湖であそぼう
「わっ、つめたい!」
「あはは、それはそうですよ。湖ですからね」
「気持ちいいねー」
楽しげにする皆の声が上がってきている。
ええなぁ。ほのぼのしててええやん。
今どこに居るのかって?
そう、ここは! 我がハーカー家が所有する土地にある、結構大きな湖なのです!
何でこんな所に居るのかと言われると、サーシャがこう言ったから。
「この家も悪くはないが、折角の休みなのだから外に出かけようぞ!」
とか何とか言って私の腕を引っ張るもんだから全員で止めたよ。おおきなかぶかな? って感じだった。
とは言うものの、うちは都会から離れた所にある田舎の地なので、そこまで大きな観光所は無い。
街だって小さなものだし……。
でもまぁサーシャの言うこともわかる。じゃあどこに連れて行こう。
と、考えたその時だ。
「あ。あそこなら喜んでもらえるかも」と、その湖の場所が頭に出てきたのは。
「おお! 美しいな!」
「そうですね、サーシャ様」
ってことでここに来たんだけど、予想以上に喜んでもらえたらしい。
確かタマルフォン王国では綺麗な水は貴重品だって設定だったはずだったから、気分転換になっていいかなと思ったのである。
すぐに「泳ぐぞー!!」とか言って上半身裸になったし。もうね、止める間もなくやったよね彼。
楽しんでくれたら、とは思っていたが、まさか容赦なく脱ぐとは思わなかった。
そんなサーシャを見て皆もやりたくなったのか、さすがに服までとはいかないが、靴を脱いで足を水につけたりして楽しむことにしたみたいだった。
「どうですかー、サーシャ様ー。うちの自慢の湖は」
もう完全に泳いでるサーシャ様に向かって声をかける。
彼は満面の笑みで私を見ながら答えた。
「うむ! 冷たくて気持ちがよいぞ、お前も入ってこい!」
「ええー……」
思わぬ誘いに微妙な声が出てしまった。
まさかここで脱げってんじゃないだろうな……。
「ウィラ……?」
「はひっ!? ななな、何でしょうユーリ様!!」
すると突然地獄の底から這い出たような声色で名前を呼ばれたもんだから、全身の毛が粟立ってしまった。
急に何なの怖いよ!!
「まさかとは思いますけど、脱いだりしませんよね?」
「ええ? いやまさか、んなわけ無いじゃないですか。何の心配してるんですか、もう」
「言っておかないと貴女は平気でやらかしそうだからです」
信用がない。一体全体どうしてだろう。
アイラちゃん関連以外では普通にまともな所しか見せてないと思うんだけどな。あっ、そこの印象が強すぎるのかー、そっかあ。
そんなことを考えていた私の隣で大天使は美しい水と戯れている。
みゅ、ミューズや。水の女神さまや。
「気持ちいいねー、ウィラちゃん」
「ね。夏はここによく来てたんだ。お気に入りの場所なの」
「そんな所を私達に教えてくれたの? ふふ、ありがとう」
キラキラ光る水面、さんさんと照らす太陽。
そしてその下に居る、笑顔の推し。
「……ありがとうございます……」
「えっ?」
こちらこそありがとうございますだよ。ほんと。
「でも、羨ましいなー。私達も水に入りたいよねえ」
「まぁ確かに……。でも仕方ないよウィラちゃ」
「ちょっぴり入っちゃおっか?」
「へっ?」
目を丸くする天使を他所に、私はスカートの裾をたくし上げた。具体的に言うと膝上くらいまで。
だって夏だよ? 夏で、水場で、なら少しくらい水に浸かったっていいじゃないか!
試しにちゃぷりと湖につけてみれば、冷たくて気持ちのいい感触が私を出迎えてくれた。おお、これはいい!
「やっぱりここはいいなー! きもちいい!」
「あ、あの、ウィラちゃん……」
「アイラちゃんもやろうよ!」
何かどもっているらしきアイラちゃんを振り返りながら言った。
と同時くらいに。
「ちょっ……ウィラ?!」
「へっ」
突然慌てた様子のヴィクトールに駆け寄られ、私は目を丸くした。
何事かと思っている間にたくし上げていたスカートをバサァッ! と戻される。何やいきなり。
「ど、どうしたんですか兄様……?」
「どうしたじゃないよ、年頃の女の子がそんな箇所を曝け出すものじゃありません!」
「ええー……?」
いまいち納得が出来なくて、首を横に傾ける。
そんな箇所っつったって、ただの足じゃん。
……あーでも、この時代は足が一番エロい部分だとかなんとかって言われてたんだっけ……。めんどくさぁ。
「ちょっとくらい良いじゃないですか。私達だって水に足つけたりして涼みたいです。ねえアイラちゃん」
「えっ、う、うーん……」
苦い顔をするアイラちゃん。乙女ゲームのヒロインといえど、やはりこの世界に生まれ育った設定であるから、これに同意するのは難しいものなのか……。
でも男どもが好き勝手やってるんだから、女子組だってちょっと出すくらい許されてもいいような気がする。理不尽。
「誰も見てないですし……」
「僕が見てますが?」
「うわぁユーリ様!」
にゅっと横から生えてきたからビビッたわ!!
彼の顔を見れば、笑ってはいるけど……、静かなる怒りを携えている……ように見える。怖。
「人を化け物みたいに呼ばないでください。それよりも、どうやらウィラは先程した話をもう忘れたようですね?」
「い、いやぁ、別に忘れたわけでは……」
サーシャみたいに上半身裸になったりとかはしないよってだけで。うん。別に話を適当に聞いてたとかじゃないし。
そうだサーシャ、自由奔放な彼なら少しは助け船を出してくれるんじゃ……。
「さ、サーシャ様……」
「うぐっ!」
思わずねだるような声が出てしまった。いや自分キモッ。
そりゃ周りのみんなも気持ち悪すぎて固まるし、サーシャも変な声出るわ。
そんなこんなで自分の気持ち悪さに自己嫌悪していると。
「……だっ、ダメだぞ!!」
何故か顔を真っ赤にしたサーシャから盛大なダメ出しを食らった。心なしか声が裏返っているような気がするが気のせいだろうか。
「ええっ!」
一方で面食らう私。
(あのサーシャまでそう言うなんて……)
私の足はそこまで見るに堪えないものですか、そうですか。
例え天使が足出してくれるサービスをやっても邪魔になるだけだから要らねえと。
「よ……余だけに見せるのであればっ!? べべ、別に構わんが?! ここでは他の男共も居るが故、ダメだ!!」
フォローのつもりなのか何なのかは分からんけど、とにかく他の男からしたら公害レベルだから駄目だよって言ってんですね。分かります。
そんなサーシャの言葉に、ユーリが「いやよくないですよ何言ってんですか」とツッコミを入れた。
「前々から言ってますけど、ウィラは僕の! 僕の婚約者なんですからね!」
そして何故か私の肩を抱き締めるユーリ。展開についていけてないよ私。
「……まぁ私は見たことあるけどね。ウィラの足」
「「?!?!」」
(いきなり何を言い出すんじゃ、この義兄は?!)
けろりと言い放つヴィクトールに、サーシャとユーリの両名がそちらを血走った眼で見つめる。
「小さいころに」
誰かが、というか男子達がずべっと転ぶ音がした。気がする。
更新……大ッ変遅くなってしまい、申し訳ありませんでした!!
これからは毎日投稿できると思いますので……!
この話も終わりに近づいております。
それにあたり、シリアス展開が続くと思われますが……、どうかウィルヘルミナ達の物語を見届けてください! よろしくお願いします!




