クリスマス休暇
時は流れ、12月も半ばの頃。
私達は冬季休暇のことについて話していた。
ゲームの中ではクリスマスイベントっていうものがあって、それぞれの攻略対象達とクリスマスを過ごしていた。このゲームにおいては割と重要な要素のイベントだ。文化祭や舞踏会からこっち、大事なイベントラッシュだな。
まぁ仕方ない。ゲームの物語も佳境に入ってきている。本来このゲームの期間設定は一年間だからね。
だが、みんなで冬季休暇のことを話しているうちにまた「ウィルヘルミナ」の家で集まろうという話になってしまった。勿論それはどうなんだ、各々過ごしたい相手や家族が居るだろうに、と止めたのだが。
みんなうちで遊びたいと言って聞かなかった。心なしか火花が飛び散り合っていたような気もするが、気のせいだ。気のせい、気のせい。
と、いうことで。
我がハーカー家でのクリスマス会に、いつものメンバーが集結することになったのだった。
「これはまた、盛大に飾り付けをしましたねぇ」
ユーリが玄関ホールを見やる。
玄関には大きなクリスマスツリーが飾られている。色んな飾り付けがされていて、とても綺麗だ。
「あはは……、毎年飾り付けはしてくれてるんですけど、今年は特にすごいですね……。
「お嬢様のご学友がまた屋敷にーーっ!」とか言ってみんな走り回ってました」
「あはは、なるほど」
「おお! これは中々に美しい飾りだな!」
サーシャが横から話しかけてくる。彼の瞳はキラキラと輝いていて、初めて見るクリスマスツリーに感動しているようだ。
まぁ、この時代のツリーだから、現代に比べればキラキラはしてないんだけどね。
「ありがとうございます。褒めていただけると、使用人の方々が頑張って用意した甲斐がありました」
「うむ。これは中々にいいものだ。我が国にも持って帰ろうぞ、なぁカリュ!」
「ええ、そうですね殿下」
タマルフォン王国にはクリスマスの文化は無いらしい。だから、このクリスマスの会も初めて参加するのだとか。
まぁクリスマスって主にヨーロッパ圏の催しだもんね。
わくわくしながら見つめているサーシャが何だか可愛くて、私はクリスマスのことを色々教えてあげた。
「クリスマスにはプレゼントも貰えるんですよ」
「プレゼント? 欲しいものを貰える日、ということか?」
「そんな感じです。サーシャ様なら何が欲しいですか?」
私が問うと、サーシャは「う〜〜ん……」と悩みに悩んだ顔をする。
「……色々ありすぎて、一つには決められんな」
「あはは、そうですか」
サーシャらしいな。
「そなたはどうなのだ?」
「え?」
「欲しいもの、何か思いついているか?」
「そうですね。ウィラは何を今年は欲しがったんです?」
「えっと……」
私は無難に「新しい本」とかって答えようとした。実際、家族から貰ったのもそれだったし。
だが。
「…………っ?!」
ユーリやサーシャと歓談している私のことを、少し遠くの場所から見つめていたヴィクトールの、瞳が。なんだか、こちらを射抜くような鋭いそれで。
目を合わせた瞬間びくりと身体が跳ねた。蛇に睨まれた蛙のように動けなくなる。
……何だ。どうしてあんな目で、こっちを見てる……?
「ウィラ?」
「っ!」
サーシャに顔を覗きこまれながら名を呼ばれ、現実に引き戻された。
ちらりと向こうを見る。ヴィクトールは、もう私のことなど見ていないようだ。使用人の人とと何か話をしている。
はぁ、と息をついた。
(何だったんだ、あれは……)
「ウィラ? どうかしましたか?」
「え゛ッ、あー……! ええっ、と、そうだ、欲しいものですよね。本! 本です!」
「ああ、なるほど。相変わらず読書好きですねえ」
「一体何の本をねだったのだ? 見せてみるがいい!」
「あはは……」
乾いた笑いが出る。
私は今、普通に笑えているだろうか……?
*
クリスマス会は何事もなく過ぎていった。
いつも通り皆で集まって、クリスマスをお祝いして、ご飯を食べて。そんな風に終わった。
先程見たヴィクトールの視線からは想像もできないほどの穏やかな時間が流れていたため、私は「あれはきっと気のせいだったのだ」と思うことにした。多分、あれは私の見間違い。目だって、たまたま合っただけなのだ。
そんなことを考えながら、呑気にしていたからだろうか。
次の日、私は想像もしていない事態の、中心人物になることとなる。




