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隣の国の余様は人の話を全く聞かない

 いやー、やっぱ時代はサーシャよ! 俺様余様キングに任せときゃ大体オッケーなわけよ!! やったねサーシャ最高〜〜!!


 と、冒頭でそんなことをのたまったことには理由があります。



「アイラちゃん、最近殿下とはどう?」


 私の質問に、アイラちゃんは少し眉を下げて困った表情をして言った。


「うん……。えっと、やっぱりなんか、会うと『ハレムに入れー』とか『美しいものは余に侍るのが正しいのだ』とか……。よく分からないことを言ってきてて……」


 ハイ合格!! さすがここまで登場を引っ張っただけあるねぇ!!


 もうお分かりいただけたであろう。

 こないだ出てきたサーシャが、このように、アイラちゃんを積極的に口説いてくれているのである!!


(や〜〜、よかった……。ユーリとかヴィクトールはな〜んかあんま思い通りに行かないこと多かったからなぁ〜)


 彼らに攻略対象としての働きを期待すると、不思議と「なんか違うなこれ」という意識に散々見舞われていたため、こうも上手く事が運んでいくことに喜びしか覚えない。

 困っているアイラちゃんには申し訳ないが、話を聞く度にニヤニヤが止まりません。


 いややっぱね、こうやってグイグイ行くタイプの男が美味しい状況を作り出してくれるわけよ。

 それにサーシャがこういう行動を取れば取るほど、他の人らの焦燥感も煽ってくださるわけですし! いいねいいね、戦争だね!! 戦場カメラマンになりま〜〜す!!


「アイラちゃんは殿下のこと、どんな感じに思ってる?」

「う〜ん……」


 首を捻るアイラちゃん。ふわふわピンクの頭が動いててまさに小動物っぽいですカワイイ。


 というか、この会話! 会話よ!! ようやくお助けキャラとしての役割をちょっと出来てるような気がするよ私!!


 いやだってさぁ、アイラちゃん、全ッッ然攻略対象の情報とか好感度とか聞いてこないの。

 面白いくらいに聞いてこないの。もう笑えるくらいそのやり取りが皆無で「あれおかしいな……? 私の本来の務めどこ行った……?」ってゲンド○ポーズになっちゃってたんだわ自分。


 まぁ、そもそも。

 その情報、どこから仕入れてきてんのって話なんですけどね。


(ゲームやってた時も「そんな情報どこから持ってきたん?」って思ってたもんな……)


 ソースが分からん。しかし、お助けキャラという立ち位置なのでその情報が正確であることだけは分かる。みたいな。

 だがしかし、実際その立場になってみると困ることもあるのだ。


 だって私にかかったら「好感度? 全員ベタ惚れですよ安心して!!」としか思えんもん。マジで推しへの愛フィルターかかってっからそれしか言えることがない。そしてマシマシに願望が入り込んでいる。

 それ故、ゲーム内ではハチャメチャに信頼できていたお助けキャラによる正確な情報が、「それ本当に合ってます?」と聞かれると「私から見たらそうです!!」しか答えられないものへと成り下がってしまうのであった。


(なんか……、『ステータスオープン!』とかしたら好感度諸々が分かる仕様にしていてほしかった……)


 転生者のスキルとして。マジでそういうの欲しかった。いや逆に何でお助けキャラっていう情報提供キャラクターなのに貰えなかったの??

 てかそもそも私って転生者特典何も貰ってないよな。ただこの立ち位置に生まれ変わっただけですよね。


 そりゃあアイラちゃんの親友ポジションに生まれ変わったことこそが特典と言われればそうなのかもしれませんが?! それに加えてお助けマンとしてキッチリ問題なく役目を果たせるよう、乙女ゲーム界の神様からそういった特典が貰えてもいいものではなくって?!


 今更そんなこと言っても遅いんですけどね。

 私もそれぞれの攻略対象からの好感度画面とか見たかったよ。それならもっと楽に事が運べたのにな。くすん。


「ハレムの制度もよく分からないし、色々言われる度に「どう答えたら失礼じゃないだろう」ってすっごく考えちゃうから、ちょっと……」


 おおっと! 天使が話しかけてきてくれてるんだからそっちに意識を持ってこなければ!!


「あ〜……、そうだよね……。相手は隣国の王太子だし」

「悪い人ではないのは分かるんだけど、緊張しちゃうんですよね」

「うんうん」


 同意の頷きをする。

 でもまぁ、安心してほしい。ゲームでも最初そんな感じだったけど、仲良くなるにつれその緊張も無くなっていくから!


 と励ましたいが、他人をゲーム内の登場人物として語る不審者になりたくはないので伏せます。


「っでもでも! 外見とかすごく格好良いし、実はお優しい面もあったりすると思うよ!」

「はぁ……」


 ああん、あんまり合点がいってない顔ぉ……。


「それに、アイラちゃんのこと可愛いとか綺麗って積極的に褒めてくれてる所が私的には好ましいと思うし、きっと真面目な気持ちで君のこと好きなんじゃないかな〜?!」

「そうですかね……?」


 必死にお助けキャラとしての役割を果たそうとするが、あまり本人には響いてない様子。な、なぜだ。

 こう言われたらヒロインとしたらちょっとは期待するものではなかろうか?! あれもしかして、私の言葉が足りてない?!


 何だろう。私の必死さに対し、当のアイラちゃんが全然やる気になっていないような気がする。

 やはり私の言い方が良くないのだろうか。もっと「いやもう完全オチてますねこれ!!」って断言した方がいいか??


「……ま、まぁ……、まだお二人は出会ったばかりですし……」


 言うに事欠いてこの台詞。役に立たんオブザイヤー受賞おめでとう。ってやかましいわ。


 ……いくらヒロインからのコマンドが無いとはいえ、自分、お助けキャラクターに向いてない疑惑が浮上してきたな……。

 君を推しとして愛する気持ちなら誰にも負けないというのに……どうして……ドウシテ……。


「ありがとうございます、ウィルヘルミナ様。私のことを気にかけてくださって」

「へっ?! いやいやそんな」

「仰る通り、殿下とも出会ったばかりの間柄ですし。生徒会役員の務めも兼ねて、これからぜひ交流を重ねていきたいと思います」

「そ、そうだね! うん、それがいいと思う!」


 秘技・あとはお若い二人に丸投げの術。


 なんか今のところ私が出来ることってサーシャからの矢印をそれとなく推しに伝えることくらいしか無さそうなので、とりあえず本人達に距離を詰めていただくことにした。

 まぁサーシャの性格ならこれからも嫌というほどガンガン迫っていってくれるやろ。王様系イケメンを信じろ。


 なんて考えていた私に、数日後に起こる異常事態を感知することなど、到底出来るものではなかったのであった。



 *



 生徒会の活動もない放課後。

 マジで何の気もなくふらふらと廊下を歩いていた私の襟を、誰かが突然ぐいっ! と引っ張った。

 当然喉が締まり「ぐぇっ」と蛙の潰れたような声が出る。


 何だ何だ誰だこんな失礼なことする奴ぁ!!

 とキレながら後ろを振り向くと。


「は?」


 ポカーン、と口が開いた。

 不敬だとか何だとか考える暇もなく「は?」ってなった。


 襟を掴んでいたのはサーシャだった。

 隣ではカリュさんが「殿下! 女性に対しなんという行いを!」と慌てて止めている。


 だがそんな彼を意にも介さず、サーシャは口を開き。


「そなたは確か、生徒会に居た一年の女だったな?」


 と、不躾に尋ねてきたのである。


「……は、い」


 何の確認だよ。

 ていうか襟を離せ。服が伸びちゃうだろうが!!


「名は?」

「ぅぐっ、そ、その前に、離してくだざ……ぐるじい」

「サーシャ様!! いい加減におやめなさいませ!!」

「わかったわかった」


 パ、と離されるサーシャの手。解放された私の喉はめちゃくちゃ咳をしている。

 このまま睨みつけてやりたい気持ちを堪えつつ「突然何なんですか……」と聞くが、彼は答えず。


「名は何だと聞いておる」

「げほっ、……ウィルヘルミナ・ハーカーです……」


 何度聞いたら覚えるんじゃオラァ!! と叫びたい。何すんじゃと怒鳴りたい。

 だが悲しいかな。相手は王族の方。

 そんな汚らしい発言は出来ないのが世の理である。


「ウィルヘルミナ、ウィルヘルミナ……、ええい長ったらしい、面倒だ。

いいから余についてまいれ」

「はい? ……って、ちょ?!」


 今度は腕を強引に引っ張ってきた。もういい加減殴っていいですかこいつ。あ、ダメ。そっかー……。


 そのままズンズンと進んでいくサーシャに対し、私は必死で訴える。


「ちょっと、何をするんですか殿下! というかどこに行くおつもりで?!」

「王都の街だ。まぁ留学中の視察といったようなものだな」

「はぁあ?! な、何でそんな所に私が?!」


 はぁ?! って言っちゃったよ。これで殺されたら骨は拾ってくれ。


 だが彼はゴーイングマイウェイなので、それにも耳を貸さなかった。ひたすら強引に進まされていて、逃げたいのに足が勝手に引きずられていく。


「そなたらは余の留学中を手助けするのだろう? ならば案内人として働くのも仕事の一つではないか」

「それはわかりますけど! っ何でその役目を私にやらせるのかという話ですよ!!」


 どう考えたって他に適任が居るだろうに、わざわざ自分を選択するその意図がわからない。

 いやどうせならアイラちゃん連れてけや!! 完全に選択肢間違ってるからなお前これがギャルゲーならもう大天使ルートから脱落ですからね?! わかってます?!


「余も貴様のような地味な女にはさして興味はない。だが……」

「だが?!」

「生徒会の男共は、一部を除いて皆、貴様をいたく気に入り守ろうとしているようだったからな。余と初めて出会った際も、生徒会長と名乗った者や金髪の男は、見目麗しいアイラではなく貴様をさりげなく後ろに置き守る姿勢を見せていた」

「は…………?」


 何の話をしているのか分からなくて、思わず首を傾げた。


「その理由が余は知りたい。そなたのどこに、そこまでさせるものがあるのか。

それ故、余はそなたを連れて歩いてみることにした」


 ────何だその意味分からん動機。

 あまりのことにまた口がぱかりと開く。


「理解したか? ならばさっさと出向くぞウナ!!」

「誰ですか?!」



 意味不明すぎて固まったり、これまた誰だよと突っ込みたくなる呼ばれ方に叫んでいる内に、私の身体はどんどんこの俺様余様の手によって校舎から遠ざかっていったのであった。


 誰だよサーシャのこと冒頭で「最高〜〜!!」とか言ってた奴。

 俺だわ。

 

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