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挿入話 〜父と息子の内緒話〜

 ガタゴトと揺れる馬車の中では、ウィルヘルミナの穏やかな寝息が聞こえていた。

 すっかり熟睡してしまっている彼女の頭は今、義兄の膝の上にある。背もたれに頭を乗せて寝始めたはずなのだが、いつの間にやら義兄が自らの足に乗せたようである。

 すやすやと眠るウィルヘルミナの頭を撫でるヴィクトールの表情は、今まで見たこともないくらいに優しいものだった。


「父上」

「ん? 何だい」


 そこへ、ヴィクトールが父アロイスに話しかける。


「ウィラとユーリの婚約は、国のバランスを考えて結ばれたものではないと、以前言っていましたよね?」


 突然の質問にアロイスは目を丸くするが、ゴホンと咳払いをしてから、「ま、まぁね」と答えた。


「うちは特に王家に目を掛けられているとか、力があるとか……、そういった家ではないから、そんな我が家と婚約すれば、アルトナー公爵家に権力が集中せず貴族間でのバランスは保たれる。……そういったことはあるかもしれないが。それが、必ずうちと婚約しなければならない、というようなことには繋がらないだろう」

「では、婚約をしたのはやはり、アルトナー公爵との約束があったからですか」

「それが一番大きいかな。……しかし、何故そんな質問を?」


 アロイスの問いに、ヴィクトールはウィルヘルミナの髪を手で優しく梳きながら答える。


「いえ、ただ……、ウィラの話を聞いてみると、あまりユーリと結婚する未来を見ていないようですから」

「それは、まだこの子が幼いから……」

「ユーリの方は、しっかりとウィラを娶る気でいるようですよ?」


 何が言いたいのか。つまり、年齢などは関係なく、ウィルヘルミナが公爵家へ嫁ぐ気をあまり持っていないということを、暗に伝えているのか。


 もう一度ヴィクトールを見る。

 その表情に────アロイスは、ハッと何か気付いたような反応をした。


「ヴィクトール、」

「…………」

「ウィルヘルミナは、お前の妹だよ?」

「でも、兄妹としての血は繋がっていません」


 頭を抱える。その拍子に、馬車内の椅子が擦れる音がした。


「この国では、従兄妹同士での婚姻も認められています」

「ヴィクトール……」

「周りからは、なんて言われるか分かったものではありませんけどね」


 ヴィクトールが笑う。それを見つめながら、アロイスは今日目撃した、ヴィクトールの思わぬ一面を思い出していた。


 ウィルヘルミナを誘拐され、あらぬ行いに穢されようとしていたことを目の当たりにし、怒りで我を失った結果。我が妹であり、彼の実母であるガブリエラに、思いもよらぬ暴行を行った。

 件の部屋を訪れ、昔のトラウマが蘇ったというのも考えられるが────。


  眠るウィルヘルミナを眺めている彼の顔を見る限り。どうやら、ヴィクトールはそれほどまでに大切なものを、既に見つけていたようだ。ということを悟る。


 しかし、ヴィクトールは我がハーカー伯爵家の養子。直接血が繋がっていないからと言いつつも、やはりウィルヘルミナは、彼の妹に他ならないのだ。


「安心してください、父上。今は何もしませんよ。今はまだ……、ね」


 ひっそりと口角を上げるヴィクトール。

 その表情に複雑な気持ちを覚え、アロイスは何も言えなくなった。


(ああ、イレーネ……。私は父として、この子を応援してあげるべきなのだろうか……)


 心の中で妻に助けを求めるが、当然ながら答えは返ってこなかった。

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