推しと昼食を一緒に食べられる世界線
どうもこんにちは。王立学園に入学したばかりのピチピチ15歳、ウィルヘルミナです。
いやー、今日もいい天気ですね。春先ということもあり非常に気持ちのよい気温で、太陽もぽかぽかと温かく私達を照らしてくださっていますよ。
え? 今何をしてるのかって?
それはね。
「わぁ! アイラちゃんのご飯、すっごく美味しそう!」
「そんな、褒めてもらえるような大したものじゃ……」
「そんなことないよ! すごいすごい!!」
推しと二人っきりで昼食をとっています。
ちなみに、お金は払ってません。
未だに払わなくてもいい現実を信じられなくて私、震える。
*
とにかく、まずはアイラちゃんと仲良くなること。
それが私の第一目標だった。
アイラと仲良くなれば、自ずと恋愛劇は見えてくるだろう。私はそれを最高ポジションで眺めるのである。
それに何よりも、私が彼女との交流を深めたかったから。
謂わば早い者勝ちです。
この子は渡しまへんで!! うちの親友や!! みたいな気持ちで、あれからドンドコドンドコ話しかけまくった。
そのおかげか今は大分落ち着いて話せている。最初は深呼吸を無限に行ってから「よしッ!! 出陣じゃァ!!」って気持ちで向かってました。
でもやっぱり推しを目の前にすると脳内の自分がひたすら「ハァ……ハァ……!!」って気持ち悪い息遣いをしてくる。「ぼ、ぼぼぼぼきゅタン君のファンなんですグフフ」みたいな奴が表に出てきそうで常にハラハラ状態だ。負けられねえ己との戦いってやつよ、コレがね……。
そうして今、二人で学園の調理場を借りて料理をし、校内にある中庭のベンチで仲良く座っているのだった。
お父さん、お母さん。
私、今、大変幸せです。
ようやくこの世界に生まれ変わった幸福を噛み締めてる。
「あの……、良かったら食べてみますか? 私の作ったもの……」
「どぅえッッ?!」
いきなりの提案におったまげた。
……推しの作ったご飯を……、口に……出来るだと……?
(夢か……?)
私の背景、今絶対宇宙猫になってる。
って、夢じゃないわよ!! 落ち着きなさいアタシッ!! これは画面越しの出来事じゃないって何度言ったら分かるのもうッ!!
「あっ、ご、ごめんなさい! 失礼でしたよね!」
「いやいやいやいやそんなこと無いよぉ!! ただくれるなんて思ってなかったから……!! お願いします、ください!!」
後半完全に願望丸出しだったな。
私の驚愕の叫びに、良くない提案をしてしまったと思ったのかアイラちゃんが謝罪をしてくる。そしてそれに縋りつく俺。
ハタから見たら完全にやべー図である。
必死にお願いすると、アイラちゃんは目をぱちくりさせながらも「ど、どうぞ……」とそっと一つのパンを渡してくる。
中身はハムやチーズが入っているらしく、大変美味しそうだ。私は大喜びで口に頬張った。
「~~っおいしい……!!」
「えっ、……ほ、本当、ですか……?」
「本当!! アイラちゃんは天才だね!!」
実際めちゃくちゃ美味しかった。アイラは元々料理上手なのである。自分で料理をしないお貴族様とは違い、平民だから自分で料理することもあるのかな。
あ、そうだ。
折角貰ったんだからお返ししなきゃ。
「はい、アイラちゃん」
「え?」
「よければ、私のも食べてみて!」
一緒に作ったし、不味くはない……はず。ちゃんと味見もした。いたって普通の焼いたパンに挟まれたものなはずだ。
私のバスケットから一つ取り出して渡すと、それをおずおずと受け取り、小さい口に含むアイラちゃん。
全てが天使である。
「とっても、美味しいです!」
「ほ、本当? よかった~! アイラちゃんみたいに料理上手じゃないから、ちょっと心配だったんだ……」
「全然そんなことありませんよ! だって、ハーカー様は伯爵家の方なのに……、大分手慣れた手つきでやっていらっしゃったので、私、一緒に作っている時はびっくりしていたんですよ?」
「えっそうなの? えっとね、実は……家でも料理はちょこちょこやってたんだ」
「ええっ?! 貴族の方なのに……? 珍しいことをなさっているのですね、ハーカー様は……」
アイラが口に手を当てて驚いたように言う。
まぁ、普通はそういう反応になるよな。前世が日本人でかつ大学生だっただけなんだけど。
「……あのね、アイラちゃん」
「はい?」
昼食を一旦置いて、彼女の方に向き直る。
「言われた通り、多分私って、貴族の中でも珍しい方なんだ。なんていうか、そういう法則に則らないっていうか……、さっき言ってた料理もそうだし……」
「そ、そうなんですね……」
「だから、私と接する時みたいに他の貴族の人と接しちゃったら……、マナーがなってないって怒られちゃうかもしれない。アイラちゃんはとても礼儀正しいからそんな心配は無いと思うんだけど、まず、それを伝えておきたくて」
「!は、はい……!」
重い話だと思ったのか、アイラが姿勢を正した。
いやちゃうねん。これはあくまで前座というか、一応初めて接する貴族代表として言っとかないとなと思っただけで。
だって私がどんだけ良いよ良いよ! って許しても、それは前世の感覚が日本人だからってのが理由なわけで。その他の貴族に対してアイラちゃんみたいな平民が気安い態度を取ったら、やっぱ怒られるし、彼女が嫌な風評被害を浴びてしまう可能性があるんだ。
だからこそ、これは先に伝えておきたかった。
で、本題は次なんですよ。
「それでね。私が珍しい例って言うのもあって……、そこを踏まえた上で聞いてほしいお願いが、一つだけあるんだ」
「なんでしょうか……?」
「敬語を無くして、愛称で呼んでいただけませんでしょうか!!」
やっぱ推しにお願いする時は大声の早口になってしまうんやなぁ。オタクの悲しい性は。
「へ……」
呆気に取られた声を出すアイラちゃん。
ぴゅ〜…………、と、二人の間に吹く冷たい風。
(…………これは…………)
完全にドン引かれたパターンですね。わかります。
「……あ、あのね、決して変な意味で言ったんじゃなくて……。折角学園に入学してから初めて出来たお友達だから、もっと親密になりたいなぁって……! や、やっぱり敬語とか、名字に敬称つけたりしてるとどうしても身分での遠さを感じてしまうというか……!!」
「……は、はぁ……」
「もっ勿論他の人の目がある所ではやらない方がいいってことはわかってるから! 安心して! ただ今みたいな二人っきりの時なんかは、気兼ねない感じで話してもらえたら、嬉しい……です……」
必死に訴える私を見ながらアイラちゃんが何とも微妙な顔をしている。
変人だと思われて距離を置かれたらどうしよう……。
でも、でもでも! ゲームでだってもっと親しくお話してたじゃぁん!!
私はその親しさが欲しいの!! ハーカー様なんて呼ばれ方、距離があり過ぎる!! 泣いちゃう!!
「……そ、その、ほんとに……いいん、ですか?」
「へっ?」
「ハーカー様が許してくださるのであれば、私は全然、構わないです。むしろ嬉しいというか……、ごめんなさい、馴れ馴れしいですよね」
「ええ、馴れ馴れしいって言うのは今の私みたいなことを言うんじゃないかな……??」
頭に疑問符を浮かべて言った私に、アイラちゃんはぶんぶんと首を横に振った。
「いえ、そんなことありません! そんな風に、身分差を気にせずにもっと親しくなろうとしてくださるあなたは、とっても優しい方だと思います」
「ほ、本当……?」
こくん、と頷くアイラちゃん。
なんかものすごい持ち上げられてる気がして心苦しいけどスルーするしか無い。いやでも、私そんな聖人君子みたいな感じじゃないんだけどなぁ?!
だがこのチャンス、みすみす逃すわけにはいかぬ。
念の為、おそるおそる、こう聞いてみる私。
「じゃ、じゃあ、私のお願い……、聞いてくれるかな……?!」
「はい! 勿論です!」
勝ち確キタコレ。
ウワァァやったァァァァ!!
ちょっと生き急ぎ過ぎかなって思ったけど、天使の優しさの前ではそんなこと些細な悩みだったようです!! ありがとう、君の素晴らしさに乾杯!!!!
ありがとうと涙目になりながら言うと、アイラちゃんが何だかもじもじしながら頬を赤らめている。
え? なん……、何だファンに向かってその可愛さは??
「ォビャッ……」
「?」
あまりの可愛さにまたしても人語を話せない悲しきモンスターと化してしまった。気にしないでください。ただの鳴き声なので。
そうしてもじもじを何度か繰り返した後。
「……え、と、ウィラ、ちゃん……?」
「」
「これからもよろしくね、なんて……、ふふ、こんな感じで大丈夫かな……?」
(そーーーれワッショイワッショイワッショイワッショイ!! うひょーーーーッッ!!)
推しの可愛さの天元突破により、脳内で神輿が担がれました。
神輿担いでるのは私だしその周りで踊り狂ってるのも私。オンリーミー。
「そ、そそ、そんな感じ! そんな感じで、大丈夫だよ!! うへへ……」
アカンどうしても笑い方がキモオタになる。大丈夫? 私今よだれ垂らしてたりしない?
「じゃ、じゃあ、ウィラちゃんと二人きりの時はこれで……」
「うんうん!! なんなら、外でもファーストネームで呼んでくれて全然構わないから!!」
「ほんと? それじゃあ、「ウィルヘルミナ様」って呼ぶね!」
「はいッ!!」
万歳へいこらよっしゃいそーれそれあ゛ーーーー祭りが止まらん。
照れたように笑う君が可愛すぎる。こんなの目が合った瞬間に運命を感じてしまうやんけ。目と目が合う瞬間好きだと気付いたやつだよ……。
「えへへ、うれしいな……。自然にお話できるお友達が出来て」
私もうれしい。本当に、嬉しい。
私、あなたに会うためにきっとこの世界に来たんだね。
大好きな大好きなあなたの幸せのために、私はここへ転生したんだ。
だからこそ。
(絶対、アイラちゃんの幸せは、私が守るよ……!!)
そう固く心に誓ったのであった。




