ラスボスには誰も勝てぬ
(今かよ!! よりにもよって今来るのかよお前ら!! おせえよ!!)
タイミングが意味不明すぎて地団駄踏みそうになった。
何で今。何で二人同時。あっまさかこれは二人とも好感度が同じくらいだからというリアルタイムならではの新機能?!
────じゃないよ!! 遅いよ!! 来るのが!!
散々私が叫んだ後やんけ!!
「ゆ、……あ、アルトナー公爵子息様……っ」
「生徒会長、こ、これは、その…………」
ラスボス登場にしどろもどろになるしかない3人。まぁ、この二人に圧かけられたら死ぬよね。
「話は聞いています。……アイラ嬢が私達にチヤホヤされていい気になっている、平民のくせに生意気だ、でしたっけ?」
ユーリが話す声は、柔らかなのにめっちゃくちゃ重い。
「おかしいですね。確かにアイラ嬢は優しくかわいらしい女性ですけれど、彼女だけを贔屓するようなことは特にしていない筈なのですが」
「そうだね。それとも、君達には私やユーリが、生徒会としての職務も忘れてアイラの前でだらしなく鼻の下を伸ばしていたようにでも見えていたのかな?」
え? 伸ばしてなかったんですか?
私から見たら絶対伸びてたと思うんですけど。
と、推しカプを眺めるオタク目線の自分がニュッと顔を出してきた。
さすがに今はそんなこと言ってる場合ではないと思うのでお口チャックするが。
でも出会った初日からめっちゃ迫ってましたよね?? うるさいですよ!! お黙りなさい!!
「そ、そのようなことは……っ」
「違うの? だって、チヤホヤしてる、ってそういうことでしょう?」
ヴィクトールが両腕を組みながらわざとらしく首を傾げる。
うーん、このじわじわ追い詰めていく感。さすがお義兄様です。
「アイラ嬢が調子に乗っている……、というのも、僕にはちょっと分からないですねぇ。彼女のどういう行為を見てそう思ったのか、お教えいただけないでしょうか? 今後、彼女への謂れのない悪口を避けるための参考としますので」
「あっ……、う……」
「おや、どうしました? 顔が真っ青ですよ。身体の具合でも悪いので?」
(怖えなこいつら……)
後ろで聞いてて地味に思った。
つくづく敵には回したくない奴等である。
でもまぁ結果的に今めちゃくちゃ供給受けてるからそっちの方が重要だな。
希望を言うのなら私が出る前にこの光景が見たかったんだけどね〜〜?! 何でだろうね〜〜?!
「……げ、ゲルダさま……」
「あうう……っ」
「……っう……、」
ガタガタと震えながら固まる三人のご令嬢達を見て、ユーリは深いため息をついた。
「ウィラの……、彼女の言った通りです。
平民であろうが貴族であろうが、この王立学園では、同じ環境で共に学んでいく平等な立場。「平民のくせに」というだけで彼女を糾弾するその行為は、この学園に通う生徒として相応しくない」
「っ……!」
「不満があるのなら、私達に直接言いなさい。私達生徒会は、生徒の声を聞いて、それを学園生活に反映させるために活動している。……そんなことも出来ないで、数少ない貴重な特待生を学園から追い出すような真似をするなら、こちらとしても何か対処を考えなければならない」
「……も、申し訳……」
二人の黒いオーラに観念して謝りつつあるやんけ。
怖いのは確かに分かるけど屈するのが早すぎるやろ。もっと戦えよ。アラソエ……アラソエ……。
「しかもそれだけでは飽き足らず、私の婚約者にまで謂れのない悪口を言うのは、さすがに僕としても許しがたい行いですね」
「っ!!」
「……時に、ゲルダ嬢。あなたは確か伯爵家の娘だったと思いますが……、ああ、言い忘れていましたけど、僕は公爵家の人間です。先程のあなた方の行動を真似するとしたら、公爵家の息子である僕の婚約者に言ったよくない言葉も、同じように大声で怒鳴りながら注意して問題ないでしょうか?」
「……、……ッ」
名前を呼ばれたゲルダさんは俯いて制服のスカートをぎゅっと握る。その手がとんでもないレベルで震えているのが見えたので、名指し+憧れている男性に自分が怒鳴られる未来を予感してよほどビビったらしい。
アイラちゃんのことは散々怒鳴って捲し立てたくせによ! この野郎! と声なき野次を飛ばしてしまうのも致し方なく。
……ユーリの台詞も大分意地悪だけども。
「言い忘れてましたけど」って何や。彼女達なら絶対知ってるに決まってるのにわざわざこんな言い方するとか、怒った王子様は怖いっていうことやでぇ。
「……さて、義兄上。どうします?」
「そうだねぇ……」
ユーリの問いに、ヴィクトールが顎に手を当てて考える仕草を見せる。
そして。
「君達は、どうしてほしい?」
「え……?」
「私達はお優しいから、君達の希望を聞いてあげるよ。どう処分してほしいか、言ってみるといい」
ね、と、魔王様がやさし〜い、それでいて魔王オーラ全開のこっわい笑みを浮かべた瞬間。
「…………もッ、」
「「「申し訳ございませんでしたぁぁあっ!!」」」
ピューーッ!! と、蜘蛛の子を散らすように颯爽と逃げ去って行く三人共。
逃げ足が速すぎて呆気に取られたわ。
「……わー……、はやーい……」
サラマンダーよりずっと、おっとこれ以上はいけない。
それにしても、私の渾身のスピーチ、何だったんですかね。
「────ウィラ! 大丈夫ですか?」
「怪我はないかい。ごめんね、駆けつけるのが遅れて」
さっきの黒い雰囲気はどこへやら。
そんなものはパッとどこかへ消え失せ、後ろを振り返り慌てて話しかけてくる二人。
うんホントに遅かったね。何してたの? まさかご飯食べてた?? ふざけんなよこの野郎。
「私のことは全然いいんです。それよりアイラちゃんですよ!」
「そうだった。アイラも、大丈夫? すまないね、生徒会長の私が不甲斐ないせいで……」
「そうだった」って何だコラ。
いかんな。何故もっと早いタイミングで来てくれなかったのかという恨みのせいでガラの悪いツッコミしか出ん。
しかし、さすが大天使アイラエル(何度でも使いたいこの技法)
「そんなことありません! 大丈夫です!」と慌てて答えている。
「その、……ウィルヘルミナ様が、怒ってくれましたから……、私は全然、平気でした」
「……そうかい」
(違う!! アイラちゃん違う、そこは「お二人が来てくださったから」だよ!!)
んもう、全方向に優しいんだから私の推しはぁ!!
私のことなんてただの「ペンライト振りながら声援送ってきたファン」程度の認識でいいのに!!
「それに、……生徒会長とユーリ様も、私のために色々と言ってくださり、ありがとうございます」
アイラちゃんが深く頭を下げる。
二人が「いえいえ」と笑顔で返した、その辺りで。
────キーン、コーン、カーン、コーン。
「…………あ」
「あっ」
突然鳴り響いたチャイムに、私とアイラちゃん同時に声を上げる。
…………薄々そうなる気はしてたけど。
「お昼食べてなぁぁぁい!!」
「そ、そういえば……!!」
私の叫びにアイラちゃんもハッと気が付いたように漏らした。
そんな私達を気の毒そうに見るお二人。
「おやおや……」
「あらー……」
何だその反応は!! お前らが遅いからこうなったんやろがい!!
と、怒りをぶつけたくなったけども。
そんなことをしている時間は当然無いので、みんなで走って自分の教室まで急いだのだった。
……後で食堂のご飯食べてやる……。




