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4.能力―6


 砂影は持てる力の全てを以て、諸星を組み伏せようと最速で動いた。取り押さえ、無理矢理にでも喋れない状態を作り、まず、敵か味方か確認しなければならない。味方であれば、状況を説明して黙るように指示を出し、敵であればそのまま殺さなければならない。

 砂影が地を蹴った。その際の衝撃は人間のモノとは思えない程だったが、動きの速さを捨てる事は出来ない。砂影はその一蹴りで一気に諸星の目の前にまで迫った。

 ここで、まず、違和感を覚えた。

 宇宙人の力を手に入れた砂影の身体能力は、人間の比にならない程に高まっている。挙句、砂影は元の身体能力も高く、今の一歩は人類最速の一歩と言っても過言ではない程に素早く、それはとても、視線で追えるモノではなかった。

 だが、砂影は確かに見た。

 砂影が懐に潜り込んだその瞬間、諸星の視線は、懐に潜り込んだ砂影を見下ろしていた、という事実。

 砂影はまさか、と思いつつ当然動けは止めなかった。すぐに右手を伸ばし、首元を掴み、そのまま組み伏せてしまおうと最短の最小の動きでそれを実行した。

 が、伸ばした右手が、払われた。

「!?」

 まるで、目の前に飛んできた蠅を払うかの如く、あまりに容易く、あまりに無造作に払われた砂影の右手は、向かう先であった諸星の首には当然届かず、当然、それは砂影の隙に繋がる。

 この瞬間では砂影は判断しきれなかった。目の前の男が、人間なのか宇宙人なのか、まだ判断できなかった。

 だが、そんな事をするよりも前に、ほんの一瞬で、諸星の、砂影の右手を払った左手が砂影の右手首を掴み、左手が砂影の右の腰の位置に添えられ、そして、浮く。

 突如として襲いかかってきた身体が宙を舞う感覚に、砂影は対応できなかった。まるで大車輪をするように、側宙をするさせられるように砂影は宙を舞って、そして、地面に寝転がるように、彼は落ちた。

「ッ!!」

 どさり、と地面に落ちた砂影はすぐに転がって諸星と距離を取り、体勢を立て直すが、顔を上げて、そこでやっと、気付いた。

「なっ……!!」

 砂影から三メートルの位置。なんとか視界がそのまま残っている距離だ。実際に、立つ諸星のすぐ背後には木の幹が屹立している。そしてその諸星の右手には、先程まで砂影の腰に刺さっていた二本の刀が、まとめて握られている。

 砂影を宙に浮かしたその一瞬で、奪いさったというのか。

 砂影はともかく、と立ち上がって後退した。だが、二歩しか下がる事はできない。木の幹が行く手を遮った。

 武器を奪ったところを見て、砂影は男が、諸星が、敵であるという可能性が高い、と判断した。故に、一旦身を隠し、どうにかして武器を取り返す事を考えよう、と判断した。

 だが、

「あ、あぁ!! ちょっと、ごめん。ストップ! 反射的についつい。……っていうか、君強すぎるから、怖くて!」

 諸星は、そんな事を言いながら、持っていた刀を二本とも砂影の目の前へと転がすように、投げた。

「……!?」

 砂影はその異様な行動に驚愕しつつも、男から視線は外さず、視界に映る光景だけで日本刀の位置を確認して、二本とも手にとった。手に取って――腰へと戻した。

 戻した理由は当然、相手への、牽制である。

 相手が敵である場合。砂影が今の諸星の行動に驚いたように、武器をしまえば相手は当然驚き、ある程度でも戦闘センスのある者であれば当然その行動の意味を探ろうとする。

 探ろうとする。というのが、この牽制でもある。

 今、男は武器を完全に奪いつつも、すぐに砂影へと返還したのだ。この行動に、意味がないわけがない。

 最早、東雲や霧崎の事を気にかけている場合ではなかった。

 砂影は、今までで一番に警戒していたかもしれない。宇宙人本来の姿と相対した時も警戒したが、そういう視覚的な危険を感じ取った、のとはまた違う、実際に応酬をして、体感する危機。正確には、男の強さである。

 この男は、敵味方関係なしに、まず、単純に、強い。

 砂影はそう判断した。だからこそ、敢えて、応えた。

 砂影のその応えに応答する諸星。

「違う。……違う! 違うんだ。今のは敵意があるとかじゃなくて……、」

 諸星がそこまで否定しきったところで、砂影は、刀をしまって正解だった、と判断しきった。だからこそ、次は砂影が応える。

「……俺も、だ。状況が状況なんだ。それについては後から言及するつもりだから」

 なんだこの男は、と思いつつ、砂影は相手が人間である可能性の方が高い、と判断した。

 そこからは、お互い自己紹介を済まし、そして砂影が現状を諸星へと説明した。諸星はそれをしっかりと聴いて、わかったと首肯して応えた。互いとも、味方である事は当然確認し、互いとも確信を得た。

 味方が増えるという事は、砂影にとっては当然好ましい事である。強ければ、尚更である。

 仲間となった今、警戒する理由はない。問題は、次、どう動くかである。

「三位。いるんでしょう? 出てきなさいよー」

 東雲は、ただ辺りを見回して、どこかにいるであろう霧崎の姿を探していた。位置を変えない理由は単純。東雲は、霧崎の攻撃を防ぎきるという自信があるからである。だからこそ、笑みを浮かべたままであるし、手を振るう事すらない。

 東雲の余裕の理由は、その能力にある。

 そもそも、『今現在』、彼等彼女等に付けられている順位、序列はそもそも、単純な強さによるものではない。

 その順位の持つ、意味は『テストの合格基準による採点と、クリア後の調整や試験による際に出された数値の位置付け』である。

 つまり、少なくとも今現在の順位(モノ)では、単純な強さを測る事はできない。対人戦なんか、想定すらされていない。

 挙句、砂影が考えたように、能力の効果によっては、相性までもが存在する。

 つまり、霧崎の能力は、東雲の能力に通用しない、もしくは、通用しにくい。それか、逆、であるという事である。

(……この距離から、挙句死角からの光の速さの攻撃だぞ。それに反応して防ぎきるって、やっぱり五位……、超こえぇ!!)

 霧崎は焦っていた。

 霧崎は知っていた。五位の女、東雲出雲がこのテストに潜入している事は知っていた。そして今、その目的はハッキリとした。想定していた事だが、確信を得る事が出来た。

 殺しに来ている、という事が分かっている以上、霧崎は東雲を殺すか、テスト終了まで逃げ切るしか選択肢を持てない。挙句、東雲が殺しに来ている以上、テスト終了後、『戻った』としても、そちらで東雲でなくとも、他の強者達に殺される可能性がある。

 そこまでわかっていれば、そこまで判断が及んでいれば、霧崎のやる事は見えている。

(先に強敵を見つけて殺すか、なんとかこの場で東雲さんを倒すか、だ)

 考えればすぐに分かる事だが、強敵、とされる宇宙人、つまりは霧崎の目的は、ここに偶然現れる、なんて可能性は当然低い。狭い島だからとは言えど、恐ろしく低い。『ある程度可能性の底上げはしたが』それでも低い。

 だからこそ、霧崎は東雲と戦うしかない。

 状況を整理して、東雲に勝つ方法を霧崎は模索する。

(まず攻撃が当たれば俺の勝ちだ。攻撃の威力だけで言えば俺の方が圧倒的に高いし、速度も早い。ただ、東雲さんは反応を追いつけてくる。だから不意打ちするしかないんだけど、不意打ちにも反応しきってる。……いくら東雲さんでも、この最期のテストをぶち壊しにはできないはずだ。そんな事をしたらまず『東雲さんが殺される』だろうしね。……弱点は、そこくらいしかない、か)

 霧崎は思考する。

(成城君達が、頼りになるかな)

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