危険だ、と本能が感じ、全身に恐怖の感触を植え付けていた。
成城は咄嗟に立ち上がり、無理矢理であると分かりつつ、里中を引っ張って立ち上がらせ、
「走るよ!!」
手を引き、横へとずれるように方向を決め、走り出した。
説明をしている暇等当然なく、半ば無理矢理に引っ張られる里中は足をもるれさせるが、危険な状況で、成城が助けようとしてくれている事は理解しているのだろう。無理に走る成城に必死について、足を動かした。
足場は悪かった。数秒の間で何度も転びそうになった。だが、もがいた。
成城達が走り出した直後、つい一瞬前まで成城達がいた場所に、極太の閃光が、通り過ぎた。
それは、まるで、『ビーム』である。霧崎の能力である稲妻が飛ぶ速度よりは僅かに遅いが、それでも人間が反応仕切る事の出来る速度ではない。挙句射程はこの小さな島ではほぼ無限に近く、破壊力は抜群。
巨大戦艦の主砲から放たれるレールガンのような、そんな攻撃。
単純に言えば砂影が清瀬との戦闘の際に遭遇した宇宙人の攻撃の上位互換だが、あまりに桁違いの攻撃に、それは最早別の分類とした方が確実だと言える。
「なんですか、あれ!?」
里中が悲鳴めいた声を上げる。
「わからない! っていうかあまり大きな声をあげないで!」
居場所が、悟られる。




