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──その日、運命と出会う

 ついに、この日がやってきた。


 感動で身体が震える。武者震いってやつかな。


「ああ、本当に……」


 ────ゲームの中の学園、そのものだ!!


 視界に映る、まるで宮殿のような建物を見上げながら思った。

 私も今では15歳。そう! ゲームの舞台である王立学園の前に、私は今まさに立っている!!


 これより始まるのである。

 主人公アイラ・ローズマリーを中心とした、楽しさあり! 大変さあり! そして、恋あり!! な、ロマンチック学園生活が!!


「やっ……たぁぁあ~~~~!!」


 思わず学園の入口付近でぴょんぴょん飛び跳ねてしまった。ハッ! と気付くがもう遅い。道行く生徒達がちらちらとこちらを見ている。


(やっべ……)


 入学初日から不審者扱いはゴメンだ。

 私はテンションを無理矢理下げ(イメージとしては手で無理矢理ギリギリさせながら下げてる)入学式へと向かうのであった。



 *



 入学式? んなもんすっ飛ばしたよ、スキップボタン連打じゃ!!

 必死こいてアイラちゃん探したけど見つからんかったし!! そりゃこんな大勢居て、しかも特待生枠の中に座ってりゃ見つけられんわな!!


 ちなみに、在校生代表のスピーチをヴィクトールがやっていた。そして新入生代表はユーリ。


 ……歓声がすごかったね。うん。

「やっぱ二人とも人気なんだな」と再確認した。攻略対象なんだから当然のことだけど。


 切実に思う。

 ユーリの婚約者早くやめさせてください。


(あんな歓声上がる男の婚約者やってる身にもなれや……)


 ひそひそと「あの美しい方はどこの御方?」「婚約者は?」なんて話が聞こえてきて、心臓が縮み上がるかと思った。お願いだから何も気付かないでください。



 んで、今は入学式が終わって教室に居ます。

 ぞくぞくと生徒達が入ってきて、これみんな貴族の男女なんだなーと他人事のように思った。いや、お前も貴族なんだよ。

 これから私、この中に馴染めるんだろうか……とちょっと不安になる。


 だが今はそんなことどうでもいい。

 私はここ最近で一番の、緊張と昂ぶりを、見せていた。


 ゲームのプロローグは王立学園の門をくぐり、入学式へ向かい、そしてこの教室の窓際の席につく所から始まる。

 現在私の座っているのは一番後ろ。ついでに窓から一席分、離れた位置。

 そして何よりも。お助けキャラと主人公は、隣同士の席がセオリー……!!


 つまり────アイラちゃんは、今私が座っている隣の席に来るのである!!


 ちなみにまだ誰も座ってはない。だからこそ、私はチラチラチラチラ横の席を見ながら必死に興奮を抑えていた。


 いつ。いつ来るんだ私の推しは。ゲーム内ではアイラが着席した時にはもう既にウィルヘルミナが隣に座っていたから、いつ頃来るかわかんないんだよ!!


(ヤバい興奮が抑えきれん誰か止めて)


 ガタガタと貧乏揺すりで机を揺らしそうなほど荒ぶりあそばされている。わたくしのハート。

 だって、だって、記憶を取り戻した時から約4年だよ?! 4年待っとったんやぞこちとら!! こうなってもしょうがないでしょ!!


 まだか。まだか。そんなことをもう何百回考えただろうか。



 ────運命の時は、来た。


「!!」


 カタン、と、隣の席から音がする。

 誰か、座った。


 心臓がこれでもかってくらいドクンドクン鳴り響いて、苦しいくらいだ。見たいのに、でも不思議と怖くて中々そっちを向くことができない。


 ここが、最重要時だ。

 震える身体を抑え、意を決して顔を上げる。


 そこに、────“彼女”が、居た。



「…………オ゛ァッ、…………!!」


 変な声しか出ない。たすけて。


(…………お、おッ、)


 推しが目の前におるぅぅぅぅ!!


 今まで見た人間の中で一番、一ッ番彼女は輝いていた。

 ピンクブロンドのふわふわとした髪、丸い子猫みたいなピンクの瞳。全てが完成されたパーツ。


 か わ い い 。

 ま さ に 女 神 降 臨 。


「……あ、あの……」

「ひはィっ?!」


 えっ、私に話し掛けた? マジで?

 え……、……無料??

 これ無料サービスなの?? 本気で言ってる??


 いやそれよりも。

 ひはィって何だ、ひはィって。


(アカン!! このままだと推しに気持ち悪い不審者だと思われる!!)


 私はアイラちゃんの親友ポジなんだ。そうなるんだ。だったらこんな所で人語が話せない悲しきモンスターになってる場合じゃないんだよ。


「は、はじめまして」


 声が可憐すぎる。乙女ゲームの主人公だからCVついてなかったけど、こんな声だったのか。まるで可愛らしい小鳥さんの囀りのようでなくて? オホホホ。

 情緒ガッタガタになってきたなそろそろ。


「は、はじッ、めまし、テ、!!」


(オイコラちゃんと喋れ私!!)


 ゲーム内じゃまぁまぁ喋れてただろ。あの流暢さはどこに行った。まさか本編のウィルヘルミナよりまともに話せないとは思わんかったわ。


 だが、さすが天使アイラエル。にっこりと微笑んで手を差し出してくる。


「わ、私、特待生枠で入ってきた、アイラ・ローズマリーといいます。これから、どうぞよろしくお願いします」


 あっ…………。

 すごーーーーい……笑顔が……眩しいなぁ…………。



 浄化されとる場合か。

 大天使が自己紹介してくれてるんだぞ!! 土下座しながら泣いてありがとうございますと感謝を述べろ!!いやそれもダメだけど。


「わ、私は、ハーカー伯爵家の娘、ウィルヘルミナ・ハーカーと申します。こちらこそ、よろしくお願いしますっ」


 その手をぎゅっと握り、努めて冷静に言葉を発した。

 ていうか、推しの、推しの手を、握っている。握っちまった。アイドルの世界なら握手会行くのに一体何万円分のCDを購入しなくてはならないんだろう。


 えっ。

 もっかい聞きますけど、これが無料なんですか?!?!


 しかし、頭の中がパラダイスでウッホッホ状態の私にも、彼女が今とても緊張していることが、全身から伝わってきた。

 一生懸命微笑んでるけど、ちょっと握ってる手が震えてる。


(……そっか、アイラちゃんは平民だから、貴族なんてのとは全然、話したことも知り合ったこともないよね……)


 しかも、特待生枠を勝ち取った平民はそもそもの数が少なく、その上色んなクラスに配置されている。特待生だけで固めちゃうとそこで集まって他の生徒達と馴染めないからとか言われてるけど。


 生憎、このクラスの特待生はアイラちゃんただ一人。

 なら、こんなほぼ貴族だらけの教室の中で、怖くないわけがない。


(……私が、安心させてあげなきゃ)


 だって私は、この子の親友になるのだもの!!


 握手をしているアイラちゃんの両手をぎゅっと握ると、驚く桃色と目が合った。

 アッすいません厄介ファンじゃないです、許してください。


「あの、……アイラちゃんって、呼んでもいいかな?」

「えっ、は、はいっ!」


 無事名前呼びをゲット。ちなみにゲーム時でもここでアイラちゃんって呼んでたから安心して。

 ただタメ語だったかどうかは覚えてないな……。気持ちが先走ってつい普通にタメ語になっちゃったけど、まぁええか!!


「多分、貴族の学校に来て分からないことや不安なことがたくさんあるだろうけど……、困ったことがあったら、何でも私に言ってね! 絶対絶対、力になるから!!」


 力強く言った私に、アイラちゃんはぽかん、と暫し驚いた顔をした後。

 少し泣きそうな顔で、「あ、ありがとう、ございます……」と言ってくれた。


「私、平民だから……、貴族の方が通う学校で友達なんて作れるのかなって、入学するまでとても心配だったんです。だから……嬉しいです」

「そんな! 喜んでアイラちゃんの友達第一号になるよ!」

「ありがとうございます……っ」


 推しにお礼を言うのではなく、推しから直接お礼を言われるとかどんな世界だよ。ここはライブ会場でも握手会会場でもないんですが。


 だがしかし。

 ……これは、無事に最初のミッションをクリアした、ということではないだろうか。


 第一ミッション『入学式の日にアイラと友達になる』


 見事クリア、おめでとうございます!! パチパチパチパチ!!


(いやー、それにしても……、推しがいる世界、サイコ~~ッッ!!)


 推しと会う時、これからは「推しとファン」ではなく「友人同士」として会えるのである。し、信じられねえ。

 ともかく、これからハチャメチャに楽しい学園生活が送れそうである。やったね。


これより学園編に入ります。

ここまで読んでくださった方なら何となくお分かりかとは思いますが、とうとう推しのアイラちゃんが出てきたことにより、ここからのウィルヘルミナのテンションがめちゃくちゃ上がってうるさくなります。ご注意ください(何を……?)

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