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愛です

「それにしても、あんなにウィラが怒った所を見たのは初めてでした」



 あの苛めイベント騒動を終えた放課後。私達は薔薇の宮で遅いお昼ごはんを食べていた。

 夕飯のこともあるからちょっとした軽いやつだけどね。


 授業中お腹鳴らないようにするの大変だったわーとか思いながらもぐもぐしていると、お茶を飲んでいたユーリがそんな話をする。


「そうですか?」

「ええ。珍しいですよね、あんなに烈火のごとく怒るなんて……」

「確かにね」


 同席していたヴィクトールも頷く。


「叫んでる所は見たことないこともないけど……、あんな風に怒りを顕にしているウィラを見たのは、私も初めてかな」

「……す、すみません、淑女にあるまじき行為で……」


 なんかすんごい「あんなキレたとこ見たの初めて」とか言われてて気まずい。怒ってるシーンって他人に見られると気まずいよな。

 肩を小さくしながら言った私に、二人は笑って気にするなと言う。


「それだけアイラを侮辱されたことが許せなかったんでしょう? あなたは……、昔から、他の者のために動ける人でしたものね」

「えっ、いや、そういうのではなく……」

「君は誰かが危なかったり、傷つけられそうになってたりする所を目撃すると、動かずにはいられない性格だからね。そういう所が君のよい所でもあるんだけど」


 そう言われるとなんかすごい申し訳ないな。私は単に推しが殴られるのを見ていられなくて出ていっただけなんだが。

 そしてそれは君達がもっと早くに来てくれてたらやらなくて良かったことなんですけどね?? マジで何であのタイミングだったの??


 すると、隣に座っていたアイラちゃんが私の方へと身体を向け、ぎゅっと手を握ってくれた。

 おおう。と、突然のファンサ!!


「ウィルヘルミナ様、私を守ってくれて、本当にありがとうございました」

「そんな、お礼を言われるようなことじゃないよ! 私が我慢ならなかっただけだし……」

「……あの時私、実は心細かったんです。あんな風に言い返しておきながら……、やっぱり貴族の方にああして詰め寄られたり怒鳴られたりすると、怖くて。でも、ウィルヘルミナ様が私の前に出て、一生懸命怒ってくれた。私のことを認めてくれて、……友達だって、何度も宣言してくれた。それが私には、すごく嬉しかったんです……」

「アイラちゃん……」


 いかん、しみじみしてしまう。推しの優しさに涙が零れますよ私。


「ウィルヘルミナ様。私を庇ったことでなにか嫌なことをされたら、必ずお話してください。今度は私が、あなたをお守りします」

「ええっ! だ、大丈夫だよ〜! でもありがとう、心強いな……!」


 えへへ、と嬉しさを隠しきれない笑みを浮かべる私に、アイラちゃんも嬉しそうに微笑んでくれる。

 天使に手を握られるだけでは飽き足らず、天使の微笑みを近距離で受けられるとは、怒鳴り返した甲斐があったな!!

 ……なんか正しいイベントが見れなかった感があって、それはそれで悲しいけど!!


 すると、それらを見ていたユーリが感心したように呟く。


「前々から仲良しなのは知ってましたけど……、もう親友くらいの域ですね」

「えっ?! し、親友?! そんな、アイラちゃんに悪いですよ!」

「ええ?! わ、悪くないですよ?! 私は嬉しいです!!」

「そうなの?! 私もうれしい!!」

「……仲いいなぁ」


 あれ、お義兄様ちょっと遠い目してない? なんで?

 あっさてはアイラちゃんと自分ももっと仲良くなりたいって話だな〜? 残念、そこは自力で頑張っていただかないと!! お膳立てはしますんで!!


「ウィラにそんなに好かれるなんて、ちょっぴり羨ましいです」

「ねぇ。私とのスキンシップは遠慮するのに、アイラとはとっても仲良く手を握り合うんだもの。ずるいよね」

「ええ……?」


 二人の言葉に怪訝な声を上げてしまう自分。

 何言ってんだ。女の子同士の関係と、異性とのものはまた違うだろうに。君達も同性のお友達作りなよ。


 ……いや、でも、そうだな。


「……そうですね。ここら辺で、一度説明をしておきましょうか」

「え?」

「何を……?」


 不思議そうな声が聞こえるのを一旦無視して、私は目を閉じる。



 次に瞼を上げた時────俺は。

 推しへの愛を(当社比では控えめに)語るオタクになるのだ!!



「私がアイラちゃんを傷付けられてこんなにも怒った理由……それは」

「それは……?」

「愛です」


「愛」

「あい」

「?!」


 三種三様の反応ありがとう。


「お察しの通り、私はアイラちゃんをとても大切に想っています。ええ、好きです。大・好き・ですとも!!」

「ええ……?!」


 アイラちゃんが驚きの汗をかいている。かわいい。

 でもまだまだこれからなんだぜスイートハニー。


「言うなれば、最初は一目惚れのようなものですね……。

見た瞬間、そのあまりの可憐さに「かわいい!!好き!!」って感情が生まれまして……」

「……は、はぁ……」

「勿論それだけではありません。彼女を知っていく度、その優しさや謙虚さ、そして何より頑張り屋さんな所など……その魅力は無限大すぎて、どんどん私の愛は募っていきました」

「……へ、えー……??」


 なんかもう今世じゃなくて前世の出会いから語ってるような気してきたな。だって受けた印象がほぼ前と今で変わんないし。

 え?! つまり、私はこの世界に来てからまた改めてアイラちゃんに惚れ直したということ?! やだ〜〜!! 運命がすぎる!!


「そして思ったんです。『いつまでも笑顔でいてほしい。この子を傷付ける者を、私は絶対に許さない』と」


 グッ、と力強く拳を握る。

 過激派オタクと言われてもいい。推しを傷付ける奴は何人たりとも許さぬ。それが俺の信ずる道よ。


「だからあんなにも怒ってしまったんだと思います。淑女としてはどうかと自分でも自覚はしておりますが……、愛の前ではそんな仮面も外されてしまったといった感じで……」

「愛……」

「……愛……」


 私はふぅ、とため息をつきながら頬に手を当てた。

 未だに他三人は話の内容についていけてないようである。まぁ致し方なしだ。


 何でこんな急に推しへの愛を暴露したかといわれれば、ちょっとくらいバレてた方がこの先自分としても楽かなと思った故である。じじ、自分の為かよとか言うなやい。

 まぁとにかくアイラちゃん好き!! ってことが分かってもらえれば、さっきみたいに怒ったり何やかんやしたりした時も、「ウィルヘルミナはアイラがものすんごい大好きだから」って感じでみんな納得するだろうし。

 あと、これなら攻略対象とアイラちゃんがいい雰囲気になっても「私が攻略対象のことを好きで嫉妬してる」っていう本編ベースの設定になることから少しは離れられるかとも思い。


 ちなみにこれでも全然控えめにした方だ。私に本気で語らせたらマジで日が暮れる。あと本格的に変な人だとドン引かれる。


 ……今の語りの時点で引かれてない? っていう意見は置いといて!!


「あの……、質問よろしいですか?」

「えっ、あ、ハイ。どうぞ」


 すると、それまでポカン顔で固まっていたユーリがすっと手を上に上げる。

 別に今講義してるとかじゃないんですけども。


「その……先程から「一目惚れ」やら「愛」と仰っていますが、ウィラは……」

「はい」

「……アイラのことが、恋愛対象として好きということで……?」


 気まずそうにユーリは問うた。


(……あ゛ーーーーッ!! なるほどそうかーーーーッ!!)


 失念していた。

 そうだ、普通に聞いてたら私がそういう意味でアイラちゃんを好いているように見えるよな。だってこの人達、推しとかいう概念無いんだもん!!


 慌てて「それは違います!」と訂正する。


「私のこれはあくまで、あくまで! 友達としてのものです! 恋愛対象として見るなんてそんな……」

「ほ、本当ですか……?」

「天使に申し訳ない……」

「天使……?!?!」


 天使がさっきから開いた口塞げてない。ごめんよ。


 そこで、ヴィクトールがごほんっ、と咳払いをしてから言った。


「つ、つまり……、君はとてもアイラを好きでいるけど、それは友情としての感情に収まっている……ということでいいかい?」

「はい! その通りです!」

「…………」

「…………」


 元気よく答える私を他所に、ユーリとヴィクトールは二人して何か考え込み始めたようである。

 なのでそちらは放っておいて、私は横に居る天使に向かってこう話した。


「アイラちゃん……、確かに私は君のことが大大大好きだし、この世に舞い降りてくれた天使だと思ってるけど……」

「て、てんし……」

「決して君の嫌なことはしないし、これは恋愛感情とかそういうんじゃないから! だから、これからも友達でいてくれるかな……?」


 私の懇願に、アイラちゃんは「……は、はいっ」と一生懸命な声で答えてくれる。


「なんだかよく分からないですけど、ウィルヘルミナ様はその、私のことをとってもよく思ってくださっている……、ということですよね……?」

「もちろん!」

「それなら、私だって同じような気持ちです。ウィルヘルミナ様が大好きですもの!」


 ジュッ!! って灼かれたわ今身体全体が。

 わ……わぁ……、あまりの輝きにオタクのいのち死んじゃった……。


 それにしても、こんな暴露を聞いても輝かしい笑顔を向けてくれるなんて……!


「ありがとう、大天使アイラちゃん……」

「いえあの、私天使じゃないんですけど……」


 困ってる姿もかわいいです。



「……まぁ、友達なら……、いい……のか?」

「……良いんじゃないかな。大きなライバルではあるかもしれないけど……」

「……種類が別なら、まだ……」


 なんか未だに二人でボソボソ言ってる。

「アイツまじやべーよ」とか話してる可能性あるな。クッ、オタクの悲しい所よ。


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