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アルトナー公爵家の誕生日パーティー

 そうしてあっという間に誕生パーティーの日がやってきた。

 結局公爵夫人のご厚意をいただき、新しいドレスを作ってもらったけれど。


「これは……、すごいね、ウィラ。とても君に似合っているよ」


 ヴィクトールが感嘆したように呟くのも無理はない。

 まさかこんなにも綺麗な質のドレスだとは思わなかった。


 ベースとなる色は落ち着いた淡い緑で、首元には可愛らしいスミレの花が中心にある、白のリボンが付いている。色んなところに散りばめられたスミレの花の刺繍は上品かつ繊細、そしてこれまたシルエットは綺麗なプリンセスライン。

 やっぱり良いものって、シルエットからして違うんだよな。うん。心の中でそう頷く。

 両腕につくフリルも三段重ねのようになっていて、非常にかわゆい。


 ……というか、さすが大人気デザイナーというべきか。


 ただただ豪華なものを、というより、着るその人に似合ったものを考案するその技がすごいと思う。

 私の外見とか性格とかを考慮して、めちゃくちゃ派手! っていうよりも落ち着いたデザインを考えてくれたし。

 ヴィクトールの言う通り、今まで着たことのあるドレスよりも大いに似合っている気がした。


(いや、今まで持ってたウィルヘルミナのドレスが全部地味なせいもあるな……)


 引っ込み思案が派手なドレスなど買えるわけもなく。

 どうせ私には似合わない、と決めつけ、当たり障りのない地味~なものしか着てこなかったのだ、今まで。


(絶対ドレスに完敗すると思ってたけど……)


 これならまだ、ちょっと負けてるかも? ぐらいのレベルにはなれたんじゃないだろうか。

 ちなみに年齢を考えてか、化粧は軽くしか施されていない。それでも自分の薄い顔にとってプラスになるのだから、やはり自分は化粧映えするタイプのようだ。

 大人になったら、そういうのもきちんと色々学ばないとな。


「さぁ、そろそろ公爵家に参ろうか」

「はい」


 私がユーリの婚約者なこと、そしてお父様がアルトナー公爵と友人であることも含め、今日は家族全員での出席となる。

 私達は馬車に乗り、早速アルトナー公爵家へと向かった。


 ……この姿見たらなんて言うだろうか。特に公爵夫人とユーリ。

 悪い印象は与えないと思うが、やはり心配な所もある。あと、公爵家のパーティーとかいう大舞台に行くのも緊張するし。


 ……まぁ、頑張るっきゃないか。



 *



「本日は素敵なパーティーにお招きいただき、有難うございます」


 一家総出でご挨拶をすると、公爵家は優しく迎え入れてくれた。

 ユーリもいつものキラキラスマイルを3倍くらいの眩しさで浮かべつつ、「こちらこそ、私の誕生日パーティーにおいでいただき、ありがとうございます」と返す。

 すると、私の格好を見た公爵夫人が「あらあらまぁ!」と嬉しそうに目を輝かせた。


「ウィラちゃん、とっても似合ってるわ~! やっぱり私の目に狂いは無かったわね!!」

「きょ、恐縮です……! それもこれも、公爵家の方々のご厚意によるもの。こんな素敵なものを着られて、私もとても嬉しく思っています」

「ほらほら、ユーリと並んでみて! ねっ! ね!!」


 公爵夫人、もといお義母様、テンション爆上げである。

 大人しく彼の隣にいそいそと並んでみると、「きゃ~~!! かわいい~~!!」 と彼女は飛び上がるくらいに喜んだ。息子も私も苦笑。


「ほら、今日はユーリも首元に花を着けてるのよ! ウィラちゃんのドレスにあるものと同じ!」


 そう言われてみると、確かに。

 今日のユーリの服装がいつもより倍眩しすぎてあんまり気付いてなかったけど、お揃いってこういうことか。


 普段彼が着てる服も豪華だが、本日は正装だからかロイヤル感がふんだんに発揮されている。公爵家みんなそうだけど。なんかもう後光差してるみたいに見えてきたわ。

 きゃあきゃあと騒ぐ大人達を横目に、こそっとユーリが私の耳元に顔を近付けてきた。


「母上を真似するようですが……、本当にお似合いですよ、ウィラ。まるで春を告げる妖精のようで、とっても可愛らしいです」

「あ、ありがとうございます……」


 おおう、さすが攻略対象の魅力を見せつけていくぅ!!

 でもそれが自分相手にって考えると、申し訳なさで居た堪れなくなってくるね!!



 そんなこんなで色々と盛り上がったものの、今日は公爵家と色んな交流のある人を呼んだ盛大なパーティー。

 私達一家だけが彼らを独占するわけにもいかず、程々の所で席を離れる。


(よし、とりあえず挨拶も終わったことだし)


 この美味しそうなケーキやら食事やらを出来るだけ堪能して帰ろう。そう心に決めて、私はさながらふらふらと蜜に導かれる蜂のように食事ゾーンへと向かっていったのだった。



 *



「ウィラ、パーティーは楽しんでいただけていますか?」

「んぐっ」


 どれくらいの時間が経っただろうか。私はすっかり公爵家の料理に夢中になっている所で後ろからユーリに声をかけられた。

 慌てて口を拭き「え、ええもちろん!」と笑顔で振り返った。

 やべ、どうせ社交デビューもまだしてないしめんどくさい社交とかは両親がするやろと思って一人でがっついてたわ。


 そんな私を見て、ユーリがくすくすと笑った。ここまでの大体の行動を察されている気がする。


「ゆ、ユーリ様、挨拶などはよろしいんですか?」

「ええ、もう大分終わりましたし。ちょっと疲れてきたので、何か料理をつまんだりしようかと」

「あ、それでしたらこのお肉の料理なんて美味しいですよ! どうぞどうぞ!」


 いや、どうぞどうぞって。そもそもここの料理全部ユーリの家が作ったもんやろがい! と言った後で自分にノリツッコミした。でも本当に美味しかったので是非ともこれを食べて疲れを癒やしてほしい。


 新しいお皿に盛り付け差し出すと、彼が快く受け取ってくれる。


「ありがとうございます。……確かに、美味しいですね」

「そうでしょう? お恥ずかしい話ですけれど、パーティーのお食事がどれも美味しくて……たくさん食べてしまいました」


 お腹の容量が許す限りは。

 ベルンハルドさんは「キッツいコルセットなんて~」って話してたけど、やっぱり今の時代はコルセット無し! とはならない模様。それでも今日は彼の開発した柔めのものを使ってもらってるから、いつも着けているものよりかはマシだ。


 そんな私の言葉に、ユーリは「それは良かったです」と微笑んでくれる。この食いしん坊が! とか言わない辺りやはり彼は紳士だ。ありがとよ。


「それに、お恥ずかしいと仰っていましたが……、僕はあなたのそういう飾らない所、好きですけれどね」

「え?」


 えっなに、まさかのアフターフォロー? 別にそこまでしてくれなくてもええんやで少年。


「ああいえ、ちょっと……先程までは、女性陣達との会話で大変な所も少しありまして……」

「……ああ……なるほど」


 なんか察した。


 公爵家の誕生日パーティーに呼ばれている招待客なのだから、その家の嫡男に私という婚約者が居ることは事前に知っている人が多い、もしくは知らずともそういった話題になれば自然と聞かされることだろう。

 それでも見目麗しい公爵家の一人息子と愛娘の縁を結びたいと考える家は多いはず。会話の中でそれとな~く「うちの娘どうです?」と推してみる親、そしてその親のバックアップの元、ロイヤルイケメンにグイグイアピールしまくる娘。


 ……顔がいいのも大変だな……、あと家柄も……。


「だから、あなたと居ると休まります。……ウィラは、私に“そういった”ことをあんまり望まないから」

「そういったこと?」

「なんというか、過剰に気を遣ったり、相手のことをまるでお姫様のように丁重にもてなしたりすること、ですかね」


 あーね。そういうことか。

 優しげな王子様キャラを地で行く彼だって、そういうのが続いたりしたらそりゃ疲れる。特に、貴族の女の子は昔から甘やかされて育つから、気難しい性格の子も少なくないと思うし。

 その点、私は前から交流していて馴染み深いから、多少気を抜いてても大丈夫ってことなんだろう。


 ……まぁ、「もっとお姫様みたいに私を扱ってください!!」とか言うような性格でもないしな。いや、今ので十分だよ。むしろそういうのはされるに相応しいヒロインちゃんにやってくれ。


「私はそういうの元から好きじゃないですし、何より相手が疲れるような関係性はあまり良くないです。私と居て苦痛でないのなら、いくらでも」


 もっと気安くしてくれてもいいけど、多分地がこんな感じだろうからこのまま行くだろうなぁ。やさしい子だもんね。


「……ふふ、ありがとうございます」


 ユーリが微笑む。初めて会った時よりも、どこか気の抜けたような笑顔だ。いやアホみたいな顔とかそういう意味ではなく、余計な力が入ってない自然なそれってことだよ!!


 すると、会場内から音楽が流れ始める。


「おや、ダンスのお時間のようですね」

「まぁ」


 げっ! と思った気持ちを頑張って淑女らしく抑えました。


 ダンス。ダンスか。私あんまり運動神経良くないんだけどなぁ。一生懸命習ってはいるんだけど、講師の足を踏まないようにするのに必死なところあるわ。


「私と1曲、踊ってくださいますか? レディ」


 ユーリが優雅な仕草で手を差し出してきた。

 やっぱそうなりますよねーー!! 婚約者としては誘うのが礼儀ですもんね!! 分かってます!!


「……はい、喜んで」


 諦めて彼の手を取ろうとした、その時だった。




「────動くな!!!!」



 突然会場内で大きく鋭い声が聞こえ、ダンス音楽が中断される。

 招待客はダンスを止め、何事かと声の発生源をざわめきながら見つめた。


「何でしょう……?」

「?、??」


 私達も困惑を隠せないままそちらに視線を向ける。


 そこにはガラの悪そうな男達がぞろぞろと中に入ってくる光景が見え、一体何が起こってるのかてんで分からなかった。


 ……え、ていうか。

 武器持ってるじゃんあいつら?!


「騒ぐなよ!! 変な動きを見せたら、そいつから殺していくぞ!!」


 めちゃくちゃ物騒なことを叫びながら手に持つ武器をちらつかせる男達。

 何これ。あれか、バスジャックとか銀行強盗とかのそれか。


「下がってください、ウィラ!」

「ゆ、ユーリ様」

「絶対にここから出ないで」


 私を背に庇い、小声で囁いてくるユーリ。丁度料理ゾーンの辺りに居た私達の傍には、慌てて駆けつけてきたメイドさんが一人居るくらいだ。


(それにしても、この状況。一体何が────)


 あれ。

 なんかこの話、どっかで聞いたことあるぞ。


 そう、それはまさにゲームの中。

 主人公のアイラちゃんに、攻略対象であるユーリが語った自身の過去。



(……あーーーーッ?!?! これ、ユーリルートで聞かされる過去エピソードの一つじゃん!!!!)


 誕生日パーティーと聞いて何か引っかかっていたのはコレだったのか。


 ……なんて、思い出したところで。

『アルトナー公爵家の誕生日パーティー襲撃事件』は、かくして幕を上げてしまったのだった。


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