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3.分断






3.分断





 目覚めてから二日目。この日、成城、高無、砂影、佐伯の四人は一日目の成城が見た死体の持つであろうメモを確認するため、山の中へと足を踏み入れていた。

 古ぼけた五階建て程度の建造物から惜しむ事なく足を進め、真っ直ぐ東に向かって山の中へと入った。

 山の中は相変わらずの状態で、足元の雑草を見ても踏み潰された後は確認できず、他の誰かがここを通った可能性というのを見いだせなかった。足元もそうだが景色も乱立する木々が変わらない景色ばかりを見せていて、方向感覚を狂わせる。

 当然、感覚の鋭い砂影が先陣を切って進んだ。高無と佐伯がすぐ後ろに続いて、最後に成城が後方を守った。

 気配はないように思えた。付近に敵はいない様に思えた。

「成城さん。確かあっちの砂浜から登ってきたんだよね」

「そうだよ。だから、もうすぐじゃないかな」

 歩く事一時間程度。歩く方向、距離、その時間を考えれば頂上から一度確認した島の景色から、大体の山の大きさが図れてくる頃だった。

 見つけた。

 全員の足が止まり、首は上へと曲がった。全員の視線は当然上へと向いた。

 見つけた。木々の網目状に重なる枝にひっかかる無残な状態の男の死体だ。既に血は止まっていて、虫がたかっており、不快な匂いが辺りを支配していて、近づいている時点で既に四人は気づいていた。

 いざ死体をすぐ目の前にすると、足は止まった。砂影は辺りを警戒していたが、成城は二度目であろうが、死体をまじまじとみてしまったし、佐伯も高無は思わず目を逸らしていた。

「高いな……」

 砂影が呟くが、届かないと思ったわけではない。

「登って落としてみる? 木を揺らすだけじゃ落ちてこないと思うけど」

 成城が死体を指差して言う。が、落ちてきた後の虫や肉が飛び散る姿を想像すれば、落としたいとは思わなかった。

 が、砂影は跳躍し、落とす事が出来ると分かっている。が、後ろ二人の様子を見ると、堂々とそうする事は叶わないと思った。死体の下までどうにかたどり着いて、メモだけ取り出せれば良いのだが、と思った。

 何にせよ、急ぐべきだと思った。

 腐臭が酷く、光景も良くない。成城も直視はしているが、無理をしているのは分かった。後ろの二人なんかなおさらだ。

 が、急ぐべきだ、と思った頃には、もう遅いのだ。

 気配。察知したのは成城、と当然の如く砂影。

 砂影がすぐに高無と佐伯の後ろの回った。成城はすぐにその反対側に立つ。

 手に握る手斧が全く頼りにならない気がした。が、聞こえた足音、感じ取る事の出来る気配は今、砂影が立った方向から、した。成城はあくまでそのカバーとして反対側で武器を構えただけだ。

 だが、カバーするのは、当然、そちらからの敵の襲撃の可能性を考えているからだ。

 来ない、なんて、否定しきる事はできない。

「ッ!!」

 敵の影が見えるよりも前に、砂影が首だけで振り返った。そして、目を見開き、叫んだ。

「成城さん!!」

「わかってる!!」

 声を上げるのは、得策ではない。だが、明らかに囲まれているこの状況で、今更自身の居場所を隠す理由もない。この状況、戦うしかない。

 二人の声で佐伯も高無も、その現状を理解した。

 敵が、二方向から迫ってきているのだ、と。

 単純に前と後ろ、そう考えた。の、だが。

 違う。

「……くそ」

 砂影の視線が横にずいと思いっきりずれた。

 吐き捨てたのは面倒、である。

 三方向。戦えるのは、二人。

 砂影が見るのは、死体のあるこの場から山を下る方向、つまりは南。そして、成城が見るは山を登る方向、つまりは北。

 通常考えれば、上から責められるのはよろしくない。この場合、戦いに慣れているであろう砂影が成城と位置を変わるべきだった。だが、先に出てきたのが南で、その直後に北から攻めてきたのだ。そして、もう一つの気配は、西から飛んでくる。

 砂影も成城も考えた。どうするべきなのか、と。

 だが、考えている間に動きが止まってくれる事もない。

 まず飛び出してきたのは砂影の正面、見知らぬ男だった。相変わらず姿形は人間で、服装は成城達同様の真っ黒の上下なため、見てくれだけの判断はできなかったが、その様子からすぐに、判断は出来た。

 敵である。

 が、多方向からまで敵が来ているのは、分かっていた。

 故に、一瞬だった。

 砂影の判断は恐ろしく早い。体勢を低く構えて、武器を持って飛び出していた来た、明らかに優位であろう敵の懐に下から潜り込む様に飛び出しざまに、一刀両断。

 斜面上にいたはずの敵が懐に潜ってくるなんて、誰も思いやしない。

 斜面下から、という不利な状況を最大限に利用し、それによる不意打ちを目論んでいた敵だったが、そこから下に潜り込まれるとなると、対応が出来るはずがなかった。まず膝から下が吹き飛んだ。そして落ちる事なく、上半身と下半身が二分された。

 緑の蛍光色の粘着質な血液が飛散するが、その血液に触れる事なく、砂影は一瞬の内に方向転換していた。すぐに、成城が立ち向かう敵ではない、もう一つの方へと向いた。

 そして、すぐに前へと出ていた。

 当然、その動きの間はずっと、自身の後方に佐伯と高無が位置する様に動いている。

 死体が出来上がり、吹き出す敵の血液が高無達に降りかかって騒ぐが、その程度は耐えてもらうしかなかった。

 砂影の目の前に次に飛び出してきたのは、男だった。見慣れぬ男。手には巨大な槍を携えている。顔は不気味に歪んでいて、場違いな笑みが右目に傷があるあの男の様な印象を砂影に与えた。

 槍は、当然そのリーチにメリットがある。砂影とその男の距離がまだまだあるというのに、槍の真っ直ぐ、一直線の攻撃が砂影に向かって迫ってきていた。

 が、それを砂影は横に身を翻して避けつつ、一度、手にした刀を振るって槍を横から叩き、弾く。

 そして、一気に距離を詰める。足元は悪く、思った通りに前進できなかったが、槍の懐に、入る事が出来た。

 槍のデメリットはそこだ。リーチが長く、中距離での攻撃を優先的に熟す事が出来るが、刃が、つまりは、攻撃の方法が、先端にしかない。懐に入り込んでしまえば、斬撃による攻撃はできない。

 が、

「砂影君!!」

 成城の声が聞こえた。

 砂影の脳は一瞬で判断した。今の成城の叫びは、危機的状況の現れである、と。

 当然、目の前にいる敵から目を逸らすわけにはいかなかった。

 だが、

「砂影っていうのかアイツはァ……」

 続いた声を聴いて、砂影の足が、止まってしまった。

 そこに、引き戻された槍の柄が、勢いよく叩き込まれる。

 砂影のコメカミに漆黒に染まった柄が勢いよく衝突し、弾性により皮膚が思いっきり弾け、血が吹き出すが、そんな状況でも、砂影は確かに見た。

 成城と組み合う、右目に傷のある、見覚えのある男のその姿を。

 判断は早かった。あの男と成城をぶつけてしまってはいけない、とすぐに判断した。

(あいつ……このタイミングでッ!!)

 砂影のこめかみを叩いた槍の柄は、振り切られる予定だったのだろう。が、それは、ヒットしたその瞬間、余所見をしていた砂影に掴まれていた。刀を持ったままの手で掴む、という事は握力を上手く使えないという事であるが、槍は、動かなかった。

 それどころか、動かすという事をする前に、振り向きもしない砂影の攻撃により、敵の首は吹き飛んでいた。

 そして、すぐに、

「成城さん!! 変わるッ!!」

 砂影は敵の死体を確認っもせずに、すぐに成城の傍まで寄った。

 成城と組み合っていた男の視線が、砂影に向いたのがすぐに分かった。

「来たか……!!」

 

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